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発行日:2025年08月29日 | 更新日:2025年09月09日



音響管(音響インピーダンス管)は、材料の音響特性、特に吸音率や音響透過損失を測定するための装置です。その測定結果は騒音対策や室内音響設計、音響シミュレーションなどに活用されています。

音響管(音響インピーダンス管)による測定システムはWindowsベースのソフトウェアで制御されることが多く、それがインストールされたコンピュータは、2025年10月14日に予定されるWindows 10のサポート終了により、Windows 11への更新を余儀なくされることになりました。これを受け、近年弊社にも多くのシステム更新のご相談が寄せられており、できるだけお客様のご負担が少ない形での更新方法をご提案しています。本記事では、これらの経験を踏まえ、音響管(音響インピーダンス管)の更新時に考慮すべきことをご紹介いたします。本記事が測定システムの新規導入をご検討される際にも参考になりましたら幸いです。

OS更新は測定システム更新のタイミング!年間保守前提のシステムに注意

WindowsのOSの歴史を下記の表に振り返ってみましょう。

Windowsのバージョンと日本語版のリリース年
多くの企業が標準導入したバージョンを※で示す
バージョン 日本語版リリース年
Windows XP ※ 2001年
Windows Vista 2006年
Windows 7 ※ 2009年
Windows 8 2012年
Windows 8.1 2013年
Windows 10 2015年
Windows 11 2021年

表中、多くの企業が標準導入したバージョンを※で示しました。XPから7へのバージョンアップは、8年ほどを要しましたが、それ以降はほぼ6年ごとにOSのバージョンアップが実施されていることがわかります。サポートされていない旧版のOSを使用しつづけることは、情報セキュリティ上の観点からリスクが高く、測定システムに用いているコンピュータもサポート終了のタイミングで更新するというポリシーで運用している企業様も多くいらっしゃるかと思います。

一方で、測定システムに用いているマイクロホンをはじめとするハードウェアは、使用頻度にもよりますが、適切に保管し、校正点検を受けていれば、6年以上使用いただくことは難しくありません。では、OS更新のタイミングで必要なことは、コンピュータにインストールしている制御ソフトウェアを新しいOSに対応したものに更新するのみかというと、それが簡単ではないようです。

簡単に更新できない原因は技術的な問題ではなく、測定システムメーカーの保守契約形態にあります。音響管(音響インピーダンス管)測定自体は規格で規定されており、通常使用の範囲内においては必ずしもアップデートを要するものではなく、保守契約を締結しない場合も少なくありません。ところが、多くの測定システムは保守契約を前提とする各メーカーの汎用測定システムをベースとしているため、保守契約を締結していないお客様がOS更新のタイミングで制御ソフトウェアを更新しようとしても、汎用測定システムのための高額な保守遡及費用が請求される、というケースを耳にすることがよくあります。

このように、OS更新時には制御ソフトウェアも新しいOSに対応したものに更新する必要がありますが、各メーカーの汎用測定システムをベースとしたシステムを使用している場合には、一般的に年間保守の契約が前提となっているため保守遡及費用が必要となる場合が多いことに注意する必要があります。

音響管(音響インピーダンス管)による測定方法は規格で規定

さてここで、音響管による測定結果にメーカー間の差異はあるのかについて言及したいと思います。音響管によって測定できるのは、主に垂直入射吸音率および垂直入射透過損失ですが、その測定方法は吸音率であればJIS A 1405-2(ISO 10534-2, ASTM E1050)、垂直入射透過損失であればASTM E2611に規定されています。※記載規格は伝達関数法の場合

この規格には伝達関数法による測定方法の他、音響管(音響インピーダンス管)の断面形状や管のサイズによる測定可能周波数の範囲の設定方法が記載されています。つまり、規格自体に管のサイズは規定されておらず、測定したい周波数によって管のサイズや形状を自由に設定できるということです。

一方で、測定方法は規定されているため、管のサイズが同じであれば測定結果にメーカー間の差異はありません。Φ29の円形の音響管について、当社製および他社製の音響管による測定結果を下記の図に比較しました。点線が当社製の音響管、実線が他社製の音響管による垂直入射吸音率の測定結果です。本グラフから、両者が非常によく一致していることがわかります。

