無響室の設計

営業部 中野 徹

1 はじめに

無響室にも"ライブな無響室"と"デッドな無響室"があると言えば、またまた驚かれる方もいらっしゃることでしょう。そうです。同じ20dB(A)の無響室にも静かな無響室と賑やかな無響室があります。

何故でしょう。最初お断りしたように、騒音計で測ればおなじ20dB(A)です。暗騒音のせいではありません。不思議ですね~。
前回の「無響室には顔がある」の話に続き、またまた変な話になってしまいました。
さて、当社に設置した無響室は、聴感実験や各種の測定を行うためのもので、6面が吸音楔で覆われた、いわゆる完全無響室です。しかし、吸音楔にはカバーがありません。グラスウールがむき出しです。また、配線はコネクターボックスを使わず貫通パイプを利用しているため、無響室・計測室間の遮音に多少劣るところがありますが・・・、(いずれも経費の低減のためにしていることですが、無響室メーカーとしては少し恥ずかしい話です。何はともあれ先だつものが・・。淋しいですね~。いやいや、将来どのような計器が持ち込まれるか、何にでも対応できるように・・・負け惜しみですか?)
それでも当社の無響室は"ライブな無響室"の部類に入ります。静かな無響室ですが、何となく耳がワサワサします。気になる程ではないのですが、グラスウールがむき出しなのに不思議ですね~。
そうです。一番音を吸収するとされている多孔質のグラスウールですら音を反射するのです。グラスウールが音を反射すると聞けば、また驚かれるでしょう。そうなんです。グラスウールは絶対ではないのです。
スタジオミキサー等の音のプロの方は、この反射すら気にするのです。例えば、グラスウール密度の差で音の反射が微妙に異なります。この密度の差さえ反射音で聴き分けるのです。プロの耳は怖いですね~。驚かされますね~。
私が話したいのは、人間の耳を信用して下さい、又、鍛えて下さい、ということです。(またまたPR、当社には耳を訓練するための「真耳」という音感トレーニングシステムがあります。是非カタログ等を請求して下さい。)
とにかく音に慣れること、微妙な音の差を聞き分けられること、もっともっと音に慣れ親しんで下さい。測定器を利用するのはその後です。無響室の中でまず音を聴くことから始めて下さい。

なお、余談ですが、当社のなかにも騒音計を校正器(内部校正を含む)を使わずに校正できる技術屋が減ってきました。嘆かわしいことです。かく言う私も老化が進み怪しいものです。皆様方はいかがでしょうか。ちなみに、私は自分の声(大声を上げて)で校正を行いました。
無響室の中に入り音源の音を聞くことを忘れないで下さい。(できれば、四方八方、また音源から吸音層に向かって耳を順次遠ざけて、またある時は楔の中に頭をつっこんで・・)人間の耳ほどすばらしい測定器は無いのです。慣れてくると無響室からいろんな音が聴こえてくるでしょう。楽しみですね~。無響室を初めて設計される方、測定器に頼らずいつでも無響室に出入りできるレイアウトを計画して下さい。いい顔の無響室を設計して下さい。

(当社の無響室)の写真
(当社の無響室)

またまた前書が長くなってしまいました。そろそろ本題に入っていきましょう。

2 無響室設計のポイント

さて、前回の"無響室の設計-入門編-"では、大胆にも無響室を定義し、無響室の設計ポイントを3点話させて頂きました。
前回述べさせて頂いた通り、無響室を設計するのはあなたです。私共はお手伝いをさせて頂くだけです。とは言うものの、私共専門業者に相談する以前に設計を進めなければならない方のほうが多いのではないでしょうか?
余談ですが設計あるいは施工する前にいろんなことを知りたい、また、見たい、予算を少しでも下げたい、まだまだ理由はあるでしょうが、いくつもの専門業者に声をかける方がおられます。各専門業者はそれぞれの特徴・良さを持っています。しかし、各専門業者の良いところだけをピックアップし組み合わせて最良の無響室ができるでしょうか?私は疑問です。また、専門業者を決定するまでの時間をかければかける程、工事原価はかかるものだと思って下さい。(ただし、これは専門業者の陰の声です。あまり気にしないで下さい)私は、当社だけがベストとは毛頭思っていません。当社の良さを理解し、音に挑戦させて頂ければ、お客様と一緒になり、良いものを造り、更に次のステップに進んでいけると確信しているだけです。
本題に戻り、とにかく設計を進めなければならない方に、設計のポイントを今少し補足させて頂きます。

(1) 無響室の目的は?

