航空機騒音評価方法改訂に伴う現場測定の課題 航空機騒音Lden測定の実際

DL事業部 山下 晃一

1. はじめに

昨年(平成19年)12月17日に、「航空機騒音に係る環境基準について」の一部改正が告示され、航空機騒音の評価指標として従来のWECPNLに代わり時間帯補正等価騒音レベル(Lden)が採用され、それに伴い基準値自体も変更されることになりました(表1)。

表1 今回の環境基準改正の概要

地域類型現行環境基準新環境基準
70WECPNL以下 Lden 57dB以下
75WECPNL以下 Lden 62dB以下

現在、5年後の平成25年4月からの施行に向けて、環境省中心に測定マニュアルの整備が進められているようですが、実際に航空機騒音測定の現場に携わっておられる、主に地方自治体で騒音を担当されている方々から、

  • 測定やデータ整理の仕方はどう変るの?今までより大変になるの?
  • 日本音響の測定器を使っているが、今回の基準改正後も使えるの?買い替えが必要?
  • Lden測定は積分騒音計があれば簡単に測定できると聞いたけど、実際はどうなの?
  • LdenになるとWECPNLコンターの形は変わるの?
  • 住民にとっては有利?不利になるの?

といった問い合わせを多くいただくようになりました。

私たちは10年ほど前から、住民感覚や騒音暴露量との整合性の観点から、あるいは成田国際空港周辺で発生し今回の改正のきっかけとなった"逆転問題"を契機として、WECPNLに代わる評価方法の検討を始めた複数の自治体さんのお手伝いをさせていただきながら、LdenやLdnといった等価騒音レベルベースの航空機騒音測定や現場に即した現実的な測定方法の検討に携わってきましたが、実際の現場でLden評価のための測定を行うことはそう簡単なことではありません。

現行のWECPNL評価では個々の航空機騒音の最大騒音レベルを測定することが基本となっていますが、Lden評価では個々の単発騒音暴露レベル(LAE)を測定します。騒音発生時の最大騒音レベルだけに着目し、それが航空機の騒音か否かを判別すればよいWECPNL評価と異なり、騒音継続区間全体に着目しなければならない単発騒音暴露レベル測定では、測定精度に影響を与える要因が多くなる上に、それらがダイレクトに測定値に影響を及ぼします。しかも測定値を得る過程のほとんどを積分型騒音計や計測器に依存するため、測定した値が妥当なのか、これでよいのか、といった判断が非常に難しくなります。そのため、評価の信頼性を高めるためには、単発騒音暴露レベル測定の特徴を理解し、ただ機械任せにするのではなく計測器の中で何がどのように行われているのかをこれまで以上に理解することが重要になります。

そこで、評価方法の変更で、実際の現場での測定はどのように変わるのか、という観点から、WECPNLとLden評価の現場測定の違い、単発騒音暴露レベルの特徴と測定方法、測定現場の課題や留意点、提案されている推定方法などについてご説明させていただきます。

2. 現行のWECPNLとLden評価の違い

まずはじめに、現行のWECPNLとLden評価の違いからご説明させていただきます。

2-1. 基本評価量の違い

航空機騒音の評価は「音の大きさ(ラウドネス)」に基づく方法と「音のやかましさ(ノイジネス)」に基づく方法に大別されます。前者は騒音レベル(A特性音圧レベル、LA)が、後者では知覚騒音レベル(PNL)が基本評価量になっています。

現在、我が国で採用されているWECPNLは昭和44年にICAO(国際民間航空機構)が提唱していた方法を独自に簡略化したものですが、ICAOが提唱したWECPNLは知覚騒音レベル(PNL)がベースになっています。このほかPNLベースの評価指標としてNEF、NNIがあります。

一方、騒音レベル(LA)をベースにしているものとしては等価騒音レベル(LAeq,T)、Ldn、そして今回日本が採用を決めたLdenなどがあります。日本のWECPNLは本来PNLベースであったものを、当時はPNLを測定することが技術的に極めて難しかったため騒音計で測定が可能なLAから近似できるように簡略化(PNL≒LA+13)したものです。

