5.1サラウンド対応のモニターシステム

工事部 崎山 安洋、大高 俊樹、細野 奈緒、佐竹 康
技術部 松尾 浩義

1. はじめに

  • サラウンドについて

5.1chサラウンドシステムは、我々の日常生活に身近なものになりつつあります。 映画館で体験する5.1chおよび6.1chサラウンド、家庭では、映画および音楽のライブを中心としたDVD-Video DVD-Audioの普及があります。 また、TV放送では、地上デジタル放送の開始にともない、5.1chサラウンド番組の企画も増えてきました。

サラウンドの歴史を振り返ると、やはり1970年台の状況が思い浮かびます。 その頃の音楽レコードは30cmLP盤でした。ほとんどは2chでしたが、デコーダーを付加して4chの再生が可能なものがあったのです。 家庭用としては、これがサラウンドの始まりでした。ただ、レコード会社により再生方式が異なり、それに応じたデコーダーを購入する必要がありました。 技術的には、2chであったアナログディスクに4chを記録することは、大変な技術だったと今だからよけいに思います。(何と言っても、針式のアナログですから。) 1970年に大阪で開かれた万国博覧会では、富田勲さんの作曲でシンセサイザーを使った立体音響作品とか、360度の映像が楽しめるシアターなどがありました。 (上を向いても、後ろを振り向いても映像が見える。)このように「立体音響」の歴史的な試みがあったにもかかわらず、 なかなか一般的な普及とはなりませんでした。その要因の一つには、FORMATが各種各様で有ったことが上げられます。 1970~80年代のレコーディングスタジオには、サラウンドスピーカを設置して、4chのモニターができる設備もありました。コンソールには、 当時はアナログでしたが、サラウンドパンなるジョイスティックが付いていました。それが、いつしかリアスピーカが撤去され、 コンソールからはサラウンドパンが消えてしまいました。

一方、映画の世界では、より臨場感(サラウンド)を実現するために、映像的にスクリーンはワイドスクリーンと成っていきます。 音声も、フィルムの片隅に記録されているために技術的には制約が大きいのですが、より迫力のある音とするためにアナログによる音声の圧縮・伸張技術が開発され、 「大きい音はより大きく」、「小さい音はより小さく」と再生上のダイナミックレンジは拡大されました。音声トラックも、 mono → stereo → 3-1 → 3-2 → 5.1 → 6.1 と、一層の臨場感と表現の拡大を求めて、増えてきました。 (注、ステレオは正確にはステレオフォニックといい、実はマルチチャンネルのことです。一般的には2chと思われています。) こうした経過から、音楽分野では、うまく進まなかったサラウンド化が、映画作品により進展してきた経過があります。

  • ダイレクトサラウンド配置
  • ディフューズサラウンド配置
  • 図-1 ダイレクトサラウンド配置
  • 図-2 ディフューズサラウンド配置
  • 5.1chシステムとは

「サラウンド」という場合、大きくサラウンドシステム全体をとらえて(5.1ch)いう場合と、 アンビエンスを表現するリア(後方に配置)のみを指していう場合とがあります。

5.1chサラウンドの基本配置としては、フロントにLch/Cch/Rchとがあります。 映画の世界では、スクリーン側にあることから、"Screen Channel"と呼ばれています。

後方に配置されるリアスピーカには、LSch/RSchがあります。6.1chの場合は、 これにBSch("Back Surround Channel")が加わります。スクリーンチャンネルが各チャンネルに対して一系統のシステムに対して、 映画館・試写室のように、大空間で多数の視聴者に同じような感覚を得てもらう事を目標に、サラウンドチャンネルのスピーカは、 同じ信号ですが複数個設置されています。映画館に行くと、左右の側壁と後壁に壁付けのスピーカが設置されているのが見られますが、 これがサラウンドスピーカとなります。5.1chの時は、室中央から右に配置されたSPからLSchが左に配置されたSPからRSchが再生されます。 6.1chの時は、後壁のSPからBSchが再生されることとなります。これに、"0.1"が加わり、現代のサラウンドとなります。 L/C/R/LS/RSの各チャンネルが、20KHzまで再生されるのに対して、120Hz(再生システムにより80Hzもある)までの超低域を受持ちます。 このチャンネルは、"LFEch"と呼びます。"Low Frequency Effect"の略です。確かに、映画を見る時、 戦争物の爆発シーンとか、地鳴りの音とか、しらずしらずのうちに「体感的」な低域の表現効果を経験していますよね。周波数的に、 他のチャンネルより帯域が非常に狭いということで".1"という表現がされました。これが、簡単な"5.1ch"という表現の由来です。 6.1chに関しては、バックサラウンドチャンネルの追加があるのですが、作品数が少ないことと、 作品の中でも一部に使われているのが現状です。例えば、戦争映画などで「後ろから前に弾が飛ぶシーン」などで使われています。

