森の中は、無数の木々が奥深くまで連なっています。森の中で発せられた音は、手前の木々の幹で散乱されるもの、木々の間を通過し少し奥の幹で散乱されるもの、さらには木々の間で乱反射を繰り返しながら奥深くまで進んでから戻ってくるものなど、複雑な散乱が繰り返されることで中高域の音は緻密な響きとなって返ってくると考えられます。一方、低域の音は、木々の幹の大きさに比べて波長が長いため散乱の影響は小さく、こもることなく抜けていきます。
このような森林によって生み出される残響の他に、森林の中を伝搬する音は、オープンな屋外や壁に囲まれた屋内とは違う、特殊な振る舞いをすると考えられています。森林の存在による騒音低減効果や、森林内の地面と木々による吸音効果などがあり、こうした森林の音環境について古くから様々な研究者によってそれらの解明が試みられ、数多くの研究成果が発表されています。(弊社技術ニュース27号をご参照ください)
私たちも、こうした森の不思議な音環境に魅力を感じ、森の木々に模した拡散機構によって音波が特殊な振る舞いをすることに着目した研究を行っています。また,人は誰でも森の中にいると不思議な居心地の良さを感じることと思います。私たちはこうした森の音響メカニズムと居心地の良さとの結びつきを探るところからAGSを開発しました。
従来の、特にコンサートホールのような大空間ではない狭い部屋における音響設計手法では、反射面と吸音面の組合せになりがちなため反射音に不自然で特異な特性が生じます。また,小さい部屋で大音量を発すると音響エネルギーが飽和し,音が歪み抜けの悪い音場となります。このような音響障害を回避し,森の中のような理想的な音響空間を実現するための機構としてAGSを考案しました。
AGSがもたらす音響効果は大きく3つあります。
1. 低域の"部屋鳴り"の抑制
2. 中高域の緻密な響きの実現
3. 部屋の用途に応じた吸音特性のコントロール
これら効果により、「明確な音像定位」と「心地よい響きと音の拡がり」が両立し、低音の抜けの良さと癖のないナチュラルな響きをもたらす、従来にない斬新な音空間を実現可能にしました。