データサイエンス事業部のビジョン ─ DLからデータサイエンスへ ─

データサイエンス事業部 小橋 修

1.事業部名の変更

平成最後となった今年4月より、私どもは事業部名をDL事業部からデータサイエンス事業部に改めました。DL事業部は30年以上も前に、有人調査で実態を把握しようとしていた成田空港周辺の航空機騒音に対し、何とか自動化できないものかと、世の中にはないシステムの開発に取り組んだのが始まりです。振り返るとまさに平成の一時代を駆け抜けてきたことになります。

そんな愛着のある事業部名を改めようと考えた一番の理由は、お客様がDLという名称から私どもの事業部内容を連想しづらいように思えることが散見されたためです。例えば、お客様と名刺交換させていただくと、「DLって何ですか?」と聞かれることが多々ありました。少し前までは、実はデータロガー(DataLogger)の略語で、データを自動でコンピュータに叩き込むという意味です、と説明すれば、なるほどとわかっていただいたのですが、最近ですと「データロガーって何ですか?」と聞き返されることがあり、既にデータロガーという名称そのものが特別の存在ではなくなっているということに気づきました。確かに周りを見渡せばデータをコンピュータに叩き込む、なんて手のひらサイズの基盤でもできてしまう時代です。

DL-1420T/R、DL-1420C
写真1 30年前の航空機騒音自動測定器

写真1は30年前に開発された航空機騒音自動測定器DL1420シリーズです。これで成田空港の航空機騒音と航空機の飛行位置を自動で記録していました。当時はとにかく大きく重厚感があり、世の中にはない最新のデータロガーとして活躍しました。

2.データサイエンス事業部のビジョン

新しい事業部名を考案するために、自分たちのビジョン(事業方針)を改めて見なおしてみました。私どもは航空機騒音を主対象として、これを自動で取得するための測定器を製作販売し、常時正常に稼働させるための保守業務を行うとともに、これらを活用した調査業務等を行っています。一見すると製造・販売業務や請負業務を行っているように見えますが、どの業務も最終的にはお客様に正確なデータを提供することにあります。それも単に騒音データを提供するだけではなく、他にはないあらゆる技術を駆使して、お客様に必要な情報と併せて精査した付加価値のあるデータを提供しています。この【卓越した技術により、お客様のニーズに合ったデータ提供をする】こと、これが昔も今も変わらない我々のビジョンです。このビジョンを事業部員全員が共通認識できること、お客様に伝わる端的な名称とすることの2点をコンセプトとしていくつかの候補からデータサイエンスという名称を選び、これを事業部名をとしました。

3.卓越した電波・音響技術

私どもが取り扱う航空機騒音の分野は、発生エリアが空港周辺に限られることもあり、騒音の中ではニッチな分野にあります。また一般の道路騒音などに比べて測定の難易度が高く、様々な課題があります。このようなニッチで課題の多い航空機騒音でも、扱う業者は国内に複数社あり、日々切磋琢磨して独自の技術を競い合っています。一方のお客様は主に国や地方自治体ですが、実はそれぞれの事情により、顧客ニーズが異なります。国が定めた法律では航空機騒音の評価値Ldenや、旧評価値WECPNLを算出して基準値の超過を監視・評価すればよいのですが、実際には苦情対応や騒音対策のために、騒音を発生させた航空機の特定やその要因分析まで求められます。そのような状況の中、私どもが成田空港や伊丹空港などの顧客ニーズに応えるために用いたのは電波技術でした。


図1 電波技術による航空機騒音の識別技術例

航空機騒音の識別ですから、測定した音を分析し、音源到来方向や周波数成分の違いで航空機騒音とそれ以外の騒音を区別しようと考えるのが普通かもしれません。しかしながら、私どもは実際の現場状況から、気象条件などの外乱の影響を受けにくい、航空機が発する電波に着目しました。航空機は管制のためにトランスポンダ応答信号と呼ばれる特有の電波を発しています。その電波を騒音レベルと同時に監視することにより、航空機とそれ以外の騒音を識別しました。この技術は、当時の顧客ニーズに合致して多くのお客様に受け入れていただくことができました。またこの技術は特許を取得したことから、他社の追従を許さず、私どもの独自の技術として現在も様々なシステムの基本技術となっています。


図2 電波技術の集大成、離着陸自動判定装置

図2の離着陸自動判定装置はその一例で、航空機が離陸あるいは着陸する時刻を秒単位で捉えるとともに、複数の滑走路を持つ空港では、その使用した滑走路までも特定するという特殊なシステムです。これ以外にも航空機の航跡を広範囲で捕捉するシステムなど、電波技術によるシステムは、顧客ニーズに合わせた様々なステージで採用されています。

電波技術により、精度の高い航空機騒音測定の自動化が進みましたが、逆に新たな課題も見えてきました。成田空港や伊丹空港などの内陸にある空港周辺の航空機による騒音レベルは、その他の騒音とのレベル差が大きく、同時に発生しても影響を受けることは少なかったのですが、騒音対策のために海上ルートを飛行する羽田空港や海上に建設された関西空港、中部空港などでは、航空機騒音とそれ以外の騒音のレベル差が小さいため、同時に発生する重畳音との切り分けが必要でした。そこで複数の音源が存在する場合でも、それぞれを分離して、それぞれの寄与度を自動で測定する音響技術を開発しています。