2-2. 個々の発生騒音評価の違い

一般的に航空機通過時の騒音レベルは、航空機が接近するにつれて上昇し、その後遠ざかるにつれて下降するためこの間の経時変化を図で表すと三角に似た形になります。本来、この三角型の部分に相当する騒音発生区間の総量を測定すべきところを、現行のWECPNL評価では騒音発生区間を三角形に近似し、最大騒音レベル(LA,Smax)、つまり三角の頂点の値さえ測定すれば、それから三角形全体の面積を推定できるように簡略化しています(図1)。このため、騒音計の出力をレベルレコーダでモニタし最大騒音レベルを記録した時の音が航空機騒音か否かに着目し、航空機騒音であればその値を読み取ればよく、それ以外の騒音発生区間の中に他の騒音が混じってようが気にする必要はないなど、大掛かりな設備がなくとも、誰もが簡便に測定できるというメリットがありました。反面、騒音の経時変化が三角形で近似できない場合は測定することができないという問題がありました。例えば長時間騒音が継続するような地上音(エンジンテストやランナップ時の騒音など)は適切な評価ができません。また、継続時間が短いリバース音も三角形近似が妥当かどうか、評価が定まっていませんでした。また、近似する三角形の形状を常に一律として扱うため(具体的には最大値から10dB低いレベルを超える騒音の継続時間を20秒で一定と見なしています)、実際の継続時間の長さによっては過大(継続時間20秒未満の場合)、あるいは過小(継続時間が20秒を超える場合)に評価されてしまうという問題もありました。

一方、単発騒音暴露測定では航空機通過時の発生騒音を、端折らずに厳密に測定します。このため、継続時間の長短による不公平は解消されますが、評価対象とする騒音を適切に選択する必要があるなど、最大騒音レベルと三角形近似による簡便法に比べ測定は大変になります。

昨年、「航空機騒音に係る環境基準の改正について」として中央環境審議会騒音振動部会答申の叩き台となった騒音評価手法等専門委員会報告には「現在のデジタル技術を前提とすれば、等価騒音レベルの演算が技術的、コスト的に容易になっている。」と記されています。このため、「積分型騒音計があれば単発騒音暴露レベルの測定は簡単」かのような印象を受けるかもしれませんが、理屈の上では積分型騒音計を用いれば単発騒音暴露レベルを演算できるようになったに過ぎず、実際は、騒音発生区間全体に注意を払う必要がある分、測定は大変になります。単発騒音暴露レベルの測定方法や問題点については後ほど詳しくご説明します。

図1 航空機騒音の三角近似よる簡略化
図1 航空機騒音の三角近似よる簡略化

2-3. 累積騒音評価の違い

航空機騒音は単発的に発生する騒音ですが、間欠的に繰り返し発生するため、ある一定期間の累積値で評価する必要があります。ICAOが提唱したWECPNLでは、1機ごとの騒音暴露量(EPNL)を1日分、時間帯による補正を行いながらエネルギー的に加算した後、1日の長さ(24時間=86,400秒)で平均しています。これを日本のWECPNLでは観測される航空機騒音の大きさがほぼ一定であるという前提の上で、個々の最大騒音レベルのパワー平均値と時間帯補正された騒音発生回数から簡略的に算出できるように近似しています。

この近似式により、コンピュータや計算機が一般的でなかった時代においても、個々の最大騒音レベルとその発生時刻から時間帯補正した騒音発生回数から簡単にWECPNLを算出することができるというメリットがありました。しかし前記前提が成り立たない場合は簡略化の矛盾が表面化することとなり、成田国際空港で暫定平行滑走路供用開始時に明らかになったいわゆる"逆転現象"を引き起こす直接の原因ともなっていました。

平成14年4月、成田国際空港は従来のA滑走路に加え2本目の暫定平行滑走路(B滑走路)の供用を開始し、成田市でB滑走路供用による騒音影響を調査したところ、A・B両方の滑走路を離着陸した航空機を対象としたWECPNL値の方が、A滑走路単独の値に比べ低くなる現象が発生しました。つまり、WECPNLでは滑走路が増え機数や騒音曝露量が増大したにもかかわらず"静かになった"と評価されることを意味します。このため住民が感じる騒音暴露の程度とWECPNL値の関係に矛盾があることが明らかになり、成田市等による国等への評価方法の改善要望を経て今回のWECPNL見直しの契機ともなっています。

一方、Lden評価では、ICAOのWECPNL同様、個々に時間帯補正した単発騒音暴露レベルを1日分エネルギー加算し86,400秒で平均します。このため"逆転現象"のような矛盾は生じません。

