データサイエンス事業部  倉地 俊哉

1. はじめに

航空機騒音自動測定の常時監視局では年中無休で測定器を稼働させ、騒音レベル等の各種データを記録し続けます。データを集計・分析し正確な結果を出すためには、測定器で記録するデータの信頼性を損なってはいけません。それはデータの記録や集計用システムへの回収を精確に行うのはもちろんですが、機器の故障によって測定が欠測するような事態も最小限に抑える必要があります。さらに近年では騒音の測定だけでなく、航空機騒音とそれ以外の騒音を自動で判別する機能のさらなる精度向上や航跡の算出といった新たな需要が高まってきています。
弊社では長年の航空機騒音測定の経験・技術を基に、精確に長期間の測定を可能とする測定器[DLシリーズ]を開発してきました。今回ご紹介する新型航空機騒音自動測定器DL-X1は既存の測定器の信頼性や機能を損なうことなく、操作性の改善や新機能の追加を実現しました。(写真1)

DL-X1 の外観
写真1 DL-X1 の外観

2. DL-X1 と周辺機器の構成

測定現場に長期間設置する航空機騒音測定器は24時間365日の連続稼働に耐える必要があります。DL-X1はハードウェアの設計を国土交通省航空局の要求仕様に基づいて行っています。長期間の稼働に耐えうる産業用部品(CPUボード、電源モジュール等)を選定し、さらに筐体を熱伝導型とし、排熱を速やかに行うために冷却ファンを装備しています。また、DL-X1 のデータ記録装置は既存の[DLシリーズ] と異なりSDカードを使用しております。10年の運用に耐えうる産業用のSDカードであり、仮に故障した場合でも容易に交換作業を行うことができます。
DL-X1 とその周辺機器を含んだ機器構成図は図2のようになります。騒音レベルを測定するための騒音計は当然として、その他の付属品に新型航空機電波解析装置RD-X1を備えています。RD-X1は「航跡算出用データ解析機能」と「電波による航空機識別機能」の二つの機能を有しております。これらの機能については「3.DL-X1の新機能」と「4.[DLシリーズ]基本機能」にて説明いたします。その他の音源探査識別装置等の周辺機器はオプション機能として、お客様の要望に合わせてカスタマイズすることが可能です。

図2 DL-X1と周辺機器構成図
図2 DL-X1と周辺機器構成図

通常、これらの機器は既存の[DL シリーズ]と同様に、写真2のように測定現場に設置したキャビネットラックに据え付けられます。屋外でも屋内でも設置することができます。

写真2 DL-X1と周辺機器の測定現場設置状況
写真2 DL-X1と周辺機器の測定現場設置状況

3.DL-X1 の新機能

DL-X1 で新たに追加した機能として代表的なものは以下の三つです。
①航跡算出用データの解析・記録機能
②リアルタイムデータ送信機能
③騒音計I 型Ⅱ型両対応

【航跡算出用データの解析・記録機能】

今や航空機の飛行状況を把握することは航空機騒音評価に欠かせません。騒音測定地点を航空機が通過した時刻の確認だけでなく、風向の変化や時間帯による運用飛行経路の切り替わり、決められた飛行経路から逸脱した航空機の確認にも参照されます。飛行経路がはっきりと分からない軍用飛行場等では特に有効に働くと思われます。
飛行経路つまりは航空機の航跡を算出する手法として、現在は航空機の発するトランスポンダ応答電波等を利用した計算が一般的です。 DL-X1では、既存の[DLシリーズ]には無かった新たな機能として、標準で航跡算出用のデータを記録することが可能です。航跡を算出するには最低でも数μsecの時間分解能で航空機の発する電波を解析し、電波受信データを記録する必要があります。これまでの[DLシリーズ]ではそういった精度の高い測定を行うには性能が足りず、航跡を算出するためには別途専用の受信機を設置する必要がありました。
DL-X1とそれに付属するRD-X1を用いれば、電波受信データを高い時刻精度で解析・記録することができます。RD-X1は既存の[DLシリーズ] に付属する電波識別装置に比べて、高い時刻精度や広いダイナミックレンジを持ち、さらに受信した電波の強度に合わせて自動で受信感度を調整するオートゲインコントロール機能を備えています。そのために広範囲で正確な航跡算出用の電波受信データを記録することが可能です。RD-X1や航跡の算出に関わる詳しい説明は、技術ニュース52号「航空機騒音新型識別装置の紹介--航跡取得機能の追加--」にて紹介しております。
記録した電波受信データは集計用システムに回収し、集計用システム内で分析することで航跡を算出・描画することができます。航跡の描画例を図3 に示します。ここで、DL-X1ではそれに対応した集計用システムへのデータ回収をリアルタイムに行うことができます。これについては次項目で説明いたします。電波受信データはDL-X1内に全て保存しているため、そのファイルを回収して分析することもできます。

