データサイエンス事業部 倉地 俊哉
1. 概要
1,2週間程度の短期間で実施する航空機騒音自動測定における使用を目的とした、新型測定器「DL-P1」のご紹介です(図1a)。この測定器は、測定現場への設置と撤収を何度も繰り返すポータブル測定器として、「現場での取り扱いやすさ」を特に重視した製品となっております。
本測定器の大きな特徴として、防水・防滴性能を有しており、屋外を含めたあらゆる場所に設置することができます。また、これまで周辺機器を取り付けたり、別の装置を設置したりすることによって実現していた様々な機能を、この一台に集約しています。そのため、本測定器単体とマイクロホンなどのセンサー類を設置するだけで、幅広い使用方法に応えることができます。
本測定器の主な特徴は次のとおりです。
- 現場作業の効率化
- 騒音測定をアシストする機能
- 外部ネットワークとの接続
- 航跡データ測定

2. 現場作業の効率化
現場作業の効率化のために以下の特徴を備えています。
- 防水・防滴性能による設置自由度の向上
- 簡単な設置方法による作業効率化
- 無線通信による遠隔操作
2-1. 防水・防滴性能による設置自由度の向上
「DL-P1」はIPX4等級の防水・防滴性能を有しており、多少の雨や飛沫は問題ありません。本測定器に付属するACアダプタも防水仕様です。さらに、バッテリー内蔵であることや単体でモバイル通信機能を有していることもあって、基本的な測定であれば単体で全ての機能を賄うことができます。そのため、従来のように、雨除けのために別途用意した屋外ボックスに測定器や様々な周辺機器を収納する必要はありません。条件が整えば測定器単体を屋外に設置できるため、これまで電源確保や防水対応が課題だった公園や緑地帯などでも、測定地点の確保が容易になります。
防水化する上で最も課題となったのは熱の問題です。防水性能を実現するためにファンレスとしたため、測定器の筐体内部は完全に密閉された状態になります。すると、内部の電子機器が発する熱が外部に逃げず、内部温度がどんどん上昇してしまいます。そこで本測定器では、内部構造を工夫することで、内部の熱が底面のヒートシンクから効率的に排熱されるように設計しています(図2a)。これによって、内部温度の上昇を防ぎつつも防水化を実現しています。直射日光さえ避ければ、気温30度以上の猛暑日でも問題なく動作させ続けることができます。
なお、セキュリティや直射日光に対しては別途対策が必要になります。関係者以外が自由に出入りできるような環境に本測定器を設置する場合は、周囲に立ち入り禁止の養生をしたり、鍵付きのボックスに入れたりする対応が必要です。また、可能なかぎり直射日光を避けて設置することを推奨しています。どうしても避けられない場合は、付属の遮光カバーをかぶせてください。

2-2. 簡単な設置方法による作業効率化
「DL-P1」で基本的な航空機騒音測定を行うために設置が必要なものは、測定器本体と、マイクロホンや航空機電波受信用アンテナを立てるためのセンサースタンドです。センサースタンドにはマルチボックスを取り付けます。マルチボックスは航空機電波解析機能やGPSによる精確な時刻同期機能を有しており、センサースタンド上の全てのセンサーをこのマルチボックスに接続します。そして、測定器とこのマルチボックスを一本のマルチケーブルで接続することで、主な設置作業は終了となります。あとは測定器本体にACアダプタを接続して電源供給し、電源スイッチを入れることで自動的に測定が開始します(図2b)。
部品点数が少なく単純な設置方法であり、慣れていない人でも間違えることなく設置することができます。

2-3. 無線通信による遠隔操作
付属のタブレットや自身のスマートフォン、ノートPC等の端末で「DL-P1」と無線通信をすることによって、操作画面にアクセスすることができます(図2c)。測定器と無線通信をするには、測定器に貼付されたWi-Fi QRコードを端末で読み込むことで、簡単に接続することが可能です。測定器と接続をしたら、10m程度離れた場所からでも測定器を画面から操作することができます。測定器から離れた場所にセンサースタンドを設置した場合でも、スタンドの傍で画面操作をすることができますし、屋上の縁などの危険な場所に設置したとしても、離れた安全な場所から操作できます。

測定器の操作画面から行うことができる操作の一部をご紹介します。
騒音計の校正
- 「騒音計校正」画面で、校正作業を行えます。
- 「校正モード」をONにすることで、外部校正器による校正が行えます。
- 内部基準信号による感度補正レベルの確認が行えます。
- センサースタンドの傍でタブレットの画面を操作しながら、校正作業を行うことができます。
- 「校正モード」がOFFの状態で内部基準信号を出力することで、信号の録音が行えます。録音ボリュームの調整等に使用できます。

