無響室の性能

営業部 高田 雅保

1 はじめに

この「無響室・残響室」の項では、これまで、無響室に関して、基本的な設計、種々の形態、歴史などをご紹介してきましたが、今回は無響室に求められる基本的な性能と、その確認のために実施する検収測定の方法などについて述べさせていただきます。
無響室の性能に関する規格は、JIS Z 8732 3.1「試験室」の項に「無響室や半無響室に要求される音響特性としては音波の距離減衰特性が逆二乗則を満足することと、暗騒音レベルが十分に低いことが必要である。」また、「試験室の温度及び湿度の変動によって空気吸収による音波の減衰特性が変化したり、補正量に誤差を生じるので測定中できるだけ一定に保つ必要がある。」と示されています。
前者は建築的に無響空間が実現されていることと、内部及び外部からの騒音が小さいことであり、後者は空調などの設備が必要であることを示しています。
ただし、温度や湿度については、主に空調機の性能によるため、ここでは扱わないことにします。

2 無響室に求められる基本的な性能

JIS規格に示されるように、無響室に求められる基本的な性能は、暗騒音レベルが十分に低いことと、音の距離減衰特性が逆二乗則を満足すること、の2点につきるといえます。
私どもではこの2点に加えて、暗騒音レベルと関わりの深い、無響室を含む建物の壁や扉、窓の遮音性能を測定しています。これは後日の設計のための資料としたり、万一、暗騒音レベルが期待通りの値になっていないときに、その音がどこから来ているのか、振動できているのかなどを判断するために測定しているものです。つまり、私どもが通常無響室の性能としているものには次の3つのものがあります。

A. 暗騒音レベル(空調騒音など周辺機器の種々の条件を含める場合が多い。)
B. 遮音性能
C. 逆自(二)乗則特性(音圧レベル距離減衰特性)

(1) 暗騒音レベル

暗騒音レベルは低ければ低いほど良いわけですが、諸般の事情でなかなかそうはいかない場合もあります。これは設計段階での問題ですが、規格では、暗騒音レベルは最低限、被測定物の発生音圧レベルよりも(dB合成の数式から)10dB低ければよいということで(JIS Z 8732では15dB)計画する場合もありますが、被測定物の開発が進み音圧レベルが下るのが当然予想されるため、ある程度余裕を見込む必要があります。

また、dB(A)のみを測定対象とする場合、仕様をdB(A)だけで決定することがありますが、やはり他の目的での使用を考慮して、1/1オクターブや1/3オクターブのような周波数ごとの音圧レベルで(例えばNC値)で規定する必要があります。

暗騒音レベル測定結果の例(全停止時)
図-1 暗騒音レベル測定結果の例(全停止時)

お客様から頂く要求仕様書の中で、暗騒音レベルと遮音性能を検討していくと、要求暗騒音レベルに対して要求遮音量が多すぎたり少なすぎたりしている場合があります。暗騒音レベルは遮音性能と密接な関係があるため、設計時点で、必要とする暗騒音レベルを設定して、外部騒音や外部振動がどの程度であるのか、無響室以外の場所でどの程度の騒音や振動が予測されるのか、などを検討して、防振構造を含めた必要遮音性能を設計することになります。当然、空調騒音をおさえるための減音構造も必要暗騒音レベルを考慮したものとなります。

(2) 遮音性能

遮音性能は暗騒音と関係があることは上記のとおりです。この測定結果は(特定場所間)音圧レベル差グラフとして示されます。

(3) 逆自(二)乗則特性

逆自(二)乗則特性(音圧レベル距離減衰特性)は、自由音場(半自由音場)の広さを示すもので、被測定対象物の大きさや発生音の周波数特性、測定目的、無響室の大きさ、吸音層の吸音率や音圧反射率などから決定されるものです。この特性は逆自(二)乗則特性グラフに示されます。JIS Z 8732 やISO3745に示される無響室、半無響室の音圧レベル距離減衰特性の許容最大偏差は次のように示されています。

周波数(Hz)許容最大偏差(dB)
無響室半無響室
630以下 ±1.5 ±2.5
800~5000 ±1.0 ±2.0
6300以上 ±1.5 ±3.0

この他、振動レベルを測定することがありますが、これは遮音と同様に設計時点において振動がどの程度暗騒音レベルに影響するのかを検討する必要があるためです。
また、上階に事務室などがある場合には床衝撃音の測定をすることもあります.

