名古屋営業所 倉光 拓馬 システム事業部 田中 菜津、藤田 祐作、高島 和博

1. はじめに

これまで御馴染みの全方位音源探査システムNoise Visionは、国内外の自動車関連のお客様に幅広くご利用頂いております。その中でNoise Visionに対する要望も数多く頂いてきました。皆様の貴重なご意見・ご要望を参考に、実際の現場でお使い頂けるシステムを目指し、毎年のシステムバージョンアップを行って参りました。今回は数年ぶりにメジャーバージョンアップを実施し、「全方位音源探査システム」から「音源探査の統合アプリケーション」へと進化したNoise Vision3についてご紹介いたします。

2. Noise Vision3について

今回のメジャーバージョンアップにおける大きな目玉は以下の3点になります。

  • 新型平面マイクロホンアレイへの対応
  • 球面近距離音響ホログラフィ(Sp-NAH)分析
  • 仮想リファレンス信号による相関分析

上記に挙げた機能に留まらず、今まで頂戴した様々なご意見・ご要望を反映させるべく、一から設計を見直し、従来からご好評であった使い易さはそのままに統合型アプリケーションへと進化しております。

では1つ1つの機能を詳しくご紹介していきましょう。

3. 新型平面マイクロホンアレイへの対応

従来の球バッフルマイクロホン(SBM)シリーズは、自動車の中や部屋の中といった閉空間での分析が得意でしたが、建機や事務機器等の騒音分析で測定対象物が1方向に限定でき、かつ音源からある程度離れた場所からの測定が必要な場合には必ずしも最適なアレイというわけにはいきませんでした。そのようなニーズに対応するために開発されたのが新型の平面マイクロホンアレイOptimized Typhoon ARray(OTAR)シリーズです。正面から見たマイクロホンの配置が気象衛星から見た台風のように見えることから名づけられました。

OTAR CS1型マイクロホンアレイは2種類のアレイモジュール(直線モジュールと曲線モジュール)を組み合わせた60chの平面マイクロホンアレイです。アレイ直径が2.7m程度あり、当社のシステム製品としてはかなり大型の部類に入りますが、少々離れた位置からでも高精度に音源を同定することができます。自動車関連の典型的な適用事例としては、車外での風騒音や通過騒音の分析などがあり、効果的な測定を行うことができます。また、工場内の機械のように対象物が大きく、かつ安全上の理由などにより対象物に近づいて測定ができない場合にも非常に有効です。

OTAR C1型マイクロホンアレイは曲線モジュールのみで構成された30chの平面マイクロホンアレイです。こちらは直径1.2m程度とやや小ぶりなサイズになっており、事務機器や家電製品、自動車におけるドア閉まり音やマフラーなどの各コンポーネント単位での計測に向いております。また、こちらのアレイの接続方法は従来のSBMシリーズと互換性を持つため、フロントエンド~PC間は共通で使用し、センサー部分のみを取り替えることで幅広いアプリケーションに対応可能な音源探査システムを構築することができます。

OTARシリーズ共通の特徴として高精度なカメラを装備し、精緻な可視化に対応しています。

写真1 OTAR CS1型アレイ 写真1 OTAR C1型アレイ
写真1 左:OTAR CS1型アレイ、右:OTAR C1型アレイ

4. 球面近距離音響ホログラフィ(Sp-NAH)分析

球面近距離音響ホログラフィ(以下、Sp-NAHと略します)分析は、Noise Visionでの低周波域適用性能を格段にアップさせます。従来からNoise Visionで使用しているアルゴリズムはビームフォーミング(以下、BFと略します)と呼ばれるものの一種です。詳細は省略しますが、BFは低周波域では音源を見たときに" 大きな" 音源に見え、逆に高周波域になるに従って分解能が改善し、" 小さな" 音源に見えるという特性を持っています。つまり、BFの音源分解能は周波数に大きく依存してしまいます。具体的には複数の音源が想定されるような状況で使用した場合、対象となる周波数領域が高周波域では問題になることはありませんが、低周波域になると複数の音源の分離能力が問題になる可能性があります(図1上参照)。

一方、Sp-NAHでは周波数にほとんど依存せずに低周波域でも十分な分解能を保つことができるため、このBFの苦手な低周波域(50Hz程度~)をカバーすることができます。逆に高周波域では、適用できる上限周波数はBFに比べて低くなってしまいます。しかし、こちらはBFが得意とする領域であり、BFとSp-NAHがお互いの弱点をカバーすることによって、1つのセンサーで非常に広い適用周波数範囲を実現することが可能となりました。

もちろん一旦データを収録すれば、BF、Sp-NAHのどちらでも自由に分析することができますので、測定時にセンサーの切り替えや分析手法を意識する必要はありません。また、STL形式(ASCII、バイナリ対応)でのモデル読込みに対応しておりますので、実際の3D形状モデル上でどのような音の流れになっているのかを可視化することができます。

図1 スピーカによる低周波領域における分析結果比較(94~223Hz、BFの分析結果)
図1 スピーカによる低周波領域における分析結果比較(94~223Hz、Sp-NAHの分析結果)
図1 スピーカによる低周波領域における分析結果比較
(94~223Hz、上:BFの分析結果、下:Sp-NAHの分析結果)

さらにSp-NAHではセンサー周囲の音響インテンシティ分布を一気に計算することができますので、空間における音の流れや分布の可視化にも威力を発揮します。従来ですと音響インテンシティプローブを複数用いたり、位置を変えて何度も測定を行ったりと非常に時間も手間もかかる分布測定を簡単に実現できるのです。この特長を生かすことで自動車の車室内やリスニングルームの音圧分布の全体像を短時間に把握することが可能です。センサーの移動が必要のない測定の場合は、突発的な音や過渡的な音にも対応することも可能です。

図2 車室内の音圧分布測定例(90Hz、運転席足元に音源設置)
図2 車室内の音圧分布測定例(90Hz、運転席足元に音源設置)

5. 仮想リファレンス信号による相関分析

様々な騒音源が存在する場合、物理的に強度が弱い音源は対策しなくてもよいかというと、必ずしもそうとは言えません。例えば自動車における「カタカタ」といった異音は他の騒音と比較して音圧レベル自体は低いものの、時間特性や周波数特性の違いにより耳についてしまい、品質上の問題を引き起こすことがあります。そのような場合、仮想リファレンス信号による相関分析を用いることによって、他の騒音の影響を除去した上で目的の異音の影響を可視化することができます。最大の特徴は、分析結果上に可視化された任意の音源を計測後の後処理で簡単に除去できることです。この機能を簡単に言えば他の騒音を「無かったことに」する技術で、同様の分析において通常必要とされるリファレンスマイクロホンを設置せずに音源の分析精度を高めることができるため、様々なシーンで応用が可能です。(特許出願済)

図3 2つのスピーカからの音を分析した例(4000Hz、通常の分析結果) 図3 2つのスピーカからの音を分析した例(4000Hz、右側のスピーカからの寄与を信号処理で除外した分析結果)
図3 2つのスピーカからの音を分析した例
(4000Hz、左:通常の分析結果、右:右側のスピーカからの寄与を信号処理で除外した分析結果)

6. おわりに

今回はNoise Visionの新バージョンをご紹介させて頂きました。紙面も限られており、技術の詳しい内容についてはバックナンバーなどをご参照頂くとして、新たな可能性の一端を感じて頂ければ幸いです。今後も新機能の開発や更なる性能向上を図れるよう、開発スタッフ一同努めて参ります。お客様の環境でのデモにも対応できますので、お気軽にお申し付け下さい。

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