設計のポイントとして最初に、無響室を造る目的を明確にして下さい、と書きました。前回とは少し角度を変えてこのポイントを捕らえてみましょう。
まず、どういうことなのか例を挙げてみましょう。
例えばモーターの低騒音化を計るため、モーター発生音のパワーレベル特性、指向特性が測定できるような無響室を計画したとしましょう。これだけで付帯設備が結構必要となります。モーター取付架台、定電圧装置、周波数切換装置、発熱に見合った空調設備等、まだまだあるでしょう。これらの設計条件を考慮して、無響室は計画、設計されます。
さて、施工という段階になって、もし、他の部門からモーターを使ったファンの騒音まで測定したいという要求が出てくればどうしますか?当然無響室ですから、ファン騒音の測定はある程度可能です。同じ会社ですから、簡単に引き受けて無響室の最大利用を考えたくなりませんか?しかし、チョット待って下さい。ファン騒音を測定するには何が必要でしょう。ファンを設置する架台が必要です。ファンとなれば当然静圧の問題も絡んできます。ファンの給排気はどうしましょう。ダクトでつなぎますか、それとも吹き放し・吸い放しにしますか?吸音層の仕上げは大丈夫でしょうか?また、発生熱をどう処理しましょう。全体の空調設備の見直しが必要になってきますね~。もちろん小型ファン(無響室内の空気を撹拌する程度)であれば問題ありませんが。目的を一つ追加するだけで大仕事になります。
もし、最初から計画しておけば・・・。計画された顔が変形するような気がしませんか?目的の意味が少し理解して頂けましたでしょうか?
確かに、複数の目的で無響室を設計する場合があるでしょう。しかし、目的を増やせば増やす程、無響室は無表情な顔となります。また、各目的のため、使いやすい治具・装置を設置すれば厚化粧の顔となってしまいます。前段で少し述べましたが、各専門業者の良いところだけを集めて造った無響室は、耳飾り、首飾り等装身具だらけの顔にならないでしょうか?無響室を造る目的は一つがベスト、せいぜい二つ止まりでしょう。
また、一度決めた目的は絶対に忘れないで下さい。と言うのは無響室の使い勝手上、測定器をはじめとする便利な装置があります。現在の装置は非常に進んでいます。本来の目的以外にいろんなことができます。逆に、そちらに目がいってしまい、あれもしたい、これもしたい、という欲が出てきます。また、その装置に別の装置を加えれば更にいろんなことができるようになります。欲は段々膨れていくものなのです。設計途中でいろんな装置を付加し無響室を最大限に利用したくなってきます。目的も増えてきます。装置を使うことが目的ではないはずです。本来の目的を置き忘れて設計を膨らませてしまうと、またまた変な顔になってしまいませんか?"初心忘れるべからず"です。それだけに、最初の目的を明確にしておかなければなりません。後でこうすれば良かった、ああすれば良かったということがないよう、基本設計(本来の目的)を慎重に進めて下さい。あまり欲張らないで下さい。詳細は専門業者と相談することをお勧めします。是非、当社へ。(またまたPR)

(2) 無響室の使い勝手とは?

前回"部屋の性能より使い勝手を優先して下さい"と述べましたが、意図することは分かっても、はて、どういうことなんだろうと疑問を持たれた方もいらっしゃるでしょう。しかも、どちらかというと無響室内部を主に触れましたので、よけいに戸惑われたのではないでしょうか?今回はもう一つ付け加えておきます。全体レイアウトについては次項で触れますので、その項と合わせて参考にして下さい。
さて、今回の追加項目は計測室です。実際に、無響室を使われる方が最も使用する場所です。私の経験ではこの計測室が少し粗末に扱われているような気がします。測定される方(無響室を最も使う方)が長く居る場所です。居心地が悪かったり、使いづらければどうでしょう。疲労がたまったり、イライラしたり、作業効率が悪くなりませんか?せっかくの無響室が泣かない様にしましょう。では、計測室設計時の注意事項をいくつか考えてみましょう。私の思いつくままを、また、実際に使われているお客様からの貴重な体験も述べさせて頂きますので、参考にして下さい。

A. スペースの問題

まず、動線について考えてみましょう。
計測室だけでなく無響室全体での最優先事項です。測定対象物の搬入経路、外部から計測室の出入り、計測室から無響室への出入り、計測室から補機室・準備室・機械室への出入り等々。無響室の設計は無響室本体の設計よりこの動線を考えることが大変だと思いませんか?この動線が無響室の使い勝手を支配するような気がするのですが、いかがでしょう。測定者の使いやすい、動きやすい無響室。いいですね~。

(ローラーハンドル)の写真
(ローラーハンドル)

ここでは注意事項を一つだけ触れておきます。前回も述べましたが扉です。扉の使い勝手を考えるだけでも頭が痛くなってきます。理由の一つに無響室に使われる扉は防音扉です。特殊なハンドルが用いられ、重たいのです。
普通扉に比べ開閉に手間がかかり、急には出入りできない様になっているのです。測定者が無響室へ出入りするのに動き廻るようですと、"使いにくい"と苦情が出ると思いませんか?

