アクティブノイズコントロールについて

コンサルティング事業部 宮越 あゆみ

1. はじめに

昨今の急速なディジタル信号処理技術の発展に伴い、"音で音を消す技術"、アクティブノイズコントロールが様々な音場で実用化されるようになってきました。ご存知の方も多いとは思いますが、アクティブノイズコントロールとは、低減させたい騒音に対して別に用意した制御音源から逆位相の音を発生させることで、位相干渉を利用して消音する騒音制御の手法です。現在では、ダクト内の騒音制御やイヤホンやヘッドホンのノイズキャンセラー機能として利用されるようになってきました。そこで今回は、私たちの身近になりつつあるアクティブノイズコントロールとはどのような仕組みであるのか、簡単にご紹介しようと思います。

2. アクティブノイズコントロールの長所と短所

現在もアクティブノイズコントロールは様々な場面で適用されていますが、一概にどんな音場にでも使えるわけではありません。そこで、まずはアクティブノイズコントロールがどのような音場に強く、どのような音場に弱いのか、簡単にご説明致します。

長所

前述の通り位相干渉を利用しているため、波長の長い低い周波数帯域の音に有効です。吸音材等を利用したパッシブな方法で低い周波数帯域の音を制御しようとすると波長に合わせた大きなスペースを必要としますが、アクティブノイズコントロールは逆位相の音を発生させる機材のみで済むので、それ程スペースを必要としません。一般的に有効な周波数範囲は500Hz以下と言われていますが、制御点に制御音源を近づけるほど、より広い帯域の周波数が制御可能になるという特徴があります。

適用しやすい音場としては、平面波伝播しているとみなせる音場や小規模な閉空間音場等があげられます。前者の例がダクト、後者の例がイヤホン・ヘッドホンというわけです。また、小規模でない空間でも、その中の一部を局所的に制御することは可能です。実際には、航空機の操縦席や車内の座席の頭部位置での消音に利用されているようです。このように、アクティブノイズコントロールは、適した音場を選択すれば非常に有効な騒音制御の手段となっています。

短所

パッシブ制御と違って、制御音を発生させるために電力が必要な点がアクティブノイズコントロールの短所です。また、制御音をスピーカで発生させるので、対象とする周波数帯域にも限界があります。

対象騒音が球面波伝播している音場では、場所によって対象騒音と制御音が同位相で干渉してしまい、音が増幅してしまうという難点もあります。これが室内でアクティブノイズコントロールが適用されにくい原因です。このため一つの制御点で制御出来る範囲は狭く、原理的には制御対象とする周波数の波長に比べて十分小さな領域しか制御出来ないと言われています。

3. 制御手法

アクティブノイズコントロールに用いられる制御手法には、フィードフォワード制御とフィードバック制御があります。以下、両者の違いを比べながら、簡単に制御方法について説明します。

3.1 フィードフォワード制御

フィードフォワード制御に必要な機材は、制御音を発生させる制御スピーカ、制御点の誤差信号を観測するエラーマイクロホン、騒音信号を参照するリファレンスマイクロホン、そして、制御音を生成するための適応アルゴリズムを計算させる制御器です。適応アルゴリズムには、誤差信号を0にしていくように適応フィルターを更新する計算をさせています。

図1 フィードフォワード制御のブロックダイヤグラム
図1 フィードフォワード制御のブロックダイヤグラム

図1中のCは制御スピーカからエラーマイクロホンまでの伝達関数です。リファレンスマイクロホンで得られる参照信号と伝達関数Cを畳み込んだ信号をアルゴリズムへ入力しているのは、生成された制御音がエラーマイクロホンに到達するまでの遅延時間を考慮した制御音を発生させ、制御点で得られる騒音信号と制御音の相関を得るためです。そのため、騒音源と制御点が離れているほど時間稼ぎが出来て、制御しやすくなります。このように、制御点にて騒音信号と制御音の相関を持たせることもフィードフォワード制御において重要なポイントとなっています。

フィードフォワード制御は伝達関数等も用いられるため、比較的安定した音場に利用される傾向にあります。ダクト内は安定した音場であるため、フィードフォワード制御が用いられています。

3.2 フィードバック制御

フィードバック制御に必要な機材や適応アルゴリズムの仕組みは、フィードフォワード制御とほぼ同様ですが、異なる点はリファレンスマイクロホンを必要としない点です。対象騒音を定めず、誤差信号のみで制御しているため、エラーマイクロホンで観測される全ての騒音を制御することが可能です。しかし、誤差信号が観測されてから制御し始めるので、制御反応が遅れてしまうこと、騒音源の参照点を必要としない分、制御器の設計が複雑になってしまうこと等がフィードバック制御の難点と言えます。

図2 フィードバック制御のブロックダイヤグラム
図2 フィードバック制御のブロックダイヤグラム

イヤホンやヘッドホンを制御する際はフィードバック制御が用いられています。様々な外乱(制御を乱すような外的作用)に対して制御可能な点や、リファレンスマイクロホンを必要としないためコンパクトなスペースで完結している点等を考えれば、フィードバック制御が用いられていることも納得出来ると思います。また、制御音源と制御点を近づけるほど、広帯域の周波数が制御可能になるという特徴も活かされていると言えるでしょう。

4. 制御実験

私が大学時代に行ったアクティブノイズコントロールの実験結果をご紹介致します。制御した音場は大学の講義室で、制御手法はフィードフォワード制御を採用しました。室中央の座席頭部を制御点とし、制御点近傍の壁際に制御音源を設けました。また、室前方にスピーカを設置し、騒音源として500Hz以下のノイズを発生させました。

図3を見ると、特に100~500Hzで制御効果が出ており、十分にSNが取れている帯域ほど制御量が多いことがわかります。しかしながら、制御点で制御効果が得られても、制御点以外ではノイズが増幅されているポイントも確認出来、実験を通してアクティブノイズコントロールを空間に適用する難しさを痛感しました。

図3 フィードフォワード制御の実験例
図3 フィードフォワード制御の実験例

5. おわりに

現在アクティブノイズコントロールは、得意とする音場においては主流な制御方法として普及しつつありますが、不得意な音場にはなかなか実用化されていない状況です。しかし、パッシブ制御と組み合わせたり、フィードフォワード制御とフィードバック制御を組み合わせたりと、長所を活かし合うことで、利用範囲を広げようとする研究は今も進められています。

今後、手軽に利用出来る騒音制御方法の一つとしてアクティブノイズコントロールが活躍していけるよう、音響技術の進展が期待されます。我々も近い将来、アクティブノイズコントロールの研究開発に取り組んで行きたいと考えています。

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