松尾楽器商会 スタインウェイサロン関西ショールーム新設プロジェクト

営業推進部 佐古 正人 音空間事業本部 出口 公彦、崎山 安洋

1. はじめに

スタインウェイ&サンズと言えば世界的にも非常に有名なピアノメーカーです。現在のピアノの基礎を作り上げ、多くのピアノ製作者のみならず演奏家にも影響を与えた歴史も兼ね備えたピアノメーカーと言えます。また、古今よりあらゆるジャンルのミュージシャンから大きな信頼を得ているピアノでもあります。そのスタインウェイを日本に広めたといっても過言ではないスタインウェイの特約店である株式会社松尾楽器商会様(以下、松尾楽器商会様とします)の東京ショールームを私たちが日比谷に施工させて頂いてから、はや8年が経ちます。その後、数々のスタインウェイユーザー様のピアノルームを手がけさせて頂きました。今回新しい関西の拠点として、阪急西宮北口駅近くに移転することとなり、そのプロジェクトを担当させて頂くこととなりました。

2. プロジェクトの概要

新関西ショールームの近くには大小3館のホール、リハーサル室なども兼ね備えた兵庫県立芸術文化センターがあり、音楽のある環境としては非常に申し分のないロケーションと言えます。関西ショールームは、西宮北口駅から芸術文化センターへ直結する歩行者専用通路からアクセスできる恵まれた条件であり、雨の日でも傘もなく駅より行くことができます。また、芸術文化センターでのコンサートが終了後は、多くの方がこの通路を通り駅に向かうルートとなります。このような立地条件の下、ジオタワー西宮北口の超高層マンション3階店舗部分が今回のスタインウェイサロン関西ショールームとなります。

そもそも3年前のマンション竣工時には、イタリア料理店が入る計画で、躯体なども店舗用に厨房部分などは床が大きく掘り下げられている形状となっていました。この落ち込んだ床を利用して、衛生設備配管や水道設備のレイアウトから検討を進めました。

松尾楽器商会様のご要望として、ピアノを展示販売するショールーム、ピアノの簡単な発表会、練習をするミニホール、ハープ用の練習室、その他エントランスホール・オフィスなどの付帯部分を含めた計画となりました。

周辺環境で騒音源の対象は、主に近くを走る阪急電鉄となります。計画建物の外壁はPC板の躯体であることと、隣接するスポーツクラブの建物が直接音をさえぎり、既存躯体の遮音性能でもほぼ問題ない室内暗騒音となっていました。

一方、ショールーム内で発生する音のマンション側に対する影響ですが、マンション棟と今回入居するテナント部分は棟屋が分かれており、躯体も縁切りされていることから、外部に対しても重厚な遮音構造は必要ないと判断できました。

3. ミニホールについて

3.1 概要

客席は置き型の椅子36席とし、ステージにはスタインウェイのセミ・コンサートグランドC-227が常設されています。用途として、ピアノ・ハープ等のミニコンサート、個人・グループでのリハーサル、オーディション等のための録音録画も可能な部屋として計画しました。

私達としての提案の基本方針として、まず遮音構造は、外部マンションへの影響は少ないと判断し、浮構造は採用せず、固定遮音壁のみとしました。室内の響きについては、ピアノ・ヴァイオリン・ハープ等の生楽器が主体であることを考慮し、ライブで低音域から高音域まで響きのバランスのとれた空間をつくることを基本としました。

3.2 遮音構造の特徴

基本遮音構造は、床スラブから天井スラブまで石膏ボード15t×3層両面貼りの壁仕様とし、他の部屋と間仕切っています。ステージ裏となる事務所側の壁は、事務所からの不用意な音に特に配慮して、軽量鉄骨下地を二重にした独立間仕切工法としています。また、ミニホールとショールーム間には、エントランスホールを挟んだレイアウトとすることで、お互いの演奏音が気にならないように計画しています。

3.3 室内意匠、音響の特徴

ライブで響きのバランスがとれた音場とするため、吸音・反射の素材配置と、室形状に工夫をこらしました。平面的にはステージより壁が広がり、後壁にかけてまた狭くなる形状とし、平行面を極力減らしました。床は全面ナラ15tのフローリング無垢材としています。側壁仕上は、ステージ・客席とも珪藻土の塗り壁とし、部分的にセラミックボードの曲面リブ材とすることで高音域の拡散性を高めています。特に後壁には弊社独自開発の柱状拡散体AGSを採用し、後壁からの音の返りを調整しています。従来は、壁面を吸音のみにしたり、壁面形状に傾斜をつけたりすることで音の返りの調整を行っていましたが、AGSを採用することにより、音を拡散させながら、時間的になだらかで癖のない減衰効果を得て、響きのバランスを調整しています。天井も音の拡散を考え、音楽ホールのようなFGボード6t×4層貼りの曲面仕上の拡散反射面とし、その周囲は吸音仕上の布貼りの仕上としました。また、仕上げ天井裏の空間を利用して、低音域の吸音処理することで、低音域の残響時間を中高音域と同等に抑えました。

3.4 響きの確認を

施工完了後、まずはいつも通り残響時間測定を行い、予測値との整合性を確認しました。実測値と予測値とはほぼ一致していました。さらに、楽器演奏時の響きを確認するためにステージでピアノ演奏を行って頂きました。演奏者はもちろん施主関係者様そして私たちも加わり、聴感に基づきステージ上で吸音・反射の調整を行いました。

