床衝撃音の測定

技術部 早川 篤

1. はじめに

「最近の若者は...」とまだまだ言う年齢ではないのですが、妙に足が長いと思いませんか。 聞いた話によると日本人の生活習慣が「畳の生活」から「椅子の生活」へと移り変わってきたのが原因だそうです。
近年、集合住宅においても、畳やカーペット敷から板貼り(フローリング)に変える傾向があります。 フローリング床が好まれる理由として、ダニ対策、自然指向、掃除の簡単さ等が挙げられますが、その反面、集合住宅において、 床衝撃音に関係する苦情の件数が増加しています。
ここでは、集合住宅の床衝撃音測定についてご紹介させていただきます。

2. 生活騒音

京都市の二条城の「鴬貼り」というのをご存じでしょうか。城内の廊下を歩くと床板が「キュッ、キュッ」となります。 これは、人が近付いてくるのを前もって察知するために作られたそうです。 人が作り出す騒音によって自分の身の危険を回避するとは、その時代の生活の知恵であったのだと思います。
戦後、人の生活形態が大家族から核家族へと変わってきたのは皆様ご存じだと思います。 以前は、大勢で他人の生活音(話し声、足音、テレビの音等)を耳にしながら毎日を過ごすというのがごく当たり前のことでした。
しかし、最近になって家族形態がどんどん縮小され、家族の孤立化、言い替えればプライバシーを守れる生活環境が好まれてきています。 本当なら静かでいたいのに、隣からテレビの音が聞こえてくる、子供の鳴き声がする等、今まで当たり前の音が騒音としてとらえられてしまいます。
ところで生活騒音は、大きく2つに種別することが出来ます。まず、テレビの音や話し声等の空気伝搬音。 もう一つは、扉の開閉の音や子供の跳びはねる音といった固体伝搬音が有ります。
ここで取上げる床衝撃音は、固体伝搬音の部類に入るのですが、 集合住宅での室内騒音に関するアンケート調査結果をみると「跳びはねる音」や「走り回る音」が上位をしめています。 これは、床の板貼り構造が主流となってきていることも原因の一つと考えられます。

3. 床衝撃音測定の歴史

床衝撃音測定は、1927年~1928年にかけてアメリカのNBSで現行のタッピングマシンと同様の考え方によるハンマー加振器を使われた測定が最初であるといわれています。 いまでこそ靴をぬいで生活するアメリカ人は増加し、タタミルームなるものが普及していますが、この時代は、当然板貼りに革靴の生活でした。
その後も、アメリカ、ヨーロッパの各所で床衝撃音実験が行われ、 1960年にISO R 140-1960(空気音及び床衝撃音透過の現場及び実験室測定)という推奨規格が制定公布されました。
一方、日本では、1974年にJIS A 1418(建築物の現場における床衝撃音レベルの測定方法)が制定されました。 この段階では、ISOの標準タッピングマシンがそのまま規定されていましたが、重量衝撃の問題にたいして、 1978年 JIS A 1418の改正で、重量衝撃音発生器の仕様が追加されました。

重量衝撃源(バングマシン)
図1 重量衝撃源(バングマシン)

日本が床衝撃音に対して、欧米諸国よりもかなり遅れをとっているようにも思えますが、 「板貼り・靴」の生活と、「木造・畳み・素足」の生活という根本的な生活環境の違いがあったからだと思われます。

4. 測定方法

つぎに、床衝撃音の測定方法について記述します。

4-1 重量床衝撃音測定

集合住宅でよく問題とされる子供が飛びはねたり走り回ったりする時に床に加わる衝撃による直下階室の衝撃音レベルを測定することを目的に実施されます。
音源は、一般に軽自動車のタイヤ(5.20-10-4PR)を空気圧1.5×105Paに調整して、0.8m~1.0mの高さから自由落下させることにより得ます。
しかし、近年は、この衝撃源が過大すぎると言う意見もあります。

4-2 軽量床衝撃音測定

小物の落下や家具を移動したときに床に加わる衝撃による下階室の衝撃音を測定することを目的に実施されます。
音源は、ハイヒールの音をシミュレートしたタッピングマシンを使用します。 これは、質量500g、直径30mmの円筒計のスチール性ハンマーを100mm間隔で5個ならべたもので、 それぞれ40mmの高さから0.1秒間隔で次々に連続して自由落下させ、衝撃音を発生させるものです。
タッピングマシンもバングマシンと同様、通常の歩行衝撃よりもはるかに大きいものとなっています。

軽量衝撃源(タッピングマシン)
図2 軽量衝撃源(タッピングマシン)

4-3 受音

上記の衝撃源を使い、床面に5点の打撃点を設定します。その時の直下室の打撃音をマイクロホンで5点測定します。 そして、中心周波数63Hzから4KHzの各オクターブバンドのFASTのピークレベルを読み取り、打撃点ごとの平均値を求めて、床衝撃音レベルとします。

5. 床衝撃音レベルの遮音等級と評価

下室の床衝撃音レベルに対する評価は、JIS A 1419 「建築物の遮音等級」に規定されており、 「床衝撃音レベルに関する遮音等級の基準周波数特性を定めて基準曲線とし、その基準曲線が500Hzで示す床衝撃音レベル(dB)の数値をL値と呼ぶ。」 と定義されています。

