オーディオテクニカ・アストロスタジオ

工事部 後藤 宏明
技術部 福満 英章

1. はじめに

東京都文京区湯島1丁目、その昔湯島聖堂の敷地であった一角に株式会社オーディオテクニカのインテリジェントビル「テクニカハウス」は2001年10月に新築されました。 マイクロフォンを中心としてプロオーディオの世界を切り開く音響機器メーカーとして電気の街・秋葉原、楽器の街・御茶ノ水から5分圏内という絶好のロケーションに位置しています。 そして未来への革新を続け、新しい製品を生み出す拠点として、研究開発型スタジオ「アストロスタジオ」はそれから一月後、テクニカハウスの1F~2Fの吹き抜け空間に誕生しました。

ビル外観
写真-1 ビル外観

一般のレコーディングスタジオとは異なり、オーディオ専門メーカーが将来への夢を託した新しいコンセプトのスタジオであり、 いろいろなアイデアが盛り込まれた興味深いスタジオが完成しましたので御紹介したいと思います。

当社はこのプロジェクトの中で、その夢の実現に向けてスタジオの設計・施工の両面から御手伝いさせて頂きました。

2. どんなスタジオなのか!

この空間の使い方に関しては社内でもいろいろな可能性が検討され、次第に研究開発スタジオとしての位置付けが明確になっていきました。 そして、以下に示すような色々な用途に対応できるテクニカハウスにふさわしい機器設備の導入と多機能なスタジオ計画が進められました。
スタジオ平面図を図1に示します。

  • スタジオ写真A
  • スタジオ写真B
  • 写真-2 スタジオ写真A
  • 写真-3 スタジオ写真B

平面図
図-1 平面図

調整室
写真-4 調整室

  1. 各種マイクロフォンの録音テスト、実験、デモンストレーション、音源製作
  2. オーディオアクセサリー等の製品開発実験
  3. サポートミュージシャンのリハーサル、レコーディング(ステレオ、5.1ch)
  4. イベントスペースとしての使用
  5. 200インチスクリーン・ビデオシアター
  6. 製品発表会、プレゼンテーション
  7. 技術研修、その他研究開発

この目的のため、最終的に導入された主要機材を以下に示します。
なお、通線ケーブルは全てaudio-technica PC-OCCハイブリッドケーブルが使用されています。

[ミキシングコンソール] AMEK media5.1/60ch
[アーカイブ] TASCAM DA98HR 32ch、DIGIDESIGN PROTOOLS 24ch (24bit, 96kHz)
[スピーカ] STEREO LARGE GENELEC 1038AM 5.1ch GENELEC 1031A×5、1094AD
[スタジオ映像機材] BARCO SLMG5プロジェクションシステム、200インチ電動スクリーン
[その他] イベント用特電50kVAを準備

建築音響的には、レコーディングスタジオとしての収録音場と、 イベントスペースとしての再生音場をひとつの空間でどのように機能させて両立させるかという点が大きなテーマでした。
また、マイクロホンの可能性を引き出す実験スタジオとして、レコーディングの発想やマイクアレンジの自由度が高い音場計画を行うこともキーポイントでした。

3. スタジオの目玉

スタジオコンセプトの実現のために音場可変機構を採用することはごく自然な発想でした。
スタジオの基本的な室形状は再生空間として使いやすい直方体としていますが、 より有効に音場可変効果が得られるようにその3壁面の下側部分を使って音場可変機構を盛り込み、 さらに壁面全体を音響的な拡散性を意図した音場計画を行っています。

  1. 音場可変機構

    スタジオ壁3面に合計30枚の反射・拡散の回転パネルを設置しました。
    パネル仕様:片面は三角リブの拡散面、片面はフラットな反射面、回転角度15度ピッチ、 パネル背後:クロス仕上げ(内部はサウンドトラップによる吸音処理)。 さらに、側壁2面の上部に吸音カーテンを設置しました。

    • 回転パネルの機構
      図-2 回転パネルの機構
    • 音場可変回転パネル
      写真-5 音場可変回転パネル
  2. 拡散壁

    調整室側の躯体形状を変更し、曲面の大型拡散壁として低音域からの拡散を狙いました。 また、側壁2面の上部壁を屏風型形状の拡散壁とするとともに、表面仕上げとして高音域拡散用の三角リブを縦横に配置しました。