4. ショールームについて

4.1 概要

ショールームは何台ものピアノ・ハープをいつでも試奏できる状態で展示し、弾き比べができる環境となっています。芸術文化センターからの帰り際など、演奏を楽しんだ後、気軽にお客様が立ち寄り、試奏できることは、このショールームならではの最大の特徴と言えます。

4.2 室内意匠、音響の特徴

ショールームとして開放的かつ、柔らかい空間、音響的にも適度な響きを目標としてこの部屋を計画しました。

エントランスホールからの入口扉は開放感を出すために、幅3.8m、高さ2.6mとし、大きなガラスの入った天井まである大型のステンレス框戸としました。遮音と安全性の両面から15tの飛散防止ガラスとしています。外部に面する窓ガラスは、温度・湿度管理も考慮した2重ガラス構造となっています。外部側窓は既存のアルミサッシュの枠を利用、アルミフラットバーでガラス10tを押さえた2重ガラス構造とし、外気温の内部への影響を遮断する構造となっています。床は東京日比谷のショールームと同様、カリン15tの無垢のフローリングとしています。壁は楽譜などの収納用大型家具を1面の壁面に埋め込み、その他は吸湿効果も考慮してミニホールと同じ珪藻土の塗り壁を採用しています。また、各所に展示物掲載用のピクチャーレールを埋め込み、ショールームとしての機能を充実させています。

ショールームとしての機能面から、壁面の大部分は大型家具・ガラスなど反射性の仕上材となっています。一方で、この部屋の適度な響きとする音響計画にこだわりました。

外部ガラスとの対向面に、ミニホールと同様、柱状拡散体AGSを配置しました。響きの量をバランスよく調整することを目的に、AGS背面は吸音処理としています。天井に関しては、周囲および中間部分を下がり天井とし、その部分に空調などを配置し、高天井を布貼りの仕上の吸音天井とすることで響きの調整を行っています。また、部分的に間接照明用の飾り天井を配置し、音の拡散も考慮した形状としています。

最終的に、ショールームの空間に対して、施主様より「居心地の良い空間、適度な響きで落ち着く空間」であるとの評価を頂きました。

5. ハープルームについて

松尾楽器商会様はライオン&ヒーリーのハープ輸入総代理店でもあり、今回はハープの練習ができるハープルームも計画しています。周囲との遮音を考慮し、壁は独立間仕切工法の固定遮音構造で間仕切り、入口には遮音引き戸であるマーカススライディングドアを採用しています。また内装仕上としては演奏者が演奏姿を確認できるよう、大きな鏡を設置し、その他の壁は特に中高音域の響きを考慮して、セラミックボードの反射壁と布貼り仕上の吸音壁を組合わせて配置しています。

6. エントランスロビーについて

正面玄関を入ると、エントランスロビーとなります。

ガラス越しに視覚的に連続したショールームとのつながりを考え、床仕上は同じカリン15tの無垢フローリングを採用しています。入ってすぐの正面壁は大きな曲面で、特殊塗装のスタッコ塗りとしました。また、開放的なエントランスのイメージを作り出すため、壁と同心円で半径3m以上の大きな強化ガラス製手すり壁を設置し、玄関とロビーの空間を分ける工夫もしています。

7. ピアノルームに最適な音場とは

先に説明しましたように、私達は柱状拡散体AGSを独自に開発致しました。千葉市にある音響研究所内に壁面全面にAGSを採用した試聴室「Sound Lab」があります。そちらにスタインウェイピアノのDタイプを松尾楽器商会様よりお借りして、演奏者・周囲の聴衆が聞く音は部屋の音場によりどう変わるのか、ピアノを録音する環境として何が最適な音場なのかなど、ピアノルームに最適な音場を追求する研究も行っております。

8. おわりに

今回のプロジェクトの施工期間は、3月の初めから約2ヵ月半でした。はじめは、3月になったというのにマンションからのビル風が非常に冷たく、施工している職方も皆凍えて作業したのを覚えています。しかし工事が進むにつれ、桜が咲き、またそれが散って、ゴールデンウイークを過ぎるころには汗ばむくらいの陽気となりました。そのような季節の移り変わりと、プロジェクトの完成が、同じく過ぎて行ったことが非常に印象深く残っています。

今回のプロジェクトを進めるにあたり、施主である松尾楽器商会様には東京、西宮と距離がある中、何度となく現地での確認・打ち合わせなどに参加頂き、誠にありがとうございました。

また建築主である阪急不動産様も工事に対する諸手続きや、各種搬入に際するお心遣いをいただき、また、本体マンション工事を行った竹中工務店様にも、各種設備の取合い、躯体関連情報の提供などご協力いただき、誠にありがとうございました。

最後にこのプロジェクトを完成させるためにご尽力頂いた協力業者他関係者の皆様、本当にありがとうございました。この場をお借りして厚くお礼を申し上げたいと思います。

今後も新しいショールームから多くのスタインウェイピアノが世に羽ばたき、世の中に音楽が広がって行くことが何よりも私どもの喜びです。

私どもは今後も音楽を通じて人々が幸せになれる空間を創り続けたいと考えております。