STUDIO PARTITA

大阪営業所 松本 隆司・青木 雅彦

1 はじめに

日本語で表現するロック系のアーティストが、違和感なく受け入れられるようになったのはいつ頃からだったのでしょうか。特に数年前のバンドブームを境にしての隆盛には、昔(!)を知る世代にとっては隔世の感があります。
街に流れるヒット曲を通じて、あるいはCDによって支持されているミュージシャン達にはある共通項があるように感じます。それはTV等のマスメディアに出るよりもライブ、つまりライブハウス・ホール等でのステージを大切にしていることです。そこに、本格的なPA機材のセッティングができるプロ仕様のリハーサルスタジオのニーズがあります。
これまで、当社では、芝浦スタジオやイーラ用賀スタジオ等のリハーサルスタジオをお手伝いさせて頂いてきました。
今回、大阪に初めての本格的なゲネプロ(ステージを想定したリハーサル)スタジオを設計・施工させて頂きましたのでここにご紹介します。

スタジオ写真

2 スタジオ概要

スタジオパルティッタは、大阪南港に程近い、住之江区北加賀屋のベイエリアにある元造船所敷地内に誕生しました。
当スタジオは国内最大級のスタジオであり、ステージを前にした本格的なゲネプロスタジオとしての他、コンサートツアー中のリメイクスタジオとして、さらにはライブスペース等の多目的な用途を想定されています。また、国内ミュージシャンだけでなく、今年9月に開港する関西国際空港を経由した海外ミュージシャンの利用も期待されています。
スタジオ周囲の環境は、東側と西側がドックになっており、クルーザーが係留されています。また南側には大阪港に注ぐ河が流れ、時折船が航行してゆくという、とても雰囲気のある立地となっています。また外観もユニークで、以前からのスレート建屋をそのまま残し、スタジオはその中にあります。したがって、外から見れば時代を感じさせる倉庫があるだけで、内部のスタジオとの魅力的な対比になっています。

図-1 スタジオ平面図
図-1 スタジオ平面図

なお、スタジオの概要は下記のとおりです。

スタジオ面積:284m2(86坪)
24.3m×11.7m×天井高7.2m
電気容量 :75kw×2、25kw×2、50kw×1(100V)
50kw×1(200V) 合計300kw
機材 :ミキサー、スピーカ、周辺機器等音響機材の他、調光卓、
スポット等の照明機材各種

上記の他にも次のような特色が挙げられます。

数十台は楽に停められる駐車スペース
ゲストルーム・スタッフルームの他にシャワールームも完備
プラットホームからスタジオまでフルフラットな搬入口
電動昇降式で組み替え自由な天井トラス
テレビ中継用のケーブルダクト

3 スタジオの設計・施工

スタジオ施工は、前述したとおり、以前からのスレート建屋を外観として残すため、まずその内部にRC構造の躯体を敷設し、その後躯体の内装工事を行うという手順で行われました。
躯体終了時の室内はさながら残響室のようでしたが、浮床工事のためにグラスウールが運び込まれ、床に敷かれていく度に、室内の残響が短くなってゆくのがわかりました。床は湿式グラスウール浮床構造で、精度の良い水平を得るため、レベリングモルタルを打った後、最終的にはPタイル仕上げとしました。デザインとしてはグレーを基調に、3色のモザイクで楕円をイメージしたものになっています。
壁は後述する仕様検討により、浮遮音層はなく、躯体RC壁より防振支持された下地を基に、仕上げ面が施工されています。
長手方向の1面は、床から2mの高さまで鏡張で、振り付けなどのチェックができるようになっています。鏡面は大きな反射面ですが、板振動によって低音域の返りが濁った音になる可能性がありました。そこでLGS下地を補強した後、プラスターボード12mm×2層のうえにさらに合板12mmを重ね張りし、出来るだけ堅い反射面としています。

