工事部 高田 雅保
タイトルに残響室の規格についてとしましたが、 無響室の規格と同様にいわゆる残響室の規格や無響室の規格という事で規格になっているものはありません。
では残響室や無響室についてどのように記されているかというと、音響パワーレベルを測定する規格、 吸音率を測定する規格、音響透過損失を測定する規格の中で残響室や無響室についても述べられているということになります。
今回はタイトルにも示しましたように残響室について取り上げることにします。
現在の規格として、日本では主としてJISとISOが広く採用されています。
まず、ここで残響室に関係したJISを揚げてみます。
- JIS A 1409 残響室法吸音率の測定方法
- JIS A 1416 実験室における音響透過損失測定方法
- JIS A 8734 残響室における音響パワーレベルの測定方法
以下の規格でははっきりと残響室という名称がタイトルや本文の中に出てきますが、 残響室という名称が出てこないJISとして下記のものがあります。
- JIS A 1424 給水器具発生騒音の実験室測定方法
この規格中の本文記述に、受音室は測定に支障のない程度の拡散音場が得られるようにする、という一文があります。
さて、次にISOの残響室に関係したものを揚げてみます。
- ISO 354 Measurement of sound absorption in a reverbration room
- ISO 140-1~12 Measurement of sound insulation in buildings and of building elements
この規格の中にはreverbration roomという言葉は出てきません。
- ISO 3741 Precision methods for broadband sources in reverbration rooms
- ISO 3742 Precision methods for discrete-frequency and narrow-band sources in reverbration rooms
- ISO 3743 Engineering methods for special reverbration test rooms
- ISO 3822-1 Laboratory tests on noise emission from applians and equipment used in water-supply insutallations
この規格にもreverbration roomという言葉は出てきません。但し、本文中に次のように書かれています。 The sound field in the test room should be as diffuse as possible.
ところでJISについては御存知のように現在、国際整合化の推進が行われております。
以上のJISとISOを対比させると以下のようになります。
JIS A 1409に対してはISO 354。
JIS A 1416に対してはISO 140-1 Requirements for laboratory test facilities with suppressed flanking transmission 及びISO 140-3 Laboratory measurements of airborne sound insulation of building elements が対応し、 JIS Z 8734に対してはISO 3741 Precision methods for broadband sources in reverbration rooms 及びISO 3742 Precision methods for discrete-frequency and narrow-band sources in reverbration rooms が対応します。
JIS A 1424 給水器具発生騒音の実験室測定方法に対しては ISO 3822-1 Laboratory tests on noise emission from applians and equipment used in water-supply insutallations が対応します。
しかしながら、対応しているといっても吸音率や給水器具発生音、パワーレベルの測定方法、 測定原理などはJISがISO規格に準じた形で標準化されていてこれらの整合は比較的獲れているようですが、 音響透過損失の実験室測定方法ではかなりな違いが見られます。
それは、JISが試験体に対する音のランダム入射条件や音場の拡散性を重視しているのに対して、 ISOでは実際の住宅を想定した試験条件が規定されており、試験室の仕様(JISでは残響室であるがISOでは残響室とは書いていない。) や試験体の取り付け方法などに差異が見られることです。
この他にも残響室について書かれている規格があるかもしれませんが、ここでは省略することとします。
「残響室について」は本技術ニュースのNo.13(1996)でも紹介されていますのでそちらも参照してください。
残響室の話が出ていつも話題になるのは、残響室の体積(大きさ)と拡散性、 特に低周波数域に対する拡散性と残響室の形に関することです。今回はこれらの点について主に見ていく事にします。
さて、それぞれについて残響室がどのように書かれているかを見ていく事にしましょう。
JIS A 1409 残響室法吸音率の測定方法
残響室の体積
