技術部 奥田 庸雄

1. はじめに

国際及び国内的な航空需要の増大により、航空及び空港整備が進められ、国の「第6次空港整備五箇年計画」においても、 成田2期、羽田沖合展開、関西国際空港の3大プロジェクトが引き続き推進されるほか、地方空港の整備も積極的に行われることとなっています。

これらの空港整備は、単に空港の設置にとどまらず、臨空工業団地、流通基地などの新しい都市の形成といった地域開発を含むものとなっており、 交通利便性の向上のみならず、地域の活性化を目指すものです。しかし、反面、空港の設置、拡大について、 空港周辺での航空機騒音問題を始めとする環境影響を懸念する声があることも事実です。

航空機騒音対策については、昭和42年に制定された「公共用飛行場周辺における航空機騒音による障害の防止等に関する法律」、 また、昭和48年に告示された「航空機騒音に係る環境基準」等に基づき、発生源対策、空港構造の改善、 空港周辺対策を柱とする総合的な環境対策が推進されており、過去、一部既設空港で見られた深刻な状況は脱したと言えるでしょう。

今後、新設あるいは拡充を予定されている空港については、騒音影響を低減させるために、設置場所をはじめ、 十分な事前の検討がなされているものの、環境影響は皆無ではなく、さらなる対策を推進するためにも、環境影響の監視は必要となります。 また、空港の健全な発展には、周辺住民の理解と協力が不可欠であることから、永続的な調査と結果の公表についても配慮する必要があると考えられます。

ここでは、既設、新設の空港・飛行場での騒音監視業務に役立てていただけるよう、 当社の「航空機騒音自動監視システムDL-1420」について、開発の経緯、基本的な機能、今後の展開等を紹介します。

2. 開発の経緯

当社における航空機騒音調査との関わりは、防音材料試験、防音対策工事の性能確認をはじめ、各種の公害騒音振動調査の経験を重ね、 昭和50年代の後半から、航空機騒音の実態調査を地方自治体からの委託を受けて実施したことに始まります。

航空機騒音の環境基準に関する評価は、昭和48年に環境庁より告示された「WECPNL」を単位とする値で行うため、

ア 各測定地点での航空機1機ごとの騒音ピークレベル

イ 騒音ピークレベルを示した時刻

を正確に把握する必要があり、当時の騒音計及びレベルレコーダーを基本とする測定機器では、航空機騒音と他の騒音を識別、 時刻のチェックを行うためには、調査員が測定地点に常駐せざるを得ず、また、連続7日間のデータ整理にも、多くの人手と経費を必要としました。

当時、数社の騒音計メーカーから航空機騒音自動測定機が出されていましたが、 航空機と判断したピークレベルと発生時刻をプリンター印字し、そのデータに基づいて1日ごとのWECPNLを印字するものであったため、 航空機騒音だけを集計するためには、レベルレコーダーと同様の手間を必要としました。

(1) DL-1420の開発

航空機騒音の最大の特徴は、広範囲にわたる音源が空間を移動していくことにあり、当時、複数の無人測定地点での識別は、 各地点でのピークレベル時刻が系統的に変化(移動)していくものをピックアップする方法で行っていました。 実際、レベルレコーダーのチャートやプリンター印字用紙をずらりと並べ、一つ一つ拾い上げる時間と根気の必要な作業でした。

そこで、自動測定の精度向上とデータの的確かつ迅速な集計処理を目的として、 既存の測定機器にない機能を持つ航空機騒音監視システムの開発に着手しました。

開発は、

ア 測定データをコンピュータ処理できるようファイル化すること。

イ 安定した測定が可能であること。

ウ データ処理に当たっては、生データから報告書の作成が一貫して行えること。

を基本として、昭和60年に基本型が完成しました。

図-1 DLシリーズ図-1 DLシリーズ

(2) DL-1420の発展

DL-1420基本型は、データをフロッピーディスクに納め、一定期間(例えば1ケ月)ごとに回収し、 データ集計を行うといった「オフライン」型であることから、即時のデータ収集、作動状況の確認が行えるよう、 一般公衆電話回線を利用したモデム機能を追加した「オンライン」型として、

