フォスター電機株式会社新技術開発センター 音響実験室プロジェクト

音空間事業本部 福満 英章、川井 正行、藤澤 隆
ソリューション事業部 松尾 浩義、関藤 大樹

1. はじめに

フォスター電機様は、一般オーディオ、カーオーディオ、TV、PC、携帯電話を始めとする幅広い製品のスピーカユニットやヘッドホン、マイクロホン等を世界に提供している老舗メーカーです。さらに、フォステクス・ブランドとして、スピーカシステムの他、様々な音響機器、電子機器製品を製造、販売しています。

昨年末、その開発拠点となる新技術開発センターが竣工しました。地上4階建ての施設には、将来を見据えたR&D機能の整備を目的として、様々な試験設備や研究施設が集約されています。(写真1参照)

音響実験室の計画については、プロジェクトの初期段階から打合せに参加させて頂いており、実験室の配置や音響計画に対する技術的な要望が建物の建築計画にも反映された理想的なプランになっています。

試験室の構成を始め、計測用の付属設備や計測システム等、音響機器メーカーの音響実験室としては類のない、ユニークで多機能な音響実験室が完成しました。

写真1 新技術開発センター外観
写真1 新技術開発センター外観

2. 0dB(A)試験室のための遮音計画上の配慮

音響実験室の配置は、図1に示すように、幹線道路から100m程度離れた敷地の最も奥側で、建屋の裏側となる、騒音振動環境上、最も好ましい位置に計画しました。実験室の裏手はゴルフ場であり、理想的な環境です。

施設の中には、無響室、残響室の音響試験室以外に、試聴室や連続パワー試験室等のように大きな発生音を伴う試験室、振動試験機や衝撃試験機等が設置される振動落下試験室、熱衝撃や恒温槽等をもつ環境試験室等、大きな振動源となる耐久試験室が併設されます。そのため、これらの試験室は音響試験室からできるだけ離れた位置での配置計画をお願いしました。

しかし、試験室のレイアウト上、電波暗室が音響試験室と隣接する配置となり、測定の際の大型ターンテーブルからの衝撃振動が心配されました。そこで音源側の振動対策として、電波暗室の床構造にはグラスウール防振によるコンクリート浮床を採用して頂きました。

音響実験室の配置についても、図2に示すように、電波暗室から最も離れた位置に遮音計画上不利な残響室を配置しています。さらに、より静かで安定した音環境を確保するために、無響室と残響室の音響実験室エリアを独立構造建屋としてエキスパンションを設け、振動的に隔離する計画としました。

図1 音響実験室の配置計画
図1 音響実験室の配置計画

図2 音響実験室の平面計画
図2 音響実験室の平面計画

音響実験施設の受音側の遮音対策としては、図3、図4に断面図を示しますが、単独のRC構造建屋の中に、無響室、残響室共に防振ゴムにより支持した鉄骨下地方式のコンクリート浮床を採用しています。その際、防振構造を設置する土間床を厚い基礎構造として防振性能を高めること、さらに、厚さ250mmの躯体コンクリートの内側に空気層を確保することにより、低音域の遮音性能を高めるように配慮しました。残響室廻りについても、倉庫スペースを兼ねて大きな前室空間を確保しています。

図3 音響実験室断面図(A断面)
図3 音響実験室断面図(A断面)

図4 音響実験室断面図(B断面)
図4 音響実験室断面図(B断面)

無響室の空調計画は、計測室横に空調機械室を設け、計測室の天井裏、無響室の浮遮音天井上部空間を消音スペースとして使用しています。なお、スピーカユニットは温度依存性のある材料を使用するために、恒温恒湿空調として温度、湿度の制御を行っています。

  • 図5 無響室1 暗騒音レベル
  • 図6 残響室暗騒音レベル
  • 図5 無響室1 暗騒音レベル
  • 図6 残響室暗騒音レベル

暗騒音レベルの測定結果を図5、図6に示しますが、空調運転時、無響室、残響室共に0dB(A)の静けさが確保されています。また、電波暗室のターンテーブル稼働時においても、無響室、残響室共に全く聞こえず、安定した静けさの試験室環境になっています。

なお、無響室については、Bluetooth機器の測定にも配慮して、浮遮音層のラインで電磁波シールド層を施工しています。完成時のシールド性能測定結果を図7に示します。

図7 電磁波シールド性能(無響室2)
図7 電磁波シールド性能(無響室2)

3. 試験室の特徴と音響設計

新無響室の音響特性は、既存製品の音響特性との整合のため、既存無響室の基本特性を備えることが求められました。そのため、無響室の吸音内装の仕様、室内有効寸法、遮音層間の寸法については、これまで標準とされた既存無響室の考え方を基本に音響設計を行っています。

フルスペース標準無響室(無響室2)

フルスペース無響室では、低音域の周波数特性データに配慮して、スピーカユニットを取り付けるJISボックスの音源駆動位置が既存無響室と同じ配置となるように、ターンテーブル位置を決定しています。ターンテーブルには、JISボックスの他にも、IECバッフルやシステム製品が設置され、計測室からの自動測定に対応しています。(写真2)

写真2 フルスペース無響室(無響室2)
写真2 フルスペース無響室(無響室2)

フルスペース無響室のターンテーブル位置から軸上水平方向に測定した純音による逆二乗則特性を図8に示します。自由音場は、50Hz~20kHzの周波数において、ほぼ2m位置まで成立しています。

図8 フルスペース無響室の逆二乗則特性
図8 フルスペース無響室の逆二乗則特性

ハーフスペース専用無響室(無響室1)

PA用やカー用のユニットでは、フルスペース無響室での測定データと共に、ハーフスペースにおけるデータも使用されています。そこで、計測の迅速化を含め、壁面がハードバッフル仕様のハーフスペース専用の無響室が計画されました。(写真3)

