航空機騒音評価方法改訂に伴う現場測定の課題 単発騒音暴露レベルLAE等の算出における諸問題

DL事業部 忠平 好生

1. はじめに

既にご承知の通り、航空機騒音の環境基準が平成25年4月より今のWECPNL(加重等価平均感覚騒音レベル)からLden(時間帯補正等価騒音レベル)に切り替わります。私たちDL事業部は航空機騒音に特化したエンジニアリング事業としては国内随一の規模を有しており、測定システムの開発・製造から調査検討、シミュレーション、コンサルティングに至るまで幅広い商品・サービスを提供しています。弊社のお客様はもとより、航空機騒音に携わっておられるすべての方々に対し、私たちの知識や経験を生かして新しい測定・評価方法についての課題を整理し、広く情報を発信していかねばならない責任を強く感じています。そういった理念に基づき、前号(25号)よりシリーズで航空機騒音評価方法の改訂に伴う種々の課題について、特に現場測定(実際に測定を行う方々)の視点から整理してお伝えしていきたいと考えています。

前号では主にWECPNLとLdenの違いや関係について実際の測定値を引用しながら説明するとともに、Ldenの測定方法とその問題について概要を紹介しました。今後は個々の課題についてもう少し掘り下げて話をしていきます。今回は単発騒音暴露レベルLAE等のエネルギー積分を行う際の問題として、暗騒音(航空機以外の騒音)の影響とその評価、マイクロホン位置による暗騒音の影響の違いについて考えてみます。

2. Lden評価の概要と実際

まずは環境基準の改訂について少しだけおさらいをしてみましょう。WECPNLとLdenの主な違いをまとめると次表のようになります。

表1 WECPNLとLdenの比較

WECPNLLden
環境基準 70以下:地域類型Ⅰ
75以下:地域類型Ⅱ
57dB以下:地域類型Ⅰ
62dB以下:地域類型Ⅱ
測定項目 最大騒音レベルLASmaxとその観測時刻 単発騒音暴露レベルLAEとその観測時刻
対象騒音 飛行音 飛行音,地上音

環境基準の値は現行から単純に13差し引いたものとなっています。これは中央環境審議会騒音振動部会の答申である「WECPNLとLdenの理論的、実態的な関係からLden≒WECPNL-13の関係にある」ことから導かれています。見方を変えると、Lden≒WECPNL-13の関係が満たされない場合、これまで環境基準を達成していた地域がそうでなくなったり、その逆のケースが起こりうるということになります。

測定項目は最大騒音レベルLASmaxが単発騒音暴露レベルLAEに置き換わっただけとなります。しかしながら、LASmaxは騒音計とレベルレコーダがあれば誰でも簡単に測定できますが、LAEは積分型騒音計を用いて航空機騒音の聞こえ始めから聞こえ終りまでを逐次積分して求めていくことになり、これまでとは比較にならないほど大変な作業になります。また、航空機以外の騒音が混入した場合(我々は"かぶり音"と呼んでいます)、これまではLASmaxに影響があったか否かを判断し、測定値の取捨を選択するだけでしたが、LAEの場合は積分値ですので個々のかぶり音が結果に影響するか否かを判断しなければなりません。さらに、LAEの積分区間に少しでもかぶり音が混入していたら測定値を除外するということにしてしまうと、当然ながら過小評価につながってしまいますので、これまでの騒音監視の継続性という面でも大きな課題となってきます。

対象騒音には地上音(飛行場内で発生した騒音)が付け加わりました。これまでも一部では地上音を評価に加えているケースもありましたが、現行のWECPNLは単発騒音である飛行音を前提とした評価量となっており、騒音レベルの時間波形が三角形に近似でき、かつ継続時間が20秒程度のものしか正しく評価できなかったため、対象とするのはリバース音(着陸直後の逆噴射による騒音)のみとなっていました。Ldenではリバース音の他に、タキシング音(誘導路等を自走する際の騒音)、ランナップ音(離陸前の空ぶかし音)、APU(駐機中の補助エンジン音)、エンジンテスト音等も評価対象となります。これらは飛行音やリバース音のような単発騒音ではなく、一定時間(短いものは数秒間から長いものは数時間まで)継続する準定常騒音となります。Ldenはエネルギー値ですので、これらの準定常騒音も個別にエネルギーを積分し、評価値に加算すれば良いことになりますが、一般に飛行音と比べて積分区間が長くなり、かぶり音の影響を受ける可能性も高くなります。また、地上音が発生している間にも離着陸は行われますので、同時に飛行音が観測される場合も少なくないと思われます。

