企画室 大山 宏 山下 晃一
「音舞の調べ~超越する時間と空間」ベルリンフィル・シャルーンアンサンブル演奏会 東京藝術大学奏楽堂
1. はじめに
ルームチューニング・アイテムのシルヴァン(SYLVAN)・アンク(ANKH)はプロ用途のスタジオ・放送局や個人の方のオーディオルームだけでなく、楽器練習室やホールといった楽器演奏空間でもお使いいただく機会が増えています。
音源の位置がほぼ固定されているスピーカー音の場合とは異なり、舞台の形状や楽器の配置がまちまちな演奏空間においてはSYLVAN、ANKHをどこにどのように配置するかによっても効果の出方が異なるため、私たちも経験を積んでいるところです。しかし、音響効果の感じ方はそれぞれですが、演奏者とホール等の客席にいる聴き手の双方から高い評価をいただいており、今回、最近の事例のいくつかについてご紹介させていただきます。
2. 東京藝術大学奏楽堂における 「音舞の調べ?超越する時間と空間」演奏会
2016年5月19日、東京藝術大学COI拠点主催ベルリンフィル・シャルーンアンサンブル演奏会が東京藝術大学奏楽堂にて開催されANKHが活用されました。この演奏会は、20世紀のピアノ巨匠リヒテルの演奏をAI(人工知能演奏システム)で再現しシャルーンアンサンブルと共演するというものです。私たちはリハーサル時からANKHを6台と、グランドピアノ下に設置する開発中の床面設置型のANKH(以下、床ANKH)を持ち込み、音の良さで定評のある奏楽堂の空間に更に磨きをかけることを目的に設置位置の検討を行いました。シャルーンアンサンブルのメンバーに"Amaging!"と驚かれるほど「音場が良くなり演奏しやすくなった」との評価をいただきましたが、日頃奏楽堂で演奏を聴かれている方々からも「今日の演奏は音が良い」という言葉も多くいただきました。
リハーサル中のシャルーンアンサンブル
洋楽・邦楽・ファッションの共演
3. 東京・春・音楽祭 ─東京のオペラの森─
今年で12年目となる「東京・春・音楽祭」。今年も東京都美術館講堂、国立西洋美術館講堂、東京国立博物館法隆寺宝物館エントランスホール及び平成館ラウンジの4会場でANKHをご利用いただきました。もともと音楽演奏専用ではない会場で、演奏者の奏でる生の音をできるだけ忠実にかつ心地よく聴き手に届けられるように配置しました。美術館の講堂はカーペット敷きのため比較的残響時間が短く、逆に博物館のエントランスホールは天井が高い上に御影石の仕上げで非常に響きが長いため演奏者泣かせかもしれませんが、不足する一次反射音を補うように配置することにより、演奏者には演奏しやすくなるように音を返し、また、お客様には聴きやすい環境となるよう音場を整えました。
写真提供:東京・春・音楽祭実行委員会 撮影:堀田力丸
ピアノ:三浦友理枝
東京都美術館 講堂
写真提供:東京・春・音楽祭実行委員会 撮影:堀田力丸
リコーダ:濱田芳通
ビオラ・ダ・ガンバ:石川かおり
ヒストリカル・ハープ:西山まりえ
国立西洋美術館 講堂
写真提供:東京・春・音楽祭実行委員会 撮影:堀田力丸
ヴァイオリン:戸田弥生
東京国立博物館 法隆寺宝物館エントランスホール
写真提供:東京・春・音楽祭実行委員会 撮影:青柳聡
ヴィオラ:豊嶋泰嗣
ヴァイオリン:三浦文影
チェロ:富岡兼太郎
東京国立博物館 平成館ラウンジ
4.TWILIGHT CONCERT(大手町コンサート)
三井住友銀行東館ライジング・スクエア1階アース・ガーデンにて開催されておりますTWILIGHT CONCERT(大手町コンサート)。月1回程のペースで行われており、主催は株式会社インターネットイニシアティブでライブ配信も行われております。多彩なプログラムで人気のコンサートで毎回ほぼ満席となります。この会場も銀行のロビーということで、専用の音楽会場ではないためANKHの効果が期待されております。演奏者からは、「自分の出している楽器の音がよく聞こえるようになり演奏しやすくなった。」主催者からは、「演奏会用の場所ではないにも関わらず聴きやすい音になり格段の違いがある。なくてはならないアイテムだ。」とのご感想をいただいております。
TWILIGHT CONCERT リハーサル風景
トランペット:辻本憲一
トロンボーン:新田幹男
ピアノ:松下倫士
TWILIGHT CONCERT リハーサル風景
バイオリン:三上亮
チェロ:金子鈴太郎
ピアノ:須藤千晴
5.ライブハウス
Vol.35でもご紹介しました稲毛のJazz Spot CANDY。常設のANKHに加え、ピアノ演奏時にはグランド・ピアノの下に置く床ANKHも効果を上げています。これはピアノの下面と床との間の定在波を改善する効果があり、オーナー様曰く「ピアノの音の粒がたって輪郭が明確に聴こえ演奏者の繊細なタッチが自然に聴こえるようになる」そうです。また、演奏者からも「自分の発した音が聴きやすく演奏しやすい」といった評価をいただいています。
平田真希子ピアノトーク
ウィーン国立アカデミー教授Meinhard Prinz
写真提供:Jazz Spot CANDY 撮影:林 美葉子
6. レコーディングでの活用例
コンサートホールでピアノ録音する際にANKHを使っていただくことも増えてきました。演奏者が弾きやすい、演奏しやすくなるという評価だけでなく、音の響きが自然で美しく収録できるためレコーディングにとっても有効と評価をいただいています。
金子三勇士
ANKH配置
2009年夏にテスト録音の予定が翌年急逝されラストレコーディングとなった深町純のピアノ録音が弊社音響研究所試聴室Sound Labにて行われました。Sound Labは壁全面と天井の一部がAGS仕上げとなっており、オーディオリスニングに最適な環境であるばかりでなく、レコーディングにも威力を発揮します。全曲即興演奏というとてつもない企画でしたが、終始和やかに録音が行われました。
故深町純 弊社音響研究所 Sound Lab にて
7. 床ANKH について
今秋、ANKHユーザー待望の床面設置型のANKHの発売を予定しています。すでにプロトタイプを様々な場所で評価していただいています。グランドピアノ下の空間への設置の効果は前述のとおりですが、オーディオリスニングにおいてはスピーカ前に置くことで床面からの強烈な一次反射音と直接音の干渉が緩和されるため、再生音の濁りが解消し音色感が向上するだけでなく定位感が向上し「立体感が増す」といった評価までいただくことがあります。
床ANKH(ANKH Ⅵ)
8. おわりに
SYLVAN・ANKHのオーディオリスニング以外の用途として演奏会やレコーディングでの使用例をご紹介しました。今後も楽器演奏への利用は、ますます拡がっていくものと期待しております。