タムコスタジオ

工事部 酒井 基行
技術部 青木 雅彦

1. はじめに

株式会社タムコは、古くから放送局関係の制作、中継、編集等の業務に携わられ、特に、海外有名ミュージシャンの日本公演のライブレコーディングを行うタムコバスは広く知られており、多くの優秀なライブアルバムが生まれています。1980年の事務所移転に伴い、リズム録り、ボーカルダビングのできるレコーディングスタジオを新設し、業務を開始されました。当時コントロールルームの音場は、スピーカ面をライブに、後壁をデッドにする方式が主流でしたが、鋭い定位、後部の豊かな音場を得るため、スピーカ面をデッド、後壁をライブにして注目を集めました。
今回、従来の事務所、MAルームのあった部分を全面改修し、3つのスタジオと集中マシンルームを当社の設計・施工により新設されましたので、紹介させていただきます。

2. スタジオの構成

設計コンセプトは、次のとおりとしました。

  1. クライアントの高度で多様なニーズに答えるため、1つの部屋であらゆる作業ができるというのではなく、部屋ごとに使用目的を明確にし、個性を持たせたものとする。
  2. できる限り高く、広いスペースを確保する。
  3. 集中マシンルームを設け、どの部屋からでも機器コントロール可能とする。
  4. 各スタジオに独立した、ゆったりくつろげるロビーを設ける。

図-1  スタジオレイアウト図-1 スタジオレイアウト

レイアウトは、集中マシンルームをコアにしてその周囲に従来のAスタジオを含めて、B、C、Dの4つのスタジオを配置し、各スタジオから必要な機種を選択してコントロール出来るようになっています。
MTRを集中マシンルームに設置することにより、機能面を向上させただけでなく、その分コントロールルームを広く活用できるようにしました。さらに、暗騒音の低滅にもなり、快適な作業空間を作り出しています。それぞれのスタジオには、十分なスペースを持った独立したロビーを設け、家庭のリビングルームのような居心地の良さを生み出しています。(図-1参照)従来のAスタジオは、レコーディング、TDを主として使用されています。BスタジオはNEVEのコンソール、VR-72+フライングフェーダーを採用し、音質を最優先したTD、打ち込みを主とするスタジオとしています。十分な広さ、高さを持った部屋で、長時間の作業でも疲れないスペースを確保、居住性を重視した設計となっています。Cスタジオでは、SSL、SL-4048G、アルティメーションを導入しMA業務の操作性に重点を置いていますが、レコーディングスタジオ同等の音質が確保されており、TD、打ち込みにも使用可能です。Dスタジオでは、現在は、MA室として使用していますが、近い将来、テープレスレコーディングシステムを導入する予定です。各コントロールルームは、可能な限り広いスペースを取り、天井高も十分な高さを確保するために様々な工夫を凝らしています。従来のAスタジオ新設時は、空調機機種の選択の範囲が狭く、大型の床置き型水冷パッケージを使用せざるを得ず、その大きな騒音を低減するために、巨大なサイレンサーを天井内に設置し、数箇所に消音エルボを入れてダクトを蛇行させ、さらにダクトをモルタルラギングしてダクト間のクロストークをなくすといった工法を取っていたため、ダクトスペースが大きくなり、天上高が確保できませんでした。(スタジオh:2.7m、コントロールルームh:2.60m)12年経った現在では、空調機騒音の非常に低い隠蔽薄型の空冷パッケージが開発されており、Aスタジオで使用したパッケージの騒音レベル65dB(A)に対し、B、Cスタジオで採用した機種では、38dB(A)の低騒音を実現しています。
さらに加工しやすいグラスダクトの出現、施工技術の進歩により天井内のダクトの小型化エルボダクトの省略が可能となり、B、Cスタジオコントロールルームで3.1m、ボーカルブースで3.4mの高さが確保できています。
音響設計上で一番問題になったのは、広いスペースを確保するために、良好な音響性能を維持しつつ、できるだけ吸音層を薄くすることでした。そのため、浮遮音層の石膏ボードのダビングを兼ねて、吸音ブロックを使用しています。限られたスペースの中で、少しでも拡散性を得るために凸形状にとりつけ、吸音材とのバランスを考慮しながらチューニングを行い、側壁で150mmの薄さにもかかわらず、低域から高域まで非常にクリアーな音場と、余裕のあるスペースを確保しています。

3. 音響性能

今回の音響性能チェックに当たっては、初めての試みとして通常の測定(遮音、残響、暗騒音、振動)の他に、ダミーヘッドマイクロフォンを用いて、工事中から施工時にかけてのスタジオの音場の変化の測定を実施しました。この測定は、施工の経過により変化してゆく音場のデータを得て、音響的な施工管理や、設計にフィードバックしようという試みで、ダミーヘッドを用いたのは、物理量と主観量の両面から音場の変化を正確に把握するためです。測定にあたっては、音場の物理特性を得るためのシステム応答(インパルスレスポンス)の測定と主観量を記録するための音楽ソフトの録音を行いました。

図-2  測定機器ブロックダイヤグラム図-2 測定機器ブロックダイヤグラム

測定システムとしては、M系列ノイズを音源とし、高速アダマール変換を用いた相互相関法によりシステム応答を求め、

  1. 遮音層、吸音層工事完了時、床、壁仕上げ前
  2. 仕上げ終了後のコンソール搬入直前
  3. コンソール設置後

の以上3回のデータを比較しました。
また、毎回同一ソフト(CD音源)を再生してダミーヘッドマイクで録音したDATテープは、OSSシステムにより、各測定時の音場の印象をリアルに再現しています。測定結果については、現在整理と検討を行っている途中ですが、仕上げ工事前のトータルの印象は変わっていないものの、仕上げのクロス、コンソールによる影響等、微妙な変化があるのが良く分かります。今回の測定では、モニタースピーカー(Bスタジオ:赤坂工芸PHG-7000,Cスタジオ:同PHG-5000)の事前チューニングとエージングに時間をかけたために、遮音層工事終了にマウントができず、持ち込みの計測用スピーカ(JBL-4425)の再生によるダミーヘッド録音でしたが、次回は実際にマウントされるスピーカを使用しての測定を予定しています。
今回のタムコスタジオの設計、施工に当たっては、プロジェクトリーダーだけでなく、実際に使用することになる各担当者とのディスカッションを十分に行い、作業を進めることができました。
また、ワイアリングの時には、メーカー任せではなく、各担当者はもとより、4月に入社したばかりの新入社員も慣れない手つきで半田ゴテを握り、先輩社員が傍らでそれをチェックし、時には役員の方までが現場で陣頭指揮を取ることも何度かありました。担当者全員が、自分達自身のスタジオを自分達自身の手で造り上げるんだという強い情熱が直に伝わり、我々もその高いボルテージの中で、メンバーの一員としてお手伝いをさせていただいて、無事オープンの日を迎えることができ、感激もひとしおでした。

1.壁・床仕上前2.コンソール搬入直前3.コンソール設置後
S P: L ch
DHM: L ch
グラフ グラフ グラフ
S P: L ch
DHM: R ch
グラフ グラフ グラフ
S P: R ch
DHM: R ch
グラフ グラフ グラフ
S P: R ch
DHM: L ch
グラフ グラフ グラフ
図-3 ミキサー位置での周波数特性の変化

01std2-15.jpgタムコスタジオ