2-4. 時間帯補正方法の違い

航空機騒音の評価では、日中よりも就寝中あるいはくつろいでいる時間帯に発生した騒音に対してはペナルティを課すという考え方があります。ICAOのWECPNLは時間帯を昼間(7:00~19:00)、夕方(19:00~22:00)、夜間(22:00~07:00)の3つに分類し、夕方の騒音に5dB、夜間の騒音に10dB加算の補正を行いますが、日本の場合、計算が容易になることとエネルギー的にはほぼ等価になることから、夕方の時間帯に発生した騒音のレベルに5dB加算する代わりに測定機数を3倍、夜間は10dB加算する代わりに測定機数を10倍しています。

これに対し、Ldenの時間帯区分はWECPNLと同じ3分類(昼、夕、夜)で、補正の方法は測定機数を補正する簡略法ではなく、ICAOのWECPNL同様、夕方の騒音に5dB、夜間の騒音に10dB加算します(表2)。

表2 時間帯区分と補正方法

WECPNL [現行]Lden [新基準]
時間帯区分 昼間(7:00~19:00)、夕方(19:00~22:00)、夜間(22:00~7:00)の3分類
補正方法 測定機数に対し夕方3倍、夜間10倍 個々のLAEに対し夕方+5dB、夜間+10dB

この時間帯補正は、同じ発生騒音であっても活動している日中と、就寝中やくつろいでいる時間帯では被害の程度が異なることからきていますが、すでにLdenを統一指標として導入しているEU(European Union)では、Ldenはアノイアンス(仕事や睡眠、会話、くつろぎなどに対する妨害感)評価に過ぎず、健康影響を及ぼす夜間の睡眠妨害を評価するには不適切であるとしています。そのため睡眠妨害を評価するための指標としてLnight(夜間の時間帯だけに着目した等価騒音レベル)をLdenと併用することとし、より積極的に夜間の環境を保護するためには最大騒音レベル(LA,Smax)やLAE等を指標に加えてもよいとしています(EU指令)。また、WHO(世界保健機構)が示した「環境騒音のガイドライン」でも、WECPNLやLdenのように夜間の騒音に対してペナルティを科して算出した1日を代表する指標は、夜間に不快感の騒音感受性が高まることを評価した指標であり、睡眠妨害の評価には不適切であることが明記されています(表3)。現在我が国では海上空港の建設、空港の沖合移転が主流となりつつあり、その一方で空港の24時間化も進められていることから、今後は夜間の睡眠妨害を適切に評価できる指標の導入の必要性が高まってくるものと思われます。

表3 夜間の睡眠妨害評価

睡眠妨害評価指標
日本の環境基準 考慮されていない
EU指令 LdenとLnightを併用
LA,Smax、LAE等の指標を加えてもよい
WHOガイドライン LAeq、Lden等とLA,Smax、LAEの併用を推奨

2-5. WECPNLとLdenの関係について

今回の「航空機騒音に係る環境基準」の改正では、評価指標とともに基準値も改訂されています(表1)。中央環境審議会騒音振動部会の答申によると「WECPNLとLdenの理論的、実態的な関係からLden≒WECPNL-13の関係にある」ことを踏まえ、現行の基準値(Ⅰ類型でWECPNL70、Ⅱ類型で75)から13引いた値(Ⅰ類型でLden57dB、Ⅱ類型で62dB)としたことが述べられています。

私たちはこれまでに国内のいろいろな飛行場周辺でWECPNLとLdenの両方を測定してきましたが、その実測結果から両者の差は測定場所や測定対象によって大きく異なっています(表4、図3)。このため、実際にLden測定が行われるようになると、これまで防音助成区域に入らなかった住居で基準値を超過したり、反対に入っていた住居で基準値を下回るといった混乱が生ずることも考えられます。

表4 WECPNLとLdenの関係:実測値より

空港・基地WECPNL-Lden (dB)測定期間
羽田空港(都内) 12.2~13.6 月平均値
羽田空港(浦安市内) 10.4~11.6 週平均値
成田空港(成田市内) 10.4~13.5 週平均値
A基地(国内) 11.7~13.7 週平均値
B基地(国内) 15.5~15.8 月平均値

図3 WECPNLとL_denコンターの違い(成田市航空機騒音社会反応調査より)
図3 WECPNLとLdenコンターの違い(成田市航空機騒音社会反応調査より)

