1. はじめに
近年、製造現場においては、生産性の維持・向上とともに、敷地境界における騒音規制基準の遵守が重要視されています。一般的に、工場の騒音対策においては、対象機器を完全に密閉すれば高い遮音効果が得られますが、多くの回転機器(送風機、コンプレッサー等)では排熱のための通気確保が必要となり、「遮音」と「通気」の両立が技術的なハードルとなります。
一方で、今回対象とした屋外設置のポンプ類(原水ポンプ、前処置ポンプ等)においては、排熱の制約は比較的小さいものの、配管を含む複雑な形状、敷地境界に面した位置に設置されていることによる高い寄与、さらには暗騒音が極めて低く、わずかな異音でも目立ちやすい環境であることによる対策の難しさが課題となりました。
本事例では、工場敷地境界に隣接する民家への影響低減を目標とし、当社の解析技術と対策工事を一貫して適用しました。
独自のシミュレーションにより複雑な音の伝搬経路を可視化しそれぞれの寄与を推定することで、対策価値の高い対策検討を導き出したプロセスについて報告します。
2. 現状調査と解析手法
2.1. 課題の可視化
対象となる工場は複数の音源が存在し、かつ民家との距離が近接しているため、どの設備が主要な騒音源であるかの特定が困難な状況にありました。そこで、当社では現状の騒音レベル測定に加え、高度なシミュレーション技術を用いた解析を実施しました。

図 幾何音響モデルの例
2.2. 幾何音響シミュレーションの活用
解析には幾何音響シミュレーションソフト「GEONOISE」を採用しました。一般的に、幾何音響モデルでは波動音響モデルと比較すると波動の厳密な挙動を簡易化するため計算コストが低く、限られた業務時間の中で多種の検討を行えるメリットがある一方、音の回折の再現に弱点があります。当モデルの特徴は、音の反射・回折・距離減衰を3次元モデル上で実用上十分な精度で計算できる点にあります。
図 実測とシミュレーション結果(日中)
表 評価点に伝搬する騒音源の寄与推定(日中)
※単位はdB、網掛は夜間停止設備
本プロジェクトにおける当社独自の取り組みとして、「音源別の伝搬経路の可視化」を行いました。単に音の大きさ(音圧レベル)を示すだけでなく、民家到達音に対して「どの設備の音が」「どのルート(直接音か、反射音か)を通って」寄与しているかを色分けして表示することで、対策すべき設備に焦点を当てて検討が可能となります。
3. 対策の立案と施工
3.1. 解析に基づく対策プランの策定
シミュレーションの結果を表に示します。ポンプ(①②)と設備(⑨)の寄与が高いことが確認できます。したがって、これらの設備への対策が最も効果があると推定されます。これら全てに対策を施した場合、敷地境界における日中騒音レベルを現状の 56dB から 51dB まで、約5dB低減可能であることが試算されました。
この定量的データに基づき、当社は顧客に対して「全対策案」と「優先順位をつけた部分対策案」を提示しました。協議の結果、今回は費用対効果と施工の緊急性を鑑み、寄与の高いポンプに対する防音カバーの設置を先行して実施することとなりました。
図 対策前後のシミュレーション結果比較(日中)
この定量的データに基づき、当社は顧客に対して「全対策案」と「優先順位をつけた部分対策案」を提示しました。協議の結果、今回は費用対効果と施工の緊急性を鑑み、寄与の高
いポンプに対する防音カバーの設置を先行して実施することとなりました。
図 ①原水ポンプ防音カバー
3.2. 施工の実施
選定された対策案に基づき、ヒビノサンオー株式会社と協業して防音カバーの設計・施工を行いました。
検討段階から対策後までの間で工場敷地内に新工場の建設等により敷地内環境が大きく変化したため、単純な前後比較は困難となりましたが、設備近傍で簡易測定を実施したところ、①原水ポンプでは騒音レベル7dBの低減、②前処置ポンプでは騒音レベル5dBの低減が確認されました。なお、この測定値は環境騒音等の影響を含んだ値となります。
図 ②前処置ポンプ防音カバー
4. おわりに
当社は、高度な解析技術による原因究明から、その結果に基づいた確実な施工までをワンストップで提供することで、お客様の課題解決とコスト最適化に貢献してまいります。今後も残存する音源に対する追加対策のロードマップを共有し、環境改善をサポートしていく所存です。