  1. DL-1420T(昭和62年開発)を開発するとともに、DLシリーズとして、下記の機種を発展型として開発しました。
  2. DL-1420R(航空機騒音識別装置を追加、昭和62年開発)
  3. DL-1420C(飛行高度コース測定局、昭和62年開発)
  4. DL-80/PT(ポータブルタイプの移動測定局、昭和63年開発)
  5. DL-PP101(光学測量を利用した飛行高度コース測定システム、平成元年開発)

また、データ処理システムについても、オフラインもしくはオンライン、測定局数、飛行高度コース測定の有無等により、 処理能力に合わせ、パーソナルコンピュータ(PC98シリーズ)からエンジニアリングワークステーション (EWS、HP9000シリーズ等)までのホストコンピュータに処理ソフトを提供しています。

なお、DL-1420基本型を、昭和60年度、新東京国際空港に係る航空機騒音固定測定局として、 千葉県環境部に6台納入したのを最初に、その後の改良、開発を進め、平成4年10月現在、 新東京国際空港周辺(千葉県、茨城県、成田市、芝山町、松尾町)に飛行高度コース測定局を含め51ヵ所の固定測定局、 東京国際空港等のその他空港・飛行場周辺(千葉県、茨城県、木更津市)に5ヵ所の固定測定局、その他19台の移動測定局を納入しており、 それぞれ長期間にわたり安定的に稼動し、定常的な航空機騒音監視を実施しています。

図-2 新東京国際空港周辺の航空機騒音常時監視地点図-2 新東京国際空港周辺の航空機騒音常時監視地点

3. 航空機騒音自動監視システムの機能

(1) DLシリーズ(騒音測定システム)

DL-1420は、構成の容易さ、保守管理の容易さ、システムの発展性、価格の安さ等の理由から、 パーソナルコンピュータなどの汎用の機器を中心に、以下のとおり構成されています。

ア 騒音計(DC出力のある機種であれば接続可能です。)

イ 処理コンピュータ(PC98シリーズ、A/D変換ボード、ROM・RAMボード、フロッピーディスク等を含みます。)

ウ 無停電電源(接続機器により異なりますが、2~3時間の停電に対処可能です。)

エ ラックマウント

オ その他の測定機器(オプションで、低周波騒音計、風向・風速・温湿度計などの気象観測機器が接続可能です。)

図-3 DL-1420の基本構成図-3 DL-1420の基本構成

測定システムに含まれる基本的なソフト機能としては、下記のものが用意されています。

ア 航空機騒音の識別

航空機騒音の識別は、設定が容易であり安定した測定が見込める点から、 任意の設定騒音レベル(しきい値)を一定時間以上継続したものを航空機騒音とする方法を取っています。 各測定局の設定値(しきい値、継続時間)は、空港との位置関係や飛行コースから任意に設定できます。

イ データの収納

航空機と識別された騒音は、1機ごとに、ピークレベル(dB(A))ピーク時刻(時分秒)、 しきい値を超過した時間(継続時間)を、RAMメモリー、フロッピーディスク及びプリンターにそれぞれ記録され、 データは二重、三重に保護されます。

ウ メンテナンス機能

各構成機器の稼動状況を監視するほか、システム内部温度の監視及び冷却ファンの自動作動、 AC、DC電源の監視等を行い、その状況を記録します。

1. DL-1420T

基本システムにモデムを追加し、通信機能を持たせオンライン監視が可能となるタイプです。 測定データは、公衆電話回線を利用し、リアルタイムに収集することも可能ですが、通信コストを抑えるため、 1日ごとのデータをまとめて一括送信することもできます。

また、データ処理局で各測定局での稼動状況を随時モニターすることや、測定局の設定値を変更することができ、 さらに、各測定局のメンテナンス情報を通信するほか、故障時には、データ処理局及びメンテンナス拠点にヘルプコールを自動送信することも可能です。

