DL事業部 和田 浩志

1. はじめに

「MV-22」という型式名ではピンとこない方もおられるかもしれませんが、通称名「オスプレイ」と言えば、ニュースなどで取り上げられることも多く、テレビなどではご覧になったことがあるかと思います。

MV-22は昨年7月23日に山口県岩国基地に12機が陸揚げされ、同年10月2日には沖縄県普天間飛行場に配備されました。普天間飛行場への配備からしばらくすると、「普通のヘリコプターとは音が違う」、「独特の音で、家の中にいてもオスプレイだとすぐ分かる」などといった意見が聞かれるようになりました。

2. MV-22について

2-1. 外観的特徴

MV-22はなんといっても、その見た目に特徴があります。専門的な言い方では、「回転翼の角度が変更できるティルトローター方式の垂直離着陸機」ということになるようなのですが、まるで変形メカのようにローター(プロペラ)の角度を変えること(モード変換)ができるのです。離着陸時はローターをヘリコプターのように水平方向に回転させて揚力を発生させて垂直に離陸し、離陸後はローターをだんだんと前方に傾けて(ティルトさせ)推進力を得ることで前に進みます。

いわゆる一般的な飛行機は「固定翼」機と呼ばれ、ヘリコプターは「回転翼」機と呼ばれるのですが、MV-22は飛行機のような翼を持ちながらにして、その先端にはヘリコプターのような大きなローターも持っており、そのローターの状態(角度)により「固定翼モード」と「回転翼(ヘリコプター)モード」と呼ばれます。MV-22はモード変換により、滑走路が無い場所でもヘリコプターのように離着陸が可能で、なおかつヘリコプターよりも高速に飛行できるという特長があります。

2-2. 音響的特徴

前述したように今までのヘリコプターなどとは違う、独特の音(音色)であるという話を方々で聞くのですが、これはどういった理由によるものなのでしょうか?

異口同音に聞かれるのは「MV-22は低周波音がする」という意見です。経験的に航空機(機種)ごとに、ある程度の特徴(周波数特性)があることは分かるのですが、航空機騒音の測定で、低周波音に着目したことはありませんでした。

3. 低周波音の測定方法

3-1. 低周波音について

人の耳で聞こえる音の可聴周波数範囲は20Hz~20000Hz(20kHz)と言われています。また、人の耳は3kHz付近の高音に対する感度が最も鋭く、低音域になるほど感度が鈍く聞こえにくくなる特性を持っています。低周波音と呼ぶのは100Hz以下(1/3オクターブバンドで1~80Hz)の音ですが、20Hz以下の音を超低周波音と呼ぶ場合があります。低周波音や超低周波音による影響としては、物的影響(サッシのがたつきなど)や、心身への影響(圧迫感など)があります。

3-2. 測定機材について

一般的な航空機騒音測定においては低周波音の測定は実施せず、騒音計を用いて騒音レベル(A特性音圧レベル)を記録します。今回は超低周波音帯域も把握したかったため騒音計に加えて低周波音レベル計を設置し、瞬時データのデジタル記録と併せて、1/3オクターブバンド分析用に騒音計の交流出力信号も記録しました。さらに、対象とする航空機との直線距離(スラントディスタンス)を簡易的に推定するため、弊社製航空機接近検知識別装置(RD-90)を用いて高度情報もモニターしながら、機種は目視で確認しました。

図1 測定システムの概要
図1 測定システムの概要

3-3. 測定時間および地点の選定

MV-22は米軍所属の軍用航空機ですから、民間旅客機のように決まったダイヤに従い飛行するわけではありません。測定日、時間帯等については、おおよそ下記のタイムスケジュールで飛行しているという事が分かってきました。

  • 朝8時頃に普天間飛行場を出発(離陸)
  • 昼頃に帰着(着陸)
  • 昼2時頃に出発(離陸)
  • 夕方6~8時頃に帰着(着陸)

また普天間飛行場では北東側に離陸し、南西側から着陸することが多いとのことなので、朝は普天間飛行場の北東側にある測定地点で離陸機を、昼からは普天間飛行場の南西側で着陸機をターゲットとして、測定を実施しました。

4. 着陸機の測定データ比較

4-1. 測定データの分析方法

着陸機のデータについては、いずれも普天間飛行場南西側の測定地点(滑走路延長線上から鉛直方向に40mほどオフセットした位置)の近傍を通過した際のデータを用いました。測定したデータは、1~80Hzについては低周波音レベル計のデジタル記録を用い、100~4kHzについては録音したデータを周波数分析器で1/3オクターブバンド分析を行いました。併せてノートパソコンで記録した航空機通過時のG特性音圧レベルおよびA特性音圧レベルを用い、それぞれのデータについて比較を行いました。