飛行音や地上音を有人測定で行うには、様々な音が聞こえる現場にて航空機による騒音の聞こえ始めから聞こえ終りを的確に判断し、なおかつかぶり音発生時に積分から除外すべきか否かを判断しながら積分型騒音計を操作するという、非常に注意深い作業が求められることになります。この作業を1日数十回から多いところでは数百回、さらに連続7日間継続して行うなど、常人の集中力ではとても耐え切れません。現実的には騒音瞬時値や短区間LAeqを連続して記録しておき、後処理によって評価対象区間を切り出して積分するという手順に頼らざるを得ないと言って良いでしょう。弊社では自らの経験に基づき、そのような測定手順をサポートするためのツールをいち早く開発し、弊社が毎年行っている音環境セミナー等で参加者の方々にお試し版として配布しています。

3. 暗騒音について

暗騒音とは測定の対象とする騒音以外の騒音のことを指します。航空機騒音を対象とする場合は、道路交通騒音、鉄道騒音、工場や建設作業により発生する騒音、生活騒音や自然の音(鳥や虫の声、風雨等の気象に起因する音)など様々な種類が考えられます。Lden評価を行うために、これらの暗騒音の中から対象となる航空機騒音をいかに適切に抽出し、そのエネルギーを算出するかが正確な測定・評価の鍵となるのは間違いありません。

環境基準では暗騒音より10dB以上大きい航空機騒音が評価対象とされていますが、肝心の暗騒音の定義については触れられていません。またLAEの求め方はJIS Z 8731(環境騒音の表示・測定方法)に従うことになっていますが、その積分区間について明確な記述はありません。LAEは原理的には対象音の聞こえ始めから聞こえ終りまでのエネルギー積分値となりますが、始めと終りの付近では暗騒音の影響が少なからず含まれることになりますので、暗騒音をきちんと定量化し、対象音とのレベル差を把握した上で積分区間を決めて算出するべきです。つまり、暗騒音の定義がなければ、LAEは分析を行う人の考え方によってバラツキが生じることになります。これでは系統的な騒音評価はできないと言っても過言ではありません。前置きが長くなりましたが、Lden評価を行うためには暗騒音を適切に把握することがいかに重要か、お分かりいただけましたでしょうか?

さて、暗騒音を定量化するには、どういった評価量を用いるのが適切でしょうか?航空機騒音を対象とする場合、航空機以外の騒音が暗騒音ということになります。一般的に航空機以外の環境騒音は局所的、多発的に発生し、時々刻々と変化します。

暗騒音をこういった環境騒音として考えるなら、航空機騒音が発生した時刻付近における航空機騒音が聞こえていない時の平均的な騒音値(等価騒音レベルLAeq等)を用いるのが良いことになります。しかしながら、LAeq等のエネルギー平均値は、単発的に発生した大きな騒音(防災無線の放送や鳥の鳴き声等)に敏感に反応して引き上げられてしまう傾向があり、その直後に発生した航空機騒音を取りこぼしてしまう(きれいな単発騒音として切り出せたとしても)危険性が生じてしまいます。また、様々な騒音が発生する現場測定において、航空機騒音が発生していない時間を正確に切り出して暗騒音を算出するのは、航空機騒音だけを抽出するのと全く同様で非常に大変な作業となります。

一方、単発的に発生する騒音については暗騒音として評価せず、それ以外の「残留騒音」を暗騒音とした方が実際に騒音曝露を被る住民の反応と良く一致するという考え方もあります。このような残留騒音を適切に表現できる評価量として時間率騒音レベルLAN,Tがあります。これは、実測時間Tの中でN%を超えている騒音レベルのことです。言い換えると実測時間Tの間の騒音瞬時値を大きい順に並べ替え、上からN%のところにある騒音レベルに相当するものとなります。

航空機騒音監視における暗騒音の検討事例としては、(財)成田空港地域共生財団が行った調査があります1)。その結果として、航空機騒音やその他の単発的な騒音を含む300秒または600秒のLA90またはLA95が暗騒音の評価量として適当であるとされています。

実際の騒音測定データを用いて、1秒間等価騒音レベルLAeq,1sを元に、300秒間等価騒音レベルLAeq,300s、300秒間時間率騒音レベルLA5,300s、LA10,300s、LA50,300s、LA90,300s、LA95,300sを算出した例を図1に示します。