リアチャンネルに関しても時代の変遷があります。1ch(mono) → 2ch(リアチャンネルのステレオ化) → 3ch(リアにバックチャンネルを付加)と進化してきました。その時々に応じて、総称で3-1方式、3-2方式といった呼び方がされた後、 5.1ch、6.1chとチャンネル数が増大してきました。

5.1chを代表としたマルチチャンネルの制作現場および再生環境を考えると、大きく2つに大別されます。 簡単にいうと、映画館などの大会場で上映されるものと、家庭などの小空間で再生されるものと2つに大別されます。 特殊な例では、ディズニーランドなどのテーマパークやモーターショーなどのイベント会場での上映を目的とした作品もあります。

  • 放送局でのサラウンド化

TV放送局においては、地上デジタル放送も開始された昨今、新社屋建設の場合は当然のようにサラウンド対応スタジオ、 あるいは既存スタジオのサラウンド対応化の整備などが多く見られます。

今回、放送局のサラウンドスタジオを2例ご紹介します。NHK放送センターに新設された「CD809ダビングスタジオのモニターシステム」、 既存スタジオをサラウンド対応としたお台場のフジテレビ「V2副調整室のサラウンド化」です。

2. NHK CD-809 5.1ダビングスタジオのモニターシステム

  • はじめに

CD-809は、渋谷のNHK放送センター内に整備された5.1サラウンド対応のダビングスタジオです。オープンは、 地上デジタル放送が始まる直前の2003年11月です。このスタジオにNESシリーズのサラウンドモニターシステムを納入・設置させていただきました。

このCD-809スタジオには、サラウンドスタジオとしてのコンセプトに興味深い部分が随所にありますので、紹介させていただきます。

正面展開
写真-1 正面展開

  • 計画までに

これまでに、NHK放送センターを始め、サラウンド対応スタジオにNESモニタースピーカを納入・設置をさせていただきました。 ただ単にスピーカを納入するのではなく、スタジオ計画段階で、モニタースピーカの構成を含め、建築音響やシステムとの取り合いも含めたお打合せをさせていただております。 その上で、モニタースピーカの機種、構成、設置位置、設置方法が決まることとなります。

初期のお打合せ段階で、大まかなコンセプトを伺いました。それまでのNHKのサラウンド対応スタジオは、 サブウーハーなしの5chサラウンド(3-2方式)がほとんどでした。CD-809以前に、 NHKホールの副調整室2室がサブウーハーも含めたサラウンド対応スタジオとなっていました。(NESモニターシステムによる。)

CD-809ダビングスタジオは、本格的な5.1サラウンドスタジオとしては初めてのもので、今後のNHKのダビングスタジオの規範となることを年頭に計画されました。

斜め正面展開
写真-2 斜め正面展開

  • 音声モニターシステム

サラウンド音声モニターシステムを中心にご紹介させていただきます。大きな特徴としては、 ダイレクトサラウンドとディフューズサラウンドの併設です。これは、サラウンド番組対応としては、 ダイレクトサラウンドを基本とされています。しかしながら、ハイビジョン作品は大画面での再生でも画質が良好なところから、 大きな会場での上映も可能となります。現に映画の世界でも、FILM撮影からハイビジョン撮影にと移行しつつある状況です。 大会場で上映した場合も考慮に入れた音創りも可能なように、ディフューズサラウンド方式でのモニターも可能となっています。

ダイレクトサラウンドには、L/C/R/LS/RS共に"NES111B"となっています。 30cmウーハーをベースとした3way3speakerシステムです。アンプはバイアンプ仕様の"NES450B"とし、 Mid/Highはネットワークとしたシステムです。サブウーハーとしては、38cmダブルウーハーシステムの"NES200"です。