150m3以上とします。
測定周波数
125Hz~4000Hzの1/3オクターブバンド。
但し、100m3以上150m3未満の残響室は、160Hz~4000Hzの1/3オクターブバンドの測定に用いるものとします。
残響室の形
残響室の全体的な形状は6面ないし8面で構成されるものとします。なお、主要な壁面は平行でなく、 各対角線(面内のものも含む)の長さの比は1~2の間にあって、なるべく等しくならないようにすることが望ましい。
拡散板など
残響室には室内に充分な拡散が得られるように拡散板を使用します。拡散板は、0.8~3m2までの大きさで、吸音率が小さく、湾曲したものを使用し、 その片側面積の合計が床面積の80%程度になるように、かつ、室内全体に位置ならびに傾斜がランダムに分布するように釣り下げます。 ただし、他の手段によって充分な拡散が得られる場合はこの限りではありません。
測定試料の面積
測定試料は、8.5~12m2までの面積で、長さに対する幅の比が1.3~1.5までの長方形とし、室内の一面の中央部に集中配置します。
なお試料の周辺は、周囲の壁面から1m以上離れていることが望ましい、とされています。
写真-1 不整形残響室の内部
図-1 不整形残響室の鳥瞰図
JIS A 1416 実験室における音響透過損失測定方法
残響室の体積
音源用残響室、受音用残響室の容積は、それぞれ100m3以上とします。
測定周波数
125Hz~4000Hzの1/3オクターブバンド。
残響室の形
残響室は、測定に十分な拡散音場が得られるように作られなければならない。
拡散板など
拡散性については、音源用残響室ならびに受音用残響室において音源、試料面、壁面、 床面などから1m以上離れた領域内に互いに1m以上離れたマイクロホン位置を10点ずつとり、各測定ごとに音源を一定に働かせたとき、 各点における音圧レベルの残響室ごとの10点の測定値の標準偏差は以下の数値を超えてはなりません。
中心周波数 [Hz] | 125~160 | 200~400 | 500~1600 | 2000以上 |
標準偏差 | 1.5 | 1.0 | 0.5 | 1.0 |
平均音圧レベルの測定にはこれらの(音圧のレベル変動の検査などもあるがここでは省略します) 検査に用いた測定点の中からJIS本文に示される数以上を選ぶものとしています。
測定試料取付用開口面積
開口面積は、原則として10m2以上とし、一辺が2.5m以上4.0m以下の長方形状のものとします。
JIS Z 8734 残響室における音響パワーレベル測定方法
残響室の体積
残響室の容積は、以下に定める値以上とします。ただし、3000Hz以上の周波数が含まれている帯域まで測定を行う場合には、 容積は300m3以下でなくてはなりません。
最低測定周波数 [Hz] | 残響室の最小容積 [m3] |
|
オクターブバンド | 1/3オクターブバンド | |
125 | 100 | 200 |
125 | 150 | |
160 | 100 | |
250 | 200 | 70 |
残響室の最小容量
測定周波数
オクターブバンドでは125Hz~8000Hz、1/3オクターブバンドでは100Hz~10000Hz及びA特性。
残響室の形
残響室の形に関する記述は無い。
拡散板など
回転拡散板、静止拡散板についての記述がありますがここでは省略します。
拡散性については、附属書2に「基準音源による残響室の試験方法」というものが示されていて、 基準音源を用いて音源の設置位置の違いによって生じる残響室内の平均音圧レベルのばらつきの標準偏差を求める方法が規定されています。 詳細は省略しますが、許容標準偏差は以下のように示されています。
中心周波数 [Hz] | 標準偏差 [dB] |
|
オクターブバンド | 1/3オクターブバンド | |
125 | 100, 125, 160 | 1.5 |
250 | 200, 250, 315 | 1.0 |
500 | 400, 500, 630 | |
1000 | 800, 1000, 1250 | 0.5 |
2000 | 1600, 2000, 2500 | |
4000 | 3150, 4000, 5000 | 1.0 |
8000 | 6300, 8000, 10000 |
音源の設置位置の違いによる残響室内の平均音圧レベルの許容偏差
この規格にはこの他にも室内表面や、環境、測定点などなど、 及び解説書、ISOとの対比などが詳細に解説されていますがここでは省略します。
以上の規格でははっきりと残響室という名称がタイトルや本文の中に出てきますが、 残響室という名称が出てこないJISとして下記のものがあります。
JIS A 1424 給水器具発生騒音の実験室測定方法
この規格はISO 3822-1 Laboratory tests on noise emission from applians and equipment used in water-supply insutallations を踏襲しているようで特殊なものとなっています。
実験室の体積
実験室の容積は、原則として30~100m3とします。
測定周波数
測定は、中心周波数125, 250, 500, 1000, 2000及び4000Hzの1オクターブ帯域の音圧レベルとA特性の音圧レベルdB(A)について行います。
実験室の形
対向壁間の距離は2.3m以上とし、縦、横、高さの寸法比は簡単な整数比にならないようにします。
音響放射壁についての記述があり、その面積を8~12m2としています。
