ソリューション事業部 倉光 拓馬、森尾 謙一、田中 菜津、高島 和博

1. はじめに

月日が経つのは早いもので音源探査システムNoise Visionの販売開始から実に10年以上が経過しました。これまで日本国内の自動車関連のメーカーをはじめとして海外のメーカーなども含めた様々な方面からシステム導入や計測サービスのお引き合いを頂き、広くご利用いただくようになりました。

図1 音源探査システム Noise Vision
図1 音源探査システム Noise Vision

この度、この音源探査システムNoise Visionを住友スリーエム株式会社様(以下、住友スリーエムと略させていただきます)にご利用いただく機会に恵まれましたので、ご紹介させて頂きたいと思います。

2. 住友スリーエムについて

住友スリーエムは、工業関連製品のみならずヘルスケア関連製品や電気電子関連製品など様々な分野でイノベーティブな製品を提供している老舗メーカー、3M社(米国)の日本法人で、3万を超える種類の製品やサービスが世の中の色々な分野で活用されています。例えば、身近なところでは付箋紙を代表とするポスト・イットRブランドや、スコッチRブランドの粘着テープや接着剤、キッチンスポンジで知られるスコッチ・ブライトTMブランドも知られています。また、普段あまり意識することがないかもしれませんが、軽くて薄いのに暖かい衣類の中綿素材、道路標識の表面に利用される反射材や医師が使う聴診器など、我々の日常生活に密着した製品も多いと思います。

それらの製品群の中の一つに吸音断熱材があります。この吸音断熱材は同程度の厚みを持つウレタンやフエルトと比較して軽量かつ優れた吸音・断熱性能を持っており、自動車では内装部品をはじめとして様々な部位に採用されています。

3. 自動車と吸音材・遮音材について

自動車における吸音材や遮音材等は、目に付かない場所に使用される場合がほとんどのため、日頃皆さんが自動車を運転する際にその存在を意識することは少ないと思います。しかし実際は様々な部位に使用されており、自動車にとってなくてはならないものになっています。なぜこのような材料が自動車に必要なのでしょうか。自動車には数万点の部品が使用されており、それらの部品同士が機能しあうことによって初めて走行が可能となります。これだけの部品がかみ合って動くとなると、どうしても様々なところで動作音が発生します。これらの動作音が車室内に伝わることによって、その静粛性に悪影響を与えてしまうわけです。また自動車が走ることによって生じる風切り音や道路とタイヤの接触によって生じるロードノイズなども同様に静粛性を妨げる原因となってしまいます。このような騒音を低減させるために、見えないところで吸音材・遮音材が使用されているのです。それではどういった部分に吸音材・遮音材を使用するといいのでしょうか。

一般的に自動車の騒音低減を目指す場合には、以下のような騒音対策が採られます。

  1. 音源対策:個々の部品が発生する振動や騒音を低減する。
  2. 伝搬経路対策:(個々の部品で)発生した騒音を車室内へ伝えないようにする。
  3. 聴感対策:車室内での聞こえ方を変える。

図2 自動車の騒音対策試験例
図2 自動車の騒音対策試験例

これら対策手法にはそれぞれ一長一短あるのですが、騒音伝搬の上流側(つまり音源に近い側)に行けば行くほど対策効果も得やすくなる一方、効果的な対策箇所を判断するのは非常に難しくなっていきます。そこで音源探査システムNoise Visionの出番となるわけです。

もちろん、音源探査システムを用いずに吸音材や遮音材を配置することも可能ですが、これらの材料は無制限に使用できるわけではありません。なぜならば自動車には、運動性能や乗り心地、静粛性などはもちろんの事、昨今ではその他に燃費といった環境性能が求められるため、グラム単位での軽量化が行われています。また、当然のことながらコストの制約もあります。そのため、必要な箇所に必要な分のみ使用することで、最低限の重量・コスト増で最大限の効果を生むように設計することが重要となってくるのです。

Noise Visionは、適材適所に吸音材・遮音材を配置するために重要な騒音源の場所と特性を明らかにできるため、この作業を大幅に効率化できるのです。また、実験段階では、対策前後での騒音低減効果を可視化し、音を「見える化」して比較することも可能です。

住友スリーエムでは、自社製品の特長を最大限に生かした最適な提案を自動車メーカーに行うことができるようにする目的でNoise Visionを導入いただきました。そして、自動車メーカーのニーズを一歩も二歩も先取りする試みを考えておられます。それは、最適な吸音材の配置を提案するにとどまらず、吸音材の設置効果の可視化を含めた提案を今後自動車メーカーに行うということです。具体的には、運転席や後部座席などの様々な位置における騒音源の寄与度の切り分けを行い、その車両にとって最適な吸音材の配置を検討し、「見える化」した効果とともに自動車メーカーに提案されるとのことです。住友スリーエムにとって、Noise Visionは自社製品の優位性をお客様にイメージしていただくための非常に大きな武器になることが期待されています。

4. おわりに

このたび、様々な方々のご協力があって、Noise Visionを無事設置し、使っていただくことができるようになりました。住友スリーエムのエンジニアの皆様とは、ミーティングや設置作業を通して、大きな信頼関係を築けたと考えています。また、お世話になった皆様にこの場を借りてお礼申し上げたいと思います。

5. お客様の声

音源探査装置導入にあたり、装置の操作性、分析速度、分析結果の見やすさ、装置の大きさ等を考慮し、その結果ノイズビジョンに決定いたしました。

まだ持っている機能を十分に使いこなしているというわけではありませんが、弊社がやりたい基本的な分析を行うかぎりでは、イメージ通りの使いやすさです。

また、いままでの弊社の実車評価方法と比較すると、非常に短時間で分析結果が表示されます。

PC画面での操作性は良く、分析速度も問題ありません。見やすく分かりやすい結果の表示により、弊社のお客様へのプレゼンをより効果的な内容にできます。

ただし操作性や結果表示の細かい部分において、もっと使いやすくできる余地はあると思います。今後日本音響エンジニアリング(株)様にはご相談させていただき、より使いやすい装置に改良し、ひいては自動車メーカーへのスピーディーな、イノベーティブな提案につなげていきたいと考えています。

最後になりましたが、今回はかなり短納期で対応していただき、本当にありがとうございました。

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