図3 航跡の描画例
図3 航跡の描画例

【リアルタイムデータ送信機能】

DL-X1 ではメッセージキューイング MQ 技術を用いて、リアルタイムに集計用システムへのデータ回収を行うことが可能になりました。MQとは、データの送信側と受信側の間に別のデータ保持領域を設け、それを仲介してデータのやり取りを行う技術です。送信側も受信側も相手側の動作を待つ必要がないため、片方の動作遅延や停止が生じた場合でもシステム全体への悪影響を抑えます。
既存の[DLシリーズ]では、データの回収は測定器内に保存された前日分のテキストデータファイルを回収していました。そのため、測定したデータをリアルタイムに分析したり、結果を表示したりすることは一部を除いて不可能でした。DL-X1ではテキストデータファイルの回収だけでなく、測定・解析した騒音データ、電波受信データ等をMQによって集計用システムに送信することができます。集計用システムはそれに対応してデータを受け取る必要があります。リアルタイムにデータを受け取ることができれば、その分析や結果の表示もリアルタイムに行うことができます。測定地点ごとに時々刻々と変化する騒音レベルを表示することはもちろん、データを受け取ったそばから分析することで、つい数分前に通過した航空機の騒音についての詳細な分析結果を確認することもできます。
他にもリアルタイムに回収した電波受信データを分析し、時々刻々と変化する航跡(航空機の位置座標)を描画することも可能です。

【騒音計I型Ⅱ型両対応】

航空機騒音測定器は環境省の発行する「航空機騒音測定・評価マニュアル」に則った測定を行うことができる必要があります。最新のマニュアルでは、今後の測定機器更新時にはⅠ型騒音計を使用することが推奨されました。騒音計はデータの記録方式によって、Ⅰ型とⅡ型に分けられます。それぞれ以下のように定義されています。
Ⅰ型騒音計: 時間重み付け特性 S(slow)の騒音レベルを時間間隔 0.1s以下でサンプリングして連続記録する機能を有するもの。
Ⅱ型騒音計: 1秒間平均騒音レベルを連続記録する機能を有するもの(積分平均型騒音計)。
大きな航空機騒音レベルが記録される場合にはⅠ型とⅡ型の測定結果の差は無視できる程度に小さいのですが、小さな騒音レベルが記録される場合には測定結果に差が生じる可能性があります。
DL-X1ではマニュアルに準拠し、Ⅰ型に対応した計算処理を実装した上でⅡ型への対応も残しています。既存のⅡ型による測定方法を継続することができますし、Ⅰ型騒音計に更新する場合にはDL-X1の設定を変更するだけで対応することができます。

4.[DL シリーズ]基本機能

DL-X1 では、既存の[DLシリーズ]にある機能は基本的には全て実装されております。

【電波による航空機識別機能】

航空機騒音の測定では、測定した騒音データの音源が航空機か航空機以外かを判別する必要があります。弊社独自の航空機が発する電波を用いた高精度の航空機識別技術により、データの信頼性を損なうことなく、データ集計における手間を大幅に省力化することができます。
RD-X1は、航跡算出用データの解析・記録だけではなく、既存の[DLシリーズ]に付属されていた航空機最接近検知識別装置と航空機接近検知識別装置の二つの役割を実現できます。最接近検知識別では、航空機が電波高度計から鋭い指向性で発する対地距離測定電波を利用して、航空機が測定地点上空に最接近したときの時刻を正確に測定することができます。接近検知識別では、航空機が管制のために発するトランスポンダ応答電波を利用して、航空機が測定地点に接近したときの高度変化やその航空機の識別番号等の情報を得ることができます。特にこのトランスポンダ応答電波の測定では、RD-X1は既存の装置に比べてより高い時刻精度で広範囲の電波を取得できるようになりました。
この二つの電波を分析することによって得た電波識別データから、電波が取得された時間帯の騒音データの音源が航空機か航空機以外かを高精度に判別することができます(図4-1)。