  • NES111BとNES200
  • ディフューズスピーカ
  • 写真-3 NES111BとNES200

  • 写真-5 ディフューズスピーカ

  • NES200 サブウーハー
  • リアスピーカとディフューズスピーカ
  • 写真-4 NES200 サブウーハー
  • 写真-6 リアスピーカとディフューズスピーカ

後壁展開
写真-7 後壁展開

スピーカ配置は、ITU-R BS.775-1を基準として、各スピーカからミキシングポイントまでが3.85mの半径で、 同じ高さに配置されています。3m以上の半径を確保した配置はなかなか採れないのが現状ですが、NHKの場合、 もともとスタジオであったスペースを調整室とすることで広さと高さを確保されています。

5chとも同一スピーカであることで、音色および音圧レベルが同じとなりますので、サラウンドパンを前後左右に振った時に違和感のないスムーズな音のつながりが期待できます。 センターチャンネルについては、映像用スクリーンを通して音が出るため、高域について若干のレベル調整とF特補正がされています。 スクリーンには、音響透過性の高いStewart社のサウンドスクリーンが使用されています。

スピーカ配置は、L/Rの開き角度が60°、LS・RSの開き角度がCから120°で設置されています。 また、5chとも同じ高さに設置するために、スピーカ設置位置とブースの扉位置などを初期の計画段階で検討された結果、 可能となったものです。

スピーカの設置方法は、アピトンの木製スピーカ台の天板部分をモルタル板とし、インシュレーターを挟んでスピーカが載っています。 スピーカ台下部の浮床は、振動面で縁切りした独立浮床となっています。

ディフューズサラウンドとしては、リアスピーカに新たに設計した"NES MU-5174"6本が40°間隔で設置されています。 このスピーカは、16cmウーハーの2way3speakerで2本のツイーターを120°の開き角度とし、指向性を拡大したものです。 また、背面にアンプを搭載したパワードスピーカとなっています。

ディフューズSPの配置は、LS/RS各チャンネルの上部に1台、それを中心に両側に40°ずつ開いて配置されています。 リアスピーカ全体でも、40°ステップで配置されていることになります。

現在は、音響軸をミキサーポイントに向けて設置されていますが、首振りも可能となっており、 映画館のサラウンドスピーカのように横向き配置も可能としてあります。

ディフューズスピーカのウーハーは16cm口径であるため、 低域レンジを拡げるためにLS/RSの低域成分がダイレクトサラウンド用の"NES111B"のウーハーから出力しています。

平面図
図-3 平面図

断面図
図-4 断面図

これらのメインスピーカ以外に、ニアフィールドのサラウンドモニターとして、"GENELEC 1031A"がスピーカスタンド置きとして設置できるようになっています。 また、アナウンスブースには、家庭用の小型サラウンドシステムが置かれてあり、一般家庭での再生をシミュレートできるようになっています。

このようなスピーカシステムに信号分配や調整を行うために"YAMAHA DME32"と"LE4496"を使用しています。

システム系統図
図-5 システム系統図

サラウンドSP設置図
図-6 サラウンドSP設置図

  • システムおよび建築音響

システムについて簡単にご紹介します。音声システムとして、音声卓にフルデジタル卓のEuphonix社 "System5"(48Faders,166ch,48Mix,8Group,24Aux)、48トラックDAWにFairlight社"Satellite"。映像システムとして、 8ch音声トラックを有するHD D5-VCRとしてPanasonic社の"AJ-HD3700B"、プロジェクターは、DLP方式のPanasonic社の"TH-D7600"、 ハードディスクレコーダーにDoremi社"VID"が設備されています。

建築音響について簡単にご紹介します。既存スタジオの遮音層を利用しながら、低音域のモードが分散するように、 側壁の遮音層を新たに追加することと、ダビングスタジオ後方にあるプリプロルームとマシンルーム上部空間を有効利用することで縦横の寸法を調整されています。 遮音層は、不整形の左右対称となっています。

また、低域モードと直接関連するサブウーハーの設置位置は、室のモードが立ちにくいように黄金分割比を基準に配置されています。

  • おわりに

CD-809サラウンドモニターシステム納入・設置にあたって、NHK様ご担当の岡本様、谷田様、システムご担当の青山様、 建築音響ご担当の織田様には、お世話になりました。また、この仕事を頂いた(株)バップ(サウンドインスタジオ)の石野様には、 NESスピーカのプロデューサーとしての立場からご指導いただきました。また、当時(株)バップの河村さん(現在は(株)アイコニックに在籍) には営業からシステム構築などを担当されました。この場をお借りしてお礼申し上げます。

