工事部 出口 公彦、野澤 由香、細野 奈緒、加藤 丈晴

1. はじめに

当初このプロジェクトは、もともとJ-WAVEが入居していた西麻布三井ビルにおいての改修計画から始まりました。 そこに、平成14年末、六本木ヒルズ森タワーへの本社移転計画が急浮上した為、建設引渡し直前の森タワー33Fにおいて、 騒音・遮音・電波の環境測定と事務所・スタジオのゾーニングの為のロケハンが行われました。

2. 環境測定

環境測定は、平成14年末に、現状の電界強度の把握とスタジオ建築予定場所での建築音響性能測定の把握を目的として行われ、 主に、東京タワーからの電波による電界強度の測定と、既設構造体の暗振動及び暗騒音・空調騒音等の測定を行い、 予定地内部の素性を調べました。
結果は、予想の通りタワー側の電界強度が、10~15dB程度高い状況である事が確認されました。
建物の様子としては、1フロアーの貸室面積約1000坪という大きさもあり、静かな状況が確認されましたが、 逆に大規模建築に見られる設備計画で、2フロアーごとの空調設備等による他フロアーとのダクトからの音漏れも確認されました。 測定当日は、季節外れの雪という悪天候で確認できませんでしたが、33Fという高さもあり、 ヘリコプターがかなり近くを飛行している様子も後日確認されました。

全体的には致命的な欠点は無く、工事を重視した乾式工法による遮音計画を行なう事としました。

3. レイアウトの決定

この測定データから、技術的には可能であるという判断がなされたため、工期等やレイアウト案の検討作業を行い、 基本プランを提案いたしました。その結果、正式には2月末に六本木ヒルズ森タワー33Fへの本社移転と新局舎建設整備が決定されました。

正式移転決定後、J-WAVE各部署のロケハンを行った結果、基本計画(青山側でのスタジオレイアウト)とは逆の、 東京タワー側でのプランが浮上し、再度検討し直して5月中旬に最終レイアウトを決定しました。

すでにグランドオープンを果たし、いつも満員御礼の六本木ヒルズは、工事可能な状況下になっていましたが、 この大幅なレイアウト変更に挑戦してJ-WAVE「第2の開局」に向けた移転計画が、6月初にスタートしました。

スタジオ案内図
図-1 スタジオ案内図

4. 施工計画

10月放送開始というターニングポイントに対して、工事工程は全て逆算していくという状況であり、 放送機材の搬入時期をデッドラインとして、マスターエリア・生放送スタジオエリア・録音スタジオエリア・制作エリアという様に、 エリアごとに工事を終了していく工程を計画し、放送設備工事との取合いを最優先にして短期間での移転計画といたしました。

4.1 電波シールド

当初、電界強度を考慮したために比較的影響の少ない青山側でのスタジオレイアウトを中心に検討を進め、 シールド対策と同時に外壁側の有効利用と遮音対策としてコア側にスタジオを、窓側に制作スペースを配置して検討を行いましたが、 最終段階でタワー側でのスタジオレイアウトに決定し急遽、実際に現場にマイクやエレキギターを持ち込み、 簡易シールド小屋を仮設してシールド効果を実験しました。

東京タワー側のレイアウトは、33Fからの眺望を最大限に生かすことが大前提であり、 ガラス張りのスタジオとした最大の理由です。ガラス窓=電波の進入でありこの対策の方法によってスタジオのシールド性能が決定されたといっても良いでしょう。 シールド材は、沢山の種類が生産されていますが、性能を求めると視界が非常に悪くなるため、建築では20dB対応のフィルムで対応し、 システム側では、実験で影響を受けなかったマイクを使用する等の対応をする事としました。

4.2 遮音構造

基本的な遮音構造としては、やはり浮構造の対応が不可欠で、ビルの規模も大きいことから 「一年中どこかで工事を行なっていると考えてほしい」というビル側の要望からスタジオに関しては完全独立構造としてビルの構造体との接触を避ける構造を採用しています。

ビルの構造的な特徴で「床構造の強い階」であった33Fは、振動成分は比較的小さく、 広いフロアーも幸いして、乾式の簡易浮床とすることができました。浮床は、他テナントへの騒音防止のために副調整室にも採用しました。 床の配線ピットは、ほとんどを浮床内部に埋設型として遮音対策に寄与しています(図2)。