3. 単発騒音暴露レベル(LAE)の測定について

3-1. 単発騒音暴露レベル(LAE)の定義

単発騒音暴露レベルとは、対象音、つまり航空機の騒音が聴こえ始めてから(t1)聴こえなくなるまで(t2)の騒音発生区間(積分区間)全体の騒音暴露量のことを言い、図4のように表すことができます。

図4 単発騒音暴露レベル(L_AE)
図4 単発騒音暴露レベル(LAE)

航空機の単発騒音暴露レベルを測定する方法としては、積分型騒音計を用いた有人測定と、自動測定装置を用いた無人測定とがあります。

3-2. 積分型騒音計を用いた有人測定

最大騒音レベル(LA,Smax)が、個々の発生騒音が最大値を示した瞬間の値(瞬時値)であるのに対して、単発騒音暴露レベルは騒音発生の聴こえ始めから聞こえなくなるまでの間の面積(エネルギー積分値)に相当します。このため、旧来の積分機能を持たない騒音計単独では計算することができず、その場合、騒音計の出力をデータ記録装置やコンピュータでサンプリングした後、それを積分計算して算出する必要がありましたが、積分型騒音計を用いれば直接測定することができます。

測定地点に積分型騒音計を置き、航空機騒音が聴こえ始めたら「積分開始」ボタンを押して測定を始め、聴こえなくなったら「積分終了」ボタンを押すことで、その間のLAE値が瞬時に算出され画面に表示されます。その値を発生時刻とともに野帳に記録、あるいは、騒音計に記録機能があれば本体内部又はメモリーカード等に記録する、この作業を終日、あるいは1週間連続して行います。

このように、理屈の上では積分型騒音計を用いさえすれば単発騒音暴露レベルの測定は簡単にできるように聴こえるかもしれませんが、実際は単純ではありません。様々な音が聞こえる測定現場で、航空機騒音の聴こえ始め、聴こえ終わりを判断し、積分開始・終了の操作をするだけでも大変です。しかも1日数十回、あるいは数百回、早朝から深夜まで、24時間空港にあっては終日こうした作業を続けることは容易ではありません。さらに、積分区間に発生するかもしれない航空機以外の大きな騒音に備えて常に緊張を持続し、発生している間だけ「一時停止」ボタンを押して積分を中断し聴こえなくなったら再開する、という作業も必要で、取りこぼしや操作ミスが許されない実際の現場測定では現実的とは言えず、結局は自動測定器を用いた無人測定に頼らざるを得ません。私たちが最初に航空機の単発騒音レベル測定を行った時は、積分型騒音計を使っていざ測定を始めたものの、測定開始・終了の判断が難しい上に極度の緊張から操作ミスによる欠測が多く、結局は、現場では実音をすべて録音することとし、持ち帰ってからそれらを逐一聴取し、航空機騒音が卓越する範囲を選択して計算するソフトウェアを作って対処しましたが、このことはLAEの自動測定を検討していくうえで貴重な経験になりました。

3-3. 自動測定器を用いた無人測定

自動測定器を用いた測定方法といっても、騒音発生区間(積分区間)の切り出し方、サンプリングの仕方など様々です。重要なのは、今使っている、あるいは、これから購入しようとしている測定器がどういった方法・条件で測定を行い、測定場所の現場状況に適合しているかどうかを事前に把握しておくことが重要です。自動測定では一般的に、航空機騒音の検出、航空機騒音か否かの識別、積分区間の切り出し、単発騒音暴露計算、といった順序で測定が行われています(図5)。

図5 単発騒音暴露レベル自動測定のフローチャート
図5 単発騒音暴露レベル自動測定のフローチャート

なお、今回は航空機飛行時の騒音を対象とした場合の測定方法に絞って説明させていただきます。地上音等、今後新たに測定対象となる騒音の測定方法については次回以降にご説明させていただく予定です。

(1) 航空機騒音の検出方法

LA,Smax測定でもLAE測定でも、航空機騒音を検出する方法は基本的に同じです。予め設定したレベル(シキイ値)を一定時間以上継続して超過した場合に、何らかの単発的な騒音が発生したと見なし、騒音イベントとして記録又は保持する方法が一般的です(図6)。

