音空間事業本部 出口 公彦

1. はじめに

北海道札幌に平成元年10月に開局したTVh「テレビ北海道」 開局当時にも施工をお手伝いさせて頂いていましたが、今回放送設備の更新時期を迎え、ニューススタジオの全面改修を行ないました。最新の設備とコンセプトで平成19年10月に、運用を開始しました。

以前より、デジタル化に向けた放送設備整備一環で行なわれたマスターの更新に続いて、新しいマスターに負けない、斬新なニューススタジオが誕生しました。

2. コンセプト

既存のニューススタジオは、開局当時のまま手付かずの状態で、コンパクトで閉鎖的な空間でした。そこで今回のニューススタジオ改修計画を始めるに当たって

「開放感のある明るいイメージのスタジオ」
「副調整室を背景として活用できるスタジオ」
「スタジオと副調整室に一体感のあるスタジオ」
「スペース効率と作業性のよい副調整室の実現」

をコンセプトに計画を開始しました。何より「ここで仕事をしたくなるスタジオ」を目指しました。ニュース番組だけでなく、サラウンド対応の作業等での稼働時間も増えてくると思います。

この改修に先立って行なわれていたマスターの改修工事とのデザイン的なつながりも重要なポイントとして、イメージを共有するために、担当各社に統一感のあるものを要求して、素材の選択や色使い、機材やパネルのレイアウトについても検討されています。

図1 計画時の鳥瞰パース
図1 計画時の鳥瞰パース

3. レイアウト

今回の改修は、基本的には、副調整室の機材更新がメインで最新のシステムを導入する訳ですが、開放感と背景としての副調整室とする為にまず、部屋の向きを90度回転させることにしました。横長が常識の部屋が、縦長の空間となります。部屋を対角線に使い、映像エリアと音声エリアが横並びの従来の2列配置レイアウトを検討していく中で、全てを網羅するためには、やはり窮屈な配置となりました。そこで大胆に発想を変えて、音声エリアを映像エリアの後ろに配置して、ひとつのモニター棚を共有するレイアウトが生まれました。

モニター棚・映像エリア・音声エリア・ワークスペースの縦並びで、音声エリアを中心に同心円のイメージのレイアウトになっています。更にワークスペースの床を50cm程高くすることによって縦配列によるモニター棚の見難さを無くする事と同時にコミュニケーションのとりやすい一体感のある空間となりました。

図2 News Studioレイアウト
図2 News Studioレイアウト(中央の円が音声エリア)

4. 改修工事の概要

今回の改修は、スペースをそのままに、副調整室の改修が中心ではありましたが、今までの概念にとらわれない斬新なアイデアの詰め込まれたスタジオが完成しました。まず、コンセプトに基づいて、スタジオと副調整室間に搬入可能な限り大きな窓を設けて、視覚的な「開放感」と背景としての副調整室とモニター棚を見渡せるものとしました。ガラスへの映り込みの無い様にガラスに勾配を設けて、照明器具の選択と配置も留意されています。このスタジオは、開局当時の遮音計画で完全浮構造となっており、すべてコンクリートの躯体に囲まれていました。窓の開口や前室の間仕切り躯体の撤去等は、稼動している状況の中、夜間に行なわれました。

副調整室の建築改修工事としては、レイアウト変更に伴い、天井と壁の全面改修を行い、モニター棚と最後列の段床が作られました。段床下は、配線の為に潜り込めるようなスペースとなり、各種配線やスタジオとの通線時には非常に便利な空間になっていました。新設された大きな窓がこのスタジオのポイントです。遮音の為に2重ガラスの窓ですが、見通しの良いスタジオになっています。

又、新たに独立したラックルームが設けられました。

スタジオ側は、映像面での多角的な自由度を求めて既設の3面ホリゾントの内、2面をそのまま残しながら、照明器具と空調設備で低かった天井を高くする為に天井のみ解体して、空調ダクトルートの変更と改修を行いバトンと照明設備の更新が行なわれました。

スタジオに設けられた大型の窓からは、映像モニター棚と副調整室の様子が良く見えて、当初気にしていた照明の映込みについても問題なく、セットの建て込み時にガラス面にフィルムを貼ってデザインされました。