浮床詳細図
図-2 浮床詳細図

省スペース・短工期に対応して、同目的のスタジオをひとまとめに連結して固定遮音壁を共有している為に、 スタジオ側では壁に遮音補強を行う事とし、逆に副調整室側は最小限の遮音対策と省力化を進める為に、 独立間柱工法の変形型として片側の遮音壁のみ浮床に乗せるという工法を採用しました。

この工法の採用により内部遮音層から作業を進めることが可能になり、工期短縮に大きく貢献しました。

内部の吸音処理も自然な響きを求め、ガラスという反射の多い環境を考慮して吸音過多にならないように壁の吸音層は最小限にとどめ、 有効スペース確保に努めました(図3、図4)。

A-Bサブ間平面詳細図
図-3 A-Bサブ間平面詳細図

生放送スタジオ-D-Room間 断面詳細図
図-4 生放送スタジオ-D-Room間 断面詳細図

4.3 空調

空調騒音については、機器設置スペースの問題もあり天吊型のエアコンを採用した為に、 スタジオの遮音天井上部に室内機が設置されています。暗騒音対策としては非常に不利な状況となるが、 ダクトの遮音計画を綿密に行なった結果良好なデータが得られています。最終の音響測定や森ビル殿からの依頼された、 他フロアーからの遮音テスト等の性能試験の結果でも良好なデータが得られています。

4.4 防災計画

ビル基準の防災は、非常用放送設備・自動火災報知設備・スプリンクラー設備・機械排煙設備及び、 防火シャッターとなっており、一度完成した各設備を撤去して再施工という事となります。

ここで、まず防火区画の配置については、防火シャッターの撤去をしないように、 マスタールームと録音スタジオ及びJ-WAVE MUSICを1区画内に配置して無駄のない計画としています。
又、高層階であるために遮音の弱点となりやすい排煙設備の免除を行なう為には、スタジオ毎の防火区画が必要となり、 ダクトの貫通や配管の貫通処理といった設備的な工事と信号線等のピットの区画対応といった難しい作業が発生するのと同時に網入りガラスや耐火ガラスという対応が必要となります。

今回は、レイアウト計画の通り、ガラス張りのデザインであり、あえて排煙免除のための防火区画を計画せずに、 ビル基準の排煙設備にダクトを接続する方式(ダクトによるクロストーク対策を施工)としました。 これらによりビル基準の防火区画を変更しない計画としました。

マスタールーム及びラックルームは、スプリンクラーの設置を避けるために、FM2000というガス消化設備を採用し、 避圧及びガス排気ダクトをダンパー操作による兼用として既設排気シャフトまで結ぶ事にしました。 天井内部には、各種設備機器や幹線設備等がほとんど隙間無くぎっしりと詰められており、空間の演出に影響の出ないよう 「神業的」な作業が随所に隠されています。
ビル規模が大きいが為の制約が多く、業者間の打合わせ等、非常に苦労した部分でもあります。

5. スタジオデザイン

スタジオエリアの計画は「夢と冒険の世界へ!」というJ-WAVE移転のコンセプトに基づき進められ、 今までの放送局には無い斬新なデザインとアイデアが求められました。そこで、「斬新さ」を出すために、 全体的に金属(ステンレス)やガラスといった素材を多用し、無彩色の色使いによって「透明感」を与えることで、 外部の色彩を生かし、風景をスタジオの一部と感じられるような「開放的な空間」を目指しました。

D-RoomからA,B,Cスタジオを見る
写真-1 D-RoomからA,B,Cスタジオを見る

生放送スタジオ(A,B,C Studio)と録音スタジオ(1 Studio)は外部に面しており、 窓越しに33階からの眺望を楽しむことが出来ます(写真2)。

スタジオからの眺望
写真-2 スタジオからの眺望

  • 生放送スタジオ(A,B,C Studio)

生放送スタジオであるA,B,C Studioは、東京タワーの真正面に位置し、 森タワーの外壁のR形状に沿ってオーバルに配置されています(図1)。

これら3つのスタジオは、隣接するスタジオ間でコミュニケーションを図れるよう、 すべての壁面に窓が設けられています(写真3、4)

