日本テレビ放送網株式会社 番町スタジオ新築工事

音空間事業本部
嵯峨 寛人 崎山 安洋 上原 薫 佐藤 慎也
鈴木 純也 渡會 健 垣内 真美 川合 正浩

1.コンセプト

1953年、民間放送テレビ局第1号として開局した“日テレ”。
その新スタジオ棟が、旧本社があった“麴町分室”に隣接して建設され、本年1月、“番町スタジオ”として稼働開始した。
日本テレビでは、主に生田スタジオをドラマ制作、汐留スタジオ(日本テレビタワー)をバラエティ番組制作として使用しているが、麴町のGスタジオ・Kスタジオも、2004年に汐留へ本社移転後も引き続き稼働していた。Gスタジオは日本テレビで最大の大きさ250坪を誇り、歴史に残る数々の音楽番組の舞台となってきた。新たな“番町スタジオ”のコンセプトは、Gスタジオの大きさを確保し、主に音楽番組に適した制作環境を造ること。新スタジオ棟は、日本テレビでフロア面積最大となる265坪、3層吹抜けのC1およびC2スタジオ、ひとまわり小さいC3スタジオを鉛直方向に配置。またC3スタジオと同階に小規模なC4スタジオを配置する構成で計画された。C1スタジオとC2スタジオは、一部倉庫以外は同様の造りとなっている。実施音響設計は大成建設株式会社が行い、弊社は上記スタジオと各サブコン(副調整室)等の音響内装工事、電磁波シールド工事、音響調整を担当した。

2.計画概要

音楽番組を主として収録、生放送・4K放送対応するための課題は、スタジオ間は、スタジオ間で高遮音性能(特に低域)とすること、フラッタリングなどの音響障害もなく低域から中高域までバランスの良い音場とすること、4Kなどの高精細映像に対応するフラットなホリゾント壁とすることであった。
上下に配置されているC1スタジオとC2スタジオ間では、床・壁・天井の遮音仕様以外に、オフィスフロアを挟んだ計画にすることで低域の高遮音性能を確保している。テレビスタジオは機能上、音響的に大きな反射面となるホリゾント壁と床の支配面積が大きくなるが、ホリゾント壁を傾斜させることでフラッターエコーを防ぎ、バランスの良い音場にするため、その他の面は吸音材仕上げを基本とした。この室形状や配置の決定には、複数の音源位置(演奏音)・受音点位置(収録マイク)を設定したシミュレーション結果が反映されている。また、ホリゾント壁は、厳しい照明テストに耐え得る品質を実現するため細かな品質管理を行った。

テレビスタジオに付帯する副調整室(サブコン)の一角には、映像・照明エリアとガラス引戸で間仕切られた音声専用の“Mix Room”がある。これは、旧麴町スタジオから引継がれた日本テレビのスタジオ構成の特色のひとつである。各サブのMix Roomは、映像・照明エリアとRack Roomに挟まれており、それぞれを間仕切る様にガラス引戸が設置されているが、この引戸をそれぞれ4度上方へ傾斜させることで、左右方向の多重反射音を回避している。また、計画段階で室寸法を調整し、低域の共振周波数を分散させるためMix Room前方の構造柱位置の変更も行われた。

C1、C3、C2、C4スタジオ

3.電磁波シールド

番組収録中や生放送中に外来電波によるノイズの混入や別スタジオで使用されるインターカムの混信などを防ぐために各スタジオとサブコンはすべて個別に電磁波シールドを施工した。

弊社では過去多数のスタジオ工事で音響工事と電磁波シールド工事を一貫して行ってきた。施工範囲と施工手順の調整などを一元管理することでシームレスに工程組立てができ、工期短縮、コスト削減を可能となる。

シールド層の構成は、床はコンクリートスラブ上への鋼板敷き、壁は固定遮音壁(石膏ボード壁)にシールドフィルム貼り、天井は上階のデッキプレート自体とし、それぞれ電気的に隙間なく接続した。要求性能は-30dBで、病院のX線撮影室ほどは高くなく簡易施工であるものの、少しでも接続不良があると、そこから電波が入り込み、急激な性能低下が生じる。特に、設備配管等のシールド層貫通部や扉などの可動開口部の接続が重要で、大成建設技術研究所で行ったモックアップによる貫通部処理の実験結果を踏まえて、施工方法を決定した。各部は完成後に隠ぺい部となり、後からの修正は困難なため、全数の性能測定を行いながら施工し、性能不足の部分はその都度原因究明を行い、処理方法を再検討して対応した。扉についても最終仕上げでミリ単位の接続調整を一枚ずつ行った。

求められた遮音・防振性能を満足し、室内の音の響き「音場」をコントロールすることは音響工事会社としては当然のこと、上記設備貫通部分や扉などの開口部は性能低下となりやすい部位であるが、電磁波シールド性能と遮音性能の両面を満たす納め方の提案と即時施工ができたことも弊社の強みであったと思う。

シールド層

シールド測定

4.ホリゾント壁

ホリゾント壁 塗装作業:わずかな凹凸も見逃さないよう直下から照明を当てて丹念に作業を重ねる

ホリゾントはTVスタジオにとって顔のようなものである。今回施工したホリゾント壁は、ピットからの高さが最大11m(有効高さ10m)幅57mありTVスタジオとしては最大級である。
ホリゾント壁はタイル貼りの床と共に大きな反射面であり音響的に好ましいとは言えないため、平面的にも立体的にも傾斜させ、フラッターエコーが発生しないよう計画された。この度の施工では汎用の鋼材とボード材を使用し、どれだけ表面の平滑さの精度が出せるかを突き詰めた。
下地材の鉄骨ブラケットから親骨材、子骨材を組んだ際の検査において、高さ11mで±0.5mm以内、幅方向では1mごとに±0.5mm以内という建築の世界としては驚異的な数字を達成した。軽量鉄骨材料自体の精度から見ても、ビスの締め込み時のわずかなズレでさえ1本ずつ調整するという気の遠くなるような作業であった。公共工事標準仕様書やJISでは一般的な内装壁工事では1/1000(1mで1mm)以内などと記載があるが、この精度を凌駕している。

