技術部 青木 雅彦

1. はじめに

平成12年6月1日より、大規模小売店舗立地法(以下「大店立地法」)が施行されました。

これは大規模小売店舗の立地に伴う交通渋滞、騒音、廃棄物等の周辺生活環境への影響を緩和するために、 建物設置者が配慮すべき事項等を定めたものです。

当社は大店立地法が施行される前から、この法律に伴う騒音検討のご相談をいただき、 届出書類作成のお手伝いをさせていただいてきました。そこで大店立地法に伴う騒音予測検討業務の内容についてご紹介させていただきます。

2. 大店立地法の対象

小売業を行う店舗で、店舗面積が1000平方メートルを超える店舗が対象ですが、新設のみでなく、 既存店舗であっても店舗面積や営業時間を変更する場合も届出等の対象となります。

飲食業を除く小売業が対象であり、複合商業施設であっても、その中で小売業の店舗面積が1000平方メートルを超える場合は届出等の対象となります。

3. 手続きの流れ

図1に届出等の手続きの流れを示します。大店立地法の運用主体は政令指定都市・都道府県となっており、 届出から2ヶ月以内に地元での説明会が義務づけられています。

「大規模小売店舗立地法」の手続きの流れ
図-1 「大規模小売店舗立地法」の手続きの流れ

4. 騒音の予測評価

大店立地法に伴う騒音の予測評価方法については、旧通産省の告示による「大規模小売店舗を設置する者が配慮すべき事項に関する指針」 (以下「指針」)の中にその方法が具体的に示されています。

指針によれば、大規模小売店舗から発生する騒音の総合的な評価として、 等価騒音レベルによる昼間・夜間の環境基準の遵守と、夜間に騒音の発生がある場合に限って、 発生する騒音毎に騒音の最大値が騒音規制法の規制基準値を遵守することが定められています。

ここで特筆すべきは、騒音の種類が設備機器等から発生する"定常騒音"と配送車の荷物の荷捌き作業等で発生する"衝撃騒音"、 及びBGM・アナウンスや来客の自動車走行等から発生する"変動騒音"に分類されていることです。

表1に予測評価の対象となる騒音を示し、表2、表3に環境基準及び騒音規制法による予測評価方法の概要を示します。 また、騒音の種類と評価方法のイメージを図2に示します。

大規模小売店舗から発生する騒音の例と評価方法
図-2 大規模小売店舗から発生する騒音の例と評価方法

◆表1

予測・評価の対象となる騒音の分類と種類
定常騒音 ・冷却塔、室外機騒音、給排気口から発生する騒音
変動騒音 ・敷地内における自動車走行などによる騒音(来客の自動車、荷さばき作業のための車両を含む)
・荷さばき作業のための車両のアイドリング、後進警報ブザー等の騒音 ・廃棄物収集作業等に伴う騒音 ・BGM(バック・グラウンド・ミュージック)、アナウンス等営業宣伝活動に伴う騒音
衝撃騒音 ・荷さばき作業に伴う荷おろし音、台車走行等の騒音

◆表2

騒音の総合的な予測・評価方法
騒音全体についての予測を行い、総合的な騒音の評価基準を満たすように努めるものとする。
予測地点 建物の周囲4方向からそれぞれ近接した最も騒音の影響を受け易い地点に立地し又は立地可能な住居等の屋外
予測計算方法 昼間(午前6時~午後10時)及び夜間(午後10時~午前6時)の等価騒音レベル
評価方法 騒音に係る環境基準の基準値(道路に面する地域以外の地域にかかる基準値)
・地域の類型AA :昼間50dB(A)以下、夜間40dB(A)以下
・地域の類型A及びB :昼間55dB(A)以下、夜間45dB(A)以下
・地域の類型C :昼間60dB(A)以下、夜間50dB(A)以下

◆表3

発生する騒音ごとの予測・評価方法
夜間において営業または営業関連の機器の使用、施設の運営に伴い騒音が発生することが見込まれる場合
定常騒音 大規模小売店舗の敷地の境界線
変動騒音 定常騒音の場合は騒音レベル、変動騒音及び衝撃騒音の場合には騒音レベルの最大値
衝撃騒音 騒音規制法における夜間の規制基準値以下(基準値は都道府県知事により下記の範囲内で設定されている)
・第1種区域:40dB(A)以上45dB(A)以下
・第2種区域:40dB(A)以上50dB(A)以下
・第3種区域:50dB(A)以上55dB(A)以下
・第4種区域:55dB(A)以上65dB(A)以下

5. 騒音の予測方法

騒音の予測にあたっては、環境基準で評価する場合と、 騒音規制法で評価する場合とで音源からの距離減衰や建物・塀の回折効果の計算方法は同じですが、 音源パワーレベルの設定方法等が一部異なります。以下にそれぞれの予測方法を示します。

5.1 環境基準による評価の場合

環境基準による評価では、総合的な等価騒音レベルを予測する必要があります。

つまり環境基準による時間区分別(昼間:6時~22時、夜間:22時~6時)に、 環境基準の評価地点である民家(あるいは民家が立地可能な)位置において、予測対象となる定常騒音、衝撃騒音、変動騒音のエネルギー平均値を予測します。

時間区分別の等価騒音レベル予測における音源のパワーレベルは、定常騒音であればそのままの値で良いのですが、 衝撃騒音、変動騒音の場合は等価騒音レベルもしくは単発騒音暴露レベルでパワーレベルを設定することになります。

その後、各騒音から予測計算点までの距離減衰、反射・回折効果等を計算し、 時間区分内における騒音継続時間あるいは騒音発生回数を勘案して、予測計算点の時間区分別の等価騒音レベルを計算します。