図1 騒音評価量の種類による時間波形の比較
図1 騒音評価量の種類による時間波形の比較

図中の赤○の箇所が航空機騒音の最大騒音レベルを観測したものとなっています。上のグラフは時間幅が1時間、下のグラフはその一部の10分間を拡大したものです。LAeq,1sのグラフを見ると、航空機騒音だけでなく様々な単発騒音が発生していることが分かります。LAeq,300sは単発騒音の発生後しばらくの間上昇したままとなる傾向が見られます。LA5,300sやLA10,300sはさらに単発騒音の影響を受け易く、それに対してLA90,300sやLA95,300sは受けにくい傾向があることが明らかであり、航空機騒音の曝露量を評価するための暗騒音としては後者が適切であると言えます。

評価時間を変えて算出した時間率騒音レベルLA90,30s、LA90,100s、LA90,200s、LA90,300sは図2のようになります。

図2 時間率騒音レベルの評価時間による時間波形の比較
図2 時間率騒音レベルの評価時間による時間波形の比較

使用した測定データは図1のものと同じですが、評価時間が短くなるとともに単発騒音の影響を受け易くなっており、300秒程度が暗騒音の評価としては適切であることが分かります。

ここまでの議論は、単発的に発生する航空機騒音、即ち飛行音を主たる対象とした暗騒音の評価に関するものとなります。先に述べたとおり、環境基準改訂後のLden評価では地上音も評価の対象となります。地上音には飛行音と性状の異なる準定常騒音も含まれています。暗騒音をLA90,300sで評価した場合、300秒を超える準定常騒音が発生すると暗騒音もその影響を受けて上昇します。そのとき同時に飛行音が発生すると、本来なら評価の対象となるはずなのに、暗騒音より10dB以上大きくならずに取りこぼしてしまうケースも十分に考えられます。LA90の評価時間を準定常騒音の影響を受けないようさらに拡大するという手も考えられますが、対象外の準定常騒音(例えば春の蛙、夏の蝉、秋の虫の鳴き声等)も暗騒音として評価されにくくなってしまう危険性が生じます。地上音を評価するための適切な暗騒音の評価方法について、私たちは今後も現場で色々なデータを採取しながら検討を続けていきたいと考えています。

4. マイクロホン位置と暗騒音の関係

航空機騒音を測定する際のマイクロホンの位置に関する条件として、我が国では地上高さ1.2~1.5m、地面以外の反射物から3.5m以上離すこととされています(JIS Z 8731他)。また国際的な動向としては、例えばISOでは地面以外の反射面から2m以内にマイクロホンを設置する場合は-3あるいは-6dBの補正が必要とされており、騒音マッピングが目的の測定の場合は平屋建てが主の地域では1.2mあるいは1.5m、多階層住居が主の地域では4mの高さにマイクロホンを設置するよう規定されています2)。これはEU指令でもほぼ同様の規定となっています3)。また、米国のSAEにおけるマイクロホンの高さに関する記述については、常時監視が目的の場合は地上6m、あるいは隣接建物の屋根の頂上より少なくとも3m以上が推奨されています4)

マイクロホンの位置に関する国内の調査としては、平成10~11年にかけて行われた(財)成田空港周辺地域共生財団による「航空機騒音自動監視システムにかかわる測定方法の標準化について」があります。その調査の結果として、マイクロホンは航空機の航路を見通すことができ、3.5m以内に反射面にない地上4.5m以上の高さに設置するか、建物の屋上に設置する場合はできるだけ広い屋上面を持った建物を選び、その中央付近に1.5~3.5mの高さに設置することが望ましいといった見解が得られています。

環境基準改訂に伴い、環境省は航空機騒音監視測定マニュアルのリニューアルに向けて準備を行っておりますが、マイクロホンの位置や高さについて、おそらくは先述の国際的な動向や国内調査の結果が反映されることになるかと思われます。特にマイクロホンの高さについては、現在は他の騒音測定と同じ1.2~1.5mで行うことになっていますが、これらの動向に合わせてより高い位置で行うことになる可能性があります。

一部の学説によると、マイクロホンの高さを上げることにより地面反射音の影響が少なくなり、航空機からの直接音との干渉も少なくなるため、安定した測定結果が得られると言われています。果たしてこれは事実でしょうか?少し理論的に考えてみましょう。地表面での吸音や空気吸収による減衰を無視すれば、航空機が地上300mの直上を通過する場合、マイクロホンを地上100mの高さに設置すれば、直接音と地面反射音の経路差が2倍となり反射音は6dB減衰します。しかしながら、4m程度の高さにマイクロホンを設置した場合、経路差による距離減衰はわずか0.2dB程度に留まり、地面反射音は直接音と同等のエネルギーを持ってマイクロホンに到来することになります。つまり、マイクロホンの高さを1.5mから4mに引き上げたところで、地面反射音の影響には何の変化もないということです。

