-真耳Onlineアップデートのご紹介-

1. はじめに

当社は1980年代に聴能形成専用システム「真耳」を開発し、教育機関・オーディオメーカー・自動車メーカーにおける様々な音感トレーニングで活用されてきました[1]。2019年に真耳Onlineのサービスを開始してからは受講者の訓練データが蓄積されており、2022年にリリースした聴能力レーティング機能[2]により算出された約3300名(2026年2月現在)の「聴」能力分布が公開されています(図1)。受講者の自己分析に役立つだけでなく、運営側の我々もこのデータに基づき、訓練カリキュラムの難度を調整しています。オンライン化は「真耳」におけるパラダイムシフトでしたが、今回紹介する新機能「聴くナビ」は聴能形成そのもののパラダイムシフトを予見させる新たなトレーニング支援機能です。現時点ではまだβ版をリリースしたばかりですが、そのポテンシャルを紹介したいと思います。

2. 「ここが変化するのか!」が訓練効果を上げる

「聴くナビ」では真耳Onlineに登場する主な音響エフェクトに対し、受講者が自由にパラメータを変更できます。変更したパラメータに連動して、音がリアルタイムに変わっていきます。「250Hzを変えるとスネアドラムの音が変わったな」というような使い方ができるようになりました。

61news2_01.png図1 聴能力レーティング

当社でもこの「聴くナビ」を新人研修時に活用したところ、「1kHzと2kHzの聴き分けのポイントがわかった!」という感想があり、コツをつかんだ受講者はその後の訓練でも高い正答率を出しました。我々が想像していた以上に訓練効果は大きく、是非皆様にご利用いただきたいです。

3. 聴能形成の課題、「音源問題」を解決させる

61news2_02.png図2 「聴くナビ」で変わる音感トレーニング

真耳Onlineには様々なトレーニングコンテンツがありますが、そこで使用される音源はすべて当社が権利を所有しているまたは許諾を得ている音源です。裏を返せば、好きな音源で訓練ができなかったとも言えます。ユーザーの皆様からも「普段リファレンスにしているあの曲で訓練がしたい」「真耳Onlineにはないジャンルの音源で訓練がしたい」と要望をいただいていました。そこで、我々が配信するのではなく、ユーザーの皆様の端末上で再生すればよいと考えました。それを実現するには、皆様の端末上でのリアルタイム音響処理が必要でしたが、今回「聴くナビ」がそれを解決したのです。
真耳Onlineで訓練した、「周波数山付け」や「周波数谷付け」「ローカット」「ハイカット」を任意の音源で体験できます。

もちろん、真耳Online で利用されている音源も自由に試せますので、苦手にしていた音源の聴きどころを見つけるのに役立ちます。さらに、楽曲によっては楽器やパートごとに分割された音で訓練できます。「500Hzはギターの音色に着目したらいい」と言われたものの、ギターの音が聴き取れない、そんなこともあるかと思います。「聴くナビ」ではギターだけの音、ドラムだけの音を聴くことができます。これにより、音響変化を与えた場合にどのパートがどのパラメータで変化するのかが簡単にわかります。その際、フェーダーの下に表示される周波数特性のバーも聴き分けのヒントになりますのでより音の理解が深まる仕組みになっています(図2)。

4. 「音を聴く力」→「音をつくる力」へ

これまで、真耳Online では音を聴いて、音の違いについて答える訓練がメインでした。音の違いがわかり、どこに違いがあるのかを認識・説明する力は音を扱ううえでの基本的な力になります。その力により、音の共有が容易になったり、音の問題解決の糸口を見つけやすくなったりするのです。
一方で、受講者自身が音の物理パラメータを変化させて、音を作りこんでいく訓練もあります[3]。どんな訓練かというと、ある音Aをあらかじめ用意された音Bに近づけるというタスクをこなしていきます。受講者は「聴くナビ」を使って音Aを変化させながら、音Bと聴き比べて両者を近づけていきます。いかに素早く音を調整できるかを鍛える訓練です。

音を扱う技術者は、この訓練のように、素早く状況に応じて音響調整することが求められるケースが多く、実践的な訓練であるといえます。
また、例えば「レトロな音」など課題を与えられて、その課題に適する音を作り込んでいくようなワークショップ形式の訓練も可能です。初学者は熟練者の設定パラメータと自身の設定パラメータの違いから音作りのポイントを学んでいけるのではないかと考えています。
これまでの真耳Onlineでは前者の「音を聴く力」を養う静的な訓練がメインでしたが、今回紹介した「聴くナビ」を発展させて「音を調整する力・音をつくる力」を養う動的な訓練も実現可能です。β版の段階からすでに様々な訓練の要望をいただいており、構想を練っております。今から完成が楽しみです。

61news2_03.png図3 これからの真耳Online

5. おわりに

音感トレーニングはそのニーズの変化だけでなく、時代のテクノロジーとともに形を変えていきます。40年以上の歴史を誇る「真耳」も例外ではありません。近年はインターネット接続によるオンライン化、さらにブラウザ上でのリアルタイム信号処理により、トレーニングの幅は大きく広がりました。これからもテクノロジーの進化とともに、より多くの皆様の期待にお応えしていけると実感しています。今後は、蓄積された訓練データを活用して、個人や特定の組織にカスタマイズした訓練も可能になるのではないかと考えています。
真耳Online はいつ始めてもベストタイミングです。ぜひこの機にお試しください。

参考資料

[ 1 ] 北 村音壱,佐々木實( 監修),岩宮眞一郎,大橋心耳( 編),"音の感性を育てる 聴能形成の理論と実際",音楽之友社, 1996.
[ 2 ] 森尾 謙一,潮田 初音,藤原 賢,聴能形成における能力判定方法の検討 ‐ 真耳Online へのレーティングシステム導入-,
日本音響学会春季講演論文集,3-10-12,pp5-8,2022.
[ 3 ] Jason Corey," Audio Production and Critical Listening: Technical Ear Training" Audio Engineering Society, 2010

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