4-2. CH-46E シーナイト(着陸)

CH-46シーナイトはローターを前後に二つ備えた(タンデムローター)ヘリコプターで、現在、普天間飛行場での飛行頻度が最も高い機種と言えます。MV-22はこのCH-46の後継とされていることなどから、様々な面でMV-22との比較対象として名前が挙がることが多い機体でもあります。そこで、リファレンスとしてCH-46の測定も行いました。

写真2 タンデムローターのヘリコプター CH-46シーナイト
写真2 タンデムローターのヘリコプター CH-46シーナイト

図1および図2は縦軸が音圧レベル(dB)、横軸が周波数(Hz)を示しています。青い棒は1/3オクターブバンドごとの音圧レベル(最大値)、赤い棒はG特性音圧レベルの最大値(以下「LGmax」)およびA特性音圧レベル(以下「LAmax」)の最大値を表しており、いずれの棒も、CH-46着陸機が1機通過した際の最大値を描画しています。

図2 CH-46①(着陸)の1/3オクターブバンド分析結果および騒音レベル、低周波音圧レベル
図2 CH-46①(着陸)の1/3オクターブバンド分析結果および騒音レベル、低周波音圧レベル

図3 CH-46②(着陸)の1/3オクターブバンド分析結果および騒音レベル、G特性音圧レベル
図3 CH-46②(着陸)の1/3オクターブバンド分析結果および騒音レベル、G特性音圧レベル

分析に用いた2機のデータはどちらも着陸機のものですが、CH-46①は、普天間飛行場の南西から北東方向に(滑走路に対して直進)進み、マイクロホンのほぼ真上、約250m上空を通過しました。CH-46②は滑走路の西側を南西方向に進んだ後に左旋回。真上までは来ずに、マイクロホンの少し西側を、推定スラントディスタンス約400mでCH-46①よりは少し高い高度で通過しました。ほぼ真上を通過したCH-46①ではLAmax94dB、LGmax98dBであったのに対し、手前で旋回したCH-46②ではLAmax81dB、 LGmax96dBと、LAmaxでは13dBの差がありました。

LGmaxでは両データ間の差が少ない(2dB差)のに、LAmaxでは13dBという大きな差が生じた原因として次のことが考えられます。ヘリコプターでは「バラバラ」といった特有の音(ブレードスラップ音)が聞こえます。このブレードスラップ音はヘリコプターの前方に強い指向性を有していますが、CH-46②の場合は、ブレードスラップのレベルが高くなる前に旋回したためと思われます。LGmax についてはCH-46の低周波音にあまり指向性がないためか、それほど差がつかなかったものと考えられます。ちなみに「バラバラ」音が低周波の原因と思いがちなのですが、ブレードスラップ音は125Hz以上の成分であり、低周波音の正体ではないのです。

次に時間周波数分析の結果について見ていきます。図は縦軸が周波数、横軸が時間を表しており、色は青から赤になるにつれてレベルが大きいことを表しています。さらに、ドップラー効果により、音源(航空機)が測定地点に近づいてくる状態では周波数が大きくなり、離れていった後は、逆に周波数が小さくなることも図に表れています。

図4 CH-46②の時間周波数分析結果
図4 CH-46②の時間周波数分析結果

図4では複数の赤い線が並んでいますが、これは純音性の高い特徴成分があることを示しています。具体的には、CH-46ではローターの回転による、14Hzの基本周波数成分と、その倍音成分が出ていることがこの図から読み取れます。さらに基本周波数の成分14Hz 付近が最も色が赤く、倍音構造の中で、最も大きいレベルを示していることが読み取れ、図2、図3では12.5Hz、16Hzのレベルに表れています。

なお、基本周波数は機種ごとに異なる結果が得られましたが、これは各ヘリコプターのローター回転数の差に起因するものです。

4-3. MV-22 オスプレイ(着陸)

前述したように、MV-22は固定翼モードとヘリコプターモードを切り替えて飛行しますが、着陸機の測定地点は普天間飛行場にかなり近い位置だったため、測定地点周辺を通過する際は、ほとんどがヘリコプターモードに近い形態での飛行でした。