ボード貼についてはビスピッチ、打ち込み方、打ち込む順番に至るまで1本残らず全て規定をつくり、打ち込み後のビスの状態を全数検査した。ボード自体の歪みも確認し、継ぎ目を1枚1枚研磨し段差を解消。1mmという建築工事上の最小寸法さえ非常に大きく感じ、ミクロンレベルの攻防になるが、こうなると肉眼で判別できず最終的には職人の手触り感だけが頼りになる。

塗装工程では、過去何度もホリゾント壁を仕上げた熟練工のみを配置し、壁直下からアッパーライトを照らし上げながら作業した。この照らし方は通常の撮影ではまず行われず、実際の撮影や放送には全く問題のない極わずかな凹凸でも影ができてしまう最も厳しい方法である。1つのホリゾント壁の塗装工程だけで約4週間程かかるが、特に下地パテを平滑に研磨することに時間を割き、繰り返し検査を行い納得いくまで修正を加えた。最終仕上塗装では職人1名につき1名の検査員件照明係を配備し、ムラやホコリの付着等を随時確認しながら作業した。また全てのホリゾントを同じ職人が塗装することで同品質の仕上りを確保できた。

5.吸音メッシュ壁

ホリゾント壁以外の壁面は吸音壁とし、スタジオ内の音場を調整する役割を果たす。表層はガラスクロスで仕上、その背面にグラスウールを仕込むことが多いが、構造上非常に柔らかいため、物の立てかけや衝突によりキズが付きやすい。その保護材としてワイヤーメッシュを用いた。テレビスタジオではごく一般的に用いられるものである。
今回は一般のものより太いΦ5mmのメッシュを使用する設計になっており、その分見た目が重苦しくなることと、材料自重による落下が懸念されたが、壁に設置する操作盤や建具廻りの押縁、見切材を極力廃止しスッキリとした見た目になるように配慮した。メッシュ端部の納まりとガラスクロスの貼り方を工夫し、ステープルやビスを増やすことで強度をあげ、物をかけることに使用されることも多いメッシュ材に相応の耐力を持たすことができた。

6.Mix Room 音響調整

C1サブコン、C3サブコン、C2MixRoom、音響調整

Mix Roomは、正面のラージモニタースピーカーLch/Rchの間に多数のディスプレイが、また、左右側壁にはガラス引戸が対面して配置されており、これらの反射面の影響を最小化することが課題であった。ガラス引戸が対面するスタイルは、テレビ副調では初めての取り組みであったが、上方に4°傾斜させたことで多重反射を防止し、映像エリアとのコミュニケーションや反対側の機材Rackの視認性も良い結果となった。音響調整では、正面ディスプレイ、コンソール(音声卓)前方上部の設置機材のダンピング処理、吸音処理を行った。正面ディスプレイ奥壁のケーブルピット・取付レールなども同様に処理し、扉・ガラス引戸周囲の木製額縁も、調整時に吸音処理を施した。ラージモニタースピーカーについては、特にファンタムセンターの定位、音像の高さ・大きさ・輪郭を適正化するために設置角度(1°以内)を調整した。卓上部のVUメーター・ラウドネスメーター・ニアフィールドモニタースピーカーなどの機器配置も、測定とヒアリングの結果を踏まえながら調整を行った。結果としては、解像度も高く、Mix Down作業のし易い環境となったのではないだろうか。

7.最後に

テレビスタジオほど機能美に溢れた内装は無いのではないか。外装ほど多くの人々の目に触れることはなく、使用時は多くの機材やセットが組まれ、内装自体にフォーカスが当たることはまずない。ホリゾント壁に至ってはその存在が目立ってしまうと失敗となる。シールド、遮音、室内音響の性能も、満足しているからこそ忘れられてしまうほど静の存在だ。撮影スタッフや出演者の方々はそれらに全く気をとらわれることなく番組を撮影する。だがひとたびセットを撤収し何もないスタジオにたたずむと、不思議と居心地が良く感じるのはそのためである。

最後に、日本テレビ放送網様、大成建設様の設計・施工・音響・シールドチーム各位、各設備サブコンの皆様、プロジェクトに関係するすべての方々にこの場を借りてお礼申し上げます。「日本一のテレビスタジオとは?」という日本テレビ様の質問に、大成建設様は「日本一の番組を収録することができるスタジオ」と回答されたとのこと。そんな日本一のプロジェクトで全力を尽くせたことを幸いに思います。

■お客様の声

今回のプロジェクトは、日本一のスタジオを目指すだけでなく、クリエーターやエンジニアを育て、次世代に引き継ぐ「場」も作る使命を負っていました。その責任を全うするため、計画当初から一切妥協せず、各種要求水準を極めて高く維持させて頂きました。しかし、その困難の中にNTVとNOEとの「共鳴」が生まれたのでしょう、要求に120%応えて頂き、極めて満足行く性能と、結果を得ることが出来ました。完成後、初めてC1スタジオに立った時の衝撃は忘れることが出来ません。TVスタジオとしては望外の自然な響きと静謐、見事なホリゾント仕上げとシールド、そして誰もが驚くMix Room音響のアキュレシー!!携わって頂いた皆様のご理解、ご協力、ご尽力なくしては為し得なかったこのプロジェクト、紙面をお借りして深く深く感謝の意を表させて頂きます。本当にありがとうございました。