図4-1 電波による航空機識別機能
図4-1 電波による航空機識別機能

さらに、集計用システムに回収した電波識別データを用いてより高度な分析を行うことにより、その航空機の滑走路運用や、複数の測定地点における同一航空機による騒音データの紐づけ等も行うことができます。

【航空機騒音を取り逃さない設計思想】

航空機騒音測定では通常、騒音レベルに閾値を設けて、その閾値を超過した間の騒音データをひとつの騒音イベントとして検出しています。DL-X1では騒音レベルが検出閾値に達していない騒音データであっても全て記録し、電波識別データ等のあらゆるデータも常に記録し続けられます。これらのデータを集計用システムに回収し、分析することにより、航空機騒音と暗騒音とのレベル差があまりない地点においても、その地点の騒音状況や航空機の通過状況を確認することができます。それによって航空機騒音かどうか曖昧な騒音イベントに関しても、前後の騒音状況や電波取得状況から判別することが可能です(図4-2)。

図4-2 DL-X1 の航空機騒音検出
図4-2 DL-X1 の航空機騒音検出

他にも以下のような機能により、欠測を最小限に抑えた信頼性の高い測定が可能です。
● 停電、バッテリー切れで測定器が完全停止した場合でも、復電時には自動で復旧し、測定を開始します。
● 測定ソフトウェアのフリーズなどで意図せず測定が停止した場合には自動で測定器が再起動されます。
● ネットワークを通じてオンラインでデータ回収が可能です。特にDL-X1からの新機能としてリアルタイムにデータを回収することが可能になりました。
● オンライン対応局では、遠隔地であっても事務所のPCからリモート操作ができます。トラブルが生じた時に迅速な対応が可能です。
● 異常時やシステム停止時などは、弊社のメンテナンス拠点に自動通報する機能を持っています。

5. 操作性の向上

DL-X1では既存の[DLシリーズ] からその操作方法が一新されました。
特に大きな違いとして、これまで付属していたタッチディスプレイが排除され、タブレットやノートPC からDL-X1のWi-Fiアクセスポイントにアクセスし、WEBブラウザから操作をすることが可能になりました。WEB ブラウザはGoogle Chrome、Safariに対応しています。スマートフォンからもアクセスすることができます(写真5-1, 2)。数m程度まで測定器本体から離れて操作することができ、測定現場に設置した測定器のメンテナンス時には、雨天時の作業や画面を見ながらの作業での取り回しが容易になりました。
ユーザーインタフェースも既存のものから、より直感的な操作ができるように変更されました。過去の測定データの確認にはリアルタイムに変化する騒音波形データを見ることができます(写真5-3)。騒音イベントのピーク時刻や航空機の電波識別情報も同時に表示され、各騒音発生時の録音音声をタブレットから再生することができます。
また、マイクロホン校正作業の最中や測定設定変更時を除いて、基本的には測定が中断されることはありません。データを欠測することなく、過去の測定データや設定の確認を行うことができます。

写真5-1 タブレット端末による操作例
写真5-1 タブレット端末による操作例
写真5-2 スマートフォンによる操作例
写真5-2 スマートフォンによる操作例
写真5-3 DL-X1 の過去の測定データ確認画面
写真5-3 DL-X1 の過去の測定データ確認画面

6. おわりに

DL-X1では既存の[DLシリーズ] と同様に、より高度な測定が求められる場面でも、各周辺機器や集計用システムによる豊富なオプション機能により対応が可能です。例えば、音源探査識別技術によって地上騒音やかぶり音の自動識別を行ったり、集計用システムに回収した騒音データや電波識別データ等を総合的に学習させたAI モデルによって、各航空機騒音イベントに対して精密な航空機運用判定を行うことができます。
それに加えて、DL-X1では先にご紹介したような新機能を備えており、航空機騒音測定において今後拡大していくと思われる需要に対応できる測定器となっております。弊社としましては、よりお客様のご要望にお応えできるように、測定器のさらなる改善や技術の開発に努めていく所存です。既に[DLシリーズ]をご使用いただいているお客様の機器更新はもちろん、航跡の算出・描画等のDL-X1の新機能について新たにご興味をお持ちの方は是非ご相談ください。

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