3 性能確認のための検収測定

次にこれらの性能を確認するための測定について、当社で実施している方法をご紹介いたします。

(1) 暗騒音レベル測定

測定の条件としては、無響室周辺の機器を全部停止した時、空調機稼働時、周囲の騒音源・振動源を稼働した場合などに分けて実施しています。
測定は、1/1オクターブバンドフィルター付きの精密騒音計を用いて直読しています。

暗騒音レベル測定機器
図-2 暗騒音レベル測定機器

測定点は、室中央を主に測定し、被測定対象物の測定範囲について数ポイントの測定を行います。壁に近いポイントやコーナーに近い部分は低音域のレベルが室中心よりも高くなることが多いため、通常、測定対象としていません。
暗騒音レベルが極度に低い無響室では、騒音計の測定限界付近で測定している場合が多く、可能な限り低い音圧レベルまで測定できる騒音計が必要になります。極端な場合には0dB(A)、それ以下のレベルの測定が必要になる場合もあります。

(2) 遮音性能測定

測定は、通常JIS A 1417「建築物の現場における音圧レベル差の測定方法」に従っています。無響室の場合、遮音量がかなり大きいため(500Hzで80dB~100dB)、音源側でできるだけ音圧レベルの高いノイズを発生することと、無響室側で先程と同様にできるだけ低い音圧レベルまで測定できる機器が必要となります。

遮音性能測定機器
図-3 遮音性能測定機器

測定に際しては、音源側の音圧レベルが120dB程度になる場合があるため、測定者の耳の保護と、苦情が殺到するかのしれませんので、周辺への事前の通知が必要になります。

(3) 逆自(二)乗則特性(音圧レベル距離減衰特性)

さて、ここまでは比較的簡単に測定が行えますが、逆自乗則特性については、かなり難易度の高い部類に入れられる測定であると考えています。それは次のような問題があるからです。

音源スピーカにどのようなものを使うか。
音源スピーカの設置方法をどうするか。
測定する距離をどのように測るか。
マイクロホンがスピーカの中心軸からずれないか。
測定するポイント数をどうするか。
マイクロホンの移動をどのように行うか。

など、距離減衰特性の音圧レベルの測定をすることよりも(騒音計などの測定系よりも)それ以外の機械的な部分に工夫が必要となるためです。
各測定ポイントで音圧レベルを各周波数毎に測定したり、測定した音圧レベルの距離減衰特性をグラフにしたりすることは、コンピュータで自動化していますが、機械的な部分は手動で行っているのが現状です。

逆自乗則特性測定機器
図-4 逆自乗則特性測定機器

では、実際の測定方法について順を追って述べてみます。なお、完全無響室はあらゆる方向に逆自乗則が成立しているのに対して、半無響室では床面から上方(真上及び斜め上)のみに逆自乗則が成立しているため、測定自体もより複雑となります。そこで、ここでは半無響室での測定を例に説明したいと思います。

逆自乗則測定セッティングの概略図
図-5 逆自乗則測定セッティングの概略図

A. 準備(半無響室逆自乗則特性測定の7つ道具)

当社には逆自セットと呼ばれるものがあります。中身は概ね以下のものです。ワイヤー(太さ2mm)、ワイヤークリップ、ターンバックル、シャックル、滑車、アイボルト(丸カン)、重要工具、クレモナロープ(2mm)、20Kgウェイト、万力、30mm巻き尺、簡易のイス、マイクロホン取付装置(開発者に因んで福満3号と呼んでいるもので、マイクロホンの取付位置を細かく調整ができる治具です。)。これらはすべて半無響室でマイクロホンを移動させるためのものです。これらによるセッティングの状態を図ー5に示します。