(吸音扉を開いた時)の写真
(吸音扉を開いた時)

扉の位置、開ける方向、大変ですね~。扉の設計の基本の一つは、緊急時(内部で事故が発生した場合等)、非常時(照明が落ちて測定者が中に閉じ込められた場合等)を想定し、測定者の身になって設計することです。話が長くなりますので、私はこの位にしておきます。"無響室の構造と施工Ⅱ"に乞御期待。
次に、レイアウトについて考えてみましょう。このレイアウトに時間を充分使って下さい。
計測室に入るものを考えてみましょう。測定器(計測器、分析器、コンピュータを含みます。)は当然として、測定対象物によっては操作盤が必要となるでしょう。作業机も、また、データを持ちよって検討する会議机も。さらに、取扱説明書、参考文献、データを収納する書棚も。なかには、計測室内に空調設備を設置する場合もあるでしょう。他にもまだまだあるでしょう。壁には時計も欲しいでしょう。それに、使用上の注意事項を書いたり、操作手順を書いたパネルも必要でしょう。また、来客説明用に概要図、性能表を書いたパネルも必要となってくるでしょう。コンセントもスイッチもあります。
とにかく、測定者の身になって必要と思われるものを拾いだし配置してみて下さい。重要なのは先に述べた動線です。動きを考慮し、使いやすい配置を考えて下さい。
このレイアウトができるのはあなたです。実際に使う身になって、また、使う状態を想定してレイアウトに時間を使って下さい。
レイアウトで気づいた点を少し触れておきます。まずは、壁面と計測机(測定器を載せた机)の間は充分に(人が半身以上になれる位)取ることをお勧めします。測定器裏の結線作業は大変です。測定器は進歩しています。結線作業は何度も有り得るでしょう。注意しておく必要があります。同時に、電気容量も充分に、いや必要以上に確保してしておく必要があります。

(防音扉を閉じた時)の写真
(防音扉を閉じた時)

そして、できるだけスペースを確保しておくことをお勧めします。無響室を使いだして1年もすればいろんなものが増えてきます。物置探しに四苦八苦するでしょう。また、別の場所に保管したものほど必要となってくるものです。いやですね~。とにかく広いことはいいことです。計測室は広く計画することをお勧め致します。

B. 内装仕上げの問題

ア 出来るだけ目の疲れない仕上げ材を使って下さい。

例えば有孔板で仕上げますと、測定者が長時間にわたり計測室を使用する場合、目がチカチカして非常に疲れやすくなり、気分的にもイライラしてくる場合が多いようです。また、刺激的な色も避けたほうがベターでしょう。

イ 出来るだけ吸音処理を行って下さい。

普通に考えれば、天井は吸音板、壁はボードにクロス貼、床はカーペット敷となるでしょう。計測室は意外とうるさいところなのです。計測器の唸り、プロッターのカタカタ、電話のベル、無響室内部とのやりとり、けっこうあります。

普通の仕上げ(上記の例)では、うるさくてイライラしないでしょうか?(フラッタリング、ブーミングが発生し、けっこう気になるものです。)データを読み取ったり、データ解析に考え込んでいる時は大変です。できるだけ吸音処理をし、騒音?に悩まされない部屋に仕上げたほうが使いやすいと思いませんか?測定者は意外と神経質?と思いますが、皆さんはどうですか?私もうるさい計測室での測定者にはなりたくないものです。
少し話が長くなってしまいましたが、計測室が大切だということが分かって頂けたでしょうか?無響室の使い勝手はほんとうに難しいですね~。大変ですね~。しかし、今まで述べてきたことが、無響室全体の設計につながるのです。話はまだまだ次項に続きます。もう少し、我慢して下さい。

3 無響室の設計手順

いよいよ本論に入っていくことになるのですが、私は非常に困っています。前にもお断りしたように、私共専門業者は本質的に無響室を設計できないのです。ほんとうに設計できるのは無響室を計画しているあなたしかいないのです。

