データサイエンス事業部  堤 正利  田村 和樹

航空機騒音自動測定装置の保守

1.はじめに

今、まさにこの瞬間も、全国で270 台以上の航空機騒音自動測定装置が動いています。北の大地で寒さに耐えている測定器もあれば、海の近くで潮風にさらされている測定器もあります。どのような環境に置かれても、24 時間365 日休むことなく文句も言わず、ひたむきに騒音レベルを記録し続けるタフなやつ、それが弊社の測定器です。
とは言え、測定器が安定稼働するためには日々の細やかなケア、つまり保守作業が欠かせません。弊社では、保守作業として、測定器が発する様々なメッセージの中から不調の種を見つけ出し、大きなトラブルに発展する前に日々対応させていただいております。また、万一トラブルが発生した場合にはいち早く対応し、航空機騒音の欠測が最小限となるよう努めております。
今回はこのような保守作業につきまして、弊社がどのようなサービスを提供しているのか、また万一トラブルが発生した際にはどのような手順で対応しているのかご紹介できればと思います。

   

2. 保守サービス

保守サービスとして提供させていただいている作業には定期点検や臨時点検、日々のデータチェックなど様々なものがあります。今回は「定期点検」、「リモートアクセス」、「異常通知システム」の3つについて紹介いたします。

(1)定期点検
定期点検では、実際に弊社スタッフが現地に赴き、測定機器の点検作業を実施します。点検作業は予めチェック項目が定められた点検野帳に従って 実施します。
測定器の主な点検項目は以下の通りです。

  • 測定器およびセンサー類の外観確認
  • 測定データの確認
  • 騒音計の感度確認、調整
  • 停電試験
  • 測定条件の設定確認
  • 異常通知システムの試験発信
  • 社内からのリモートアクセス確認

これらの項目の中で異常が認められた場合、感度の調整や部品交換、補修等を実施します。

(2)リモートアクセス
測定器は、ほとんどの場合通信事業者が提供するVPN(仮想私設通信網)を用いてセキュアなネットワークを構築し、常に弊社から測定器の動作状況を確認できるようにしています。このネットワークは、航空機騒音監視システムの保守専用に独立したネットワークとして構築しています。
弊社ではこのネットワークを通じて後述する「異常通知システム」による異常通知を受信し、測定器が正常な測定状態を維持できているかを監視しています。
測定器から異常通知が届くと、このネットワークを使用し弊社作業員が測定器へリモートアクセスし異常通知の状況を確認します。そして発生している障害に応じて測定器を遠隔操作して正常な測定状態に復旧させます。

 弊社保守拠点と各測定器とのネットワーク構成図
弊社保守拠点と各測定器とのネットワーク構成図

(3)異常通知システム
弊社では測定器の異常を検知するため、次の4 つのシステムを構築しています。

①ヘルプコール
ヘルプコールは測定器及び中央局から送信される異常通知を弊社保守用端末で受信するシステムです。常として通知される情報には次のものがあります。

  • 異常な測定値の検出
    過大又は過小な騒音値。騒音の変動の度合。
  • 接続機器の異常
    機器の切断、異常な発熱。
  • 電源環境の障害
    商用電源の遮断。無停電電源装置との通信異常。
  • 記録メディアの障害
    記憶領域の残容量閾値超過、アクセス異常。
  • 機器の再起動
    停電による停止状態からの始動等。

ヘルプコールは、異常通知システムの中心となるシステムです。全国の測定器及び中央局から毎日多くの異常通知が届くため、通知データの受信を受け持つ機能と通知データを解析する機能を独立させ、通知の欠落を防止しています。
弊社保守用端末が測定器及び中央局からの異常通知を受信すると警告音を発し、弊社スタッフに対して異常発生を通知します。


② DLCheck
DLCheck は回収した測定データを日々分析し、異常が検知された場合に弊社保守用端末に対し通知するシステムです。そのため、測定データの異常や測定器の不具合にいち早く気づくことができ、結果として長期に渡る欠測を防ぐことができます。
異常として通知される情報として次のものがあります。