B. 使用するスピーカ及びスピーカの設置

ISO 3745及びJIS Z 8732には、推奨するスピーカを次のとおり示しています。

400Hz以下では容積0.020m3で内部を十分吸音処理した箱(エンクロージャ)に取り付けた直径25cmのダイナミックスピーカ、400Hzから2KHzでは同じ形状・寸法の二つのダイナミックスピーカを放射面を向かい合わせて円環で結合した音源、2KHzから10KHzでは直径1.5cmの細い円筒を通して音を放射する形の音源。
しかし、3種類のスピーカを使い周波数毎に替えているとそれだけで測定時間が3倍になること、3種類のスピーカの大きさが異なるのでセッティングが非常に効率の悪いものとなること、向かい合わせのスピーカでは結合部分の色々な所から音が出て点音源にならず指向性も悪いこと、パイプスピーカも半無響室の床面に設置した場合、指向性が悪く音源として適当でないことから、当社では、FOSTEXのUP-103ユニットを六角形の箱に入れた一種類のスピーカを使用しています。多数の測定結果、経験からこれで十分であると考えています。

逆自測定用スピーカ
図-6 逆自測定用スピーカ

セッティングについては、JISに次のように示されています。「測定用スピーカの設置」 測定の基準点は,測定対象音源を設置したときにその中心がくるべき位置を基準点とし,ここに測定用スピーカの音響中心を置く。スピーカの音響中心の位置は,スピーカを取り付けたエンクロージャの形状で異なり,また周波数によっても変化するが,測定用スピーカの寸法が波長に比べて十分小さい場合には,スピーカの開口面の中心としてよい。
しかし、中心位置が決まっていない場合が多く、色々な音源を測定対象物とするため、大部分は無響室の中心付近を音響中心として測定しています。また、車を入れる車両無響室では車の中心位置やダイナモのセンターと考えられる位置で測定しています。
完全無響室の測定におけるスピーカの固定は、上下方向も水平方向も比較的自由に変えられることから3脚で行っていますが、半無響室でのスピーカ設置はJISでは次のように示されています。

「付記1.半無響室における逆二乗特性の測定上の注意」
半無響室における逆二乗特性を測定する場合には,測定用スピーカの音響中心をできるだけ反射面に近付けるべきである。音響中心が反射面から離れると,直接音と反射音の干渉による定在波が生じ,正しい逆二乗特性が測定できない。

そこで当社では、スピーカ面と床面を同一のレベルとするため、スピーカを床面に埋め込む方法をとっています。 コンクリート床の場合は測定用にあらかじめ穴をあけておき、測定後コンクリートで埋め戻します。(この穴が開口となりますのであらかじめ補強が必要になります。)床がチェッカープレートなどのように、この方法が不可能である場合には、床下にスピーカを取り付けられるように箱をアングルで組んでおき、後にフタが閉められるようにしておきます。これらの場合スピーカは上向きとなります。

床に埋められない場合には、スピ-カの音響中心をできるだけ反射面に近付けるということから床に置いていますが、スピーカの方向については、測定方向にスピーカを向けると、スピーカの直接音と床からの反射音で干渉が起こり易くなるため、測定方向に関係なく常に上向きとしています。

C. 測定方向

測定方向はISOとJISで多少違います。ISOの方は誤訳を避けるために原文をあげておきます。

A.3.2.2 Microphone locations
Microphone traverses shall be made for at least eight straight paths away from the centre of the test sound source in different directions. Key microphone pathsare the lines from the source to the room corners. Four or more paths shall be chosen at random. However,pathsvery close to the reflecting floor are not recommended.