ほんとうに困りました。困ってしまっただけでは話は進みません。今回は私の経験から、はじめて無響室を設計される方の立場になって、無響室の設計手順をいっしょに考えてみることにしましょう。詳細はかなり述べてありますので、大筋を考えてみましょう。

(1) 無響室の構成

無響室の設計手順に進む前に、ちょっと無響室の設計についてもう一度考えてみましょう。無響室の設計となると無響室本体(防振支持され、遮音層で囲まれ、吸音層で仕上げられた部屋)のみに目が向かないでしょうか。無響室は本体のみで存在し得ないのです。本体に属する部屋が場合によってはたくさん必要になってきます。考えつくままに書いてみましょう。

周囲の部屋の関係図
周囲の部屋の関係図

まだ他にもあるでしょう。

要するに無響室には本体以外に、これだけの付帯する部屋が必要になってきます。(ただし、これが全てではありません。必要に応じてということです。最低限は計測室であり、前に触れたとおりです。)これらの組み合わせを動線を考えて組み立てます。全体設計(レイアウト)これが無響室の設計といっても過言ではないでしょう。無響室本体の設計は要素さえ明確になれば専門業者でも行えます。全体プランはやはり計画されるあなたということになるでしょう。私共が本質的に設計できないとお断りした一旦はここにあるのです。ご理解頂けましたでしょうか?計画されるあなた、大変ですね~。大変な半面面白くありませんか?あなた一人の楽しみです。いいですね~。楽しみを少し分けて頂けませんか?本体設計に時間をかけるより、レイアウトに時間をかけて下さい。お手伝い、参考例はご遠慮無く当社へ。(またまたPRのしすぎですか?)

(2) 無響室の設計手順

いよいよ最後です。お疲れ様でした。 "無響室の設計手順"という項目をとりましたが、今まで途中に随分話が出てきましたので、もう皆様にはご理解頂けたと思います。不要だとは思いますが、話のまとめとしてフローチャートで設計手順を示させて頂きます。

フローチャート
フローチャート

各項目に少しづつ補足説明をしておきます。設計の流れをつかむ参考にして下さい。

A. 目的

最優先事項であることは今までくどく述べたとおりです。あなたにしかできないことです。
ポイントは準拠する規格を明示しておくことです。

B. 基本仕様

大きく分けると音に対する仕様と付帯する設備(たとえば機械)の仕様です。音響仕様とは、測定周波数範囲、測定下限レベルの設定です。付帯設備仕様とは、例えばエンジンの容量を決めることです。

C. 設計条件

実際に無響室を使用するためにどうしたいのかを決める要素です。

ア 外部条件(周囲のうるささは?無響室が設置される周囲の状況
イ 空調設備条件(試験体の発熱量を決め、無響室内温湿度をどのようにしたいのか、といった空調あるいは換気に関する条件
ウ 電気設備条件(試験体への供給電気容量は?照明の明るさは?といった電気に関する条件)
エ 使用条件(無響室を使いやすくするため、試験体をどのように設置するか、どのように使うか、といった使用条件)
オ その他(消火設備とか、給排水設備とか、エアー供給、といった無響室使用上に必要な設備のことです。)

D. 全体レイアウト

前項、無響室の構成を参考にして下さい。

E. 各室の設計

詳細は不要でしょう。

F. 全体条件

忘れてはならないのが予算です。A.~F.で理想の無響室が出来上がりました。予算に合いましたでしょうか?予算に合えばYES→完了です。
もし、NOであれば再度B.に戻り再設計です。
心配しないで下さい。NOの場合が多いのです。3~4回が普通でしょうか?一発でYESの方、専門業者の使い方が上手ですね~。予算取りが上手ですね~。それとも無響室を何度か設計されたのでしょうか?
以上、無響室の設計手順について少し角度を変えてとらえてみました。少しは無響室の設計の全体像が分かって頂けましたでしょうか?

4 おわりに

無響室の設計と聞けば、まず音響設計のみ目がいってしまわないでしょうか?無響室は単独では存在し得ないのです。全体設計が大変なのです。音響設計は専門業者を上手に利用し、設計時間を全体設計にさいて下さい。無響室の全体が見えてきましたでしょうか?お役に立てば幸いです。最後にまたまたPR、是非、当社を利用して下さい。一緒になって考えます。そして、一緒に次のステップに進みましょう。話が長くなりました。長々とお付き合い頂きありがとうございました。