  • スタジオ
  • Aスタジオから隣のBスタジオを見る
  • 写真-3 スタジオ
  • 写真-4 Aスタジオから隣のBスタジオを見る

また、スタジオ間だけでなく、オーバルの外周の大部分をガラス面とすることにより、 隣接するD-Roomとの一体感を演出し、見通しの良い空間となっています(写真1)。

間仕切りにガラスを用いることは、眺望の妨げとなる壁面を無くし、スタジオ外からの水平方向の可視性を高めることで、 広さを感じさせる効果を狙ったものでした。階高が決して高いとはいえないオフィスビルの高層階で、 「圧迫感」を持たせないことは重要な設計条件の一つでありました。室内音場の面から言えば、スタジオにガラスを用いることは反射音の影響が懸念される為、 敬遠される傾向にありますが、オーバルの形状を生かし対面するガラス面に角度をつけることで、反射音の影響を軽減させました(写真5)。

ブースから外壁側を見る
写真-5 ブースから外壁側を見る

また、生放送スタジオ、ブースには、いろいろな「遊び」を提案いたしました。
ひとつは、ライブなどのセットで使われるアルミトラスで、スピーカーやモニターを吊るす提案をしました(写真6上部)。

スタジオモニター廻り(正面)
写真-6 スタジオモニター廻り(正面)

また、ブースにおいては、DJ・出演者の構成によって向きを変えられるように、回転式のアナウンステーブルを、またそれに伴い、 吹き抜けの良い景観を生かすために、不必要なマイクスタンドを排除して、Robotopia製 電動モーションコントロールマイクシステムを提案しました(写真7)。

ブース内部
写真-7 ブース内部

  • 録音スタジオ(第1、2スタジオ)

録音スタジオは、生放送スタジオ同様外壁に沿って配置されていますが、生放送スタジオに比べると、 いくらか閉じた空間となっており、特に第2スタジオは長時間に及ぶ録音作業に集中できるよう配慮し、 落ち着いたブルーを基調とした配色にしました(写真8、9)。

  • 第2スタジオのブース
  • コントロールルーム
  • 写真-8 第2スタジオのブース
  • 写真-9 コントロールルーム

スタジオエリアは計5つのスタジオの他、主にD-Room、CDライブラリー、マスター室、編集室などからなっています。

  • D-Room

D-Roomは、スタジオエリアの中心部に配置し、常に人の動きを感じられるオープンなスペースにしました。 ここは、番組制作のワークエリアというだけではなく、スタジオ内のライブを想定して計画されています。そのため、 面積を可能な限り大きく取り、周りを取り囲む通路から床レベルを少しさげ、生放送スタジオをステージに見立てています。 ニュースエリアにある液晶モニター用のアルミトラスは、ライブ時にはステージを照らす舞台照明装置になる仕掛けになります(写真1右上)。

  • CDライブラリー

D-Roomの先、生放送スタジオの向かい側にあるのがCDライブラリーです。 ライブラリーは生放送・録音スタジオに近接しており、スタジオ管理の窓口的な役割を果たしています。 将来的に予想される、ディレクタースペース拡張等に対応可能なレイアウトおよび構造となっています。

  • マスター室、ラック室

マスター室やラック室は、機材収容に最低限必要なスペースのみを確保し、現状での無駄なスペースを可能な限り省きました。今後、ラック増設に伴う規模拡大の際には、電気室側に拡張できるような計画となっています。

マスター室
写真-10 マスター室

前出の通り、工事はとにかく急ぐところからスタートさせるという状況で、常にお尻に火がついた状況が続き、 最後までノンストップで行なわれました。搬入材料の多く、搬入用のエレベーターの調整も重要なファクターでした。 着工からおおよそ1月半で最初のコンソールの搬入が始まり、続いて弱電工事も平行してスタートというタイトな工程を約3.5ヶ月で消化しました。

6. 最後に

この様な工程で工事が竣工する事が出来たのは、J-WAVEの皆様の今回の引越しに対する最初から最後までのモチベーションの高さ、 そして各施工業社の枠を超えたチームワークがあっての事と思われます。そして工法の工夫もあったが、 いつもスタジオの工事をして頂いている職方のこのプロジェクトに対する取組みと理解があっての賜物です。

何しろ毎日が締切日だったのだから...

改めて関係各位のご努力にお礼を申しあげたいと思います。