写真2 音響技術による航空機騒音の識別技術例 DL-SBM


図3 航空機騒音とそれ以外の騒音を分離している例

この技術は、重畳音が頻発していた羽田空港周辺の航空機騒音対策で初めて採用され、今では国土交通省の標準仕様書にも記載される技術となっています。

4.画像技術とAIの活用

このように私どもは電波技術と音響技術により、様々な課題に取り組んできました。しかしながら、航空機騒音にはまだまだ課題があります。その1つに機種判別が挙げられます。大きな騒音が発生した際、その騒音がどの航空機により発生したのかを把握することは騒音対策として非常に重要です。羽田空港や関西空港のような民間空港の場合、空港で何時にどの航空機が離陸した、着陸したという記録をまとめ、運航実績という情報として提供されることが多くありますので、これと騒音データを電波情報や時刻等で照合することによりこの課題を解決できますが、自衛隊や在日米軍のような、いわゆる軍用飛行場においては、運航実績のような情報が外部に出てくることはありません。そのため軍用飛行場を所管する国や自治体は、職員が自前で目視確認を行う、あるいは高額な費用をかけて目視調査を委託しているのが現実です。

そこで私どもは新たな画像技術を用いてこの課題に取り組みました。はじめに開発したのは、騒音レベル変動と画像を連動させて機種確認ができるシステム【Sound Lapse】でした。


写真3 画像技術例 Sound Lapse

Sound Lapseは航空機騒音自動測定器と定点カメラを併設します。この定点カメラはその状況に合わせて適切なものを選定して使用することができます。例えば広い範囲を監視する必要があれば広角タイプのカメラを、夜間の機種確認が重要視される場所では、超高感度タイプの4Kカメラを使用しています。


(SONY SNV-VB770+SEL35F14Z)
写真4 夜間の撮影が可能な超高感度4Kカメラ

これらの定点カメラは、1秒間隔の連続静止画像を常時取り込み、航空機騒音自動測定器により捕捉した航空機騒音の発生時刻を基準にして、その前後数十秒の画像を重ね合わせて1枚の画像に収めて容易に機種確認ができるように工夫しています。

このSound Lapseを用いて、人が画像データを確認することにより、機種を判別することが可能となりましたが、常時監視となると毎日の人力作業となりますので、その作業が大きな負担となること、画像を見て機種が判別できる人材が必要であることなど、新たな課題があがりました。そこでこの機種をコンピュータが自動で判別できる新たなシステム開発に取り組みました。これにより開発されたのが以下に示す新製品の【AIIS】です。


写真5 画像技術例AIIS

AIISはAI(人工知能)により機種を自動で判別するシステムです。このシステムは現在、沖縄県にある普天間基地の南北端それぞれに自主的に設置して試験を行っています。AIにより機種を判別させるには大量の画像データを用いてコンピュータに学習させる必要があります。現在学習できている機種はV22オスプレイをはじめとする、普天間基地に常駐するヘリコプターの4機種ですが、戦闘機や輸送機を含む多くの機種の画像データを取得しておりますので、今後学習を繰り返して判別できる機種を増やしていく予定です。またAIISは機種判別だけでなく、画像上の進行方向や機数なども判別できますので、最終的には自動的に運航実績を出力するシステムとしての完成を目指しています。このシステムによる判別の様子を今年中には希望する方々に見ていただけるよう、準備を進めています。


写真6 V22(オスプレイ)の自動識別の例

これはAIISにより機種を自動判別した結果の例です。画像にはV22オスプレイが同時に3機離陸している様子が写っていますが、それぞれがボックスで囲まれ航空機として自動で認識していることを示しています。また機種の判別結果がV22であること、つづいてその確率が示されていいます。


図4 人による修正画面

繰り返しになりますが、AIISは画像データと機種の学習が必要です。AIISが機種を間違える、あるいはその確率が低いものであった場合は、人が正しい機種に修正して学習させます。図4はそのアプリケーションツールの画面で、これも自社で開発し運用中です。まだ試験運用が始まったばかりですので、修正が必要なデータも多くありますが、この修正と学習を繰り返すことにより、正解率が向上し人による修正作業量も徐々に減ってくると考えています。

5.ICTを用いた革新的な製品開発

ここまでで電波・音響に加えて画像とAIによる技術を進めていることをお話ししました。今後データサイエンス事業部は、AIをはじめとするICTを用いた革新的な製品開発を進めていく方針です。まだ開発段階ですが、少しだけその内容を示します。


図5 webアプリケーションの開発

航空機騒音のデータを集約・集計する中央局システムとして、クラウド上で動作するwebアプリケーションシステムをリリースできるよう、準備を進めています。このシステムを使用するお客様は、これまでのようなハードウェアの更新やOSのサポートサービスの終了による、システム更新の悩みから解放されます。また自動測定器においても新たな製品の開発を進めています。これまで用いてきた電波・音響・画像の技術の継承はもちろんですが、例えばIoTによる各種データの集約と、高速化されたインフラとクラウドを用いたビッグデータの活用など、これまでに世の中になかった製品の開発を目指しています。


(左:Elecs EDAMP-2BA101 右:OMRON 型2JCIE-BU01)
写真7 IoTセンサーの例、とにかく小さい

6.おわりに

以上の通り、データサイエンス事業部では最新の技術を磨き、顧客ニーズをとらえたデータの提供を続けていくことをビジョンとして、今後も皆様のお役に立てるよう、邁進していく所存であります。