では、マイクロホンの高さを変えることにより生じる違いはどこにあるのでしょうか?私たちは以下の2点に着目しています。

  1. 暗騒音の影響

    測定地点周辺の状況にもよりますが、一般にマイクロホンの高さを上げた場合、周囲の見通しが良くなります。つまり、周辺の地上音も拾い易くなる傾向があり、暗騒音の影響を受け易くなると考えられます。

  2. 屋上面からの反射の影響

    建物の屋上にマイクロホンを設置する場合、地上での測定における地面反射音が屋上面からの反射音に相当することになります。屋上面は地面と異なり有限の面積となり、マイクロホンの高さを上げることにより、マイクロホンから見た屋上面の見かけの面積が小さくなります。つまり、屋上面(≒地上面)からの反射の影響が少なくなる傾向があり、地上での測定と比較して過小評価につながる危険性が考えられます。

私たちは、実際の現場において全方位音源探査識別装置「DL-SBM」を用いた実験によるデータ収集を行い、上記2つの仮説を検証するための取り組みを始めています。まだ件数は少ないですが、今回、成田国際空港北側の2地点で行った実験結果を紹介します。

4-1. 全方位音源探査識別装置「DL-SBM」

私たちは人間が騒音源をどのように知覚しているかに着目し、航空機騒音発生時のかぶり音の影響をほぼリアルタイムで自動判定する技術を考案・実現しています。当技術の詳しい内容については前号(25号)ならびに前々号(24号)にて紹介していますので、そちらを一読ください。本装置を用いることにより、航空機騒音の有人測定と無人・自動測定の結果がほぼ一致し、従来の人手による航空機騒音の精査を行う作業が大幅に軽減できることが実証されています5)

図3 全方位音源探査識別装置「DL-SBM」のセンサー
図3 全方位音源探査識別装置「DL-SBM」のセンサー

本装置は、かぶり音の影響だけでなく、航空機からの直接音と地面からの反射音を分離して評価できるという特徴があります。今回の実験は航空機以外の暗騒音の影響と同時に、地面あるいは屋上面からの反射の性状を把握する目的で騒音計のマイクロホンと合わせて本装置を現場に設置し、航空機通過時のデータを採取しました。

4-2. 飛行経路直下における実験

図4 飛行経路直下におけるマイクロホン位置
図4 飛行経路直下におけるマイクロホン位置

B滑走路北端より約6km離れた経路直下の地点で、騒音計のマイクロホンを地上1.5m、4m、6mの3点と建物屋上1.5m、4mの2点、合わせて5点で同時に騒音測定を行いました。DL-SBMは2セット用意し、地上1.5mと4m、屋上1.5mと4mの測定点でそれぞれ同時に測定を行いました。この地点では着陸機が上空500~700mで通過し、最接近時の航空機の仰角はほぼ90度となっています。なお、地面はアスファルト、屋上面はコンクリートです。図4に各マイクロホンの位置と建物及び航路との関係を示します。

観測された有効な29個のデータについて、地上1.5mの測定点の値を基準としたLASmax及び2種類のLAEの差の平均と標準偏差を表2に示します。2種類のLAEは、(1)暗騒音レベル(過去300秒間のLA90)より10dB以上大きい区間を積分したもの、(2)LASmaxより10dB小さくなるまでの区間を積分したものとなっています。LASmaxの差は5点で0.3dB以内に収まっており有意な差は見られませんでしたが、LAEについては屋上4mの測定点で-0.5dB程度と若干ではありますが差が生じています。

表2 測定点毎のLASmax及びLAEの差(平均)

ΔLASmaxΔLAE(1)ΔLAE(2)
地上4.0m 0.3 (0.3) -0.2 (0.9) 0.1 (0.2)
地上6.0m 0.1 (0.3) -0.4 (1.1) -0.2 (0.2)
屋上1.5m 0.2 (0.4) 0.2 (0.6) -0.2 (1.4)
屋上4.0m 0.0 (0.5) -0.5 (0.4) -0.5 (0.2)