写真1 新スタジオセット
写真1 新スタジオセット

副調整室は、大型の映像編集卓や特注の音声用デスク・ワーキングデスクが搬入組立てられると、実にコンパクトながら作業効率の良いスペースに変身しました。

中央の円形のスペースが音声エリアで、サラウンド対応のスタジオを意識したことによるものであり、このレイアウトに決定した段階からデザインの中心になっています。音声エリアを中心に配置することが、この副調整室の最もコンセプティブな部分になっています。リアのラックマウント内に音声機器を機能的に配置して、音声卓とエマージェンシー卓を常設し、背後の段床を利用したラウンド型のラックマウントには、各種のエフェクター類を収納されていて、全てが手の届く範囲に収められています。左手側には、音効卓が並んでいて、必要に応じて回転させることによって、ワンマンでの操作が可能になっています。サブウーハーを収納して、ニアフィールドのサラウンドスピーカーが全て常設されています。

写真2 音声エリア(段床側から前方を望む)
写真2 音声エリア(段床側から前方を望む)

写真3 音声エリア(音効卓移動 左手窓がスタジオ)
写真3 音声エリア(音効卓移動 左手窓がスタジオ)

前出の通り、音声エリアの後部には、嵩上げされたワーキングスペースがあり、大型のデスクを設置して全面側は、音声用のラックマウントに利用され、手前側からは、VTRの編集機器と、情報端末やPC関係のワークステーションのスペースとなっています。思い切って広く、高く上げることによって、映像モニターの見易さと、副調整室全体を見渡すことができ、コミュニケーションがとりやすい配置となり、またスタジオの見学者は、比較的余裕のあるこのスペースから放送の様子を見ることが出来ます。

写真4 音声エリア(モニター棚側から)
写真4 音声エリア(モニター棚側から)

写真5 ワーキングエリアからモニター棚を望む
写真5 ワーキングエリアからモニター棚を望む

5. モニター棚

モニター棚は1つで、副調整室内の全員でモニターを共有することになります。メインスピーカーもモニター棚の両サイドに設置されていて、音声も共用のモニタースピーカーを共通して聞くことになります。

モニター棚は、元来スチール製が多く、金属の鳴りが、気になる事が多いものでした。今回の改修では、初めからこの金属鳴り対策もポイントと考えていました。

全員で共用するモニター棚として、部屋の1面全体の壁となってしまう為に、従来のスチール製とすると大きな反射面となり、副調整室内の響きに大きな影響を与えることになります。スピーカーをマウントする事も含めて、モニター棚全体を木造としました。

中心に向かって緩やかにRを描いたモニター棚の両サイドにモルタル打ち込みのモニタースピーカー台が造作され、壁面全体は、音の透過性を考えてクロスパネル仕上げとなっています。メンテ用のモニター棚背後のスペースに吸音処理をすることによって部屋全体の吸音力を稼いでいます。

6. 音響計画(吸音処理)

改修前は、有孔板仕上げの副調整室でしたが、仕上のお色直しとして壁全面をグラスウールによる吸音壁としました。又、前出のモニター棚背後の空気層だけでなく、モニタースピーカー横の壁にも空気層を設けた吸音壁を設けています。スピーカー周辺の反射音の影響を防ぐ事と同時に、新設されたガラス窓が、照明器具の映り込み対策の為に垂直になっている為に起こるフラッタリングの対策を兼ねています。

メインモニタースピーカーは、どうしても距離的に離れた状況になってしまいますが、ニアフィールドのスピーカーを併用する事で対応しています。モニタースピーカーの音も部屋全体の吸音力を上げていることもあり、各セクションの作業やコミュニケーションの邪魔にならず、音と映像を共有した作業環境になっています。

7. 最後に

TVhのニューススタジオの更新プロジェクトでは、いろいろなパターンの計画の中から生まれた、どこにも存在しない、なんだか楽しくなってしまう空間が生まれたと思っています。今までの概念にとらわれない、作業する人達の意見がそのままに反映された新しいスタイルが、ここにあります。紆余曲折がありながらもたどり着いた結果ではありますが、これが歴史の新しいスタートになる事を予感しています。メーカー、工事会社、スタジオスタッフの連携がとれたことが、新しいスタジオの完成につながったと思います。きっと放送を観ていていただければ感じて頂けると思います。このプロジェクトに参加させて頂いた事を深く感謝しております。