新環境基準施行に伴う最新技術の導入

DL事業部 北原 慎也

1. はじめに

「沖縄」と言われた時、多くの人がリゾート地としてのイメージが浮かぶと思います。青い海に、美しいサンゴ礁、雄大なサンセットを背にしながらの一杯は格別でしょう。本島から距離的にも離れ、非日常を存分に楽しめる沖縄という地。

しかし、沖縄にはリゾートとは似ても似つかない、米軍用機地が多数存在する地域という側面もあります。日本の米軍専用施設の74.3%が沖縄県に集中しており、沖縄県全土の10.2%が米軍の専用施設という現実があります。

これほど米軍の施設が集中しますと様々な問題が起こりますが、その中の一つとして嘉手納飛行場・普天間飛行場による航空機騒音は住民の生活に大きな影響を及ぼしています。また、沖縄県にはもう一つ軍民共用空港の那覇空港があり、沖縄県の住民にとって航空機騒音は日常生活に直結する非常に重要な問題です。

以前より沖縄県では19局の通年測定地点を設置し、航空機騒音測定を行って来ましたが、新環境基準が平成25年4月より施行されるにあたり、それに対応した測定器、中央処理システムの導入を決定されました。そして、すばらしいめぐり合わせの下、これらの更新を私たちがお手伝いさせて頂くことになりました。

2. 現行環境基準と新環境基準の変更点

現行の環境基準では、航空機騒音の評価指標として日本独自の簡易的なWECPNLが採用されています。近年WECPNLを用いて航空機騒音を測定すると測定機数が増えたのにWECPNLの値が下がってしまうという逆転現象が発生し、この問題を解決するために逆転現象が起こらないエネルギーベースのLdenを用いる新環境基準が平成25年4月に施行されることとなりました。

新環境基準で採用されることになりましたLdenは次のように表されます。


LAE,di : 7時~19時に発生するi番目の単発騒音暴露レベル
LAE,ej : 19時~22時に発生するj番目の単発騒音暴露レベル
LAE,nk : 22時~翌7時に発生するk番目の単発騒音暴露レベル
T : 測定秒数(24時間=86400秒) To : 基準秒数(1秒)

また現行環境基準であるWECPNLは次のように表されます。

: 一日に発生した各航空機騒音の最大騒音レベルのパワー平均値
N : 時間帯ごとに補正した測定機数の合計

WECPNLとLdenの式を比較してみると、現行の環境基準では最大騒音レベルとその発生時刻がわかれば評価値を算出できましたが、新環境基準では最大騒音レベルの値だけではなく騒音の聞こえ初めから聞こえ終わりまでの間の騒音レベルの変動を全て把握しなければなりません(図1)。

図1 現行環境基準と新環境基準の基礎データの違い
図1 現行環境基準と新環境基準の基礎データの違い

また、新環境基準の施行に先立って平成21年7月に航空機騒音測定・評価マニュアルが環境省により策定されました。このマニュアルでは、今まで明確な記述がなかった、地上で航空機が発生する騒音(地上音)の測定に関する記述が多数盛り込まれています。加えて軍民共用飛行場については軍用機と民間機を分けての評価、それらを統合した上での評価を行うべき、という記述がなされています。

3. 新環境基準対応測定器の導入

沖縄県では沖縄本島にある那覇空港・普天間空港・嘉手納空港周辺にそれぞれ4局・7局・8局の計19局を通年測定点として自動騒音測定装置を設置し、航空機騒音監視をおこなっています(図2)

図2 沖縄県本島設置の通年測定点
図2 沖縄県本島設置の通年測定点
* 国土地理院の数値地図25000(地図画像)「沖縄」から抜粋

更新以前、沖縄県では当社が開発した自動騒音測定装置であるDL-80という機種を使用されていましたが、この機種では新環境基準の基礎データである単発騒音暴露レベルの測定が行えません。 そこでDL-100という新環境基準に適応できる製品を導入していただき19測定地点全ての自動騒音測定装置の更新を行いました。

また、それぞれの空港周辺では空港場内にいる航空機のエンジンテストなどの地上音も少なからず発生します。そこで、最大寄与の音がどの方向から到来してきているかを特定することができる小型音源探査装置(SD-100)を空港に近接している11の測定地点に設置し、地上音監視も行うことになりました(図3)。