※単位はdB,()内の数値は標準偏差

図5 地上1.5mのDL-SBM分析結果
図5 地上1.5mのDL-SBM分析結果

図6 地上4mのDL-SBM分析結果
図6 地上4mのDL-SBM分析結果

図7 屋上1.5mのDL-SBM分析結果
図7 屋上1.5mのDL-SBM分析結果

図8 屋上4mのDL-SBM分析結果
図8 屋上4mのDL-SBM分析結果

DL-SBMの分析結果の一例を図5~8に示します。

図5~8の左側のグラフは、音源の3次元的な位置を正距方位図法により平面投影したもので、○でプロットされたものが上半球の音源、×でプロットされたものが下半球の音源を示しています。グラフ中の円は水平面を表し、方角は上が北となっています。右側の3つのグラフは上から音源位置の方位角、仰角、音源強度レベルの時間変化をプロットしたもので、グラフ中央の点線の位置が(騒音計で観測された)LASmaxの観測時刻を示しています。グラフ中の黒○×で示した音源が航空機の直接音と地面反射音、その他はそれ以外に検出された音源となっています。

どの測定点もLASmaxの観測時刻付近では、航空機からの直接音とその地面(屋上面)からの反射音が同程度の音源強度にて到来していることがわかります。しかしながら、屋上4mの測定点では、その他と比較して屋上面からの反射音の影響を受ける区間が明らかに狭まっており、その結果としてLAEに有意な差が生じていると思われます。また、反射音の影響が少なくなると同時に、航空機以外の暗騒音の影響も受け易くなっている傾向も確認できます。

4-3. 飛行経路側方における実験

図9 飛行経路側方におけるマイクロホン位置
図9 飛行経路側方におけるマイクロホン位置

A滑走路北端より約4.5km離れた経路の側方約900mの地点で、騒音計のマイクロホンを地上1.5m、4m、6mの3点で同時に騒音測定を行いました。DL-SBMは2セット用意し、地上1.5mと4mの測定点で同時に測定を行いました。この地点では着陸機が上空200~400mを通過し、最接近時の航空機の仰角は9~10度程度となっています。また、この地点は近くの道路から30m程度の距離にあり、自動車の通過音も観測されます。なお、地面は草地です。図9に各マイクロホンの位置と建物、航路及び道路との関係を示します。

観測された有効な33個のデータについて、地上1.5mの測定点の値を基準としたLASmax及び2種類のLAEの差の平均と標準偏差を表3に示します。2種類のLAEは飛行経路直下のケースと同様です。LASmax差は3点で0.1dB以内に収まっており有意な差は見られませんでした。LAEについては(1)の条件で算出した結果については、地上4m、6mともに上昇する傾向はありますが、偏差が大きいため有意差があるとは言えません。しかしながら、(2)の条件では1dB程度の上昇が見られます。

表3 測定点毎のLASmax及びLAEの差(平均)
ΔLASmaxΔLAE(1)ΔLAE(2)
地上4.0m 0.1 (1.5) 0.5 (0.9) 1.0 (0.7)
地上6.0m 0.0 (1.4) 0.3 (1.1) 1.2 (0.9)

※単位はdB,()内の数値は標準偏差

DL-SBMの分析結果の一例を図10~11に示します。

図10~11の各グラフについては図5~8と同様です。

この例では、航空機が仰角10度程度で北から東にかけて移動するのと同時に、数台の自動車が道路を東から南にかけて通過しているのが観測されています。航空機の仰角が低いため、飛行経路直下のケースで見られた顕著な地面反射音は現れていません。LASmaxの観測時刻付近では、自動車のかぶり音の影響を受けず航空機騒音のみが卓越していますが、その前後の時間帯において自動車の音源が検出されています。地上1.5mの地点では航空機と自動車の音源強度の差が5dB程度ありますが、地上4mの測定点ではその差が縮まっているのが確認できます。これは、マイクロホンの高さを上げることにより道路への見通しが良くなり、自動車の通過音の影響を受け易くなったためと考えられます。

図10 地上1.5mのDL-SBM分析結果
図10 地上1.5mのDL-SBM分析結果

図11 地上4mのDL-SBM分析結果
図11 地上4mのDL-SBM分析結果

4-4. 実験結果のまとめ

航空機騒音の測定におけるマイクロホンの位置について、全方位音源探査識別装置「DL-SBM」を用いてマイクロホンに入射する音を音源毎に分離して分析することにより、航空機からの直接音以外の騒音の影響がどのように生じているかについて実測データから客観的に把握することができました。飛行経路直下における実験では、地上に設置したマイクロホンについては高さによる有意な差は見られませんでしたが、屋上に設置した場合は屋上面からの反射の影響を受ける区間が狭まり、若干ながらLAEが減少する傾向が見られました。また、飛行経路側方における実験では、マイクロホンの高さを上げることによって近くの道路を行き来する自動車によるかぶり音の影響を受け易くなり、LAEが上昇する傾向が見られました。

