営業部 高田 雅保

1 まえがき

我々が、お客様から受ける質問の中に次のようなものがあります。

「社内規格では、被測定物の正面1mで騒音レベルのみを測定することになっているが、無響室と半無響室で測定すると値が違うのはなぜか。」

「半無響室で測定すると床からの反射が出てきて、測定値がおかしくなる。どうすれば良いのか。」

また、同じ種類の質問に以下のようなものがあります。

「機械の騒音レベルについて、防音室で測定した結果と別の無響室で測定した結果で、値が違うのはなぜか。また、同じ値になるように補正したいが、その方法はあるのか。」

「同じ機械の騒音レベルを測定しても、この無響室での値は、他の無響室で測定する値よりも常に大きいのはなぜか。」

「防音室と無響室の違いは何か。」

「無響室と無響箱の違いは何か。」

このような質問が数多く寄せられるということは、我々メーカーの設計者・技術者の説明が不十分であることに原因があり、反省するばかりです。特に、最近では測定機器の精度も良くなり、コンピュータ制御による測定などでコンマひとケタまでの精度を追求するような場合には、これらの質問にある問題が顕著になってくると考えられます。

これらの質問に対する答は、いくつかの前提条件がありますが、測定に使用される機器に問題がなく、被測定物から発せられる音に比較して暗騒音レベルが充分に低ければ、概ね測定に使用される試験室の音場の違いによると考えて間違いないと言えます。

これらについて詳細を述べていますと紙面がとても足りそうにありませんので、今回は、無響室と半無響室の違いについて取上げることにします。

2 無響室と半無響室

以前の号でも述べましたが、無響室と半無響室の基本的な違いについてまず紹介しておきます。なお、ここでいう無響室とは完全無響室と呼ばれているもののことです。皆様に混乱を与える原因の一つに、同じ物を色々な呼び方をするということがありますが、ここでは以下のように定義します。

無響室(完全無響室):測定の対象とする周波数範囲内の音波を充分に吸収する境界面で構成され、その内部では自由音場の条件が成立つ試験室。
半無響室:床など境界面の一面又はその一部が音響的に十分な反射性で、それ以外は測定の対象とする周波数範囲内の音波を充分に吸収する境界面で構成され、反射面上で半自由音場の条件が成立つ試験室。
ここで、「床など」というのは、通常は床を対象としますが、例えば壁かけエアコンを測定する場合、壁が対象となります。また、「その一部」とは、例えばエンジン定盤などが吸音床の一部に設置されているような場合を指します。

これらの定義もそうですが、これから述べますことは概ね関連規格若しくはその解説の抜粋、またはそれらを参考にしたものですので、まずそれらを明記しておきます。

JISZ8732 無響室又は半無響室における音響パワーレベルの測定方法

ISO3745 Determinationofsoundpowerlevelsofnoisesources-Precisionmethodsforanechoicandsemi-anechoicrooms

3 音圧レベルと音響パワーレベル

ここでも、まず両者を定義します。

音圧レベル:音圧の二乗を基準の音圧の二乗で除した値の常用対数の10倍。基準の音圧は20μPa。単位はdB(デシベル)
音響パワーレベル:音源から放射される全音響パワーを基準の音響パワーで除した値の常用対数の10倍。基準の音響パワーは1pW。単位はdB(デシベル)
つまり、音圧レベルは、音源から直接放射されたものやその他のものを合わせてその場所で測定される音圧の大きさを表します。それに対して音響パワーレベルは、音源から放射される全エネルギー(対象物の周囲で音圧レベルを測定して算出します。)の大きさを表します。

先の質問の中にありましたように、無響室と半無響室(床以外の違いは無いものとすれば。)で測定すれば、たとえ同じ機械、同じ位置で測定しても、音圧レベルは、床からの反射がある場合(半無響室)とない場合(無響室)で、その値は違ったものになってきます。

さらに、音響パワーレベルの測定においても、床からの反射音の影響が表れ、無響室と半無響室におけるパワーレベルの測定精度(標準偏差の最大値dB)は違ったものになってきます。

表1にパワーレベルの測定精度を示します。

表1 パワーレベル測定の精度(ISO 3745)
標準偏差の最大値(単位 dB)
オクターブバンド(Hz) 125 250 500 1000~4000 8000
1/3オクターブバンド(Hz) 100~160 200~315 400~630 800~5000 6300~10000
無響室 1 1 1 0.5 1
半無響室 1.5 1.5 1 1.5