2. DL-1420R

基本システムに別途の航空機騒音識別装置を追加したタイプです。

識別装置は、騒音情報と航空機が発生する電波の電界強度等の情報を複合して解析するもので、 騒音だけの識別より正確な識別ができ、新東京国際空港周辺での実績では98%以上の識別が可能となっています。

3. DL-1420C

飛行高度コース測定は、飛行コース付近の2地点において、 航空機が通過する時の騒音の到来方向を互いに合成することで行います。

騒音の到来方向は、図-4のブロックダイヤグラムに示すとおり、X・Y・Z各軸の音響インテンシティを求めることにより得られ、 さらに、音響ベクトルから、騒音が上空を移動するものか又は地上を移動するものかを判断し、騒音識別の精度を向上させることにより、 夜間、雨天等の視界不良時にも安定して飛行高度コースが把握できます。

4. DL-80/PT

任意の地点における短期間の測定を行えるよう、DL-1420の機能をそのままポータブルタイプとした機種です。

測定のプログラムは、ROMカードにより提供されますから、プログラムを変更することにより、航空機騒音のほか、 自動車交通騒音、環境騒音等の用途にも使用できます。

5. DL-PP101

短期間の人手による飛行高度コース測定に使用します。2地点の光学測量データをコンピュータに取り込み、 突き合わせを行い、飛行コースを立体的に把握します。なお、本誌の「測定・計測 飛行機の高度コース測定」にその詳細を報告しています。

図-4 高度コース測定システムの基本構成

図-4 高度コース測定システムの基本構成

(2) データ集計システム(中央処理局)

複数の測定局で収録されたデータには、航空機以外の騒音が含まれていることがあるため、 各測定局のWECPNLを算出する際、航空機によるものだけを抽出する必要があるため、データ処理システムでは、下記の手順で処理を実施しています。

ア 1次ファイル

各測定局の位置関係及びピーク時刻のデータを時間軸上で比較、照合して航空機によるものか否かを判断し、 かつ飛行方向(離着陸の別)を識別します。

イ 2次ファイル(確定ファイル)

高度コース測定、航空機騒音識別データが存在する場合には、さらに精度高い比較、照合がなされ、確定データが作成されます。

ウ 3次ファイル

さらに、航空管制情報等による飛行実績データ(便名、航空機種等)の提供を受けれるならば、 1機ごとの騒音、飛行高度コースのファイルが可能となります。

集計作業は、2次、3次ファイルにより、各測定局ごとのWECPNL、平均パワーレベル等の日報、 週報、月報、年報が得られるほか、騒音コンターの作成、飛行高度コース分布等が任意に得ることができます。 また、3次ファイルのもとに、航空機種別、会社別、行先別等と騒音データ、高度コースデータとの相関分析が可能となります。

また、データ処理のホストコンピュータは、基本的に分散処理コンピュータシステムであることから、 オンラインシステムであっても、集計作業等のバッチ処理は随時可能ですし、将来の測定局増設に際しても、 増設分に見合うだけのシステムを追加するだけで、大幅なシステムの改造は必要となりません。 さらに、処理局以外に設置されたデータ表示パネルに出力したり、データ公開のための表示機器(ディスプレイ等) に任意の測定結果を出力するビジュアル・インフォメーション機能を持たせることも可能です。

4. 今後の展開

この航空機騒音自動監視システムの開発の目的である測定精度の向上と集計処理の迅速化等については、 これまでの実績からも十分満足できるものであると言えます。このシステムの最大の特徴である機器構成の自由度の高さ(発展性の高さ)から、 種々の測定機能を追加することが可能であり、具体的には、

ア 音色分析による飛行機種判別

イ 測定データの実音記録

ウ ポータブルタイプの高機能化

などの開発に着手しています。

さらに、航空機騒音のみならず、自動車交通騒音、環境騒音は当然のこと、 大気質や水質などの環境データを一括処理することを考えています。

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