写真3 固定翼モードからヘリコプターモードへ遷移途中のMV-22
写真3 固定翼モードからヘリコプターモードへ遷移途中のMV-22

分析に用いたMV-22の着陸2機は、滑走路南東側からUターンするように右旋回した後、滑走路に対して斜め右側から進入するルートで飛行し、ともにマイクロホンのほぼ真上を通過しました。

図5 MV-22①(着陸)の1/3オクターブバンド分析結果およびA特性音圧レベル、G特性音圧レベル
図5 MV-22①(着陸)の1/3オクターブバンド分析結果およびA特性音圧レベル、G特性音圧レベル

図6 MV-22②(着陸)の1/3オクターブバンド分析結果およびA特性音圧レベル、G特性音圧レベル
図6 MV-22②(着陸)の1/3オクターブバンド分析結果およびA特性音圧レベル、G特性音圧レベル

どちらの着陸機も旋回中は固定翼モードとヘリコプターモードの中間あたりの状態(写真3)で飛行し、少しずつモード変換しながら滑走路に向かう中、マイクロホンの真上を通過する時点では、ほぼ完全なヘリコプターモードに近いローター角度(写真4)となっていました。なおマイクロホンの真上通過時の推定スラントディスタンスはそれぞれ、MV-22①で約300m、MV-22②では約400mでした。両データとも、LAmaxは約88dB、LGmaxはそれぞれ約110dBで、2機の間には大きなレベル差がありませんでしたが、LAmaxとLGmaxの比較では、約22dBと大きな差が出ました。

写真4 マイクロホンの真上をヘリコプターモードの「少し手前」状態で通過するMV-22
写真4 マイクロホンの真上をヘリコプターモードの「少し手前」状態で通過するMV-22

ほぼ真上を通過したCH-46①とMV-22①の結果を比較してみます。図2(CH-46①)は1~12.5Hzの低周波音が多く含まれていますが、実はこれは風の影響によるものです。そのため図5(MV-22①)と比較すると、図2のほうが低周波音が多く含まれているように見えます。しかし、LGmaxは逆に図5のほうが12dBも大きいという結果なのです。これはどういった原因によるものなのでしょうか?

図7 MV-22②の時間周波数分析結果
図7 MV-22②の時間周波数分析結果

これには、「2機種の基本周波数の違い」と「G特性の周波数重み付けの特性」が原因として挙げられます。

図7では、MV-22の基本周波数は20Hzであり、基本周波数成分が最大となっていることが表れています。

騒音レベルA特性の周波数重み付けは2kHzを頂点とした山型の重み付け特性ですが、G特性においては20Hzが頂点の、かなり急峻な山型を示し、20Hzではプラス9dBなのに対して、3.15Hzではマイナス20dB、さらに1Hz ではマイナス43dBも評価が低くなるのです。この特性により、図5(MV-22①)では、20Hzが100dBという突出したレベルで観測されているため、LGmaxの比較では、図2(CH-46①)よりも大きいという結果になったのです。

5. 測定を終えて

MV-22とCH-46の飛行音は、どちらも文字で表現すると「バラバラバラ・・・」といったものでしたが、聴こえ方には違いがありました。私はCH-46のほうが少し軽い音、MV-22は少し重厚な音に感じました。1/3オクターブバンド分析の結果からは、CH-46は160Hz周辺、MV-22では50Hz周辺を頂点とした周波数特性が見られます。この周波数特性の違いが、「軽い」「重厚」といった聴感の特徴として表れたものと考えられます。

閾値には±5~10dB程度の幅があるとされていますが、ISO-7196ではG特性音圧レベルが100dBを超えると「超低周波音を感じ始める」と記述されています。今回のMV-22着陸機のLGmaxは約110dBでしたので、周辺地域では超低周波音を感じている方がいらっしゃったかもしれません。

残念ながら、私は測定に集中していたためか、MV-22の通過時に超低周波音を感じることができませんでしたが、風による影響など、その場では感じ取れていなかった事象が測定結果に大きな影響を与えるなど、低周波音という「聞こえない音」の評価の難しさを思い知らされる測定となりました。

6. おわりに

騒音に関しては様々な規制値や環境基準などがありますが、低周波音については、現在のところ規制基準等がありません。しかしながら「気付かない」や「気にならない」ということは、「影響が無い」ということとイコールではありません。「航空機騒音に係る環境基準」でも、低周波音については特には触れられていませんが、これを契機に航空機と低周波音の関係について、知見を広めていければと思いました。

最後に、様々な情報を提供していただいた方、測定場所ならびに電源を提供していただいた方など、多数の方にお世話になりました。ご協力いただいた皆様に、この場を借りてお礼申し上げます。

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