コンサルティング事業部
本業務は騒音源の対策を検討されている企業様向けのサービスです。
個人で騒音にお困りの方、騒音の相談を受けている管理会社の方向けには対応しておりませんが、こちらが参考になれば幸いです。
はじめに
私たちはさまざまな音の問題を解決するため、音響測定、コンサルティング、対策工事などのお手伝いをさせていただいています。
そこで今回は音響対策の事例として、事務所、戸建住宅のピアノ室、ホールの音楽練習室、映画館、工場での事例をご紹介させていただきます。さらに対策のための音響材料の中で、少し変わった吸音材の性能もご紹介します。(青木)
1. 事務室と空調機械室の遮音改善事例
1.1 状況
築30年程度のオフィスビルをリニューアルして、賃貸オフィスビルとして使用されることになりましたが、空調機械室に隣接するテナント事務室から空調騒音が気になるとのクレームがありました。図1-1に示すように、空調機械室と事務室の間仕切りは石膏ボード両面2枚貼り程度の乾式間仕切り、空調設備方式はパッケージ形空調機を用いた各階ユニット方式で、吸気が廊下を通じて直接、空調機械室に戻るため、事務室、機械室の扉にはガラリを設けて通気されていました。
1.2 原因
現状の騒音調査を行なった結果、事務室内の騒音はNC-40[47dB(A)]程度でした。日本建築学会で推奨する室内騒音等級で評価すると、オープン事務室の用途では3級(許容)と評価されますが、その周波数特性は図1-2に示すように、人の聴感上敏感な1kHz、2kHzの音圧レベルが高い特性で、実際に測定した私たちにしても少し気になる騒音でした。
伝搬経路として、壁からの透過音、扉からの透過音、壁・床からの固体伝搬音、給気口からの騒音が考えられたため、空調機械室と事務室の遮音性能、壁、床の振動加速度レベルを測定し検討しました。その結果、固体伝搬音、給気口からの騒音の影響は少なく、主な原因は、ガラリ扉経由の騒音伝搬であることがわかりました。図1-3に示すように、ガラリ扉経由の遮音性能が全周波数帯域で20dB以下となっており、間仕切り壁の遮音性能も、その影響を受けて本来の遮音性能が得られていないことがわかりました。
1.3 対策
事務室内の室内騒音目標値をNC-35以下に定め、図1-1に示すように、空調機械室の出入り口に乾式間仕切り(石膏ボード12.5t×2枚両面貼り、グラスウール(GW)挿入、前室内部GW額貼吸音)、防音扉新設によって前室を設け、騒音の伝搬を遮音するようにしました。ただし、吸気口が必要なので、前室壁に吸気口を設け、開口部にサイレンサを設置して遮音対応しました。その結果、図1-3示すように、対策後は遮音性能が改善され、事務室内の騒音は目標どおりNC-35以下となりました。(平川)
図1-1 室の配置と対策仕様図
図1-2 対策前後の室内騒音
図1-3 対策前後の遮音性能
2. ホールに近接した音楽練習室の遮音対策
2.1 状況
下図に示すような室配置の多目的ホールにおいて、音楽練習室の音がホール舞台に聞こえるというクレームがありました。
図2-1 室配置模式図
2.2 原因
ホール関係者にヒアリングしたところ、音楽練習室では当初、コーラスの練習が主体でしたが、バンド練習も「可」として運用したところ練習音が気になるようになったということでした。当初の音楽練習室の仕様は表2-1の通りです。
表2-1 当初の音楽練習室の仕様一覧表
部位 | 仕様 |
天井 | 【スラブ150t】+有孔板吸音天井 |
壁 | 【RC150t】+有孔板吸音壁 |
床 | 【スラブ150t】+フローリング |
現状の遮音測定を行い、建物は構造的に遮音欠損していないことを確認しましたが、バンド練習音を対象とした場合には、遮音性能は不足していると判断しました。
2.3 対策
建物の荷重条件などを考慮し、表2-2、図2-2に示す対策を提案しました。
表2-2 改修案仕様一覧表
部位 | 仕様 |
天井 | 【スラブ150t+PB15t×2枚の防振遮音天井】 + クロスパネル吸音天井 |
壁 | 【RC150t+PB21t×2枚の防振遮音壁】 + クロスパネル吸音壁 |
