工事部 鈴木 純也、田山 哲、細野 奈緒、酒井 基行、佐竹 康、金 誠

1. はじめに

平成16年2月某日、弊社へ森ビル内装部の方から一本の電話が入りました。
「森タワーの中に昇降床を持ったプレゼンテーションルームの計画があるんだけど打ち合わせにこれない??」
これが、エムファクトリー オーディトリアム計画の始まりでした。

話を伺いにいってみると、森タワー39FにIT企業(株)エム・ファクトリー(システムインテグレーション、ネットワークインフラのデザイン、監査、 ソリューションの提供をする企業)が森タワー内20Fより引っ越すことが決まり、それに伴い、オーディトリアムを作りたいとの要望があるとのお話で、窓の外には東京タワー、 その先には東京湾が見えるという最高の場所にオーディトリアムが計画されておりました。
さらに、建築だけでなく通常は別途工事になってしまう、映像・音声システムの工事も一括して請け負うという希少な経験をさせていただくことになりました。

2. 計画

客先の要望として

  • ひな壇形式にして、70人程度のプレゼンテーションをしたい。
  • サラウンドシステムを用いてDVD等の映画鑑賞のできる空間にしたい。
  • プレゼンテーション等が終わったあとに、短時間で床をフラットな状況にし、100人規模のパーティーができるようにしたい。
  • 天井をできるだけ高く取りたい。

などというさまざまな要望がありました。
これらを可能にするため、社内での検討がはじまりました。

平面図
図-1 平面図

断面図
図-2 断面図

2.1. 遮音構造

まず、最初に検討がなされたのが森タワー39Fにオーディトリアムを作るということで、上下階の遮音でした。
つまり、すでにテナントが入居している状況を考えると、サラウンドシステムを用いてDVD鑑賞をするという行為は、 サブウーファーにより低音域の音をかなりの音量で聞くということになり何も対策をしないと上下階から間違いなくクレームの対象になる危険な状況でした。
そこで、スケルトンの状態で上下階の遮音及び、暗騒音の測定を実施した結果、当然のことながら浮き構造を用いらなければならない結果になり、 さらには上階の暗騒音が低いことから天井に関して一部浮き遮音層を二重に設けることとしました。
といってもオフィスビルの中間階な訳ですからスラブ-スラブで4000程度しかなく、さらには梁も大梁が900H程度あるため実際には有効階高としては梁下で3100程度しかありませんでした。
そこで、二重の浮き遮音天井を完璧に梁下まで回すのが理想でしたが、天井高がかなり低くなってしまうので梁間で一度浮き遮音天井を形成し、 その下に仕上げ天井を兼ねた完全な浮き遮音天井を形成しました。また、その天井は一次浮き遮音天井の野縁受けから下地を吊ることによりできるだけ上階に対して余分な振動を伝えない配慮をしました。
また、この天井は仕上げ天井も兼ねるため、ダウンライトや点検口などの開口部にも工夫が必要で、ダウンライト部分には3.2mmの鉄板でダウンライトを覆うことにより(ダウンライトは断熱施工型)音の抜けを防ぎ、 点検口に関しても特注で3.2mmの鉄板を折り曲げ上階に対しての配慮をいたしました。(ただ点検口が重いため外すのに苦労はしますが・・・)

  • PB
  • 浮き天井下地
  • 写真-1 PB
  • 写真-2 浮き天井下地

また、床に関しても浮き構造にしなければなりませんでしたが、冒頭にも述べましたが、昇降床にする必要もあったため、 できるだけ薄くて性能のよい浮き床を作る必要がありました。高層ビルの39Fということで、コンクリート製の浮き床をいまさら作るわけにもいかず、 また、昇降床の荷重を受けるために単純に乾式の浮き床を作るわけにもいかず、試行錯誤した結果、薄くて性能がある程度よいと思われる、 下図のような浮き床(一般の浮床に比べ、時間と費用は掛かりましたが・・・。)を採用することとなりました。