ただし、自動車走行音については日本音響学会の"ASJモデル1998"を用いて予測計算点のユニットパターンから単発騒音暴露レベルを求め、 時間区分内の車両台数を勘案して等価騒音レベルを計算します。

以上のように各音源からの影響を計算し、最終的には全ての音源からの影響を合成して総合的な等価騒音レベルを求めます。

  1. 自動車走行騒音以外の騒音(LAeq, store)の予測計算式

    ただし、
    T:対象とする基準時間帯の時間 [s] (昼間は57600[s]、夜間は28800[s])
    Ti:対象とする基準時間帯におけるi番目の定常騒音又は変動騒音の継続時間[s]
    LPA,i:i番目の定常騒音源又は変動騒音源の予測地点における騒音レベル[dB]
    T0:1s(基準時間)
    Nj:対象とする基準時間帯において発生するj番目の衝撃騒音の発生回数
    LAE,j:j番目の衝撃音源からの予測地点における単発騒音暴露レベル[dB]
  2. 自動車走行騒音(LAeq, T, vehicle)の予測計算式
    ASJ Model 1998 1)より

    ただし、
    LAE :単発騒音暴露レベル(ユニットパターンのエネルギー積分)[dB]
    NT:時間範囲T[s] の間の交通量 [台]
    T:対象とする基準時間帯の時間 [s] (昼間は57600[s]、夜間は28800[s])
    T0:1s(基準時間)
    LAE, i:自動車走行騒音の予測地点におけるA特性音圧レベル[dB]
    Δti:自動車がi番目の区間に存在する時間[s]
  3. 各種音源からの等価騒音レベル(LAeq, T)の合成

    1.、2.で得られた計算結果から次式を用いて発生騒音全体の等価騒音レベル(LAeq, T)を計算する。

5.2 騒音規制法による評価の場合

騒音規制法で示す時間区分の夜間に騒音の発生が想定される場合は、 発生する騒音毎に敷地境界における最大値(定常騒音の場合はそのレベル)を予測して評価します。

この時、定常騒音については総合的な評価の場合と同じパワーレベルを採用しますが、 衝撃騒音・変動騒音についてはその最大値(時間重み特性FASTによる測定値の最大値から求めたパワーレベル)を採用します。

したがって、等価騒音レベルを予測する場合の発生回数や継続時間を勘案したエネルギー平均値の考え方ではないため、 想定される騒音の発生回数がたとえ夜間の間に1回だけであっても、そのレベルが規制基準値を上回れば騒音対策が必要となります。

6. コンピュータシミュレーションによる検討

以上の騒音検討を、当社では自社開発の騒音予測プログラム"GEONOISEジオノイズ"を使ったコンピュータシミュレーションで行っています。

大規模小売店舗の中でも、その規模が大きくなるとシミュレーションで設定する音源の数は数百にも上り、 騒音コンターを計算する範囲も一辺が数百メートルのエリアになります。"ジオノイズ"では最大800ヵ所までの音源が設定できます。 通常、計算条件は直接音とその回折音、及び1次の反射音までの合成としていますが、多重反射のチェックが必要な場合は反射次数を10次まで上げ、 反射音の回折を含めて計算することも可能です。

シミュレーション計算では、まず音源、建物等の座標やパワーレベル、騒音継続時間や発生回数を設定します。

その後コンター計算を行い、計画店舗の周囲への騒音伝搬状況を環境基準や騒音規制基準に照らしてチェックします。

今までの検討例では、いずれも原設計の仕様では環境基準あるいは騒音規制基準を上回っていました。そこで対策案を検討することになります。

屋外に設置される設備機器ではまず防音塀の仕様を検討します。給排気口であれば消音器のグレードを検討することになります。 また、夜間の自動車走行で駐車場の使用エリアを限定したケースもありました。

シミュレーション業務に関わるスタッフは、今までの騒音対策検討のノウハウとコンピュータシミュレーションのメリットを最大限に活かして、 最適な騒音対策をできるだけ短い期間でお客様にご提案できるよう努力しています。

7. 届出書類等の作成

大店立地法の騒音関係の届出書類については、政令指定都市・都道府県から一部は書式例が示されています。 (地域によって多少異なる部分もあるようです。)

当社ではシミュレーション結果から標準的な騒音計算書を作成してお客様にご提出しています。

また計算書以外にも、付属資料として計算書作成の根拠となる騒音コンターやシミュレーションモデルの3D表示をまとめた資料や、 パワーレベル等の設定一覧表等、お客様のご要望に応じた資料をご提供しています。

8. 最後に

大店立地法の予測検討において、音源データの入手が難しい荷捌き作業時の騒音等については、通産省の指針で示すとおり、 お客様と共に類似店舗での騒音の実態を調査することで必要なデータを集めてきました。

その時に初めてわかったことですが、早朝6時頃から商品の配送トラックが次々と店舗の荷捌き場に到着し、 商品を店内に搬入したりすることでさまざまな騒音が発生していました。

設備機器においても営業時間内だけ運転する機器はむしろ少なく、多くの機器は営業時間より長く運転され、 冷凍冷蔵庫の屋外機のように営業時間に関係なく24時間連続で稼動する機器もあります。

来客の敷地内の自動車走行による騒音を含め、これらのさまざま騒音の予測評価を求めている大店立地法の騒音評価は、 近隣の生活環境への影響を考えた場合、とても重要な業務であると考えています。

当社では今後もコストパフォーマンスの高い音環境の予測評価と環境対策をご提案できるよう、 音に関わる技術をさらに高めていかなければと考えています。

【参考文献】

1)日本音響学会道路交通騒音調査研究委員会、"小特集、新しい道路交通騒音予測法、道路交通騒音の予測モデル" "ASJ Model 1998"、"日本音響学会誌,55(4),281-324,(1999)