株式会社 音響ハウス
水野 幸生

1 はじめに

20数年前、環状線を境に内側と外側のレンタルスタジオの数を比べると外側は数が少なく、ほとんどが環状線の内側にありました。つまり、環状線の内側に作るのが通説になっており、まして、東京は花の銀座にレンタルスタジオを作るなど、批判的な声が数多く聞かれました。そのような渦の中で昭和49年12月10日に音楽録音からフィルム録音までを業とする総合スタジオとして産声を上げた音響ハウスもお陰さまをもちまして、平成6年12月10日に創業20周年を迎えることができました。
数年前からの懸案であった音響ハウスのメインである第一スタジオの大改修を20周年の記念事業の一環として平成6年11月に踏み切り、そして5ヶ月間の長い工事期間を経て平成7年3月20日に新装オープン致しました。
振り返りますと、その間に昭和54年に映像ビルを設け、ポストプロダクション業務に進出したのを始め、各 オーディオスタジオの改修を重ねながら現在に至りました。

図-1  第一スタジオレイアウト
図-1 第一スタジオレイアウト

2 コンセプト

これからの音楽スタジオはどうあるべきか?デザインは営業サイドから、機器、音響においては技術サイドから若い感覚を重視し、内外のスタッフ、アーチストとの意見交換をすると同時に、国内外のスタジオの事例を種々参考にしながら検討に入り、限られたスペースを如何に有効利用できるかを主体に、あらゆる角度からレイアウトを検討し、音響的見地からは空気感、音の伝わる環境を如何に良くできるかをコンセプトにして、アコースティックサウンドをナチュラルに表現できる場として考えてみました。(図-1)

写真-1 スタジオフロアー(左がコントロールルーム、右が各ブース)
写真-1 スタジオフロアー(左がコントロールルーム、右が各ブース)

3 スタジオフロアー

音楽業界の多様化する流れの中で、様々なジャンルの音楽が創作され世に送り出されています。そのような状況の中でフロアー設計においてはあらゆるユーザーの意図するセッティングが充足、対応できるよう、また、いかなるポジションにおいても優れた音響特性が得られ、そして残響特性も低域から高域まで0.4sec前後で設定され周波数的にもフラットな特性になるように考慮しました。

写真-2  ブースとの貫通孔を設ける
写真-2 ブースとの貫通孔を設ける

図-2  スタジオ構成図
図-2 スタジオ構成図

また、同時セッションに対応するため、完全にセパレーションした高い遮音特性のブースを5室設置しました。
ブースにはEB、EGなどのアンプの音箱として使用できるように貫通孔を設け、あらゆるセッションの利用に応えられるようにしました。(写真-2)
また、ピアノについても複数のミュージシャンの意見を参考にして、社内スタッフが検討した結果、スタインウェイ・ハンブルグ・フルコンサートモデルDを採用し
ました。(写真-3)

写真-3 スタインウェイ・ハンブルグ・フルコンサートモデルD
写真-3 スタインウェイ・ハンブルグ・フルコンサートモデルD

4 コントロールルーム(図-2、写真-4)

かねてからのユーザーの要望を取り入れ、コントロールルームは可能な限り広くとり、電子楽器などの録音における作業効率が高まりました。
そして、ブースと同様に貫通孔を設けコンソールにダイレクトインができるようにしました。

写真-4 コントロールルーム
写真-4 コントロールルーム

音響機器のデジタル化の進む中でコンソールは『アナログ?、デジタル?』と試行錯誤の中で思慮した結果、音響ハウスはアナログとデジタルの使い分け、作業効率などを念頭におき、世界初のSSL-Jシリーズ、SL-9064J-64VUの1号機を選択しました。
このコンソールの特長は、まずDCサーボ回路、全てバランスミックスバス回路採用により低域特性向上、ノイズの低減等音質の向上が計られています。