床 | 【スラブ150t+(M-5:1段)防振ゴム+浮き床コンクリート100t】 + フローリング |
図2-2 改修案断面図
この対策案が施主に了承され、弊社にて対策工事を行いました。
対策前後の遮音性能測定結果を比較して表2-3に示します。
表2-3 改修前後の遮音性能測定結果一覧表
受音室 | 事前 | 事後 | 対策後の遮音推定値 |
1Fホール舞台 | D-65 | D-80 | D-70 |
1F居室A | D-50 | D-70 | D-60~65 |
2F居室B | D-50 | D-70 | D-60~65 |
以上のように対策後の遮音推定値を満足し、対策前に比べD値が3~4ランク向上しました。(中村)
3. 戸建住宅ピアノ室の遮音改善事例
3.1 状況
今回担当いたしました物件の御施主様はグランドピアノをお持ちで、新築当初、1階の角部屋を簡易な防音室として工務店に施工を依頼されたのですが、残念なことに、立地条件や隣戸との距離関係などから考えられる{必要な遮音性能}と{実際の遮音性能}の釣り合いが取れておらず、「家の外で音が聞こえる」ということから、ピアノを弾くことを断念されていたようです。数年後に「思い切って改装したい」というご要望をいただき、御宅に訪問し、詳細をヒアリングしました。
3.2 原因
戸建住宅のピアノ室をつくる場合は、マンションのピアノ室と設計条件が異なります。マンションは、壁を隔てて隣戸となりますが、戸建の場合、隣の家まで少なからずとも距離(空間)があり、ご自宅の外壁近くで演奏音が聞こえたとしても、実際は、隣戸には迷惑にならず、問題にならない場合もあります。しかし、住宅の密集度合い、周辺環境の静けさ、窓の向き、室外機の設置場所などの諸条件によって、必要とされる遮音性能(防音性能)が異なるので、実際に現地に伺い、周辺を調査することが大切だと思っています。今回の場合は、外壁側に取り付けられている窓、換気用配管、および壁面全体の遮音性能が不足していると考え、対策方法を検討しました。
3.3 対策
遮音層としては、防振ゴムを用いた浮き床、遮音天井、遮音壁を基本としましたが、既存の簡易2重防音窓は塞ぎました。また、隣戸側にあった外壁の換気用開口の穴を塞ぎ、隣室の壁に換気口をあけ、外部からの新鮮な空気は、隣室を経由してピアノ室に届くように工夫しました。木造戸建の場合は、構造的な限界、床下換気、外壁の雨仕舞い{防水性}などの課題点が考えられたため、設計段階で、施工された工務店の担当者や設計者と打合せをおこない、ピアノ室の改修工事に取り掛かりました。
改修工事後、実際にピアノを演奏していただいたところ、外部ではほとんど音が聞こえない程度まで改善できていました。今では気兼ねなくピアノを演奏されているそうです。(早川)
図3-1 壁の遮音構造と対策部位
4. 石粉砕機の騒音対策検討事例
4.1 状況
工場敷地境界近傍に新たに設置した石粉砕機の騒音が敷地境界での規制値を超えており、対策を検討しているのでアドバイスをして欲しいというご要望がありました。
状況をお伺いしたところ、隣地も工場の作業場で周辺には住宅等はなく実質的なクレームは発生していないが、設置した機器が騒音規制法の特定施設に指定されているため対策が必要とのことでした。
4.2 原因
現地で実際に機器稼動時の騒音を調査したところ、機器近傍1.5m点の時間率騒音レベルLA5は101dB(A)、敷地境界では97dB(A)の騒音が発生していました。
当該地域の規制値は60dB(A)となっており、規制値以下とするためには37dB(A)以上の対策が必要であることが確認できました。
4.3 対策
そこで対策案として、表4-1、図4-1に示すように機器全体を壁、屋根で囲い、内部を吸音処理する仕様を検討し、その効果を当社の騒音予測ソフトウェア「ジオノイズ」で予測計算しました。
表4-1 対策仕様案
部位 | 仕様 |
壁 | ALC100mm + ロックウール100mm |
屋根 | 鉄板1.6mm + ロックウール100mm |