遮音等級Lを求める基準曲線
図3 遮音等級Lを求める基準曲線

しかし、この評価は性能の位置付けが不十分なため、一般には、 日本建築学会の「建築物の遮音性能基準と設計指針」のなかで提案されている適用等級と適用等級の意味に照らし合わせて評価を行います。 表1に床衝撃音レベルの適用等級を示します。
これらの評価によると集合住宅においてL-50、55が許容範囲であること記されています。
また、表2に住宅における生活実感とL値の対応例を示します。

表1 床衝撃音に関する適用等級
建築物 室用途 特級(特別仕様) 1級(標準) 2級(許容) 3級(最低限)
特別に遮音性能が要求される使用状態の場合に適用 通常の使用状態で使用者から苦情がほとんど出ず遮音性能上の支障が生じない 遮音性能上の支障も生ずることもあるがほぼ満足しうる 使用者からの苦情が出る確率が高いが社会的、経済的などで許容される場合がある
集合住宅 居室 L-40 L-45* L-45 L-50* L-50 L-55 L-60
ホテル 客室 L-40 L-45* L-45 L-50* L-50 L-55* L-55 L-60*
体育館 アリーナ L-40* L-45* L-50* L-55
学校 普通教室 L-50 L-55 L-60 L-65
原則として軽量、重量衝撃源に対して適用。但し*印は重量衝撃源のみに適用
表2 住宅における生活実感とL値との対応例
遮音等級L-30L-35L-40L-45L-50L-55
床衝撃音 走り回り足音等 殆ど聞こえない 静かな時聞こえる 遠くから聞こえる感じ 聞こえるが気にならない 殆ど気にならない 少し気になる
椅子、物の落下音等 全く聞こえない まず聞こえない 殆ど聞こえない サンダル音は聞こえる ナイフ等は聞こえる スリッパでも聞こえる
その他の例 子供が大暴れしてもよい 多少跳びはねてもよい 気がねなく生活できる 少し気をつける やや注意して生活する 注意すれば問題ない
L-60L-65L-70L-75L-80備考
やや気になる 良く聞こえ気になる 非常に良く聞こえうるさい 非常にうるさい うるさくて我慢できない 低音域の音、タイヤの値
はしを落すと聞こえる 10円玉で聞こえる 1円玉でも聞こえる 同上 同上 高音域の音、タッピングの音
お互いに我慢できる限度 子供がいれば文句が出る 子供がいても上が気になる 注意していても文句がくる 忍者的生活が必要 タイヤ、タッピングともに合格のとき

6. 衝撃音レベルの対策

6-1 重量床衝撃音

重量床衝撃音レベルを決定する要因として、

  • 床スラブの厚さ
  • 密度
  • ヤング係数
  • スラブ寸法
  • スラブ面積
  • 周辺の支持条件

等が考えられます。一般の集合住宅は、スラブ厚が150mm~180mm程度が標準(中には、200mm以上のものもあります。)で、 スラブ面積10~30m2、スパン比1~2程度となる場合が多いと思います。
表3にスラブ厚とスラブ面積にたいする遮音等級の目安を示しますが、同面積の場合スラブ厚の120mmから250mmの変化で遮音等級は、 3ランク程度改善され、同じスラブ厚では、面積が10m2から40m2までの変化により遮音等級で2ランク程度改善されることになります。

表3 スラブ厚、スラブ面積と遮音等級の目安

スラブ厚(mm) スラブ面積(m2)
12152025303540455060
120 L-55 L-60 L-60 L-65 L-65 L-65 --- --- --- ---
130 L-55 L-55 L-60 L-60 L-65 L-65 L-65 --- --- ---
140 L-50 L-55 L-55 L-60 L-60 L-65 L-65 L-65 --- ---
150 L-50 L-55 L-55 L-60 L-60 L-60 L-60 L-65 L-65 L-65
160 L-50 L-50 L-55 L-55 L-60 L-60 L-60 L-60 L-65 L-65
180 L-45 L-50 L-50 L-55 L-55 L-60 L-60 L-60 L-60 L-60
200 L-45 L-45 L-50 L-50 L-55 L-55 L-55 L-60 L-60 L-60
230 --- L-45 L-45 L-50 L-50 L-55 L-55 L-55 L-60 L-60
250 --- --- L-45 L-50 L-50 L-50 L-55 L-55 L-55 L-60

図4~6にスラブ厚、支持条件、床面積の変化により、床衝撃音レベルがどのように変化するかを示します。

スラブ厚変化による床衝撃音レベルの傾向
図4 スラブ厚変化による床衝撃音レベルの傾向

室面積変化による床衝撃音レベルの傾向
図5 室面積変化による床衝撃音レベルの傾向

支持条件変化による床衝撃音レベルの傾向
図6 支持条件変化による床衝撃音レベルの傾向

最近になって、マンションの広告等に床や、壁のスラブ厚が記されているケースが増えてきています。 そして、小梁のないマンション等が増えつつ有ります。もちろんスラブ厚の増加や、ボイドスラブの施工等の工夫がされ遮音性能自体向上しているのですが、 同じスラブ厚でも梁のあるなしでL値は3ランク程度変化することがわかります。 これは、部屋そのもののレイアウトや使い勝手の良さとの関係があるので一概には判断できませんが、重量床衝撃音に対してL-55(2級)以上は必要で、 そのためには、普通コンクリートの場合140mmから150mmとする必要があります。