ハードバッフルの構造は、乾式構造ですが、鉄骨下地に押出成形セメント板や合板等を貼り合わせた剛性の高い複層構造で構成し、バッフル壁の背後空間は吸音層300mmをもつ自由音場空間としています。

また、ハーフスペース専用無響室のハードバッフル壁には、測定用バッフル開口の上部に、壁付けの円弧型マイクロホントラバースを設置しており、スピーカユニットの1m点での指向特性が簡単に測定できるようになっています。

なお、スピーカユニットを取り付ける開口位置は、フルスペース無響室のJISボックスと同じ室条件の位置に配置し、その境界面にハードバッフルを配置することにより、フルスペース無響室(4π空間)と同じ音響特性をもつハーフスペース専用無響室(2π空間)を構成しています。

写真3 ハーフスペース専用無響室(無響室1)
写真3 ハーフスペース専用無響室(無響室1)

不整7面体残響室

今やファッションアイテムのようになっている携帯音楽プレイヤー用のヘッドホンでは、ノイズキャンセルタイプも広く普及しています。そのキャンセリング効果を精度良く測定するためには、あらゆる方向から音が到来する拡散音場入射条件での音響測定が必要になります。したがって、今回200m3の室容積をもつ不整7面体の残響室の計画が必須でした。

音場の拡散性については、アクリル製の吊型静止拡散板の数を増やしながら吸音材料の吸音率測定を行い、最適な拡散性が得られるように調整しています。

写真4 残響室(拡散性調整後)
写真4 残響室(拡散性調整後)

調整後に測定した残響室内12点の音圧レベル分布の標準偏差を、JIS Z 8734の広帯域音に対する最大許容標準偏差と共に図9に示します。測定結果によれば、100Hz以上の周波数帯域において良好な拡散音場が得られています。

図9 残響室音圧レベル分布の標準偏差
図9 残響室音圧レベル分布の標準偏差

音響透過損失測定(残響室-無響室法)

残響室と無響室をカップリングさせることにより、スピーカ・エンクロージャやカー製品のアッセンブリに適用される小寸法の遮音材料の開発を可能にしました。

そのため、残響室との間には小寸法の音響材料の音響透過損失測定を目的とした1m角の試験開口を設けています。試験開口部分の吸音楔は脱着式で、試験開口の浮遮音層部分のスチール製の遮音パネルを無響室側から取り外して測定します。

試験材料は、写真5のように、残響室側のコンクリート扉を開放した状態で、残響室側から木製の試料取付用開口枠を押込み、その開口枠のトンネル部分に取付けられている固定用Lアングルに取付けます。そして、2つの木製枠の間に試料を両側から挟み込んだ形でLアングルに押え込み、写真のように、開口枠の小口に取付けられているトグルクランプで木製枠を固定して設置します。

写真5 音響透過損失試験開口(残響室)
写真5 音響透過損失試験開口(残響室)

測定方法は、JIS A 1441-1による音響インテンシティ法であり、測定試料の表面近傍で格子状の多点測定を行うために、フルスペース無響室には、前後に伸縮するアームをもつ床置きのマイクロホントラバースを設置しています。

なお、トラバース装置は、音響透過損失の測定以外の用途では反射物となるために、歩行床面に専用の移動レールを設け、写真6のように、無響室の隅にコンパクトに折りたたんで収納できるように設計しています。

  • [測定時:試験開口]
  • [収納時:室コーナー]
  • [測定時:試験開口]
  • [収納時:室コーナー]
  • 写真6 音響透過損失測定用マイクロホントラバース

吸音率測定(残響室法)

残響室では、吸音材料開発のための残響室法吸音率の測定も可能です。

4ch無相関音源を用いたJIS A 1409ノイズ断続法による残響室法吸音率計測システムが導入されています。

音響パワーレベル測定(残響室法)

残響室では、スピーカシステムや音響製品の音響パワーレベルの精密測定を行います。(JIS Z 8734)

音響パワーレベル測定(仮設反射板敷き半無響室法)

フルスペース無響室では、ステンレスワイヤー張りの歩行床の上に、仮設の反射パネルを敷き込むことにより半無響室として使用できるように計画しました。

そして、床パネルの反射面上に、写真7に示す鳥かご型フレームの組立式マイクロホンスタンドを設置し、専用ホルダに10本のマイクロホンを設置することにより、JIS Z 8732の半無響室法による音響パワーレベルの測定が可能になっています。

写真7 鳥かご型マイクロホンスタンド
写真7 鳥かご型マイクロホンスタンド

4. おわりに

本プロジェクトは、多目的な音響実験を行うための理想的な試験室計画と、効率的な測定のために必要な付属設備と計測システムをいかに実験室の音響内装に取り込めるかがポイントでした。そして、お客様の高い理想と熱意に支えられ、当社の特徴である音響工事から計測システムまで一貫した技術提案を重ねることにより、全ての音響測定に対応できる多機能な音響実験室を完成させることができました。

この場を借りて、フォスター電機の計画スタッフの皆様、そして様々な技術的な要望を反映して頂きました竹中工務店様に紙面を借りてお礼を申し上げます。

お客様の声

半無響室、多目的無響室、残響室といった異なる音響測定空間を高い目標値の音響性能と使い易さを両立させた上で具現化できましたのは、日本音響エンジニアリング殿の技術力によるところが大であります。

計画段階から幾度も打合せを重ね、難しい要求に真摯に御対応のうえ、色々とユニークなアイデアを提案して頂きましたことや運用に向けては様々なご配慮を頂いたことで素晴らしい音響測定空間の実現が可能となりました。

日本音響エンジニアリングご担当の方々にはあらためて厚く御礼申し上げます。

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