異なるメーカーのΦ29円形音響管による測定結果の比較

このように、管径が同じで適切に測定すれば音響管による測定結果にメーカー間の差異はほぼ生じません。

測定結果ばらつきは、測定の不適切さに起因するものが大きい

一般に音響管によって測定した垂直入射吸音率は安定した結果をもたらしますが、測定結果がばらつくときもあります。このばらつきは、測定の不適切さによって発生することが多いものです。ここでは、不適切な測定になりやすいポイントについてご紹介します。

①原反のムラ
音響管で測定を行う際、音響管の管径に合わせたサイズのサンプルを原反から切り出します。このとき原反にムラがあった場合、切り出した一つのサンプルがその原反を適切に代表できていないことがあります。こうした場合に測定結果のばらつきは発生します。

音響管での測定用に切り出した円柱状のサンプル

②円柱サンプル切り出し時の難しさ
音響管の断面が円状である場合、サンプルは円柱に切り出しますが、特に粘度の大きいウレタンにおいては、うまく切り出しができないとサンプルが俵型や台形になってしまうことがあります。こうした場合、音響管側面とサンプルとの間に隙間ができますので、測定結果に影響を与えることがあります。隙間を埋めるためにグリスを用いることもありますが、グリスによる側面拘束の影響も考えなければなりません。

切り出し時に俵型となってしまったサンプルの例(左が正常、右が俵型)

③試料タイプに適したカッター径ではない
特に繊維材料においては、円柱サンプルに切り出した後全体が膨らむ傾向にあります。サンプルが音響管よりも若干大きくなってしまった場合、側面拘束により測定結果に影響が出ることがあります。繊維材料の切り出し時には音響管よりも若干小さい径のカッターを使用するなどの工夫が必要です。

④測定中のサンプル設置状態の不確かさ
音響管内にサンプルを設置する際には細心の注意が必要です。意図しない背後空気層や、サンプルの詰め込みすぎなどは測定結果に影響を与えます。また、特に薄い材料においては、設置したときには問題がなくても、測定中に倒れてしまっていたということも考えられます。

このように、測定結果のばらつきは測定の不適切さに起因するものが多く、これをいかに回避しているかが各社の測定システムの違いとも言えます。

更新しやすく、測定しやすい。垂直入射吸音率測定システムWinZacMTX

以上をまとめると、音響管(音響インピーダンス管)更新の際には
⚫︎概ね6年ごとにOSバージョンアップに対応する必要がある
⚫︎各メーカーの汎用測定システムをベースにしたシステムは、多くの場合保守遡及費用が必要
⚫︎音響管の管径が同じであれば、測定結果はほぼ同じ
⚫︎測定結果のばらつきは、測定の不適切さに起因することが多い
を考慮すべきと考えられます。

当社で開発した垂直入射吸音率測定システムWinZacMTXは、長年の受託測定で、私たち自身がこのシステムを使ってきた結果をフィードバックしながら開発してきた音響管(音響インピーダンス管)測定システムです。随所に測定の不適切さを防ぐための工夫が施されています。その一つが透明のサンプルホルダです。透明のサンプルホルダにより、サンプルの設置状態が一目瞭然となるため、サンプル設置に起因する測定結果のばらつきを回避することができます。

透明のサンプルホルダ

音響管の管径ラインナップは多数とりそろえておりますので、お客様が必要とする測定対象周波数に合わせてお選びいただくことが可能です。サンプルを切り出すカッターにつきましても、長年の測定実績を基に材料に適したサイズをご提案しております。

WinZacMTXの標準音響管ラインナップ(いずれも円形)
管径 測定対応周波数
直径100 [mm] 50~1,900 [Hz]
直径40 [mm] 200~4,900 [Hz]
直径29 [mm] 350~6,800 [Hz]
直径15 [mm] 500~10,000[Hz]

また、本ソフトウェアは、年間保守契約を必要とするシステムは用いておりませんので、OS更新時に保守遡及費用が必要となることはございません。もし他社製音響管(音響インピーダンス管)システムから更新いただく場合には、既存のハードウェアを再利用することで更新費用を抑えるご提案も可能です。

WinZacMTXのシステム構成

音響管(音響インピーダンス管)の更新、新規導入をご検討の際には、ぜひお気軽にご相談いただけますと幸いです。

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