予測計算の結果によると、対策後の敷地境界線での騒音レベルは58~59dB(A)となり、騒音規制値60dB(A)を下回ると推定されました。対策工事はまだ実施されていませんが、今後対策工事が実施された時には、その効果を確認したいと考えています。(光枝)
5. 打合せ室の残響改善事例
5.1 状況
新しいビルの中にある事務所の打合せ室で、音が響いて打合せに支障があるという問題が発生していました。
その打合せ室は天井高が約2.7m、奥行きが約19m、幅は約9mで壁の一面がガラスのカーテンウォールでした。床はフローリング仕上げ、天井・壁は主にプラスターボードの塗装で仕上げられており、打合せ用のテーブルと椅子が8セット配置されていました。中に入ると明るくてセンスのいい打合せ室なのですが、声が響きすぎてうるさく、なんとかしたいというご要望がありました。
5.2 原因
声が響きすぎる原因は室内に吸音材が使われていないためで、残響が長く、打合せ室としては違和感のある音場になっているものと予想されました。
そこで現地で実際に残響時間等の音響測定を実施したところ、500Hzの残響時間は1.52秒でした。文献等によれば、この程度の大きさの会議室の最適残響時間は0.7秒程度であり、打合せ室の用途を会議室とした場合、室内の吸音が足りないことが確認できました。
5.3 対策
そこで既存のプラスターボードの天井面に岩綿吸音板(日東紡のソーラトンフィッシャー9mm)を施工することになりました。
その結果、室内の残響時間は500Hzで0.92秒まで短くなりました。図5-1に対策前後の残響時間測定結果を示します。また、図5-2に対策前後の直接音とそれに続く反射音の様子を比較して示します。(上段が対策前、下段が対策後)
図5-1 対策前後の残響時間
図5-2 対策前後の反射音
図5-1の対策前後の残響時間測定結果を見ると、中高音域の響きがかなり改善されていることがわかります。また図5-2を見ても、対策後の反射音がかなり小さくなっています。
今回の測定では音の明瞭度を示す指標の一つであるSTI(Speech Transmission Index,0~1.0の間で1に近いほど音声の明瞭度が高いことを示す)も分析していますが、対策前の室内平均値が0.59であるのに対して、対策後は0.70まで改善されていました。
仕事柄、いろいろな会社に打合せでお伺いしますが、たまに吸音材が使われていない打合せ室があります。そのような打合せ室はやはり響きが多く、喧騒感を感じることもあります。
しかし今回の事例のように、天井面に吸音材を施工するだけで、ほとんどの場合は、違和感のない音場になると思われます。(青木)
6. 映画館の音場改善事例
6.1 状況
映画館の関係者の方から、改修工事を機に音場を更に改善したいとの要望がありました。そこで実際に映画館で上映中に音を確認させていただいたところ、音の印象はどちらかというとモノラル的で、場所によっては聞き取りづらい所もありました。室内をみると、壁はコンクリートにモルタル仕上げのため反射性であり、またその映画館は形状が楕円形になっているため、音響的には焦点をもつ形となっていました。そこで音場を改善するためには、まずこの壁を吸音性の仕上げにする必要性があると考えました。
6.2 原因
音場改善の計画に先立ち、まず現況の音響条件を把握するために、室の響き具合を調べる残響時間測定と、全方位音源探査システム「ノイズビジョン」を使った反射音調査を行いました。ノイズビジョンを用いて測定・分析を行うと、どの部分から強い反射音が到来しているのかを確認することができます。
測定の結果、500Hzの残響時間は0.87秒であり(表6-2)、映画館の室容積と総表面積から計算すると、室内の平均吸音率は約0.3程度となっていました。参考までに人の感覚と平均吸音率をまとめた結果を表6-1に示します。
表6-1によると、平均吸音率が0.3の場合、人の感覚では「自然」~「自然(デッド目)」な響きとなり、具体例としては多目的ホール~演劇用劇場に求められる響きに該当しますが、映画館の響きとしては少し長めであり、スピーカを用いた音響拡声を効果的に行うためには、全体的に響きを抑える必要がありました。
表6-1 人の感覚と平均吸音率