無響室の写真
無響室

4 試験室の大きさ

試験室の大きさは、対象物がようやく入るだけでは測定できません。また、対象物に比較してやたら大きくても建設コストが掛かりすぎます。

これは逆二乗則特性に関係してきますが、ISO3745では試験室の大きさは測定被対象物の200倍と規定しています。測定被対象物の容積が1m3であれば試験室の体積は200m3が必要となります。しかし、JISZ8732では、これはきびしすぎるということで、測定球面内(JISを参照してください。)において逆二乗則特性の評価基準を満足していれば良いこととなっています。

表2にその評価基準を示します。

表2 試験室の音圧レベルの距離減衰特性の許容最大偏差
周波数(Hz)最大許容偏差 dB
無響室半無響室
100,125,250,500 ±1.5 ±2.5
1000,2000,4000,5000 ±1.0 ±2.0
6300,8000,10000 ±1.5 ±3.0

半無響室の写真
半無響室

5 境界面(吸音層及び床)の規格

さて、無響室、半無響室の定義にある「測定の対象とする周波数範囲内の音波を充分に吸収する境界面」とは、吸音楔などで構成される吸音層を示します。

逆二乗則特性の成立範囲とも関連するのがこの吸音層です。まさにこれが試験室の音場を決定することになります。正確には、試験室の音場は、吸音層の音圧反射率特性、試験室の大きさ、試験室の寸法比、室内の反射物の大小によって決められます。

ISO3745では測定の対象とする周波数範囲の音圧反射率が0.1以下(つまりカットオフ周波数が測定の対象となる下限である。)である吸音楔を使うことと規定され、JISでは測定球面内で逆二乗則特性の評価基準を満足すれば良いこととなっています。

これらの違いは吸音層がどのような構造になるかという部分であり、試験室の建設コストにも大きく関係してくる非常に重要なところです。

なお、無響室と半無響室で吸音層の規格を特に変更することはありません。

また、半無響室の反射面(境界面の一面又はその一部)の吸音率は0.06以下とされています。

6 使用上の相違

試験室を無響室とするのか、半無響室とするのかの分岐点はどこにあるのでしょう。

測定精度から無響室と半無響室を選択するとすれば断然無響室の方が有利であるといえます。しかし、被測定物の特徴上(大型機械や自動車等の重量物など)無響室内に設置することが困難である場合やもともと反射面上に設置されるような被測定物である場合には半無響室を選択することになると考えられます。

つまり、測定の対象物により、無響、半無響が選択されることになります。

しかし、対象物が特定されない場合や両方の特性で測定したい場合のため、以前にも紹介しましたが無響室の内部を部分的に半無響室のようにする方法や、反射床が機械的に移動して無響室が半無響室に早がわりするタイプのものも開発しています。これらの詳細については本技術ニュースのバックナンバーを参照して下さい。

表3 無響室の形態

名称概略断面図特徴
完全無響室 無響室の図 精密測定が可能
完全無響室リフター付 リフター付無響室の図 試験体下部の測定が可能
完全無響室移動床付 移動床付無響室の図 完全無響室と半無響室の機能を有する
完全無響室定盤付 完全無響室定盤付の図 振動を有する測定対象物の制度を上げた測定が可能
半無響室 半無響室の図 重量の大きな試験体の測定
半無響室一部完全無響付 一部完全無響付半無響室の図 小部品を完全無響の状態で測定を行える

7 まとめ

しばしば体験することですが、ある対象物の騒音レベルとして、数値のみが示されている場合があります。その数値がパワーレベルなのか、音圧レベルなのか、また、音圧レベルであるならば、どのような環境や位置で測定されたものであるのかによって、その数値の持つ意味は大きく異なります。

無響室のスライド床の写真
スライド床

通常、耳に聞こえる量としては音圧レベルで示されるため、パワーレベルという概念がなかなかつかみにくいのですが、音響理論や計算式の中には音源のパワーレベルから出発しているものが多く、騒音対策を検討するなどの場合では重要な量となります。また、輸出機械などの騒音表示はパワーレベルによることが多くなっており、その測定の重要性は、益々増加すると考えられます。

そのパワーレベルを測定する施設としての試験室を無響室とする場合でも半無響室とする場合でも、当社では、種々の吸音層の音圧反射率データと試験室の寸法、被測定対象物の大きさ、測定球面の大きさから、周波数ごとの逆二乗則特性の成立範囲をコンピュータにより予測計算し、その目的に最適なものを設計させていただいています。

そのため、無響室と一様に呼ばれていてもその特性、音場は様々に異なります。半無響室についても同様です。

つまり、先の質問にあった違う無響室で測定すると同じ音圧レベルにならない原因は、この辺にあると考えることができそうです。

今回は、無響室と半無響室の相違点などについて書かせていただきました。今後とも、お客様の疑問点を一つでも解決していただけるよう、無響室などの試験測定施設のご紹介を続けますので、よろしくお願いします。