測定条件の設定
- 「各種設定」画面で、細かい条件設定を行うことができます。
- 測定地点ごとの設定内容をプリセットとして保存できます。複数地点での巡回測定時も、適切な設定をすぐに呼び出すことができます。
- 「測定情報」画面で、現在の騒音レベルや航空機電波の取得状況を確認できます。
- 騒音レベルが記録閾値を超過した場合等には、その情報が分かりやすく表示されます。
- 「データ表示」画面では、リアルタイムに変動する騒音レベル波形や、航空機の高度の変化等が確認できます。
- 検出された騒音の一覧が表示され、それに付与された情報の確認や、音声の再生を行えます。
- 過去の測定日における測定データも同様に確認することができます。

測定状況の確認
- 「測定情報」画面で、現在の騒音レベルや航空機電波の取得状況を確認できます。
- 騒音レベルが記録閾値を超過した場合等には、その情報が分かりやすく表示されます。
- 「データ表示」画面では、リアルタイムに変動する騒音レベル波形や、航空機の高度の変化等が確認できます。
- 検出された騒音の一覧が表示され、それに付与された情報の確認や、音声の再生を行えます。
- 過去の測定日における測定データも同様に確認することができます。

測定データの回収
- 「記録データ」画面では、カレンダー上に日毎のデータの記録状況が表示されます。
- 任意の期間と任意のデータを選択することで、選択したデータを操作できます。
- 「ダウンロード」によって、選択したデータファイルを操作端末にzipファイルとしてダウンロードできます。
- 「バックアップ」によって、測定器本体に接続したUSBストレージに、選択したデータファイルをコピーできます。
- 「各種設定」画面で「データファイルバックアップ」を有効にすることで、USBストレージへのデータコピーを日跨ぎ時に自動的に実行することができます。測定開始時にこの設定をしておくことでスムーズなデータ回収ができます。

3. 騒音測定をアシストする機能
騒音測定を補助するために以下の機能を備えています。
- 電波による航空機騒音識別
- 弊社サブシステムへの対応
3-1. 電波による航空機騒音識別
「DL-P1」の測定には、従来のDLシリーズから続く、「航空機騒音を取り逃さない」という理念を継承しています。測定期間中に発生する全ての騒音を記録し、後から航空機の発する電波の情報と合わせることによって、それらの騒音の中から航空機によるものだけを抽出します。さらに、航空機の発する電波の情報から、航空機の高度や機体識別番号などを解析し、騒音情報に付与することができます(図3a)。

本測定器では、上述した従来からの電波解析技術がさらに向上しています。従来の解析手法では、受信した電波に含まれる情報が航空機の高度に関する情報なのか、航空機の識別番号に関する情報なのか、見分けがつかない場合がありました。そのため、本当は高度である情報を識別番号として解析したり、本当は識別番号である情報を高度として解析したりしてしまう場合があり、間違った情報を騒音に付与してしまうこともまれに発生していました。さらに、携帯電話基地局等からの航空機以外の電波が大量に受信されたときや、複数の航空機が錯綜して飛行したときなどには、さらに誤検出が増大していました。本測定器では、弊社独自の新しい電波解析手法によって、そういった誤検出が激減しています(図3b)。測定環境によって検出の精度は異なりますが、通常の質問電波パターンを出力している空港の測定であれば、ほとんど誤検出をすることはありません。

また新たな機能として、「優先高度範囲」の設定ができるようになっています。騒音情報に付与する航空機電波情報について、優先的に付与する航空機の高度範囲を指定できます(図3c)。これによって、異なる空港の航空機が複数錯綜するような測定地点において、狙った航空機の情報を優先的に騒音情報に付与することができます。この機能は、上述した新たな電波解析手法によって、機体ごとに正しい識別番号と高度変化を解析できるようになったことにより実現できた機能です。

3-2. 弊社サブシステムへの対応
「DL-P1」は、弊社の様々なサブシステムに対応しています。航空機騒音測定で生じる多様で高度な需要に応え、痒い所に手が届くような製品を揃えています。対応するサブシステムには以下のようなものがあります
音源探査識別装置(DL-SBM, SD-100)
- 音源ごとの到来方向を算出できます。
- かぶり音の有無の判定や音源ごとの寄与度を測定できます。
- 地上音の運用判定などにも使用できます。