  • 回収データの過不足の検出
    過多又は過少なデータ量等。
  • データ回収の障害
    測定器との通信障害。
  • 集計処理の障害
    測定データの回収不足、測定データのデータベースへの登録障害等。
  • 集計処理による異常な測定値の検出
    過大又は過小な騒音値。騒音の変動の度合。
  • 中央局の記録メディアの障害
    アクセス障害、容量不足等

DLCheck の分析によりこれらの異常を検出すると前出のヘルプコールのシステムへ通知しています。またデータの収集状態を帳票として出力します。


③ ping 監視
測定器及び中央局へのネットワーク上の障害を検出するためにpingコマンドを用いたネットワーク疎通監視を行うシステムです。監視の1 時間毎に行っており、ネットワーク障害が発生した場合、1 時間程度で検出して対応を開始することが可能です。


④リアルタイムモニタリング
測定器からリアルタイムに送信される騒音値及び識別データを中央局もしくは弊社保守用端末で受信し、測定器の動作状態を監視するシステムです。またネットワークの疎通監視や電源の障害による停電の検出も行っています。ping 監視に比べて把握できる情報の種類が多く、リアルタイム性が高いため、障害発生時により適切かつ迅速な対応が可能ですが、ping 監視はすべての測定器で利用できるのに対し、リアルタイムモニタリングはシステム構成により利用できない場合があります。

 

3. 異常通知が届いた時の対応

ここでは、実際に異常通知が届いた際の対応を紹介いたします。通知内容に関わらず、対応手順の大まかな流れとしては以下の通りです。

  • 通知内容の確認
  • 原因の切り分け
  • お客様への報告および状況確認
  • 対応方針の決定
  • トラブル対応
  • 結果報告

ここでは異常通知の例として、「停電」「データ異常」「通信不通」が発生した場合の対応についてご紹介いたします。


(1)停電
停電発生時でも測定を継続できるよう、測定器にはバッテリーが備えられています。停電発生時には自動的にバッテリーからの給電に切り替わるため、停電と同時に測定が停止することはありません(新品のバッテリーであれば通常5時間程度の測定が可能です)。しかしながら、当然バッテリーが給電できる電力にも限界があるため、意図しない停電が発生した場合はできるだけ速やかに復電させる必要があります。では、実際に停電のヘルプコールが届いた場合の対応を見ていきましょう。

 「停電」の通知を受信した場合の対応フロー
「停電」の通知を受信した場合の対応フロー

まず、弊社保守用端末が停電のヘルプコールを受信し、弊社スタッフが通知内容を確認します。次に、この停電の通知が届いた原因の切り分けを行います。原因としては

  1. 測定器が設置してある地域一帯が停電している
  2. 施設の計画停電が実施された
  3. 施設のブレーカが誤って落とされた
  4. 測定器のコンセントが誤って抜けてしまった
  5. 点検作業の停電試験が実施された

などが挙げられます。
現地の気象状況や電力会社のweb サイトから、地域全体の停電か否かを判断できます。また、お客様から事前に計画停電の情報を共有いただいている場合はこれらの情報を参照します。
これらに該当しそうな原因がなく、なおかつ測定器の点検作業も行っていない場合、③や④などの「意図しない停電」を疑います。意図しない停電の場合、まずお客様に状況を報告し、施設で計画停電や停電を伴う工事等が行われていないか確認します。よくある事例としては、

  • 施設利用者が、退室時にブレーカを落としてしまった
  • 工事業者が誤ってブレーカを落としてしまった

などがあります。このような場合は施設の管理者に連絡を取り、現地の状況を確認の上復電を依頼します。施設の停電の可能性も低い場合、測定器側のトラブルを疑い ます。これらのように、あらかじめ原因を切り分けたうえで対応にあたります。そして復電後に測定データの欠測有無を確認し、お客様へ完了報告します。


