NOE技術ニュース

建築音響・騒音対策の設計・施工事例と音響技術に関する情報を発信しています。

発行日:2025年04月09日 | 更新日:2025年04月10日

MA-4の全景。メインスピーカーにはGENELEC S360が採用されました。サブウーファーが鳴っていない状態でも低域がしっかりと聴こえるというのが採用理由。その低域の解像度を良くするための室内調整も行われています。


TBSグループ12社の合併により2021年4月に誕生したTBSアクト。テレビ放送を中心に映像制作に関連する、技術、美術、CGなどあらゆる業務を担う日本最大級の総合プロダクションです。2025年2月、同社はDolby Atmos Homeに対応したMAスタジオを2部屋、新たに運用開始しました。

時代のニーズに対応した仕様

同社の持つ3つのポスプロ拠点の内、赤坂パークビルですでに稼働していた3つのMAスタジオに続き「MA-4」「MA-5」と名付けられた新MAスタジオ。
以前は編集室が3部屋あった場所に改築する形で作られました。その経緯を、TBSアクト ポスプロ本部 MA部 部長の小田嶋洋氏はこう語ります。

TBSアクトの小田嶋洋氏

「3つの拠点の内1つが建物の老朽化もあり閉鎖されることになったため、代わりとなるスタジオを新しく作ることになったのです。日本音響エンジニアリングとは長いお付き合いで、現有のMAスタジオもいくつか手掛けていただいていますので今回もお願いする事にしました。

近年、地上波やBSなどの放送に加え、Amazon Prime VideoやNetflixといったプラットフォームでの配信も増えてきています。こうした配信プラットフォームでは、通常のステレオに加え、イマーシブオーディオへの対応を求められるケースがあり、われわれもそれが作品の付加価値を高めるものであると認識していますので、Dolby Atmos Homeに対応したスタジオにしようと考えたのです」

MA-4はMA-5よりも大きめの作りになっています。この狙いについてTBSアクト ポスプロ本部 MA部の真嶋祐司氏に聞きました。

TBSアクトの真嶋祐司氏

「MA-4は主にテレビドラマの作業に使うことを想定しています。通常テレビドラマの作業では、コンソールの前にミキサーがいて、1つ後ろのテーブルに効果音や選曲を担当する方が座ってフェーダーでレベルを取り、さらに後ろに監督やプロデューサーがソファに座ることが多いので、ある程度の広さが必要になってきます」

MA-4よりも小ぶりな作りのMA-5、小規模なMA作業や、サラウンドの事前作業を想定したつくりになっている。

「MA-5の方はそれよりも少人数で行える作業、例えば効果音や曲はデータだけ預かっておいて、ミキサーが1人でミキシングをするような作業に使用することを想定しています」

工事の進行について日本音響エンジニアリングの中西祐太はこう振り返ります。

日本音響エンジニアリングの中西祐太

「隣接するスタジオが稼働している中で工事を進めるため、遮音層工事までは夜間に行いました。夜間の時間帯であってもテレビ番組の制作が行われているので隣接するスタジオはまったく稼働していないという状況ではなく、ご配慮いただきながら進めさせていただきました」

MA-4のブース。コントロールルームとはカメラを通じてコミュニケーションをとります

建築音響の重要性

音響的には、Dolby Atmos Homeに対応させるということもあり「定位が分かりやすいこと」が重視されました。音響調整の進め方について日本音響エンジニアリングの宮崎雄一はこう話します。

日本音響エンジニアリングの宮崎雄一

「われわれは、電気的な調整を行う前に可能な限りアコースティックな部分で調整します。こちらはセリフを扱う作業が多いとのことで、まずはセンター、フロントチャンネルの音作りについて共通認識ができるまで時間をかけ、部屋の形状に合わせ、スピーカー設置方法から始まり、吸音や反射の調整を行いました」

音響調整について、同じく日本音響エンジニアリングの崎山安洋が続けます。

日本音響エンジニアリングの崎山安洋

「アコースティックの調整には時間がかかりますが、しっかり行うと音の細かい部分までが見えてきます。そうすると現場で収録された音がより自然に聴こえるので、ミキサーの方はそれをオンエアで伝えるためにどういう音作りをすれば良いのかが判断しやすくなる。それが作品の出来にかかわってくると思います」

この点について前出の真嶋氏も同意します。

「音響調整に立ち会わせていただいたのですが、建築的な調整により、だんだん音が良くなっていく、ディテールが出てくるのがはっきりと分かりました。調整前と調整後とで音が全然変わったので、その過程を見られたのは貴重な体験でした」

使い勝手を向上させるための工夫

Dolby Atmos Homeへ対応しながら居住性を確保する工夫もされています。日本音響エンジニアリングの重冨千佳子に聞きました。

日本音響エンジニアリングの重冨千佳子

「サラウンドのスピーカー配置で必ずと言っていいほど突き当たる問題ですが、後方のドアや、クライアントの方が座る場所の近くにリアスピーカーが来てしまうため、リアスピーカーは可動式にしてあります。スピーカー配置が変わる5.1chと7.1.4chとでそれぞれ適切な位置の床にボルトで固定できるようになっており、2ch作業の場合は壁の凹みに収納できるようにしています」

可動式のリアスピーカー。左から、不使用時(壁に収納)、5.1chの位置(120°)、7.1.4chの位置(145°)

また、家具にも工夫が凝らされています。前出の真嶋氏によると「コンソールのデスクをフラットにした」とのこと。

「コンソールはAvid S6を導入しました。弊社ではすでにS6を6式使っていて使用頻度が高いのですが、傾斜がついていると作業しづらいという意見があり、傾斜をデスクの中に埋め込む形でフラットにしていただきました。また、スピーカーの見通しを良くするため、ディスプレイを下げた位置に設置できるようデスクに段差を付けていただいています」

コンソールの傾斜を埋め込み、フラットに使えるデスク。ディスプレイを低い位置に設置できるよう段差も付けられています

家具の設計を担当した重冨も「エンジニアの皆さんの使い勝手を細かく教えていただき、私も新たな発見がありました」と明かしてくれました。

今回のスタジオ作りをプロジェクトマネージャーという形で見てこられたTBSアクト ポスプロ本部 メディアコネクト部の山下諒氏は「期待通りの出来」と語ります。

TBSアクトの山下諒氏

「私もかつてはミキサーとして働いていて、旧社時代から日本音響エンジニアリングとは何度もご一緒していますが、今回もいつも通りの素晴らしい仕上がりで、大変満足しています」

新しいMAスタジオから生み出されるTBSのドラマやバラエティの音が楽しみです。

インタビューに答えてくださった皆さん。後列左から、日本音響エンジニアリングの中西祐太、宮崎雄一、崎山安洋、重冨千佳子。前列左から、TBSアクトの小田嶋洋氏、真嶋祐司氏、山下諒氏

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