液状化対策のための地下水位観測システム

技術部 酒井 真雄
大阪営業所 奥田 庸雄

1. はじめに

今年1月17日に発生した阪神・淡路大震災は、いまもなお大きな傷跡を残しています。 震災は、直接被災された方々は当然のことながら、交通網の寸断、生産活動の停止などにより、多くの人に有形、無形の影響を与えています。

地震は、地震動そのものによる構造物の破壊、その後に発生する火災を引き起こすほか、地盤の地割れや陥没、 斜面の崩壊など大地の異変を生じさせ、それにより地上や地下の構造物に被害を与えます。なかでも、地盤の液状化は、標高の低い、 軟弱な地盤で多く発生するとされ、阪神・淡路大震災でも、ポートアイランド等の埋立地で発生し、構造物に被害をもたらしました。

液状化が注目されたのは、比較的新しく、1964年の新潟地震で、橋脚の落下や鉄筋コンクリート建物の傾斜や転倒の原因とされたことに始まります。 その後、その発生機構や防止対策に関する研究が多くなされ、現在では、各種構造物の設計に液状化に関する検討を含めることが一般的となっています。

臨海部の埋立地に立地する石油コンビナート、特にタンク等の石油備蓄施設が被害を受けた場合の影響は甚大となることから、 その対策はぜひとも必要となります。

川崎市浮島町のキグナス石油精製株式会社で実施された地下水低下工法による液状化対策工事において、 当社は地下水位観測システムの設置に協力させていただきました。今回は、その概要をご紹介させていただきます。

観測井戸の配置図
図1 観測井戸の配置図

2. 液状化対策工事

液状化は、地盤を構成する土層の、土の粒子と粒子の間(間隙)にある地下水の水圧が、 地震動によって上昇し、土層が本来持っていた上からの荷重に抵抗する力を、間隙水圧が上回った時、 ついに土層は、あたかも液体のようになってしまう現象で、間隙に地下水が充満した(飽和した)砂質地盤で多く発生するとされています。

液状化の対策として、構造物の基礎を液状化の発生しない深い所まで下げる方法と液状化が発生し難い地盤に改良する方法があります。 ただし、前者や全面的な地盤改良工事は、既に構造物が設置されている場合には、多くの困難が伴います。

そこで、地上の構造物に変更を加えず、対象とする構造物の周囲の地下水を強制的に揚水し、 土層中の間隙水圧を予め低下させて置き、液状化抵抗を増加させようとするのが、地下水位低下工法です。

この地下水位低下工法を石油備蓄施設で本格的に実施したのは、同じ川崎市浮島町の東燃(株)川崎工場が最初で、 対策工事の対象区域に対して合計26本の揚水井戸を設置し、地下水位を低下させることで、300gal程度の大地震にも耐えられることを目標にしています。

今回のキグナス石油精製株式会社においても、同様の工法を採用しています。本工法においては、目標水位低下量を維持し、 かつ、平面的にできるだけ均等に下げるよう、揚水井戸の適正配置と揚水運転管理を行うこととしています。

そのため、地下水位が目標低下量に達しているか、平面的に偏りがないか、敷地周辺部で水位低下がないかを、 多数設置した観測井戸で常時監視する必要があり、地下水位監視システムが求められたわけです。

図1に工場平面図を示しますが、10本の揚水井戸、43本の水位観測井戸(うち自動測定対象井戸30本)が配置されています。

3. 地下水位監視システム

これまで当社では、新東京国際空港(成田空港)周辺などの航空機騒音をはじめ、各種騒音や振動のデータ収集、 通信、集計・表示を一貫して行う自動測定システムを開発してきました。今回の地下水位監視システムについても、 基本的な機器構成は、他の自動測定システムと同一で、センサー部分だけが異なるものとなっています。
このシステムは、大きく以下の3部分から構成されています。

  1. 水位測定機器:地下水位の変化を電気信号に変換します。
  2. データ収録システム:水位測定機器からのデータ取り込み、蓄積、収録システムへの送信などを行います。
  3. データ集計システム:収録システムからのデータ受信、データの集計・表示、収録システムの制御などを行います。

システム構成図
図2 システム構成図

各観測井戸の水位測定機器からは、専用配線と既設の計装ケーブルを経て、工場敷地内の計測制御室に設置したデータ収録システムに結ばれ、 収録システムと集計システム(工場内事務所に設置)は構内通信回線で結ばれています。

なお、収録システムと集計システムは一般公衆回線で接続することも可能で、 遠隔地、例えば本社事務所などでデータの集計処理を行うこともできます。
また、観測井戸の大半が石油タンクヤード内に設置されているため、測定機器の設置及び配線については、色々な防爆対策を施しています。 まず、水位センサーは本質安全仕様の物を選定したほか、水位センサー本体は水中に沈める形で設置するため電極部が外気に触れることはありません。 さらに、水位センサーからの出力信号ケーブルも、接続部分は耐圧防爆型ジャンクションボックスとし、ケーブルも全て電線管の中を通し、 一部は地下埋設しています。配線・配管工事の総延長距離は約3,000mとなっています。

配線概略図
図3 配線概略図

3-1 水位測定機器

水位測定機器については、設置場所の制約から、次の事項をクリアーする必要がありました。

  1. 防爆仕様であること。
  2. 内径が500mmの観測井戸で使用できること。
  3. メンテナンスが容易であること。
  4. 十分な測定精度を有すること。

そのため、一部試作を含め、種々のセンサーを使用して予備実験を行った結果、小口径の水圧式水位センサーを使用することにしました。

選定した水位センサーは、英国ドラック社製のPTX 160/D/ISで、円筒形(直径17mm) のセンサーを観測井戸の地下水位面以下に吊り下げる形で設置し、水位変動を水圧変化として感知します。 なお、水位換算で±1cmの測定精度を持っています。