図-3

  • 浮き床
  • 浮き床
  • 写真-3 浮き床
  • 写真-4 浮き床

壁に関してはフロアー借りのため、同一フロアーに別テナントが入るということがないので、それほどナーバスにならずに計画しました。 といっても、片側はオフィス、片側は会議室のため通常の遮音性能を持つ壁になってしまいましたが・・・・・。

2.2. 空調

客先からの細かな要望(スペック)の提示はなかったものの、部屋の目的がプレゼンテーション、DVD等の映画の上映ということで空調に関してはNC-25を目標に設計、施工いたしました。
既存ダクト及び排煙ダクト、梁の貫通スリーブ、天井をできるだけ高くするために当然ダクトスペースがいじめられるといった数々の不利な条件を克服して目標の性能を満足できることができました。 また、空調工事の中で今回一番工夫を要したところは下手側のレターンダクトを通すスペースを確保するために、昇降床のために確保した200mmの上げ床部分に3m巾の床下レターンダクトを設けたところです。 木の内貼りダクトを大工さんに作ってもらったのですが、これまた大変手間と時間が掛かりました。

床下ダクト
写真-5 床下ダクト

2.3. 昇降床

今回の工事の目玉のひとつです。150、300、450、600mmと150mm刻みで4段階の雛壇形式の昇降床が計画されました。 しかも、天井をできるだけ高く取りたいということは昇降床の厚さをできるだけ薄く仕上げなければならないということになりました。 さらに6月末に引渡しということで設計からはじめると非常に時間的にタイトなスケジュールでした。
当社にとっても、このような昇降床工事というのはあまり施工例がなく施工していただける業者さん探しからの始まりでした。

最終的にどの様な形に納まったかというと、客席側に1ユニット 1500x1850x180mmの機械を27台配置することにより雛壇を形成し、 正面スクリーン前に3台の昇降床を配置してその上に演台をおくことにより講演会にも対応するようにいたしました。

ここで、強調しておきたいのが、機械自体の厚さが180mmであるのにもかかわらず+600mmまで床が上がるということです。
シザーズのねじ式になっていて、ユニット自体が1500x1850mmあるのにもかかわらず、最大にあがったときの乗り心地も思ったよりもゆれることなく大変よくできたしろものでした。
さらには昇降に掛かる時間ですが、ビルの電圧の関係上一度にすべての床を昇降させることが難しかったため、2つのグループに分けての昇降になりましたが、 フラットな状態から雛壇が形成されるまで、正味15秒程度と大変短時間ですることができ、客先の要望を満足できたものと思います。

  • 写真-6
  • 写真-7


写真-8

また、これの搬入が今回の工事の一大イベントでうまくいくか行かないかドキドキものでした。

1ユニット300kgある昇降床を計30台森タワーの39Fへ搬入するわけですから・・・・。森タワー物流管理センターとの打ち合わせを重ね、 B2Fの荷捌きヤードを時間限定で確保していただき、通常使用できないフォークリフトを使用させていただきました。
フォークリフトの搬入も搬入車の高さ制限の関係でB1Fの荷捌きヤードで降ろし、B2Fまで自走していきました。
また、実際の昇降機を積んだトラックも2t車8台分もありこれをエレベータの予約時間の都合上6時間で完了しなければなりませんでした。

まあ、多少の問題はあった(EVの予約時間ぎりぎり??)ものの無事怪我もなくこれだけのものを搬入、 据付できたことに一安心で現場担当者全員工事が終わった気になったものでした。

2.4. システム

このオーディトリアムに入ってまず目が行くのが正面の180inchのスクリーンと天井につられた2つのプロジェクターでしょう。

スクリーンは映画館なみの張り込み式のスクリーンで電動の保護幕がついています。
また、スクリーンの裏及びサイドのパネル部分にメインスピーカをLCR各1台+サブウーファー1台を限られたスペースの中に配置し、 空いたスペースにはできるだけ大きなサウンドトラップを吊る事により低音域での吸音を考慮しました。客席側には6台のサラウンドスピーカを壁の中にバランスよく埋め込み、 臨場感のある音場を作り出しています。
また、スピーカの正面はジャージクロスパネルにしてあります。

