技術ニュース

発行日:2022年09月08日 | 更新日:2023年05月10日


自分はどのくらい音が聴き分けられているのか?
音感トレーニングを体験してみたい、自分の能力を知りたい、そんなお客様の声に応えて、オンラインで体験できるセミナーを開催しました。題材は、電気自動車の登場で今注目を浴びている、「自動車走行音」。音の違いの解説を交えたトレーニングと能力判定までをご紹介します。

エンジニアの秘かな悩み?

内燃機関から電気自動車への移行や車外騒音規制の厳格化により、低騒音化の取組みとして部品や材料の開発は増々進んでいます。一方で、エンジニアは実際に乗員として車両に乗り、自身の耳で確認するといった機会は年々減少し、「聴感でどれくらいの効果があるのだろうか?」と疑問に思う方もいらっしゃるとお聞きしております。

聴き分け能力判定会をウェビナー方式で開催

そこで、去る2022年6月23日・30日に、自動車走行音の聴き分け能力判定会をウェビナー方式で開催いたしました。本判定会はご案内当日中に満席となるほど反響をいただき、完成車から部品、材料領域のエンジニアの方々まで多数参加頂きました。業務では振動騒音の知識や数値目標こそ理解しているが、自身の耳はどこまでついていっているか?とご自身の聴く力を試したいとお感じの方や、業務上必要となる音での耳トレとはどういったものかを体験したい方など、さまざまな動機で判定会にご参加いただいたようです。

クイズ形式で能力判定

今回は自動車走行音として、近年の電動化に伴い注目が集まるロードノイズに焦点をあてました。チャレンジ頂いたコンテンツは3つ。
(1) ロードノイズの音圧レベル差
(2) バンドパスノイズ
(3) ロードノイズにて強調された周波数
これらは音の3要素でいう、大きさ、高さ、音色に相当します。これら3つのコンテンツををクイズ形式で能力判定しました。

(1)のロードノイズの音圧レベル差当てクイズの場合、音圧レベルの異なるロードノイズが2回再生された後、2回目の音が1回目の音と比べて何dB違うか?を回答します。回答は参加者ご自身のスマホやPCのブラウザからログインした真耳Onlineに入力いただきました。設問ごとに、答え合わせが行われ、正解・おしい・不正解が自身のブラウザ上に表示されます(正誤フィードバック機能)。このフィードバックを見ながら設問の度に自分の耳を補正していくことができ、クイズ中にも聴く力が向上していく仕組みになっています。

このクイズでは、選択肢として±6、±4、±2、0dBの7択を用意しました。”+6dB”は音の振幅が2倍であることを意味しますが、著者は今回この選択肢の中で重要な数値は”2dB”だと考えています。これは、”2dB”が車外騒音規制でフェーズごとの低減目標となっているためです。本判定会において、聴き分ける能力は勿論のこと、2dBの「相場感」もご体験いただけたのではないでしょうか?

振動騒音の各現象と聴感の突合せ

(3)のロードノイズの音色変化当てクイズでは、あるロードノイズに対し、強調された周波数帯域を当てます。ある特定の周波数帯域が強調されると音色の変化として感じるものです。エンジニアとして、気づいた音色の違いを相手に伝えて音場を改善していくためには、どの周波数帯域が変わったかを相手に伝える必要があります。製品開発につながる聴き分け能力の総合力判断として、ふさわしいコンテンツと言えるのではないでしょうか?

本クイズの音色変化の選択肢は、振動騒音の現象別に分けられています。音色の違いを弁別し、物理量としての周波数を知覚し、そして現象と突き合わせること、例えば「250Hzで音色が変わっていたから、タイヤ気柱共鳴ではないか?」と判断できる能力を身に着けることが目標です。ロードノイズの大小だけではなく、寄与している周波数と現象を突合せられることは、静粛性の追求だけではなく、これからの車室内空間を創造するニーズにも必要な能力ではないでしょうか。

気になる能力判定結果は?

判定結果は、クイズの正答率と新機能のレーティングの2つで表示されます。正答率はレーダーチャートで表され、それぞれの訓練要素について、およそ80%を安定して出せることがクリア条件の目安となっています。一方レーティングでは、ある集団の中での自分の能力位置が分かります。レーティングは正答率だけではなく、難易度にも影響されますので、レーティングで高い点数をとるためには、易しいコンテンツで高い正答率だけではなく、難しいコンテンツでも安定した正答率を維持することが必要です。これらの結果を見ることで、受講者の聴き分け能力の絶対値と相対値を判定することができます。

因みに筆者は音圧レベル差は、ほぼ「おしい」の連発で正答率は50%未満。周波数と音色は90%以上でした。約1年ぶりのブランクがありましたが、難度の高い音色の弁別ができていたことに安堵し、「錆びない能力」の実感と維持の必要性を改めて思った機会になりました。

復習もしましょう

本判定会は能力判定だけでは終わりません。復習もできます。「どこで間違えたのか?」自身の弱点も分かりますので、同じクイズを繰り返し行うのではなく、スキマ時間にさまざまなコンテンツをしっかり復習して補っていくことができます。

真耳Onlineの応用

今回の能力判定は、web会議システムと「真耳Online」を組み合わせたシステムで運営しました。web会議システムにてクイズと音出しを行い、クラウド上の真耳Onlineで回答の集計と分析を行う仕組みです。リモートワークが主流となった現在、離れた拠点でも開催でき、自宅や自席から参加できることは、訓練を継続していくうえで必須事項となりつつあります。「耳で確かめる」機会は減少しても、音のニーズは減少しません。本判定会が今後の聴感能力の維持と向上のきっかけとなれば幸いです。

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