流れ抵抗測定装置

技術部 中川 博

1. はじめに

当社では、これまで各種の音響計測システムを開発・製造し、皆様方の試験研究、 開発研究のお手伝いをさせていただいておりますが、今回、(株)ブリヂストン様のご協力を得て、 新たに「流れ抵抗測定装置」を製作しましたので、ここでご紹介させていただきます。

2. 流れ抵抗(airflow resistance)

「流れ抵抗」と聞いてもピンと来ない方もかなりいらっしゃるとおもいます。 ましてや音響とどのような関係あるのかと思われる方もいらっしゃるかもしれません。

「流れ抵抗」とは、材料固有の特性を表す指標の1つで、材料に空気を流したときの材料中の空気の流れにくさを表すものです。 例えば、網戸に使用している網などは非常に空気は流れやすい(空気を通すための網戸だから当然)ので流れ抵抗は非常に小さく、 コンクリート板などはほとんど空気を通さないのでしたがって流れ抵抗は非常に大きくなります。

ここで流れ抵抗と音響との関係について簡単に述べさせていただきます。 音には大きく空気伝搬音と固体伝搬音とがあります。それぞれ媒質(空気伝搬音の場合には空気、固体伝搬音の場合には固体である何か、 例えば、建物の壁であればRC,ALCなど)が振動することによって音は伝わっていきます。

空気伝搬音に関しては、空気が流れにくいとそれを媒体としている音も伝わりにくくなります。 すなわち流れ抵抗が大きな材料に関しては空気伝搬音は伝わりにくくなることになります。 遮音材料を考える際、空気伝搬音に関しては、空気を通さないすなわち気密性に優れた材料が優れた遮音材料となります。 逆に固体伝搬音に関しては、振動しない材料が優れた遮音材料となりえます。

流れ抵抗の測定原理
図1 流れ抵抗の測定原理

このように、材料中の音(空気伝搬音)の伝搬に非常に関連のある流れ抵抗ですが、 吸音・遮音材料として用いられるものの中でも、グラスウールなどの繊維系の多孔質材料に関しては、 流れ抵抗の測定値から推定した材料の音響特性(インピーダンス)と実測値によい一致が見られるという報告(1)もあり、 かつてはグラスウールの品質管理にも流れ抵抗の測定が利用されていました(2)。 このように流れ抵抗は、多孔性材料の吸音・遮音特性の予測に関して非常に有効な指標となります。

流れ抵抗の測定原理は次の通りです。図1のように被測定試料を取り付けた管内に空気を流します。 この時試料が空気の流れを妨げますので、試料の前後に圧力差が発生します。 その時の空気の流れの速さと圧力差を測定することによって流れ抵抗は求められます。

材料の厚さをd [m]、材料中を流れる空気の流速をv [m/s]、このとき材料前後に発生する差圧を△p [N/m2]とすると、 この材料の流れ抵抗Rf [N・s/m4]は次の式で表せます。

Rf = △p / (v・d)

このときの試料への空気の送り方により、2つの測定方法があります。 1つはコンプレッサやファンなどを用いて定常的に空気を送ったり吸いだしたりする方法です(この方法をわれわれは直流法もしくはDC法と呼んでおります)。 もう1つの方法は、ピストン等を2Hz程度の周波数で駆動して振動する空気の流れを試料に与える方法です(この方法をわれわれは交流法もしくはAC法と呼んでおります)。

DC法では、以前は室内音響に関係するような領域の空気の流速(80dBSPLで約0.05cm/s)の際に発生する差圧を測定することができなかったため、 JIS A 6306にもあったようにそれよりずっと大きな流速での値を何点か測定し、外挿して流れ抵抗を求めるようになっていました(3)

これを解決するためにドレスデン大学のWohleとWeberらによってAC法が開発されました(4)。 この方法ですと、圧力差の測定にコンデンサマイクロホンを使用することができ、所望の流速での非常に小さな圧力差を測定することが可能となりました。 (現在では、非常に小さな差圧を測定できる微差圧計があり、この問題についてはほぼ解決されています。)

3. 測定システム

それでは今回製作しました測定システムの概要を示します(5)

(1) DC法

DC法のシステムは図2のようになります。直流空気を供給する部分、送られてきた空気の流量を調整する部分、 間にサンプルホルダーのついた測定管本体、差圧を読み取る部分、FFTアナライザー、パーソナルコンピュータで構成されています。