重量床衝撃音レベルを下げる主な対策としては、

  • スラブコンクリートの増し打ち
  • 湿式浮床構造
  • 柔軟な仕上げ材の施工

などの方法がありますが、実際仕上げ工事が完了してからの対策工事として有効なのは、仕上材の変更ぐらいしかありません。 しかし、せっかくフローリング仕上げの床なのにジュータンを敷くことは好まれないこともあります。
なお、いくらスラブ厚を十分に取ったとしても、減音効果が現れないケースも度々あります。その原因としては、

  • GL工法による音の伝搬
  • 配管処理

等が考えられますが、対策処理をする前に原因を追求し、適切な処理をするという事が最も大切となります。

6-2 軽量床衝撃音

軽量床衝撃音レベルを決定する要因は、仕上げ材のヤング率です。つまり、仕上げ材の堅さによると考えられます。
畳みやジュータンからフローリング床にリフォームすると、当然、軽量衝撃音レベルは大きくなることになります。
現在のフローリング材は全体厚10mmから30mmのものが多く表面層の木質部と下部緩衝層で出来ています。 クッション材を床スラブとの間に挟むことにより、衝撃音の周波数低下によるレベルの減衰をはかっているのですが、床の堅さ居住性の問題がでてきます。

7. 床仕上げ材と衝撃音レベル

床の仕上げ材によって衝撃音レベルは左右されると書きましたが、実際どの程度の変化があるのでしょうか。
軽量床衝撃音にたいする仕上げ材の効果を改善量について、図7、8に示します。ただし、図中のΔLは、

ΔL:床衝撃音レベル改善量(dB)
L0 :スラブ素面を打撃した場合の床衝撃音レベル(dB)
L1 :床仕上げ後の床衝撃音レベル(dB)

とした場合、

ΔL=L0-L1

で表現されるものとしています。



図7 床衝撃音レベル改善量

例えば、スラブに直接パイルカーペット等の仕上げ材を施した際の改善量を見てみると、クッション層が無い場合、 500Hz当りから効果が大きく表れていますが、クッション層が有る場合は、63Hzや125Hzにも効果があらわれていることがわかります。
また、直貼り木質床の場合も500Hz以上では、板厚が厚いほど効果が見られますが、250Hz以下ではそれほどの効果は表れていません。



図8 床衝撃音レベルの改善量

軽量床衝撃音源のピーク周波数は1KHzですので、仕上げ材の厚みや材質により大きな変化が見られますが、 重量床衝撃源のピークは63Hzにありますので、改善効果は、床材のヤング率に依存すると考えられます。

8. 最後に

床衝撃音といえば、私自身は、これまで、主に苦情対応での測定を行なってきています。 苦情の内容というのは多種多様ですが、苦情発生の原因を整理してみました。

(ケース1)

上下階室の住民の生活時間帯が違っている。
例えば、上階の住人はごく一般的。下階は、早朝にでかけ夜は早く床に付く。

(ケース2)

下階は騒音に敏感で、上階は鈍感。
例えば、敏感な人は、測定出来ないほど小さなレベルの音を妙に気にする。

(ケース3)

住民の生活が非常識。(モラルの低下)
例えば、夜中に大騒ぎをするなど。

等が考えられます。

ちなみに私の経験では、日曜日の朝、自分の寝室の天井からものすごい「ドンドン]いう音が聞こえてきた事が有りました。 上階には、小学生の子供と両親が住んでいたのですが、ある日その奥さんとすれ違った時に「いつも子供がやかましくして、すみませんね。 実は、先日子供にせがまれて、トランポリンを買ったんです。」と言われ呆然としてしまったことがあります。

上下階や隣室の騒音問題にたいする解決方法として、ある調査では、

「他人に迷惑がかからないように注意する。」
「お互いさまだから多少の事は我慢する。」
「隣近所で話し合い、大きな音を出さない。」

などの意見が過半数をしめています。モラルの向上と近隣関係を良くすることで解決するということになりますが、 それだけではなく、「この程度でいいか」というレベルの「快適さ」で満足するのではなく、 「快適さ」のレベルそのものを高めていくことも必要であると感じています。

【参考文献】

(1) 日本建築学会編:建物の遮音設計資料;技報堂出版、 1988
(2) 田中 洪:床構造(住宅の防音と調音のすべて); 建築技術、1991
(3) 綿谷重規:床衝撃音;騒音制御、1989,Vol13,No.6
(4) 子安 勝:床衝撃音測定方法の問題点と関連規格; 騒音制御、1990,Vol14,No.4
(5) 日本建築学会編:建築物の遮音性能基準と設計指針 ;技報堂出版、1979