技術部 中村 智幸
1. はじめに
マンション等の計画に際し、居住者が快適に過ごす為には、居室内(特に寝室内)において、 ある程度の静かさを保つ必要があります。
室内騒音に影響するものに空気音と固体音がありますが、ここでは空気音について述べたいと思います。
騒音源には隣室の騒音と計画地周辺の環境騒音があります。
隣室が居室なのか設備機械室なのか、室用途が分かれば、文献データや社内データ、カタログデータから、 音源のレベルを推定し、界壁・界床の遮音検討をすることが出来ます。
しかし、計画地周辺の環境騒音は計画地で実際に測定をしないと音源のレベルを把握することが出来ません。
よって、設計時に計画地(解体前の既存建物や更地)で騒音測定をし、サッシの遮音検討をすることが必要となります。
幹線道路、高速道路、鉄道に隣接する計画地の場合、環境騒音の主なものは交通騒音となり、 計画建物において道路や鉄道に面する側と陰となる側では騒音のレベルが異なります。
計画地での騒音測定で既存建物があれば、陰となる側の騒音のレベルを測定することが出来ますが、更地の場合は出来ません。
更地での実測値を用い、計算条件を簡略化して、表計算ソフトによって推定することもあると思われますが、 今回、弊社開発の騒音伝搬シミュレーションソフト「GEONOISE」を用いて推定してみましたので御紹介します。
尚、ここでは架空の建物、線路を仮定して検討します。
2. GEONOISE について
「GEONOISE」は、工場、道路、鉄道、航空機等から発生する騒音の伝搬を計算し、 広域の騒音レベルの予測を行うことを目的として自社開発した騒音伝搬シミュレーションソフトです。
このソフトの計算方法の特徴は下記の通りです。
- 1次回折音までは楔の厳密解、または漸近解を用いる
- 反射は10次反射まで考慮可能
- 高次の回折については近似的な回折経路
- 反射音の回折まで考慮
- 音源のパワーレベルは周波数バンドごとに入力(最大12バンド)し、バンドごとに計算を行い、最終的に騒音レベル[dB(A)]に合成
参考図 「GEONOISE」を用いたコンター計算例
3. 計算条件
図-1に、建物の形状、線路と建物の位置関係を示します。
図-1 検討対象物の配置図
条件を簡単にする為、検討対象建物の近隣には建物が無いものとします。
計算する際、線路上に列車騒音の音源を置くわけですが、列車を有限長線音源とし、実際は連続した点音源として設定します。
今回は列車10輌程度(全長約200m)を想定し、20個の連続した点音源とします。
音源のパワーレベルは社内データを元に63~4kHzの1/1オクターブバンドごとに設定します。
列車は移動する音源なので、建物の正面、側面、背面対して、影響の大きい位置がそれぞれ異なる為、 線路上で音源位置を移動させ、面ごとに騒音レベルが最も大きくなる位置を探し決定します。
受音点は建物正面、側面、背面にそれぞれ数点設定します。
建物、地面は音響的に反射とします。
シミュレーションソフトの計算条件を表-1に示します。
表-1 計算条件表
対 象 | 条 件 |
---|---|
直接音 | 距離減衰、空気吸収など |
反射音 | 3次まで |
回折音 | 3回まで |
反射音の回折音 | 3次反射音まで、3回回折まで |
4. 計算結果
音源位置と受音位置、dB(A)の計算結果を建物の面ごとに、図-2-1~2-3に示します。
4.1. 正面
正面での騒音レベルの分布は低い階から高い階に従って84dB(A)から81dB(A)へと値が小さくなっており、 音源からの距離減衰が認められます。
水平方向での分布は各高さで同じです。
4.2. 側面
列車に一番近い計算点で79dB(A)となり、水平及び鉛直方向に離れるに従って、77dB(A)及び75dB(A)へと値が小さくなっています。
音源からの距離減衰が認められます。
4.3. 背面
音源から遠い位置では直接音が到達することによって騒音レベルが大きく、69dB(A)となっています。
音源に近い背面では直接音は無く回折音のみなので62~63dB(A)となっています。
更に、背面コーナー部に近づくに従って回折音の減衰が進み値が小さくなっていき、50~52dB(A)となっています。
5. 計算結果のまとめ
正面と背面の差は19~32dB、側面と背面の差は6~12dBでした。
騒音源に面する側と陰になる面の差は、一律同じではないので、背面の居室のサッシを検討する際には注意が必要となります。
図-2-1 音源・受音点配置図と計算結果(正面)
図-2-2 音源・受音点配置図と計算結果(側面)
図-2-3 音源・受音点配置図と計算結果(背面)
6. GEONOISEを用いることの利点
表計算ソフトで高次の反射音や回折音を考慮した計算を行うのはかなり困難ですし、音源・受音点の数が多いと更に困難となります。
音源・受音点位置をあれこれ移動させてみることも難しいでしょう。
また、設定した音源・受音点や構造物の位置関係が誤っていた場合、検証が難しいと思われます。
「GEONOISE」を用いることで、高次の反射音や回折音、更に反射音の回折も考慮でき、音源・受音点数も多く設定できます。
音源・受音点位置を移動させるのも容易です。
今回のように、ある受音点に対して影響が最も大きくなる音源位置を探す場合にとても有効です。
設定した音源・受音点や構造物の位置関係、また、計算した音線を3D表示で確認できるので、位置が誤っていた場合にも検証が容易です。
弊社では外部騒音の測定及び遮音検討を業務のひとつとしていますが、「GEONOISE」を併用することで、 きめの細かい検討を可能としています。