ソリューション事業部 小池 宏寿

1. はじめに

騒音源を特定するための音源探査やその可視化を中心にサービスをご提供しているノイズビジョンですが、最近では多種多様な機械の音源探査、工場の騒音源探査、住宅の異音調査など、お客様からのリクエストに応えるにつれ、ノイズビジョンがお役に立てるフィールドが広がってきています。

今回ご紹介させていただく内容は、公益財団法人鉄道総合技術研究所様より依頼された「高速車両用多目的試験車体の車内騒音測定試験」の業務の中で、ノイズビジョンを利用して実験車両室内の騒音状況を把握するために実施した音源探査調査の一部です。

お客様のご要望は従来のビームフォーミング法では解析が難しい100~200Hzの低周波域の騒音源についても音源の到来方向の識別がしたいとのことでした。それは新幹線車両客室内の騒音は、100~250Hzの周波数範囲で音圧が最も高い傾向を示すことがあるからです。

そこで、ビームフォーミング法による中高周波域と併せて、新たに開発した球面近距離場音響ホログラフィ法を活用した低周波域の音源探査手法も取り入れた調査を行いました。

図1 ビームフォーミング法と球面近距離場音響ホログラフィ法の対応(200Hz)
図1 ビームフォーミング法と球面近距離場音響ホログラフィ法の対応(200Hz)
(上 : ビームフォーミング法 下 : 球面近距離場音響ホログラフィ法)

2. 球面近距離場音響ホログラフィ法について

簡単に球面近距離場音響ホログラフィ法について説明いたします。

球面近距離場音響ホログラフィは、球型のマイクロホンアレイに特化した近距離場音響ホログラフィであり、球の周囲" 全方位" に渡って音圧・粒子速度を予測する分析手法となっています。またそこから音の強さと向きを示す音響インテンシティを導出することができます。

なお" 近距離" という名が示すようにセンサーの近傍が分析対象範囲となり、具体的には今回使用した標準センサ(直径26cm)では、球の中心から距離40cm程度までが対象となっています。得られる音響インテンシティは音の強さ、向きを示す" ベクトル量" であるため、図1に示す通り、解析結果は三次元の音の流れとして表示されます。

3. 鉄道車両における測定結果

3-1. 測定条件

測定風景を図2に、測定位置図を図3に示します。

なおノイズビジョンによる実験測定にあたり、試験車体のヨーダンパ受に動電型加振器を設置し、床板等から固体伝搬音を発生させました。加振信号は20~500Hzのバンドパスフィルタを介したランダム波とし、加振位置(加振器)はPoint5のほぼ真下に設置しました。

※ヨーダンパ・・・高速走行時における台車の蛇行動現象の発生を抑えるための装置(ダンパ)

図2 測定写真
図2 測定写真
(左 : ノイズビジョン設置状態 右 : 実験車両全景)

図3 測定位置図
図3 測定位置図

3-2. 測定結果

ノイズビジョンで測定し、球面近距離場音響ホログラフィを用いて音源探査を行った結果(100Hz~200Hz)を図5(a)(上からの図)(b)(横からの図)に、また測定点及び各図の見方を図4に示します。なおベクトルの長さの上限から下限までは20dBとしています。

図4 測定結果の見方
図4 測定結果の見方

全体的な傾向として、Point5からPoint1の順にベクトル長さが小さくなり、音源から遠ざかるに従い減衰していることがわかります。その中で、Point2、3では加振位置から離れているため、音が長手方向に進行していることが示されています。加振位置に近いPoint4では、加振部位から斜め後方に向けて騒音が放射されており、加振部位との位置条件と一致しています。

また、加振している位置に近いPoint5では、図5(a)より渦巻き型の音響インテンシティの流れが見られると共に、図5(b)では少し乱れてはいますが下方と上方の両方から向き合うような状態が表れています。これは、大きく加振している床からの放射音と共に、天井あるいは妻壁で反射する反射音の影響と考えられます。このように、音源以外に壁面での反射の影響や室内固有の低在波の影響が分析結果に表れるため、音場の様子を把握するのには最適ですが、低周波は音源がスポットであることは考えにくく、評価の際には注意が必要であると考えられます。

4. おわりに

今回は鉄道車両の試験車体で、模擬的に発生させた騒音(200Hz以下)が、車内でどのような伝搬経路で伝達・再放射されるのか、その状況把握を目的に、球面近距離場音響ホログラフィによる音源探査を行いました。

今回の分析結果では、従来のビームフォーミングでは解析が難しい周波数範囲(100Hz~200Hz)について、音源探査が可能であることが示されました。また空間としての条件(反射など)についても可視化することができるため、多方面でのさらに違った活用方法がご提案できると考えます。

最後に、本記事への掲載をご快諾いただいた公益財団法人鉄道総合技術研究所様に深く感謝申し上げます。

(図5 測定結果)
(図5 測定結果)

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