観測井戸の写真
図4 観測井戸

また、上記の設置条件(防爆仕様)から今回の水位センサーには採用しませんでしたが、検討過程で、独自の水位センサーを開発しました。 これは、音波(超音波ではありません。)を利用するもので、小口径の観測井戸でも、井戸管に継ぎ目がある場合でも、 ±1cm程度の精度で測定が可能です。また、設置方法も、観測井戸の上部にかぶせるように置くだけですので、防爆条件のない場所であれば、 有用であると考えています。

3-2 データ収録システム

データ収録システムは、各観測井戸からの出力信号を取り込むためのインターフェイス、 データ保存用のハードディスク、データ送信用のモデム及びCPUを基本に構成されています。

データ収録システムの写真
図5 データ収録システム

データ収録システムの持つ主な機能は、次のとおりです。

  1. データ収集

    各観測井戸における水位データを、予め設定された時間間隔(1分から24時間の間で任意に設定可能)で自動的に取り込みます。

  2. データ蓄積

    収集したデータは、ハードディスク(540MB×2)に、1日ごとのファイルとして書き込まれます。 容量的には30カ所の観測井戸で1時間ごとのデータを1年分以上蓄積しておくことが可能です。 また、予め設定した期間を超えた古いデータは自動的に消去されますので、ディスクがオーバーフローすることはありません。

  3. データ転送

    データ集計システムからのデータ転送要求があると、収集したデータをデータ集計システムに一括転送します。 集計システムからの転送要求は、設定された時間間隔毎に行われる自動転送のほか、任意の転送要求にも対応します。

    また、設定した測定条件(時間間隔等)を集計システムから変更することも可能です。

3-3 データ集計システム

システムは、パーソナルコンピュータ(DECpc LPx466d2:DOS/Vマシン)を中心に構成され、 収録システムから転送されたデータを集計し、結果をプロッターやプリンターに出力させます。 なお、集計システムのハードディスク(1GB)には、約2年分のデータを蓄積することができます。 また、集計システムは、地下水位監視の専用機能のほか、他のアプリケーションソフト(ワープロソフトや集計ソフト)による使用も可能です。

4. データ集計機能

データ集計システムの機能は、全てメニュー形式により選択することができ、複雑な操作を必要としません。 以下にその主な機能をご紹介します。

  1. データ収集機能

    データ収集システムを作動させると、まず「自動データ収集」の機能が選択されます。 「自動データ収集」は、設定された時間間隔毎に測定された水位データを収録システムから自動的に転送させ、 測定結果をハードディスクに記録していきます。また、集計システムを他の目的で使用していたり、 電源の入れ忘れ等により、データ収集の欠落があった場合には、収集システムのファイルを検索して、欠落分を自動的に収集する機能を持っています。

    データ集計システムの写真
    図6 データ集計システム

    「手動データ収集」機能は、任意の時間に水位を測定させ、集計システムにデータを転送させます。

  2. メンテナンス機

    メンテナンス機能には、「水位校正」と「地盤高校正」があります。

    「水位校正」は、実測による水位(目盛りの付いた水位測定器により手動で測定:1ケ月ごとに測定)で水位測定機器を校正します。 なお、実測と自動測定結果に差異があった場合には、前回実測したまでの期間のデータを、時間配分により自動修正します。

    水位センサーによる測定は、観測井戸の上端部(管頭)から地下水面までの距離で表示されますが、 集計は全て地盤高に換算して行うため、各観測井戸の管頭の地盤高(水準測量結果)が必要となります。

    「地盤高校正」は、地盤沈下等により観測井戸の地盤高が変化した場合、最新の水準測量結果を入力して校正するものです。

  3. マニュアル入力機能

    観測井戸には、自動測定機器が設置されていないものもあるため、手動による水位測定を、 通常1ヶ月に1回程度実施しています。この機能は、集計システムにそれらの結果を入力するものです。

    なお、これらの入力結果は、自動測定結果と合わせて、後述する各種の集計(水位コンター等)表示に含めることが可能です。

    水位コンター図の出力例
    図7 水位コンター図の出力例

  4. 集計・表示

    データの集計表示は、希望する項目を選択するだけで自動的にプリンター、プロッターに出力されます。 「データ一覧表」(結果の作表)、「時系列グラフ」(時間による水位変動図)については、日、月、年のそれぞれの単位で集計表示され、 各期間内の平均値も併せて表示されます。また、全観測井戸、個別井戸のほか、各地域ごとのグループを選択して、表示出力することが可能です。

    鳥瞰図の出力例
    図8 鳥瞰図の出力例

    「コンター」(水位の分布平面図)、「鳥瞰図」(水位分布の立体表示:表示の方向、角度は任意に変更可能)については、 各期間(日、月、年)の平均値表示のほか、任意の時間断面で表示することができ、時間の経過とともに変化する様子を解析することもできます。

5. おわりに

今回の地下水位観測システムについては、基本的にこれまでの騒音監視システムと同様であるといえども、 新たに経験する事項も数多く、貴重な経験を得させて頂きました。今後とも、これらの経験を活かし、騒音・振動だけでなく、 あらゆる事象のデータ収集、集計、解析のシステムの開発に努めて行きたいと考えています。

なお、最後になりましたが、今回の地下水位観測システムの実現に尽力されるとともに、多くの御助言を頂いた、 東燃株式会社、キグナス石油精製株式会社のご担当者をはじめ、多くの皆様に深く謝意を表します。

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