省スペース/低消費電力と利便性の追求

DL事業部 菅谷 茂樹、出納 正三

1. はじめに

航空機騒音自動測定装置とは文字通り、航空機が発する騒音を測定するための機器です。弊社では20年以上に渡り、お客様の要望を形にしたさまざまな測定器を製造・販売してまいりました。24時間365日稼働し続ける常時監視局はもちろん、定期的に調査地点を変更しながら測定を行う移動測定局など、用途に応じたカスタマイズで対応しております。今回はその中のひとつ、省スペース・低消費電力・利便性を追求し新たに開発した、トランクケース型航空機騒音自動測定装置「DL-100/LE」をこの紙面をお借りしてご紹介させていただきます。

写真1 トランクケース型航空機騒音自動測定装置 DL-100/LE
写真1 トランクケース型航空機騒音自動測定装置 DL-100/LE

2. 航空機騒音の測定とは

航空機騒音を測定する目的は、その場所での航空機騒音の影響を評価するためのデータを収集することにあります。測定現場では人が常駐し、航空機かそれ以外の騒音かを判別しつつ、騒音発生状況を逐一記録していきますが、航空機が運航している時間帯、かつ連続7日間、測定員は現場にいなければなりません。さらに複数の地点を同時に実施ともなると、とてつもない人件費がかかります。このように航空機騒音測定にかかる人の手間やコスト・時間は膨大なものであり、いかに省力化するか・・・すなわち「測定の自動化」が欠かせません。

3. 航空機騒音測定装置に求められる機能

航空機騒音測定を自動で行うためには、航空機とそれ以外の騒音を判別し、航空機騒音のみを抽出する作業が必須となります。弊社では、航空機が発する電波によりその接近を検知する「航空機接近検知識別装置 RD-90」および「航空機最接近検知識別装置 RD-100」などの電波式航空機自動識別装置を独自開発しました。この装置と組合せることで、様々な騒音の中から航空機騒音を特定できるようになっています。これにより、 データ集計における手間を大幅に軽減する事ができます。

図1 電波式航空機自動識別装置による航空機騒音の判別
図1 電波式航空機自動識別装置による航空機騒音の判別

弊社の航空機接近検知識別装置は識別率95%という高い識別実績があり、定評をいただいております。しかしそれ以外のところにもお客様のニーズ、いわば" 悩み" がありました。

4. 顧客ニーズとその課題

航空機騒音測定は都道府県・市区町村といった地方自治体で実施されることが多く、弊社DL事業部のお客様の実に9割以上が地方自治体になります。その担当者様のお話をいろいろと伺っていると、ある共通の悩みを抱えられていることがわかりました。

【悩み:その1】 航空機騒音に悩む住民の方々からの要望もあり、様々な地点で測定(=実態の把握)をしなければならない。その為、必ずしもマニュアルどおりの理想的な条件で設置できるわけではない。特に民家の軒先で測定する場合など、占有面積や消費電力が限られるため選定条件はより厳しくなる。

【悩み:その2】 設置する場所は必ずしも利便性の良い場所ではない。学校の校舎屋上まで上がっていかなければならないケースもある。大きく重い機材を担いで駐車場と屋上を往復するのはなかなか骨の折れる作業である。

【悩み:その3】 複数の場所で同時に測定する場合、機材運搬が一つの課題になっている。例えば機材を運搬するために車を用意しなければならないがコンパクトカーなどで積みきれない場合は大きな車を用意するか、事務所と現場を何度も往復しなければいけなくなる。

【悩み:その4】 近年では騒音測定に携わる人員が減少傾向にあり、担当者一人当たりの負担が増加している。その為、測定・集計精度を保ちつつ省力化することがこれまで以上に求められている。

これらは、航空機騒音測定を数多く経験している弊社も共通の悩みとして認識しており、何とか解決できないものかと日々悩んでおりました。逆に言えば、これらを解決していくことでお客様にもより良い測定環境の提供が可能になると考えました。お客様のお話を整理した結果、以下の3点が開発の柱とすべきテーマとして浮かび上がってきました。

  • 低消費電力化
  • ダウンサイジングと軽量化
  • 設置部品点数の削減

一見当たり前の内容ですが、いずれも既存の部品を転用するだけでは実現が難しく、いかにしてこの課題をクリアするかを検討しました。

5. 課題クリアの手法とその効果

(1) 新型電源の開発と省電力部品の選定

航空機騒音測定装置はさまざまな装置やセンサーを備えています。これらに電力を供給するための電源をそのまま小さな筐体に収めてしまうと発熱に排熱が追いつかなくなります。「発熱が多い=電力のロスが大きい」ということなので、電力変換効率が高く低消費電力を追求した専用電源基盤を新たに設計しました。また、全体の消費電力を抑えるよう部品の一つ一つを見直し、より消費電力の小さなものを厳選し構成しました。これにより、通常動作における消費電力は約30Wと、従来機の約66%減を達成しました。さらに、バッテリーの充電や機器の発熱により内部温度が上昇した場合は温度センサーにより内蔵ファンを自動的に作動させ、スムーズな排熱コントロールを行うことで、動作の安定性をより向上させることができました。

(2) 小型軽量かつ堅牢な筐体の部品の選定

小型堅牢なトランクケースを採用し、そのサイズに収まる部品を専用に設計しました。前述の通り、既存部品をそのまま転用して小さな筐体に収めようとしても個々の部品形状が合わないためどうしても筐体を大きくせざるを得ません。そこで消費電力の問題と同様、より小型の部品を新たに選定・開発しました。これにより、寸法は容積比で従来機の約60%減らすことができ、重量は約11kg(約45%減)を達成しました。機器を小さくすることで運搬や設置・撤収にかかるコストと手間を削減でき、利便性が向上しました。

(3) マルチケーブルによる設置労力の低減

DL-100/LEでは複数のセンサー・機器類がスタンドに装備されます。騒音計のマイクロホンをはじめ、航空機接近検知識別装置RD-90のアンテナ、航空機最接近検知識別装置RD-100のセンサー、電波時計のアンテナ・・・計4個の機器が取り付けられます。すなわち、ケーブルを4本用意しなければなりませんが、これら全てのケーブルを1本にまとめた「専用マルチケーブル」を開発しました。これにより測定器本体とセンサースタンド間がたった1本のケーブルで接続することができ、設置・撤収の省力化に大きく貢献することができました。

写真2 マルチケーブルによるセンサー接続のイメージ
写真2 マルチケーブルによるセンサー接続のイメージ

6. おわりに

トランクケース型DL-100/LEは、お客様の声を取り入れたことで、使い勝手の向上だけではなく、環境負荷の低減も実現できました。もちろん、環境省の「新マニュアル」にも準拠しております。さらに地上騒音・かぶり音への対応など、より高度な測定機能が求められる場面でも、音源探査による航空機騒音識別技術や集計システムといった豊富なオプション機能により対応ができるようになっております。また航空機騒音だけでなく、道路交通騒音測定等にも対応可能ですので、測定でお悩みをお持ちの方は、是非ご相談ください。

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