図3 DL-100セットと小型音源探査装置用マイク設置状況
図3 DL-100セットと小型音源探査装置用マイク設置状況

4. 航空機騒音判定技術

自動騒音測定を行うと、航空機騒音も含め様々な騒音が記録されます。自動測定装置はそれら騒音群から、航空機騒音だけを抜き出さなくてはなりません。今回更新したDL-100は様々な航空機判定手法の中、気象条件や暗騒音レベルに影響されず、かつ高精度に航空機騒音を判定できる電波を使用する技術を用いて識別を行っています。

航空機は飛行中に様々な電波を発しますが、その中にトランスポンダ応答信号と呼ばれる電波があります。これは、空港レーダより発信される質問電波に対して、現在飛行中の航空機が返すの高度情報や識別番号(スクォークコード)を乗せた応答信号電波です(図4)。

図4 トランスポンダ応答信号
図4 トランスポンダ応答信号

DL-100では、航空機が近づくとトランスポンダ応答信号の電波の強さ(電界強度)が上昇することを利用し、電界強度が上昇した区間に測定された騒音を航空機騒音と判定します(図5)。

図5 トランスポンダ応答信号を用いた航空機騒音判定
図5 トランスポンダ応答信号を用いた航空機騒音判定

5. 軍民識別技術

那覇空港に限らず軍用機と民間機が共用している空港は国内に多く存在しますが、そうした空港周辺では、軍用機と民間機、それぞれの騒音影響を分けて評価したい、という住民サイドからの強いニーズがありました。しかし、両者の識別は騒音の特性や、前述のトランスポンダ応答信号の利用だけでは困難で、人が現場に常駐して行う有人測定に頼らざるをえませんでした。

この問題を解決するため、私たちは、航空機が発する対地距離測定電波に着目しました。これは航空機が飛行中に対象物との距離を計るために用いられている電波です。航空機は搭載している気圧高度計を用いて自らの海抜高度を確認していますが、山岳地などを飛行する場合、地面や前方障害物との距離を常時把握する必要があるため、対地距離測定電波を用いて地面や障害物との距離を測定しながら飛行しています(図6)。

図6 対地距離測定電波を用いた距離の測定
図6 対地距離測定電波を用いた距離の測定

私たちは軍用機と民間機では用いている対地距離測定電波の性質が異なることに着目、その差異によって軍用機と民間機を識別(軍民識別)する技術を開発し(特許出願中)、那覇空港周辺の測定局に導入しました。これにより、軍民の自動識別が実現できています。

6. 小型音源探査装置を用いた地上音判定技術

現行の環境基準には地上音の測定方法はほとんど記述がありません。これは定常的に発生する地上音に対して、最大騒音レベルを用いた指標では的確な評価をすることが難しかったことが理由の一つにあげられます。新環境基準では騒音発生時の音のエネルギーを積分し評価しますので、定常的に発生した騒音についても適切に評価することができます(図7)。

図7 現行・新環境基準の基礎データによる評価の違い
図7 現行・新環境基準の基礎データによる評価の違い

新環境基準の航空機騒音測定・評価マニュアル内で地上音、特に山型のレベル変動を示さない準定常騒音に関する詳細記述があります。一般的な自動測定装置ではこれら地上音の測定は行えますが、いままでの航空機騒音の判定技術がほとんど通用せず、「この測定されたデータは地上音だ」と実際に判断することは大変な困難を伴います。

しかし、地上音の特徴として空港内でしか発生しないということがあげられます。ということは、自動測定で測定された騒音が「どの方角からの音の寄与がもっとも大きいか」がわかれば、おのずと地上音評価が可能になります。そこで今回の更新では、新しく開発した小型音源探査装置(SD-100)の音源識別技術を用いて地上音判定を行うことになりました。