図2 DC法測定システム
図2 DC法測定システム
図2 DC法測定システム

測定は次のように行います。まず、コンプレッサから圧縮空気を送り出し、減圧器で適当な圧力に減圧します。 減圧された空気を希望の流量になるように微調整します。微調整された空気は測定管本体に送られ試料を通過します。 通過の際に試料前後に圧力差が発生しますので、これを微差圧計で読み取り、パーソナルコンピュータに転送して流れ抵抗値を求めます。

(2) AC法

AC法のシステムは図3のようになります。測定管、ピストンを駆動するためのACサーボモータの制御部分、 FFTアナライザ、パーソナルコンピュータで構成されています。

AC法ではピストンを0.5Hz~5Hzという周波数で駆動することによって試料に振動する空気を送り出すようになっており、 測定管にはコンデンサマイクロホンと2つのピストンが取り付けられております。 コンデンサマイクロホンはピストンを駆動したときの測定管内の圧力変動を読み取るために使用し、 2つのピストンはそれぞれ測定用、コンデンサマイクロホンの校正用と別々に駆動するようになっています。

図3 AC法測定システム
図3 AC法測定システム
図3 AC法測定システム

測定は次のように行います。まずコンデンサマイクロホンの校正を行うために、測定管に蓋をします。 蓋をすると管が密閉されますので、ここでマイク校正用のピストンを駆動すると管内に圧力変動が生じます。 この圧力変動は、ピストンのストロークと大気圧によって決まる既知の値ですので、マイクロホンの出力がこの既知の値となるように校正します。 校正が完了したら蓋を取り外して試料を取り付けます。測定用のピストンを駆動してこの時管内に発生する圧力変動をマイクロホンで読み取り、 パーソナルコンピュータに転送して流れ抵抗を求めます。

4. 測定例

このシステムを用いた測定の一例を示します。

図4 測定結果例
図4 測定結果例

測定した試料は、ウレタンフォームとグラスウールの2種類です。これらはそれぞれ吸音構造が異なるものとされています。 ウレタンフォームは密度としてはほぼ同程度の製造方法の異なる3種類(図4中(a),(b),(c))、グラスウールは80kg/m3(図4中(d))、 32kg/m3(図4中(e))、24kg/m3(図4中(f))の密度の異なる3種類についてDC法・AC法の両方で測定して重ね書きしたのが結果が図4(6)です。

本システムでは、測定する流速の範囲が、測定方法の相違から一部で重複するもののDC法とAC法で異なっており、 図に示す流速の小さな領域の測定データがAC法で、大きな領域がDC法で測定されたものとなります。 さらにAC法では、ピストンを駆動する周波数を0.5Hz,2Hz,5Hzとした場合の測定結果を示しています。

紙面の都合上測定結果の詳細な考察については控えさせていただきますが、 グラスウールとウレタンフォームでは流れ抵抗の傾向として明らかに違いがあるということがいえます。 これはもちろん音響特性も異なるものになるといえます。なお、この測定データに関する考察および流れ抵抗の測定システムについては、 今夏横浜で開催されるインターノイズで発表させていただく予定となっております。

5. おわりに

DC法の測定システムの製作に際して、論文等でさまざまな機関の使用されているシステムを参考にさせて頂き、 とくに小林理研の方々にはいろいろとアドバイスを頂きました。AC法の測定システムは、参考となるものが前述したWohleとWeberの論文と、 流れ抵抗の測定を規格化しているISO 9053しかなく、 製作して出来上がった装置で実際に試料を測定してみないと正しく測定できるかどうか不安な部分もありましたが、 皆様の協力をいただき完成することができました。この場をお借りして、ご指導及びご協力いただいた皆様方に感謝の意を申し上げます。

また、今後ともこのような測定システムの開発・製作を通じて、 微力ながらも音響特性の優れた材料の開発のお手伝いをできればと思っている次第です。

【参考文献】

1) Y.Miki, J. Acoust. Soc. Jpn. (E) 11,1,19 (1990)
2) JIS A 6306 「グラスウール吸音材」
3) L.Cremer,H.A.Muller&T.J.Schultz, Principles and Applications of Room Acoustics Vol.2 (APPLIED SCIENCE, LONDON and NEW YORK, 1982)
4) W.Wohle, and K.Weber, Hochfrequ. u. Elektroak., 68, 158(1959)
5) 中川、小川他、音響学会講論集(平6,3)p805-806
6) Nakagawa, Ogawa et al, "Measurement of airflow resistance by DC method and AC method " ,Inter- Noize 94 (submitted)