JISでは次のようになっています。

「測定方向」 逆二乗特性の測定は,無響室又は半無響室の代表的な方向についてできるだけ多くの方向について行う。本規格では,一般的な無響室又は半無響室が直方体であり,室のほぼ中心に測定対象音源を設置すると考えて,室の中心から天井又は床面及び壁面に垂直な3方向,天井又は床面と壁面の接するりょう(稜)線に垂直な方向に2方向,コーナーの方向に1方向の合計6方向について,逆二乗特性の測定を行うように定めている。

当社では、完全無響室においては水平方向に長手方向、短手方向、対角線方向、それに真上方向の4方向、半無響室も4方向で長手方向の稜線に垂直な方向、コーナーの方向、短手の稜線方向、及び垂直方向(真上)を基本としています。測定は、ワイヤーをその方向に張り、このワイヤーにマイクロホンをスライドさせて行います。

D. 計測機器

計測機器の設置は無響室、半無響室以外の計測室等に行い、マイクロホンやスピーカは延長ケーブルで延長します。これは実験室(無響室)のみの特性を測定するためでJISに述べられている通りです。

E. 測定範囲と測定間隔

JISでは以下のように示されています。

「測定範囲と測定間隔」
測定用スピーカにきわめて近い場所では,その大きさの影響によって,逆二乗則が成り立つとは限らない。そこで,逆二乗則特性の測定は,基準点である測定用スピーカの音響中心(上述のように,一般に音源スピーカの開口面の中心としてよい)から50cm以上離れた点から,測定球面までとする。なお,可能ならば,測定球面の外部まで測定しておくことが望ましい。
測定点の間隔は,原則として,測定周波数の音波の1/4波長以下とする。例えば,500Hzの場合,17cm以下の間隔で測定する。しかし、1KHz以上では,間隔は10cm以下であればよい。なお,逆二乗則の検定方法には統計的手法を用いているので,測定点の数は,一つの方向について,10点以上必要である。

これについても当社では以下のように簡略化しています。スピーカから20cm点を基準として20cm, 30cm, 40cm, 60cm, 80cm, 1m, 1.2m, 1.4m, 1.6m, 1.8m, 2.0m, 2.5m, 3.0m, 以降50cmおきを標準としています。これはすべての測定周波数について同じとし、測定可能な距離まで測定しています。

F. 測定信号と測定周波数

JISでは以下のように示されています。

「測定信号と測定周波数」 測定に用いる信号は,原則として,純音を用いる。ただし,被測定音源が広帯域騒音の場合には,1/3オクターブバンドの帯域雑音でもよい。帯域雑音の場合には,反射による干渉の影響が少なくなり,見掛け上逆二乗特性がよくなる。
測定周波数は,125Hzから4KHzの範囲では,1オク ターブバンドごとの中心周波数,すなわち,125Hz,250Hz,500Hz,1KHz,2KHz 及び4KHzとする。それ以外の周 波数範囲では,1/3オクターブごとの中心周波数,す なわち,低い周波数範囲では,100Hz,80Hzなど,高い周波数範囲では,5KHz,6.3KHz,8KHzなどである。

当社もこのとおり実施していますが、信号はピンクノイズを用いて受音側で1/3オクターブで分析する方法を主としています。なお、大きな試験室になるとスピーカの能率から、距離が遠いときに信号と暗騒音レベルとのSN比が悪くなるので、その確認が必要になってくることがあります。

逆自乗則特性測定結果の例
図-7 逆自乗則特性測定結果の例

G. 測定データの整理方法

当社の測定においては、コンピュータによるデータ収集・解析を行っていますので、分析、整理、グラフ書きは自動的に実施されます。この場合、理論値は最初の5ポイントの測定データから最小自乗法で求めたものをセンターラインとして、先に記した許容最大の偏差のラインをそのセンターラインに対して±αdBという形で描いています。また、この時に音源補正を行いこの5点のデータから得られる実際のスピーカの音源とスピーカ面との距離の補正を行っています。

4 最後に

以上、無響室・半無響室の必要性能及びその確認の測定方法について述べてきました。皆様の御理解の一助になることができれば私として、これほどの喜びはありません。ありがとうございました。