図-2 壁の施工概念図
図-2 壁の施工概念図

そのほかの壁面はガラスクロスパネル仕上げとなっています。(一部プラスターボードで塗装仕上げ面あり。)下部はクロス保護のためワイヤーメッシュパネルを取付ています。また、短手壁面の上部には音の拡散効果とデザインを兼ね、パネルに凹凸をつけ、ブルーバイオレット調の2色のパネルで仕上げています。 天井は黒のガラスクロスで保護されたグラスウールの額貼りと、1.8m×0.6mの化粧吸音トラップをメインに仕上げられています。なお、クロスパネルや化粧吸音トラップについては、現場の工期を短縮するため、出来る限り工場で製作し、現場では取り付けるだけの工法を採用しました。 2ヶ所ある入り口の扉は幅1.7mの大きな防音引き戸(マーカススライディングドア)を2重とし、床の段差を無くして機材の搬入を容易にすると共に、女性でも簡単に開けられる軽い扉になっています。

図-3 床施工の概念図
図-3 床施工の概念図

現場での音響内装施工は、躯体が出来上がった昨年7月中頃よりスタートし、夏の暑い盛りに作業して頂いた大工さんを始めとする協力業者の方々のおかげで、約3ヶ月の工期で予定どおりお引き渡しする事ができました。

4 音響設計と測定結果

4-1空調騒音

空調騒音については、スタジオの主な用途がP.Aを用いたリハーサルであることからNC-30~NC-35を目標値としました。
竣工時の空調騒音レベル実測値は、通常のエアコン・換気設備稼働時でNC-35となっています。
また、当スタジオは天井トラス(リモートコントロールで昇降できます。)に照明機材を吊り込み、音だけでなくライティングを含めたリハーサルが出来ます。その場合は、照明機材の放熱対策として、室内壁際に設置された8台のエアコン(カセットタイプ)を稼働しますが、急冷運転時でNC-45、弱運転時でNC-40の発生騒音となっています。

4-2遮音性能

遮音仕様を決めるにあたって、当社のポータブル型データ測定システム(DL-80/PT)を用いて、46時間にわたる事前騒音測定を実施しました。その結果、敷地内のスタジオ計画場所は、最寄りの道路から100m程度離れているという非常に恵まれた立地により、外部騒音の心配は少ないことがわかりました。また、隣接する河を通過する船のエンジン音についても問題ないことを確認しました。
上記の結果より、遮音仕様については、一般にスタジオ等で用いられる浮構造の遮音層をなくし、RC固定遮音層200mmのみとしました。(実際は既存のスレート建屋の遮音効果も期待できます。)
リハーサル音の外部への透過については、固定遮音層のみでは、スタジオ建屋近傍で低音域透過音が、環境騒音をいくらか上回ると予想されました。しかし、敷地境界線では距離減衰効果により、環境騒音に対して影響を与えることはないと判断しました。
遮音性能の実測値は、外部からスタジオ内部に対しては63dB~72dB(500Hz:以下同様)であり、予想を上回る性能となっています。

4-3防振性能

防振仕様検討についても、前述の事前測定時に騒音と併せて振動測定を実施しました。その結果、最寄りの道路を通行する大型車両の振動が床等に伝わり、固体音が発生しても、空調騒音目標値を上回る事はないものと予想されました。ただし、隣室歩行時、あるいは屋外設備機器等を考慮して、床だけは防振仕様とし、グラスウール浮床を採用することとしました。
測定結果によると、隣室歩行時のスタジオ浮床の効果は、63Hzで-10dB、また歩行時の発生振動成分が大きかった250Hz~500Hzの帯域では-30dB以上の減衰が得られています。

防振仕様検討についても、前述の事前測定時に騒音と併せて振動測定を実施しました。その結果、最寄りの道路を通行する大型車両の振動が床等に伝わり、固体音が発生しても、空調騒音目標値を上回る事はないものと予想されました。ただし、隣室歩行時、あるいは屋外設備機器等を考慮して、床だけは防振仕様とし、グラスウール浮床を採用することとしました。
測定結果によると、隣室歩行時のスタジオ浮床の効果は、63Hzで-10dB、また歩行時の発生振動成分が大きかった250Hz~500Hzの帯域では-30dB以上の減衰が得られています。