図6 航空機騒音の検出方法
図6 航空機騒音の検出方法

(2) 航空機騒音の識別方法

次に、検出された騒音イベントが航空機騒音か否かの識別を行います。これについてはこれまでに多くの識別技術や方法が開発・実用化されてきています。例えば、航空機が発するトランスポンダ応答信号電波と電波高度計電波の両方に着目する方法では、極めて高い精度で航空機騒音の識別が可能です(図7)。この他にも、

  • 隣接する測定局間の騒音発生時間差で識別する方法
  • 騒音の到来方向情報を基に識別する方法
  • レーダ航跡データと照合する方法
  • 騒音発生時の実音をデジタル録音しておき、それを測定員が聴取して判別する方法
  • 上記複数の方法の併用

などがあります。

図7 トランスポンダ応答信号と電波高度計電波の両方に着目した航空機騒音の識別方法
図7 トランスポンダ応答信号と電波高度計電波の両方に着目した航空機騒音の識別方法

(3) 航空機騒音発生区間(積分区間)の切り出し方法

最大騒音レベルとその発生時刻さえ測定すればよい従来のWECPNL評価では、最大騒音レベル発生時の騒音が航空機か否かを識別するだけで済んだのですが、LAE測定では航空機騒音が暗騒音から卓越して発生している区間(積分区間)を切り出すため、その開始・終了時刻を特定する必要があります。

環境騒音測定に関する国際規格である「ISO1996 Acoustics―Description, measurement and assessment of environmental noise―」によれば、航空機通過時の騒音は最低限、最大騒音レベル-10dB以上の範囲を測定(積分)することとされています(図8)。

図8 単発騒音暴露レベルの測定範囲の一例
図8 単発騒音暴露レベルの測定範囲の一例

どこまでを航空機騒音の測定範囲(積分範囲)とするかについては、様々な考え方があると思います。本来は人が耳で聞いて航空機騒音が暗騒音よりも大きく聞こえている範囲とすべきでしょう。実際の現場で人が聴取して切り出した区間(図9)の積分値と、最大騒音レベル-10dB以上の範囲との差を数地点で調べたことがありますが、S/N(航空機最大騒音レベルと暗騒音との差)が十分確保できる状況であれば(25dB以上)、両者の差は1dB未満に収まっていました。

図9 実音聴取により人が切り出した航空機騒音卓越区間(2地点における1時間の騒音レベル時間変動図)
図9 実音聴取により人が切り出した航空機騒音卓越区間
(2地点における1時間の騒音レベル時間変動図)
(赤色:航空機騒音が卓越している区間、水色:航空機騒音が聞こえるが卓越はしていない区間、
灰色:航空機の影響がない区間)

一方、最大騒音レベル-10dBの範囲をより広い範囲にまで拡げた方が"真の値"に近づく、という考え方もあります。積分範囲を最大騒音レベルから-20dB、-30dBと拡げた場合、-10dBの範囲に比べ0.5dB程度値が大きくなることも報告されています(「航空機騒音に関する評価方法検討業務 平成17年度報告書」)。

しかし、実際の現場は航空機以外の様々な騒音が観測されるため、暗騒音に近いレベルまで積分範囲を広げると、航空機以外の騒音も多く含まれるようになり、それだけ航空機以外の騒音を適切に除外する作業が必要となるなど、かえって測定値の信頼性が低下してしまう恐れもあります。少しでも過小評価とならないように、極力積分範囲を広げて測定することは重要ですが、測定地点の経年変化を把握し、多地点との相互比較を行う上では、いつも同じ条件で測定できることも重要です。

(4) 切り出し区間の単発騒音レベル算出方法

ここまでの過程で積分区間の範囲(t1、t2)が求められていれば、その範囲の単発騒音暴露レベルの算出は容易です。ただし自動測定では、後日、航空機以外の騒音影響が大きい範囲を除外して再計算する機能を有していることが望まれます。

1) 積分型騒音計を利用して直接LAEを求める方法

自動測定装置に積分型機能を持つ騒音計を搭載し、積分区間の開始から終了までのLAEを騒音計で直接測定する方法です。しかしこの方法だけでは、積分区間に航空機以外の大きな騒音が発生した場合、その影響を除外して再計算することができない、という欠点があります。

2) 騒音レベルのサンプリングによる方法

騒音発生区間を一定間隔でサンプリングし、それを積分(エネルギー合成)することでLAEを算出する方法です(図10)。この方法であれば必ずしも積分型騒音計でなくても構いませんし、サンプリングした瞬時値を記録しておけば、後日積分範囲を変更して再計算することも可能です。