スクリーン
写真-9 スクリーン

2台のプロジェクターはプレゼンテーション用にはPanasonic TH-7600、映画用にはBARCO CINE9がつられています。
2つのプロジェクター共大変高価な機器のため、現場へ搬入されてからの管理や、天井に取り付けるときに大変気を使ったのはいうまでもありませんでした。
竣工後に2つのプロジェクターの画面の見比べをさせていただいたのですが、BARCO CINE9の方はRGBの三管式の映写方法なせいか、 画面の色身が非常に優しく、長時間見ていても疲れない印象を持ちました。Panasonic TH-7600の方は照度が6000ルーメンあり画面が非常に明るく文字や画像の輪郭がはっきりしている印象でした。

また、雛壇の最上段の方はスクリーンまでの距離が比較的長いため、プレゼンテーション等の際スクリーンに映し出された小さな文字が読み取れない恐れがあったために、 天井から補助モニターとして42inchの液晶モニターを吊って客席最上段の人に配慮しました。

入力系統にはスクリーンの両サイドと客席後方の壁にPC、Mic用のパネルを配置し、ラック室の中にはPC、DVDレコーダー、 TVチューナーなど民生機で対応することといたしました。

  • 補助モニター
  • プロジェクター
  • 写真-10 補助モニター
  • 写真-11 プロジェクター

これらの機器及び、照明、電動ブラインドなどを米国AMX社のNetLinxコントロールシステムを用いてタッチパネルですべての機器の操作ができるようになっています。
これは非常に優れもので、プログラムを組むことにより上記の操作を指一本でできてしまいます。
実際にさわらせていただいたのですが、 ボタンを押すごとに"おおっ!!"って感じでした。オーディトリアムのAMXは有線方式のものを納品させていただいたのですが、 別の会議室には無線LAN方式のAMXを納品させていただきました。

2.5. 意匠

まず、第一に決まったことは、外壁側に大きな窓を設けるということです。
冒頭にも書きましたが、外を見ると東京タワー、 その先には東京湾。晴れた日には房総半島まで見渡せるこのロケーションを生かさない手はないって感じでした。

天井はできるだけ高く取るということがあったので、梁、ダクトルートとのせめぎあいの結果、 スクリーン前から部屋中央部のやや後方までCH=3050を確保し、立下りの部分に間接照明を入れ立ち上がりを光らせることにより実際の天井高より高く見せる工夫をしました。
その他の天井はCH=2690なのですが、壁際にも間接照明を配置することによって実際の天井より高く見える効果を期待しました。
また、高天部分の間接照明にはエム・ファクトリー様の社長の提案でブラックライトが入っているのですが、夜、 これをつけてほかの照明を消した状況にするとかなり怪しい・・・いやいや、いい雰囲気になりました。

壁は3段構成になっていて、上部には吸音を考えガラスクロスパネル。中段は吸音と拡散を考えクロスパネルと緑青を模した特殊塗装の凸凹のあるパネル。
腰下は保護を考えジョリパットにしました。部屋の形状、用途を考えると平行面を減らして、吸音する面積をもう少し取りたかったというのが正直なところですが、 意匠とのせめぎ合いでこのような仕上げになっております。また、仕上げ壁の裏にはサウンドトラップを吊るすことにより低域から高域までバランスよく吸音するように心がけました。

全体の雰囲気も落ち着いたよい雰囲気になったとおもっております。

  • 仕上げ
  • 仕上げ
  • 写真-12 仕上げ
  • 写真-13 仕上げ

3. おわりに

最後にきて初めて記述するのですが、この工事のほとんどの工程を夜間工事で行いました(昇降床以外)。
われわれとしても、日中は図面と打ち合わせ、夜間は工事といった2交代制を引き、2ヶ月間休みなしで、身も心もぼろぼろになりながらも何とか終わらせることができました。
このことに関しましては、夜間工事に対応していただいた協力業者の方々の協力の賜物だと思っております。

最後にエム・ファクトリー様、森ビル様にこのような希少な経験をさせていただいたことに感謝いたします。