このSD-100では新しい音源探査技術であるC-C法*1を用いており、従来一般的に用いられてきた音の到達時間差を用いた技術(相関法)とは大きく異なっています。例えば相関法を用いた方法では、同じような音色で暗騒音より卓越した音源が二つあった場合(二つの相関が高い場合)に音源位置を特定しようとすると、二つの音源の間を指し示してしまいます。また音色が異なる場合(相関が低い場合)でも二つ音源から発する音のレベル差によって到来方向が不定となり、それぞれの音源の位置を特定することが難しくなってきます。しかし、SD-100の音源探査技術を用いれば二つ以上の音源があったとしてもそれぞれの音源到来位置を正確に把握することができ、加えて特定したそれぞれの音源の強さまで測定することができます(図8)。

図8 SD-100と相関法の音源探査イメージ
図8 SD-100と相関法の音源探査イメージ

つまり、複数の音が発生している中でも、ある時刻に最大の強さを発していた音源がどの方向にあるのか特定できますので、測定局から見た空港の方向情報をあわせて測定した騒音が地上音であるか否かを極めて高い確率で分離識別することが可能となっています。

ここではその識別を実例でご紹介します。図9はある測定局でのデータですが、測定局から見て空港が南東方向にあり、空港と測定局はほぼ同じ高さに位置しています。一つ一つの細かい点が測定された音源になり、図の左は上(0°)を北としたときの音の到来方向とデータ内のオクターブバンド周波数分析別最大音源強度の結果を表し、右図は上から方位角、仰角、音源強度を時系列に表示しています。このデータの場合、音源到来方向で右下に音が集中し、方位角・仰角とも変動が少ないことから、南東方向に動きの少ない音源(地上音)が存在していることがわかり、無人自動測定でも地上音判別が可能となっていることがわかります。

図9 SD-100測定データの表示例
図9 SD-100測定データの表示例

7. 中央処理装置・インターネット帳票公開

沖縄県では、図2にあるように県保有の通年測定局を19地点設置し、各市町村は通年測定局を5地点設置しています。これらの測定データは自治体ごとにデータ処理を行うのではなく、各測定局のデータを沖縄県庁に収集し一括して処理を行っています(図10)。

図10 中央集計システム概要
図10 中央集計システム概要

この中央処理装置では、毎日、深夜に各測定局からデータを収集し、それらデータを集計し日報を自動で作成します。また、例外的な音が発生しデータのチェックを行いたい場合や、航空機騒音に他の騒音が重なり自動判定の結果に疑いが持たれる場合にはデータ編集を行うことができます。編集ソフトを立ち上げ、測定イベントごとに波形情報や電波情報を参考にしながら航空機騒音か否かの付け替えが行える(図11)など、ソフトウェアに対する専門知識をお持ちでない自治体職員の方でも直感的で簡易に操作ができるよう、インターフェースに配慮したつくりとしています。

図11 航空機騒音判定編集ソフト画面
図11 航空機騒音判定編集ソフト画面

帳票の自動作成後、県内の関係自治体がいつでも帳票を閲覧できるようにインターネット上で帳票を公開します。公開される帳票は、まず一般公衆回線を用いて当社サーバーに送られ、サーバー上で更新処理を行い、インターネットにアップロードされます。また、帳票閲覧時にユーザ名・パスワードの認証を行うことに加えて万全のセキュリティ対策を施し、関係自治体のみ帳票が閲覧できる仕組みになっています(図12)。データ収集から帳票作成・公開まで自治体職員の皆様の手間を最小にできるような仕組みとし、それを私たちがバックアップさせていただいています。

図12 インターネット帳票公開の流れ
図12 インターネット帳票公開の流れ

8. おわりに

今回のシステム更新の一員として平成22年3月に沖縄に出向き、3月ではありえないような肌寒い日に測定局の設置を行いました。「沖縄で凍えるっていうのはどういうことだ」と不思議な気持ちになりながら作業を行ったのもよい思い出です。

今後も私たちは沖縄県様をはじめ航空機騒音で悩む方々の要望にこたえるため、常にチャレンジ精神を忘れずに新しい技術を開発し、少しでも世の中の為になれれば、と考えております。

*1 羽入敏樹、稲毛大輔、関口克明、「4chカーディオイドマイクによる音場の方向情報計測」、日本音響学会講演論文集 pp.1123-1126 (2008/03)

おすすめの記事

業務紹介