図10 騒音レベルのサンプリングによるL_AEの算出方法
図10 騒音レベルのサンプリングによるLAEの算出方法

JIS Z 8731「環境騒音の表示・測定方法」によれば、サンプリング間隔(Δt)は、時間重み特性Fを用いる場合には0.25秒以下、時間重み特性Sの場合には2秒以下が望ましい、とされていますが、実際にはこれまでの調査結果や知見から時間重み特性Sの場合、0.25秒以下であればそれよりΔtを短くしてもほとんど差がないことがわかっています。

3) 短区間LAeq値から算出する方法

騒音発生区間の短区間LAeqを測定し、それを積分することでLAEを算出する方法です(図11)。これは前述の1)、2)のよい部分を併せ持つ方法とも言えます。この方法で開始時刻から終了時刻の短区間LAeqをエネルギー加算した値は、それと同じ区間のLAEを積分型騒音計で直接測定した値と等価です。また2)同様、積分区間に航空機以外の騒音が混入した場合にはそれを除外して再計算することもできます。弊社の航空機騒音自動測定システムでは、1秒間LAeq値を1秒ごとに24時間記録測定・記録する機能を標準で備えています(DL-100型以降、一部のDL-90型も含む)。

図11 短区間L_AeqからL_AEを算出する方法
図11 短区間LAeqからLAEを算出する方法

4. 現場における単発騒音レベル測定の課題と留意点

ここまで、有人及び自動測定装置を用いた単発騒音暴露レベル測定方法についてご説明してきましたが、測定精度に影響を及ぼす最大の課題は、積分区間に含まれる航空機以外の大きな騒音の影響をどのように取り除くか、ということにあるといっても過言ではありません。私たちはかつて、成田空港周辺の9地点で1週間連続して実音データを収録し、後日、航空機騒音発生時の実音を逐一聴取し、航空機以外の騒音影響が含まれる部分があればその範囲を除外してLAE及びLden値を求めたことがありましたが、膨大な手間のかかる作業でした。ほとんどがWECPNL70以上の地点で測定したにも係らず、最大騒音レベル-10dBの範囲に航空機以外の大きな騒音が多く含まれていたため、それら除外する必要があったからです。成田空港周辺の飛行経路に近い場所は、どちらかというと田園地帯で比較的静かな場所ですが、それでも自動車、鳥、生活騒音など、思いのほか大きな騒音が数多く混入してきます。従って、Lden測定では現行のWECPNL測定以上に十分なS/Nを確保することが重要で、現場の暗騒音状況を把握し航空機以外の騒音が極力混入し難い場所を選定する必要があります。

一方、このような実音聴取を行って航空機以外の騒音が卓越している区間を除外した場合、実はその区間に聞こえていた航空機騒音も除外してしまうことになるため、騒音が過大に評価されることを防ぐためにしている作業が、反対に過小評価してしまうという問題点もあります。このように同時に複数の騒音が混在する場合でも個々の騒音を分離し、それぞれの音源強度を測定する技術も実用化されています(図12)。これを用いて、航空機以外の騒音が卓越している区間であっても、それにマスクされ騒音計では測定できない航空機の騒音レベルをその音源強度から推定し、航空機騒音だけを評価する検討も進めていますが、いずれにしましても、データ除外の影響を過大・過小の両面から検討しておくことは重要です。

図12 全方位音源探査装置を用いた航空機騒音識別装置
図12 全方位音源探査装置を用いた航空機騒音識別装置

このように、実際の現場で航空機騒音の単発騒音暴露レベルを厳密に測定することは予想以上に大変です。しかもLAE値を算出する過程が実際に目に見えないため、例えば、

  • 積分区間が適切に切り出されているか
  • 積分区間に航空機以外の騒音が観測されそれがどの程度LAE値に影響を与えているか
  • 暗騒音の影響を受けていないか

といったことが判断しにくくなっています。そこで自動測定器あるいは後処理の過程で下記の情報を記録しておくと検証がやりやすくなります。

  • 積分区間の開始時刻と終了時刻、及びその間の時間
  • 最大騒音レベル(LA,smax)とその発生時刻
  • 暗騒音レベル
  • 暗騒音補正を行わないLAE
  • 暗騒音補正を行ったLAE
  • 積分区間と前後も含む範囲の実音データ
  • 積分区間と前後も含む範囲の短区間LAeq値(24時間全部を記録しておく方が望ましい)

