マイクロホン移動装置MTシリーズと PUプローブを用いた測定について

システム事業部 中川 博,関藤 大樹

1. はじめに

音(音波)は空気の粗密の伝搬であり、「音圧」と「粒子速度」の2つの側面があります。粒子速度というのは、図1のような空気の粗密における空気分子の振動速度であり、いわゆる音速(位相速度)とは異なります。

図1 音波の伝搬イメージ(粗密波)
図1 音波の伝搬イメージ(粗密波)

粒子速度が測定できると様々な音響パラメータが算出できるようになります。特に音圧と粒子速度を同じ場所で同時に測定することで、音圧と粒子速度の積から音響インテンシティが算出できますし、音圧と粒子速度の比から音響インピーダンスが算出できます。このようなパラメータはこれまで、1本ないしは2本のマイクロホンを用いて測定した音圧情報から様々な信号処理により求めていましたが、粒子速度が直接測定できれば非常に簡単な演算で求められます。

音圧はマイクロホンを用いて測定を行いますが、粒子速度は直接測定することが困難だったため、これまではマイクロホンを2本組み合わせる(音響インテンシティプローブ)ことで測定を行っておりました。近年、オランダのMicroflown社が粒子速度を測定するセンサーを開発しており、このセンサーを用いることで容易に粒子速度を直接測定することができるようになりました。

2. PUプローブ

PUプローブとは、音圧と粒子速度を同時に測定できるセンサーのことです。写真1はPUプローブの拡大写真で、左のセンサーが1軸、右は3軸の粒子速度を同時に測定することのできるセンサーです。例えば、左のセンサーを吸音材料の近傍に置き(粒子速度には方向があるため、向きには細心の注意が必要)、遠くから音を出して音圧と粒子速度を測定してその比を取れば、材料の音響インピーダンスを求めることができますし、右のセンサーを騒音源の近くに置いて測定すれば、騒音源からの放射音の3次元の音響インテンシティを測定することができます。

写真1 PUプローブ(1軸) 写真1 PUプローブ(3軸)
写真1 PUプローブ(左:1軸、右:3軸)

このように、PUプローブは音響計測の幅を大きく広げる可能性を持つセンサーといえるでしょう。ただし、まだ発展途上のセンサーゆえ、粒子速度の校正方法など、精密な測定を行うには検討すべき課題もあります。

3. PUプローブを使ったアプリケーション

方向に依存する粒子速度を測定するセンサーが含まれますので、PUプローブの位置及び方向は厳密に管理しなければ測定結果に大きな誤差を含むことになります。我々はこれまでにもマイクロホン移動装置(MTシリーズ)を用いた自動測定をご提案してきており、今回ご紹介する測定例でも全てMTシリーズを使って精度を確保しています。PUプローブを使ったアプリケーションでは、MTシリーズを使った自動測定が必須と言っても過言ではありません。MTシリーズには様々なタイプがあり、様々なシチュエーションで効率的な測定を行うことが出来るシステムをご提案致します。

写真2 マイクロホン移動装置とPUプローブを使った測定
写真2 マイクロホン移動装置とPUプローブを使った測定

4. 測定例

それでは、PUプローブを用いた測定例をいくつかご紹介いたします。なお、音響インピーダンスの計測(吸音率の計測)に関しては、技術ニュース第26号で詳しくご紹介しておりますので、紙面の都合上割愛させて頂きます。

4.1 振動速度測定

材料が振動しているとき、材料のごく近傍の粒子速度は材料の振動速度と一致することが知られています。

写真3は、1000mm×700mm、厚さ3mmのアルミ板を周辺固定した状態で、板のほぼ中央で加速度ピックアップとPUプローブを同一点に設置して測定した時の振動速度レベルを比較したものです。(加速度ピックアップで測定したものは、1/ω倍して速度の次元に変換しています。)

測定結果を図2に示します。両者は非常によく一致しています。このように、近接して粒子速度を測定することで、非接触で振動速度を測定することができますので、ピックアップを取付けることで振動の形態が変わるような軽い(薄い)ものの測定や、マイクロホン移動装置などの装置と組み合わせた多点測定から振動分布を求めることができます。

写真3 加速度ピックアップ 写真3 PUプローブ
写真3 加速度ピックアップ(左)とPUプローブ

図2 両センサーでの振動速度レベルの比較
図2 両センサーでの振動速度レベルの比較

4.2 音響インテンシティ測定

写真1右の3軸のPUプローブを用いて、4.1でご紹介したアルミ板近傍を3cm間隔で約700点測定した時の平均粒子速度レベル(図3)とその中の代表的なピーク周波数〔(1,3)モードと(3,3)モード〕における音響インテンシティレベル分布(図4)、音響インテンシティベクトルマップ(図5)を示します。図4から、近傍での音響インテンシティレベル分布が板の振動モードを見事に表しているのが分かります。また、図5のベクトルマップでは、隣り合うモード同士の向きが逆転して音のエネルギーが遠方場に伝搬せずに滞留しているのを観察することができます。このような近接場の測定は、振動と音響放射の関係を理解し、効率的な騒音対策を実施するための大きな手がかりになります。

図3 平均粒子速度レベル
図3 平均粒子速度レベル

図4 音響インテンシティレベル分布 (1、3)モード 図4 音響インテンシティレベル分布 (3、3)モード
図4 音響インテンシティレベル分布 左:(1、3)モード、右:(3、3)モード

図5 音響インテンシティベクトルマップ (1、3)モード 図5 音響インテンシティベクトルマップ (3、3)モード
図5 音響インテンシティベクトルマップ 左:(1、3)モード、右:(3、3)モード

5. おわりに

我々は、PUプローブは新しい計測アプリケーションをご提供できる可能性を持ったセンサーであると考えております。このセンサーとマイクロホン移動装置に代表される我々独自の製品を組み合わせた様々な計測システムを構築、皆様にご提案して参ります。様々なシチュエーションで有用な知見が得られる本測定法、ぜひ当社までお問合せいただければ幸いです。