また、GROUP OUTが48マルチトラックバス、4つのステレオミックスバス、1つのメインステレオバス、そして6つのAUXセンドと1つのステレオCUEバスに分かれる8つのAUXバスがあります。
マイク入力についてはHIGH-Zスイッチが設けられHIインピーダンスに切り替えることにより、EB、EGなどマイク入力に直接つなぐことができます。
ダイナミックスは特性の変更ができ、EQについては『Eシリーズ』『Gシリーズ』の選択が可能です。
オートメーションについてはラージフェーダーレベルとラージフェーダーカットに加えてスモールフェーダーレベル、スモールフェーダーカット、EQイン/アウト、インサートイン/アウト、AUXオン/オフスイッチがオートメーション化されました。
このように設計については各国のプロデューサー、エンジニアの意見が数多く取り入れられ、クオリティーの面でも操作性の面でも格段に向上しており、この新しいスタジオのアコースティックサウンドを余すところなく、レコーダーに送り出してくれると確信しております。

また、オートメーションも今まで以上に処理能力がスピードアップしましたので、完成度の高いコンピュー・ミックスが可能となっています。
さらにレコーディングにエンジニアの自由な感覚、グレードの高い思考を十分取り入れられるようにディスクリートHAのSHEP1073を8chを導入しております。(写真-5)

モニタースピーカーも種々検討の結果、ユニットのばらつきが少なく、透明感があり、それでいてパワフルなdynaaudio acoustics M4カスタムを採用しました。(写真-6)

写真-5 ディスクリート HA SHEP1073(8ch)
写真-5 ディスクリート HA SHEP1073(8ch)

写真-6 モニタースピーカ(dynaaudio acoustics M4 カスタム)
写真-6 モニタースピーカ(dynaaudio acoustics M4 カスタム)

録音機に関してはユーザーが自由に選択できるように、アナログ、デジタル共に準備し、あらゆる録音に対処できることを目途に、世界に先駆けて、ハードディスクレコーダーSSL『DiskTrack』を導入しました。録音と再生が同じトラック上で同時にでき、パンチイン/アウト、オーバーダブが容易にできます。
また、セッションを行いながらバックアップがとれると言う特長を兼ね備えています。

5 映像と同期

映像との同期については、今まで通りシステムを完備し、CM、LIVE VIDEOなどのレコーディングに対応できるようにしました。

6 ラウンジ(写真-8)

エントランスホールから吹き抜けた空間は、リゾート感覚にあふれるアットホームな居住性を備えたラウンジになっています。レコーディング時のミーティングに、疲労回復のブレスに、クリエイティブな思考の場としてご利用いただけるよう設けました。

写真-8 ラウンジ
写真-8 ラウンジ

7 おわりに

音楽業界はいま大きな変革期にさしかかっております。音響ハウスはこのような業界の動き、傾向を的確にキャッチし、アタックして行く所存です。
〈Simple is Best〉をテーマに創り上げた第一スタジオは、必ずやユーザーの皆様にご満足頂ける音場を提供できると信じています。
また、オープン以来1年半が過ぎ、ご使用頂いた皆様から様々な意見を頂戴しております。音響ハウスは皆様から頂いた意見を1つ、1つ採り上げ、今後のスタジオ運営に活かしていく所存でおります。

最後に弊社は創業以来、日本音響エンジニアリング株式会社の皆様と長いお付き合いをさせて頂いております。今回も優れた技術力のご提供を頂いて、完成度の高いスタジオに仕上がったと思っております。
ここに紙面をお借りしまして御礼申し上げます。

第一スタジオの主な機材
MIXING CONSOLE SSL SL 9064J-64VU
J-Computer With TOTAL STUDIO SYSYTEM
MULTI RECORDERS SONY PCM-3348,SSL DISKTRACK
STUDER A820M SR/A
MASTER RECORDERS STUDER A820(Half Inch Head Option)
NOISE RUDUCTIONS DOLBY M 363
MONITOR SPEAKERS dynaaudio acoustics M4 CUSTOM
YAMAHA NS-10M STUDIO
MONITOR AMPLIFIERS CHORD SPA-1016DA,1232DA
CROSSOVER BSS FDS-360
SMALL MON.AMPLIFIERS AMCRON DC-150A
REVERBS EMT-140 LEXICON 480
AMS mx-16
SONY DRE-2000
SONY MU-R201
YAMAHA Rev-5
Roland SVR-2000

株式会社 音響ハウス
〒104 東京都中央区銀座1-23-8
音響ビル 電話 03-3564-4181
映像ビル 電話 03-3567-4161
FAX 03-3567-0935