平均吸音率 | 0.15以下 | 0.20~0.25 | 0.25~0.30 | 0.30~0.35 | 0.45以上 |
---|---|---|---|---|---|
人の感覚 | かなり響く | 響き気味 (ライブ目) |
自然 | 自然 (デッド目) |
デッド |
具体例 | 廊下 何もない洋室 |
コンサートホール | 多目的ホール | 演劇用劇場 | 映画館 テレビスタジオ アナウンスブース |
6.3 対策
そこで全体の響きを抑えるために、ノイズビジョンの出力結果を元に、比較的反射の強い部分を特定して(図6-1)、全体の音場のバランスを考えながら、吸音パネルと円形型の吸音体を取り付けることにしました。(図6-2)
改修後のノイズビジョンの測定結果を図6-3に示します。これをみると壁面で生じていた強い反射音が消えていることがわかります。
また、500Hzの残響時間(表6-2)も0.87秒から改修後では0.64秒に短くなり、音響改善の目標値としていた平均吸音率0.4を満足していることを確認しました。(小池)
図6-1 ノイズビジョン測定分析結果(事前・2kHz)
図6-2 吸音パネルと円形吸音体
図6-3 ノイズビジョン測定分析結果(改修後・2kHz)
※図1と同じレベルで正規化を行っています
表6-2 残響時間(RT)の事前・事後測定結果の比較
1/1オクターブバンド中心周波数(Hz) | |||||||
63 | 125 | 250 | 500 | 1k | 2k | 4k | |
改修前のRT | 2.01 | 1.48 | 0.97 | 0.87 | 0.97 | 0.87 | 0.73 |
改修後のRT | 2.05 | 1.32 | 0.73 | 0.64 | 0.65 | 0.63 | 0.56 |
7. 身近な材料の吸音率
騒音対策をする上で、遮音材や吸音材と呼ばれる材料を使用するケースが多いかと思います。私達は、このような材料を音響材料と呼んでおり、近年は建築以外に自動車などの工業製品も低騒音化の開発が進んでおり、いろいろな音響材料が使用されています。そこで、今回はペットボトル再生繊維の吸音材についてご紹介したいと思います。
ペットボトル再生繊維は、その言葉通りペットボトルをリサイクルして生産した化学繊維であり、原料はポリエチレンテレフタレート(PET)です。通常は、PET繊維などと呼ばれています。
図7-1 (右) 垂直入射吸音率測定システム 「WinZac」(左) 測定したサンプル(40φで抜き出し)
図7-2 測定結果(厚さ30mm、密度36.7kg/m3)
*密度は、抜き出したサンプルから計算
弊社では、こういった音響材料の吸音・遮音性能の評価業務を行っており、使用する材料の性能を評価するだけでなく、対策案を検討するためのお手伝いもさせていただいています。(柳瀬)
このPET繊維の吸音材を弊社の音響材料試験の一つである「垂直入射吸音率測定システム」(図7-1)で吸音率の計測を行ってみました。測定結果を図7-2に示します。
表7-1 音響材料試験内容
試験項目 | 測定周波数 | サイズ |
垂直入射吸音率試験 | 200~4000Hz | 40φ |
残響室法吸音率試験 | 400~5000Hz | 1㎡ |
音響透過損失試験 | 400~5000Hz | 1㎡、60cm角 |
おわりに
今回は6件の対策事例の概要と、音響材料の評価例をご紹介させていただきました。今後も機会があれば、さまざまな音響対策の事例をご紹介させていただきます。
音の問題を解決するためには、原因を追究するための測定技術、対策案を検討するためのシミュレーション技術や経験によるノウハウが求められます。
さらに音響工事の施工技術、あるいは音響材料の性能評価や、新しい材料の性能を予測する技術も求められる場合があります。
私たちはこの総合力をさらに高めることで、これからも音の問題を解決するためのお役に立ちたいと願っています。(青木)
本業務は騒音源の対策を検討されている企業様向けのサービスです。
個人で騒音にお困りの方、騒音の相談を受けている管理会社の方向けには対応しておりませんが、こちらが参考になれば幸いです。