しかし、観測されたすべての測定イベントについて、逐一こうした情報をチェックし実音聴取をするのは大変です。そこで、外部の影響を受け測定値の信頼性が低いと思われるデータを絞り込み、それらについて詳細なチェックができれば効率的です。そのチェックの方法ですが、私たちはLA,smaxとLAEの関係に着目し、両者の差を比較、あるいは、両者の関係を散布図にプロットし(MS-Excelなどを使えば簡単に描画できます)チェックしています(図13)。そして、積分区間の中にLAE値に大きく影響するかぶり音(航空機以外の卓越した騒音)が観測されている場合にはその部分を除外してLAE値を再計算できるソフトウェアを製作し使っています。

また、S/Nがそれほど大きくない場所(S/N<20dB)では、暗騒音補正が必要な範囲も積分範囲に含まれる可能性があるため、暗騒音補正を行うか、そうした範囲を除外して計算するといったことが必要となりますが、自動測定器の暗騒音がどのように定義されているのかを事前に把握しておくことも重要です。

図13 L_A,SmaxとL_AEの関係
図13 LA,SmaxとLAEの関係

LA,smaxとLAEの関係は、現場ごとに異なり、WECPNLの近似式で前提としていた10dB差(継続時間20秒で三角形近似した場合)になるとは限りません。実際には測定点と飛行経路の関係や航空機の飛行速度等に依存しますので、10dB差を基準にチェックするのではなく、測定地点ごとの特性を見極める必要があります。また、軍用飛行場を対象とした測定では両者の関係は大きくバラつきます。

5. 単発騒音レベルの推定方法

単発騒音暴露レベルの測定は、測定場所の状況によっては、精度の高いデータを得るためには多大な労力を要し、その労を惜しむと測定の信頼性を失う危険性さえあります。そこでLA,smaxとLAEの関係に着目し、予め測定場所ごとのLA,smaxとLAEの関係式を求めておくことで、LA,smaxからLAEを推定する方法を成田市では提案しています(成田空港周辺におけるWECPNLと等価騒音レベルの実測及び検討、日本騒音制御工学会研究発表会講演論文集, pp17-20 (2004))。

航空機騒音のLA,smax測定は、簡単とはいえないまでも、これまでの長い間に測定方法も確立し、識別技術も普及してきています。測定場所の状況によっては実音聴取によるチェックといったかなり手間が必要なところもありますが、少なくともこれまではなんとか運用されてきています。最近、各地の自治体では、航空機騒音の専任者や騒音の担当者が年々削減されつつあり、そうした状況ではこれまで以上の労力を航空機騒音の測定やデータ処理に投入するのが難しくなっているという話しをよく聞きます。そういう意味でも、現状とほぼ同じ労力でLAE値を推定できる成田市の提案は時宜を得ていると言えます。

また、この方法のもうひとつの利点は、過去のLAE値、Lden値も予測できるという点です。過去のLA,smax値を換算式に代入しLAE値、Lden値を簡単に求めることができます。「航空機騒音に関する評価方法検討業務 平成17年度報告書」の中でも、「定義通りに算定した単発騒音レベルと、最大騒音レベルと継続時間から近似計算した単発騒音暴露レベルとを比較すると広いレベル範囲にわたりよい対応を示す」ことが示されています。これも成田市方式と考え方は共通していると思いますが、こちらの方法では、S/Nが十分でない場合、継続時間(最大騒音レベル-10dBのレベルが継続した時間)を測定することが困難な場合には適用が難しくなります。

6. おわりに

今回、Lden評価に伴う単発騒音暴露レベル測定についてご説明させていただきました。評価指標がLdenに変わることにより従来のWECPNL以上に測定値の信頼性を確保することが難しくなります。理屈上は成田空港周辺で問題となった"逆転現象"のような矛盾は解消されますが、反面、測定を機械任せにしているだけでは測定精度が低下するといった課題もあります。

新しい環境基準が施行されるまで、約5年の猶予があります。私たちは騒音測定と測定システム開発の両方に携わってきた立場から、測定の問題点や信頼性を確保するために必要となる作業を正しくお伝えするとともに、より一層の技術開発を進め、実際に航空機騒音測定の現場に携わっておられる方々のお役に立っていきたいと考えております。

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