低周波音自動測定装置(DL-101/M)
- 回転翼機やプロペラ機が発する低周波音を測定します。
- 音響解析と統計解析を組み合わせた自動機種判定を行えます。

機種判別・航路逸脱監視装置(SoundLapse)
- 高感度・高解像度のカメラで静止画を連続記録します。
- 航空機の機種や経路の判別を行えます。

4. 外部ネットワークへの接続
ネットワーク接続に関する以下の特徴を備えています。
- モバイル通信機能による遠隔通信
- 弊社データ分析システムとの通信
4-1. モバイル通信機能による遠隔通信
「DL-P1」は単体でモバイル通信機能を持っています。別途モバイルルータを用意する必要はありません。オプション品である専用のモバイル通信アンテナを取り付けることで、外部のネットワークに接続することができます(図4a)。測定器にデフォルトで接続されているSIMカードは、弊社で開通手続きを取ることで、インターネット閉域網を介して弊社の社内ネットワークに接続されます。それによって、 弊社にて、測定期間中の測定器の連続動作監視や、データの回収・提供、データ分析、リアルタイム分析結果の提供などの業務を承ることもできます。これらの弊社のネットワークを使ったサービスはオプション対応となっております。
また、お客様自身で契約したSIMカードを本測定器に接続することで、測定器をお客様のネットワークに接続することもできます。その際は測定器の設定変更作業やお客様の通信環境のセットアップ等が必要になります。それらの作業についても弊社にてサポートさせていただきますので、お気軽にご相談ください。

4-2. 弊社データ分析システムとの通信
4-1に書いた通り、「DL-P1」はデフォルトで接続されたSIMカードによって、弊社のネットワークに接続することができます。そして、弊社の提供するデータ分析システムにて、測定器の死活監視やデータの回収、分析を行うことができます。また、弊社のクラウド型航空機騒音データ分析システム「Airise」であれば、お客様のネットワーク環境からこの分析システムを操作することができます(図4b)。
「Airise」などのデータ分析システムと本測定器を通信することで、全ての測定データをリアルタイムに回収できることも、本測定器の大きな特徴です。リアルタイムデータ回収には、Message Queueを使用した信頼性の高い通信を行うため、通信中のデータ欠損の心配はありません。このリアルタイムデータ回収によって、複数の測定地点における現在の測定情報をまとめて表示したり、後述する航空機の現在位置をマップ上に表示したりといった高度なモニタリングを行うことができます。

さらに、弊社のデータ分析システムは多彩なデータ分析環境を提供します。様々な測定情報を表示した使いやすい航空機騒音判定画面(図4c)の提供や、判定作業の省力化を実現する、機械学習による自動判定機能や寄与度分析機能、さらには運航実績との照合や、最終的な帳票の出力等を行えます。

5. 航跡データ測定
航跡データに関する以下の項目を実現しています。
- リアルタイムADS-B航空機位置表示
- PSSR, MLAT手法による航跡算出
5-1. リアルタイムADS-B航空機位置表示
「DL-P1」は航跡算出用の航空機電波情報データを取得し、記録することができます。航跡算出を行うためには、マイクロ秒以下の高い分解能で、精確な時刻を紐づけた航空機電波情報が必要になります。そのような高度な電波測定が行えるようになったのは、弊社の可搬型の測定器では本測定器が初めてになります。それによって、測定器単体でADS-B(放送型自動従属監視)による航空機の位置座標を算出することができます。本測定器の「航空機位置表示」画面では、マップ上に周囲の航空機の現在位置や直近の航路が表示されます(図5a)。設置時や撤収時の航空機の接近タイミングや、直近に飛行した航空機の確認にご使用いただけます。

5-2. PSSR, MLAT手法による航跡算出
特に軍用飛行場では、ADS-Bによる航空機の位置座標の出力を行っていない航空機が多く飛行します。そういった航空機の位置測位や航跡の算出をする手法にPSSRやMLATといったものがあります(図5b)。「DL-P1」はそのどちらの手法にも対応しています。従来は、PSSRやMLATによる計算を行う場合、騒音測定装置に加えて別途、航跡算出用のデータを取得できる専用の装置を設置する必要がありました。「DL-P1」は、航空機騒音測定と航跡算出用データの測定を両方同時に行うことができます。可搬型器であるため、調査や仮測定といった一時的な航跡測定への利用ができます。

PSSRやMLATの計算は「Airise」等のデータ分析システムで行います。「DL-P1」は航跡算出用データもリアルタイムに送信することができます。そのため、データ分析システムでデータの回収をし、即座にPSSRやMLATによる航空機位置座標の計算を行うことで、マップ上にPSSRやMLATの計算による航空機の位置をリアルタイムに表示することができます。また、一定期間に測定したデータから、航空機ごとの航跡を描画することができます(図5c)。

6. おわりに
「DL-P1」は、基本の航空機騒音測定に加え、航跡用データ測定などの高度な機能を多彩に盛り込んでおります。その上で、防水・防滴性能やモバイル通信機能によって、これ一台であらゆる測定状況に対応できる製品となっております。弊社では、単なる測定器の販売だけでなく、周辺のシステムを含めたあらゆるサポートを承っております。従来の測定器の更新をご検討されている方や、新たに弊社システムに興味を持たれた方は是非ご相談ください。