解説部分には、標準的な居室の広さ及びISO規格での推奨値を考慮すると受音室容積50m3程度としたとき、 受音室の縦横寸法比に1:1.25:1.6、1:1.6:2.5、1:2.5:3.2などの値を採用すれば、受音室の1壁面の面積がこの範囲になるとあります。
つまり受音室の形としては(矩形)になるものと考えられ、この辺りがJISとだいぶ異なるところであるといえます。
拡散性
受音室は測定に支障のない程度の拡散音場が得られるようにする、という一文があります。
また、残響時間は、原則として1~5秒とし、周波数特性は、できるだけ平たんなことが望ましいとされています。
さて、次にISOの残響室に関係したものを揚げてみます。
ISO 354 Measurement of sound absorption in a reverbration room
残響室の体積
残響室の容積は、少なくとも150m3で、新しい建築ではおおよそ200m3とします。
測定周波数
100~5000Hzの1/3オクターブバンド。
残響室の形
lmax<1.9V**1/3 when lmax is the length of the longest straight line which fits within the boundary of the room (for example, in a rectangular room, it is the major diagonal)
V is the volume of the room
拡散性
残響室の形や固定静止拡散板、回転拡散板などにより十分な拡散性を得られるようにする。
試料の面積
平面試料では、10m2~12m2、残響室の体積が250m3以上の場合は(V/250)**2/3と示されています。
この他、椅子やカーテンなどについてもふれられていますがここでは省略します。
また、マイクロホンの数や位置についても述べられています。
ISO 140-1 Requirements for laboratory test facilities with suppressed flanking transmission 及びISO 140-3 Laboratory measurements of airborne sound insulation of building elements
この規格の中にはreverbration roomという言葉は出てきません。
実験室の体積
実験室の容積は、少なくとも50m3。2室の体積の違いは10%が推奨されます。
測定周波数
測定は、100~5000Hzの1/3オクターブバンド。
低い周波数での付加情報として50Hz~80Hz。
実験室の形
実験室の寸法比は低周波数バンドにおける固有周波数が一様になるように選びます。
壁一面が試験体のための開口となり10m2でその短辺は2.3m以上。
その他は実際の寸法でという事です。
拡散性
大きい変動の定在波が観測される場合に設置します。(数や配置は実験的に判断します)
また、残響時間は、低い周波数で2秒を超える場合、測定結果の残響時間依存性を調べ、 依存している場合1秒~2(V/50)**2/3秒にします。
この他、受音点の設置や音源の設置などに関する記述がありますがここでは省略します。
この規格はJISと大きく違いますので注意する必要があります。
平面図
断面図
図-2 ISO-140 Type 実験室の例
『株式会社 ポラス暮らし科学研究所 実験室』
ISO 3741 Precision methods for broadband sources in reverbration rooms 及びISO 3742 Precision methods for discrete-frequency and narrow-band sources in reverbration rooms
これらの精密級についての規格はJIS Z 8734が対応していますので省略します。
ISO 3743 Engineering methods for special reverbration test rooms
残響室の体積
残響室の容積は、少なくとも70m3。
測定周波数
測定は、中心周波数125Hz以上のオクターブバンド。4kHz、8kHzを含む時は、体積は300m3を超えないようにする。
残響室の形
特殊残響室設計のためのガイドラインがANNEX Aに示されています。室形を矩形とする時の、寸法比や実験室の吸音などについて示されています。
残響時間などについても示されていますが、JISでは精密級を踏襲していますのでこれらについても省略するものとします。
ISO 3822-1 Laboratory tests on noise emission from applians and equipment used in water-supply insutallations
この規格はJIS A 1424 給水器具発生騒音の実験室測定方法が踏襲していますので、これについても省略いたします。
以上のように残響室に関係する規格とはいえ、特にJISとISOで違いのあるものは音響透過損失の測定に関係するものです。 JISでは残響室を用いた方法ですが、ISOでは実際の部屋に近い環境で測定しようとする趣旨のようです。
また、その測定結果の評価に関しても方法の違いがありますのでその辺りはまた、次の機会に述べることとします。
【参考文献】
子安 勝、橘 秀樹、「建築物に関する音響規格の動向」(日本音響学会誌53巻6号1997)