  3. 低域吸音体

    吸音壁の内部に63Hz帯域用、100Hz帯域用の低域用箱型吸音体(通称LSAB)を仕込んで低音域の吸音を試みました。

    低域吸音体1個あたりの吸音力
    図-3 低域吸音体1個あたりの吸音力

  4. 低騒音ブース

    空調運転時でも可聴限界以下の静けさをもつブースを併設しています。

  5. グリッドパイプ天井

    多目的な用途に対応できるようにグリッドパイプ天井を構成しています。 グリッド高さは5300mmで、グリッド上部は化粧サウンドトラップによる吸音と中央付近に浮遮音天井を利用して非対称形の大型拡散体を設置しています。

  6. 2F応接室

    調整室上部にスタジオを見下ろせるVIPルームを配置しています。

  7. 大型の外部窓

    ガラスブロックからの採光により時間の変化が感じられる2700mm角の大型窓を採用しています。

  8. その他

    調整室にはスピーカの傾きが調整可能なオリジナル・ラージスピーカ台を採用してスピーカの実験にも対応できるようにしています。 また、スタジオには楽器のアイソレーション用に覗き窓付き可動衝立て(1800mmW×2000mmH)を3台常備しています。

4. 音響特性

スタジオの代表的な音響特性を以下に示します。

まずスタジオの静けさですが、空調運転時、スタジオ、ブース共に目標値であったNC-15を下回る理想的な静けさが得られています。
スタジオの室内音場については、設計当初、音場可変機構による反射性の状態で0.55秒前後、 また吸音性の状態で0.40秒前後の残響時間を想定しており0.2秒程度の可変幅を期待していました。測定結果によれば、 125Hz以上の帯域で比較的フラットな周波数特性でほぼ予定通りの残響時間が得られています。 また、可変幅についても中音域でおよそ0.15秒、高音域でおよそ0.20秒であり、周波数特性上もなだらかな可変効果が得られています。
なお、回転パネルのエリア内では、パネルの回転角度を変化させていくと、 響きの豊かさや明瞭性だけでなく音の太さや質感が変化していくことが聴感的に良くわかります。

スタジオの暗騒音レベル
図-4 スタジオの暗騒音レベル

ブースの暗騒音レベル
図-5 ブースの暗騒音レベル

スタジオの残響時間
図-6 スタジオの残響時間

調整室の残響時間
図-7 調整室の残響時間

[条件1] 完全反射性(回転パネル:全閉/0度、カーテン:全閉) [音源:12面体スピーカ]

  • インパルス応答(0~250[ms])
    インパルス応答(0~250[ms])
  • インパルス応答(0~80[ms])
    インパルス応答(0~80[ms])

[条件7] 完全吸音性(回転パネル:全開/90度、カーテン:全開) [音源:12面体スピーカ]

インパルス応答(0~250[ms])
インパルス応答(0~250[ms])
インパルス応答(0~80[ms])
インパルス応答(0~80[ms])
[赤:完全反射性、黒:完全吸音性] [赤:完全反射性、黒:完全吸音性]
音圧レベルの周波数特性比較(FFT)
音圧レベルの周波数特性比較(FFT)
音圧レベルの周波数特性比較(1/3Oct.)
音圧レベルの周波数特性比較(1/3Oct.)
図-8 音場可変機構によるスタジオの音場特性比較
(12面体スピーカ位置、マイク位置はスタジオ平面図に示す。H=1.5m)
  • 完全反射性(回転パネル:全閉/0度、カーテン:全閉)
    [条件1] 完全反射性(回転パネル:全閉/0度、カーテン:全閉) <正面側>
  • 完全吸音性(回転パネル:全開/90度、カーテン:全開)
    [条件7] 完全吸音性(回転パネル:全開/90度、カーテン:全開) <正面側>
  • 完全反射性(回転パネル:全閉/0度、カーテン:全閉)
    [条件1] 完全反射性(回転パネル:全閉/0度、カーテン:全閉) <調整室側>
  • 完全吸音性(回転パネル:全開/90度、カーテン:全開)
    [条件7] 完全吸音性(回転パネル:全開/90度、カーテン:全開) <調整室側>
  • 図-6 測定条件:完全反射性
  • 図-7 測定条件:完全吸音性

5. おわりに

最後に、この場を借りてスタジオの音響設計を監修頂いた(株)竹中工務店技術研究所中島立視様始め、 このプロジェクトの完成まで御世話になった皆様に心より感謝したいと思います。

[テクニカハウス・アストロスタジオプロジェクト]

(株)オーディオテクニカ 水野政夫様
サウンド・プロデュース・タスク 町山俊宏様
(株)竹中工務店 音響設計監修 中島立視様、建築設計 山縣洋様、設備設計 斎藤賢一様
建築工事 菅原文明様、設備工事 西出和弘様
(有)エムユウサウンドシステム 弱電設計施工 山口浩明様