4-4残響時間

残響時間目標値の設定にあたっては、スタジオを運営される関係者の方々と打ち合わせを重ねさせて頂いた結果、ある程度ライブな響きのあるスタジオにしたいとのご要望がありました。
当社の過去のスタジオ測定例によると、平均吸音率が0.45(500Hz:以下同様)程度以上がデッドなスタジオ、逆に0.25程度以下がライブなスタジオとの評価を頂いております。今回のスタジオ用途のメインが、ステージでの演奏を控えた音作り(リハーサル)であることを基に検討した結果、"ある程度ライブな響き"というご要望を、"平均吸音率で0.35程度"という目標値に置き換えました。
実際の音場設計にあたっては、吸音面と反射面の面積比を概ね1:1とし、さらに吸音面については強い吸音面(部材の想定吸音率で0.65~0.85)と緩やかな吸音面(部材の想定吸音率で0.30~0.50)を2:1としました。また部材の配置は可能な限り、分散配置としました。
具体的な反射面については、床のビニールタイル、壁の鏡面、壁の反射クロスパネル(合板15mm)等があります。強い吸音面については、天井に貼ったグラスウール32k50mm(ガラスクロス包)、壁の吸音クロスパネルA(グラスウール16k25mm背後空気層300mm)、吸音クロスパネルB(背後に吸音トラップ吊り:5.5mmの合板を芯材として両側にグラスウール16k25mm貼り)が挙げられます。また緩やかな吸音面については、天井の化粧トラップと、背後に空気層だけのクロスパネルCがあります。
上記の仕様で計算した残響時間の予測値と実測値を、平均吸音率と併せて図-4に示します。平均吸音率の予測値0.35に対して、残響時間実測値から求めた値は0.37とほぼ満足できる結果となりました。実際、オープニングセレモニー時のバンドのデモ演奏時にも、適度な響きのあるスタジオとの印象を持ちました。

図-4 残響時間及び平均吸音率
図-4 残響時間及び平均吸音率

この施工については、全てが順調に進んだわけでなく失敗もありました。それは竣工後しばらくして、スタジオ関係者の方より「大きな音を出すとスタジオ内の電気盤の扉が鳴り始める」とのご指摘でした。早速駆けつけてみると、確かにエレキギターを壁際に置いたアンプで鳴らすと、近くの壁に取り付けられている電気盤のスチール製扉が共振して音が発生していました。そこで扉の内側等に鉛シートを貼ってみたところ、ある程度発生音は下がりました。(振動加速度レベルでは1kHzで-8dBの制振効果が得られました。)リハーサルスタジオでは大きな音圧が発生する(実測値によると125Hzではエネルギー平均値で110dB程度)ことは当然予想されることであり、前もってダンピング等の対策を処置して置くべきだったと反省しています。
上記の問題は、鉛シートによる対策でひとまず経過をみるという結果になりましたが、今後もスタジオが実際に稼働して、多くの方々に使って頂いてゆくなかで、いろいろなご指摘・ご要望を頂くものと思っています。私どもはその都度、迅速にお応えし、また提案させて頂き、末永くお付き合いさせていただければと考えています。

5 最後に

今回のスタジオ計画には、約3年という長い期間を費やしています。
そのうち、当社が計画に参画したのは、'92年の夏頃からで、1年以上かかってレイアウトの検討、仕様の検討を重ね、ようやく工事完了を迎えることができました。全体計画に携われた、千島土地(株)の芝川専務、渡辺課長、スタジオパルティッタの近藤様、宮澤様、(株)KOM建築研究所の金様、(株)M-BARスタジオの佐野様や多くの協力会社の方々に厚く御礼申し上げます。

なお、ご利用等のお問い合わせは、下記の所にお願いいたします。

スタジオパルティッタ
〒559大阪市住之江区北加賀屋45
TEL06(6686)8240 FAX06(6686)9247