(2)データ異常
先述した通り、様々な測定データの異常は「DLCheck」というシステムが通知してくれます。
今回は一例として「騒音レベルが異常に大きい」という通知が届いた場合の対応フローを見ていきたいと思います。

                     
「データ異常」の通知を受信した場合の対応フロー
「データ異常」の通知を受信した場合の対応フロー

まず、弊社の保守用端末が「何時何分何秒に測定した騒音レベルが異常に大きい」という通知を受信し、弊社スタッフが通知内容を確認します。次に、異常に大きい騒音レベルが測定された原因を調べます。
原因としては、

① 実際に大きな音が測定された(チャイムなど)
② 防風スクリーンが外れてしまい、大きな音が測定されるようになった
③ 騒音計が故障し、異常な値を記録していた

などが挙げられます。
続いて、測定データをオンラインで回収して原因の特定にあたります。具体的には、騒音レベルの変化を波形表示して異常な点が見当たらないか確認したり、音声データを聞いて音源の特定に当たったりします。音源が防災放送や鳥の声、風の音などの場合は、測定器に異常なしと判断します。一方、明らかな異音が測定されていたり、騒音レベルの変化が通常とは異なる場合には、お客様に報告の上、必要に応じて現地確認などの対応を取ります。
騒音レベルの波形や録音された音声データを確認し原因を切り分け、測定器側のトラブルが疑われる場合には必要に応じて現地対応を実施します。


(3)通信不通

先述した通り、ほとんどの測定器はVPN を用いてセキュアなネットワークを構築しております。そのため、弊社保守拠点から全国の測定器にリモートアクセスしたり、異常が発生した際は異常通知が届いたりする仕組みになっているのですが、通信回線や通信機器にトラブルが生じるとこれらの仕組みが働かなくなります。つまり、24 時間365 日測定を続けるべき測定器が、今現在どのような状態にあるのか把握できなくなってしまいます。
測定器との通信が確立されていることはping 監視により1時間毎に自動で確認しているのですが、ここでエラーが生じた場合、すなわちping の応答がなかった場合の対応方法を見ていきましょう。
まず、弊社保守用端末で動作しているping 監視システムが「何時何分何秒に●●測定器に対してping を送ったが、応答がなかった」という通知を出します。この通知を確認した弊社スタッフは次の順に原因の切り分けを実施します。
まず、「通信の不通が一時的なものなのか否か」を切り分けます。通信回線の混雑状況によっては一時的にping の応答がなくなる場合もあります。そのため、ping 監視システムがエラーを返した測定器に対し、再度手動でping を送り、応答があるかどうかを確認します。一時的な不通の場合はここで応答がありますが、応答がなかった場合は何らかのトラブルを疑います。
続いて「通信がどこまで確立されているか」を確認し、トラブルが発生している箇所にあたりをつけます。

① 測定器までは通信できないが、測定器の通信機器までは通信できる場合
測定器本体のトラブルが疑われます。測定器のコンピュータがping 応答を返せない状態でのフリーズや、コンピュータ自体が意図せずシャットダウンしてしまっている可能性があります。リモートでの復旧は難しいため、現地にスタッフがお伺いし復旧作業を実施します。

② 測定器の通信機器まで通信できないが、手前の通信回線に問題がない場合
測定器の通信機器(ルータ)にトラブルが生じている可能性があります。主な原因として、ルータの電源が落ちてしまっている場合やルータに電源を供給しているUPS の故障が考えられます。

③ 通信回線そのものに問題が生じている場合
ほとんどの測定器には光回線が引かれていますが、光回線そのものに障害が生じている場合があります。この場合は回線業者に状況の確認および復旧作業を依頼します。

このように、原因を切り分けたうえで適宜対応に当たります。

「通信不通」の通知を受信した場合の対応フロー
「通信不通」の通知を受信した場合の対応フロー

4. 最後に

今回は測定器の保守についてお伝えさせていただきました。普段あまり目立つことのない保守作業ですが、航空機騒音自動測定装置が安定稼働するためには様々なシステムやスタッフの働きがあることを知っていただければ幸いです。

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