これから、数多くのサラウンド作品が世の中に広く広まっていくことを願っております。

(TEXT:崎山安洋)

3. フジテレビ V2スタジオ 副調整室サラウンド化

  • 設計概要

お台場フジテレビ本社は1997年に竣工し、約1年の準備期間を経て本放送が始まり、現在に至っております。
フジテレビ移転後、キー局関係ではテレビ東京 天王洲スタジオ、2003年にテレビ朝日新社屋、 2004年には日本テレビ新社屋と、各社地上デジタル放送の開始に合わせ、デジタル送出設備に対応した新社屋の完成がありました。

そんな中、昨年秋にフジテレビ制作技術局より、テレビ朝日副調整室に設置した物と同様の電動昇降式サラウンドスピーカ装置を計画したいとの話があり、 今回、V2副調整室の改修工事となった次第です。

約8年前の設計時点では、5.1chサラウンドに対する方針が混沌としており、竣工当事、 現局の副調整室にもサラウンドSPを設置しましたが、現在の基準には合わない状況になっていました。 そこで、V2スタジオの音声卓をデジタルコンソールへの更新時期に合わせて、 年末の番組を撮り終えた後の正月明けからサラウンドスピーカ昇降装置の設置工事となりました。

デジタルコンソールSTUDER VISTA7
写真-8 デジタルコンソールSTUDER VISTA7

今回の計画にあたり、5.1ch用スピーカとしては、現用の2ch用メインスピーカ"EXCLUSIVE 2404"とは分け、 "STUDER A3"5本と"GENELEC 7070A"1本を、"ITU-R BS.775-1"を基準として、ミキサーポイントから2,100の半径で配置してあります。 リアスピーカを開き角度120°でレイアウトしますと、8年前の基本設計が良かったのか(?)偶然にも既存の天井の設備機器にはほとんど影響のない位置に配置できる事が分かりました。

しかし、天井は高さ3,000で、天井遮音層に岩綿吸音板の直貼り仕上となっており、天井裏には、構造上の梁、空調ダクト等もあることから、 遮音天井をこれ以上上げらません(工期的にも)。そこで、昇降装置を設置するための下地と天井の遮音欠損を補うための遮音BOXを共用させる事で、 最小限の手間と工期を提案させていただきました。

今回のV2副調整室改修は、デジタル化によるシステム機器の更新がメインでした。 弊社ではサラウンドスピーカ昇降装置設置工事の他に音声エリアのモニターパネル改造とSE卓の改造も同時に行いましたが、 建築的改修工事は出来るだけ短期間に終わらせる必要がありました。したがって、正月休み明けに天井を解体して、 既存図面通り現場が出来ており、リアスピーカ昇降機構が設備にぶつからず設置できると分かった時には一安心したしだいです。

サラウンド環境
写真-9 サラウンド環境

  • リアスピーカ昇降装置について

昇降装置としては、無響室等に納めているマイクロフォントラバースの機構を採用しました。 シンプルでコンパクトな構造で、主要部材をアルミ型材として軽量化されているため、天井への負担荷重および設置からも、 施工面にプラスになったと考えております。

リアスピーカ
写真-10 リアスピーカ

リアスピーカは最も下げた高さがSP下端で1.6m、最高に上げた高さで約2mを確保してあり、 スピーカを自由な高さで止める事も可能です。

  • フロントスピーカについて

フロントスピーカ用スピーカスタンドは、最近多く採用されてきた、キャスター付きの移動可能タイプで、 手動の昇降機構を備えたSPスタンドを採用していただきました。

既存の2chメインスピーカを使用する場合は、サラウンド用フロントスピーカを移動するか、 スピーカ台を下げ、メインSPの邪魔にならない高さまでレベルを下げて使用することも可能です。

フロントスピーカ
写真-11 フロントスピーカ

  • おわりに

今回の計画は既存副調整室の改修ということもあり、限られた空間の中で機材および動線の妨げにならず、 かつ音響的に不利にならないようなサラウンドスピーカ配置を実現するために、昇降機構とすることで、 満足いく結果が得られたと思っております。

「既存スタジオのサラウンド化」というと、空間的な制約があるケースが多いですが、 昇降機構を用いる事は、これらの問題を解決する有効な手段の一つになりうると考えられます。

(TEXT:大高俊樹、細野奈緒)