飛行経路直下、側方のどちらにおいてもLASmaxについてはマイクロホン位置の違いによる有意差は見られず、現行のWECPNL評価に対する影響はほとんどないと考えて良いと思われます。しかしながら、LAEについてはマイクロホンの高さを上げると周囲の暗騒音の影響を受け易くなり、屋上に設置した場合には屋上面からの反射が少なくなることにより過小評価になる有意な傾向が見られ、Lden評価に対してはマイクロホンの位置による影響が生じる可能性が示唆されました。この結果は、私たちが立てた2つの仮説とほぼ一致しています。

今回の実験で、全方位音源探査識別装置「DL-SBM」を用いることにより、これまで解き明かせなかったマイクロホンの位置の違いによる測定結果の差について、その原因を客観的に明らかにできることが確認できました。今後さらに実験を重ねて、飛行経路側方におけるマイクロホンの屋上からの高さや、航空機の機種、運用による影響の違いについて調査を継続していきたいと考えています。

5. おわりに

今回は航空機騒音の新しい環境基準となるLden評価の課題の一つとして、単発騒音暴露レベルLAE等のエネルギー積分における暗騒音の影響に焦点を当てて、測定を行う立場から実際の調査結果を使って紹介させていただきました。従来のWECPNL評価では最大騒音レベルだけを正確に測定できれば良く、暗騒音の評価方法が問題として取りざたされることもありませんでしたが、Lden評価になると暗騒音の影響を受ける聞こえ始めと聞こえ終りを含めてエネルギーを積分してLAEを算出することになり、系統的な測定結果を得るためには暗騒音の評価方法の標準化が必要となると強く感じております。

一方、新しい環境基準では航空機の飛行音だけでなく飛行場内で発生する地上音も評価の対象となります。地上音には飛行音と異なり様々な形態がありますので、暗騒音の評価方法も一意的に決めるのは難しいと思われます。私たちはこの課題に対しても既に取り組みを始めており、何らかの結果が得られましたらまた随時報告していきたいと考えております。今後の「NOE技術ニュース」にご期待ください。

航空機騒音の環境基準がWECPNL評価からLden評価へ切り替わることに伴い、実際に監視を行ってこられた地方自治体の担当者からは、これまでの測定結果との継続性に問題が生じるのでは?といった声も聞こえてきています。環境省が今回の環境基準の見直しを行った根拠としては、評価方法の国際的な整合性を考慮し、成田国際空港で問題となったWECPNLの"逆転現象"を解消するためとされています。WECPNLとLdenには直線的な関係があり、今回の改訂はそれに従って単純に単位と数値を置き換えただけと考えるなら、改訂前後で測定結果の継続性は保たれるはずです。しかしながら、前号(25号)で詳しく紹介したとおり、実際にはWECPNLとLdenの関係は単純なものではなく、測定地点によっては大きく差が開くところも出てくるでしょう。基準が変わったのだから結果の傾向も変わるのはしょうがないと割り切ってしまって良いのでしょうか?場合によっては、これまで防音助成区域に入らなかった地域で基準値を超過したり、入っていた地域で基準値を下回ることもありますので、少なくとも実際に騒音被害を受けている住民はきちんとした説明がなければ納得できないでしょう。新環境基準の実施に向けて、今後社会的な関心が高まっていくと思われます。実施後の大きな混乱を避けるために、私たちは航空機騒音測定の専門家として残された課題について積極的に取り組み、正確で適切な情報を広く発信することにより、社会に貢献していきたいと考えています。

参考文献

  1. 塚本恭広, 他, “航空機騒音常時監視局における暗騒音算出方法の検討”, 音響学会講演論文集, 771-772(2005.3).
  2. ISO, Acoustics - Description, measurement and assessment of environmental noise -, Part2: Determination of environmental noise levels, ISO 1996-2(2007).
  3. EU, Directive 2002/49/EC of the European Parliament and of the Council, (2002.6).
  4. SAE International, Aerospace Recommended Practice, ARP4721 Part1, (2006.8).
  5. 山下晃一, 他, “全方位音源探査装置を用いた航空機騒音の自動測定”, 騒音制御工学会講演論文集, 45-48(2007.9).

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