技術部 山下 晃一

1. はじめに

自動車騒音・道路交通振動等の調査については、現場測定に多くの時間・日数・人手を要し、かつ、その分析作業に測定以上の人手・時間を要することがあります。 このような測定・分析の省力化、迅速化を図ることを目的に、当社の自動測定システムへの取り組みが始まり、その成果として、 本誌の前号(1992.No.1)で御紹介した航空機騒音自動監視システム「DL-1420シリーズ」があります。 「DL-1420」は、当初から定点での自動測定を念頭において開発しており、その大きさ、 重量から任意の地点を移動して測定する目的には不適当なものです。しかし、短期間の測定に対応できる可搬型のシステムを、 といった要望や、航空機騒音だけでなく自動車騒音・振動、環境騒音等の測定にも対応できるようにしてほしい、 という要請が当社の内外から多く寄せられたことから、「DL-1420」の機能をそのままコンパクトにした、 ポータブル測定システム「DL-80/PT」の開発を行いました。

昭和63年に第1号が生まれた「DL-80/PT」も、多くのユーザにお使い頂き、その中で得た数多くの御意見、 御要望をもとに改良を積み重ねてまいりましたが、この度3代目の「DL-80/PT」が誕生しましたので、御紹介させていただきます。

2. 「DL-80/PT」の基本機能

(1) ハードウェア開発の基本

開発に当たっては、これまでに寄せられた要望・意見を参考にして、特に以下の点に配慮しました。

ア 機動性を重視して軽く、小さいこと。

イ あらゆる測定環境で動作すること。(防滴、防塵性、電源対策)

ウ あらゆる測定に対応できること。(システムの発展性)

これらの点を考慮すれば、CPU、インターフェースの部分について、市販量産機器を組み合わせて利用することでは対応できないことから、 ボード(回路)の新規開発から始めました。特に、防滴、防塵性を高めるために密閉する必要から、 ボードにマウントする個々のICも発熱の少ない(電力を消費しない)ものを慎重に選択しています。

また、インターフェース回路については、パラレル、シリアル及びGPIBの各インターフェースを標準装備しており、 各種の測定・分析機器の接続ができるばかりか、測定関連機器の自動制御をも可能にしています。

DL-80/PTの画像

(2) 基本機能

「DL-80/PT」は、これまでの測定機器にない次の基本機能を持っています。

A. プログラム・カード

同じ騒音計を使用する測定でも、自動車騒音、新幹線鉄道騒音、航空機騒音等では、 データの取り込み方法、処理方法は大きく異なります。「DL-80/PT」では、これらの異なる測定手順をプログラム化し、 目的別のROMカード(プログラム・カード)に書き込んでありますので、カードの変更だけであらゆる測定に対応できます。

測定は、予め測定条件を設定しておけば、カードを差し込み、スイッチを入れるだけで開始され、複雑な操作は一切必要ありません。

また、測定条件の変更も、液晶ディスプレイのタッチパネルをメニューに沿って、操作するだけで簡単にできるようになっています。

B. データの同時取り込み

騒音計と振動計、複数地点の騒音計など、測定条件により、同時に複数の計測器のデータを取り込むことができます。 標準で最大5ch、オプションで最大10chの計測機器を接続することが可能です。

C. 測定関連機器の制御

データを取り込むだけでなく、「DL-80/PT」から測定関連機器を自動制御するこができます。 例えば、DATやビデオカメラを、データ取り込みに同期させて作動させることが可能です。 自動車騒音測定時にビデオカメラを作動させれば、後に通過台数、大型車混入率、平均速度等を確認することができます。

また、通信モデムを接続することができますので、テレメータ化することも可能です。

D. 測定機能の追加

測定の精度をより高めるため、航空機騒音や新幹線騒音の識別装置を組み込むことが可能です。

測定機能の追加

3. 測定データの処理

「DL-80/PT」で収集した測定データは、次のとおり処理・分析されます。

(1) プリンタ印字

本体にプリンタを内蔵していますので、測定現場での測定結果のチェックが容易に行えます。 また、無人測定時にプリンタの用紙切れ、紙詰まりなどによるトラブルが発生しても、自動的にプリンターを切り離し、 継続して測定できるようになっています。

(2) メモリーカード

測定結果がプリンタ印字されるほか、データは全てメモリーカードに書き込まれます。

A. パーソナルコンピュータへのデータ受け渡し

一般に、測定データの分析処理は、パーソナルコンピュータにより行われることから、 パソコンにカードリーダーを接続して、メモリーカードのデータを受け渡すソフトを提供しています。 また、カードリーダーを通じて読み込むため、使用するパソコンの機種は問いません。

B. 処理ソフト

ア 市販ソフトの利用

カードリーダーで読み取ったデータはフロッピィ・ディスクやハード・ディスクに記録した後、 市販のソフトウェア(例えば「Lotus1-2-3」など)で処理できる形式のファイルに変更することができます。

イ 作表・作図ソフト

オーダーにより、作表・作図のソフトを提供することができます。表及び図の様式は、 指定により変更することが可能ですので、メモリーカードから直接、報告書や白書に使用するものが印刷されます。

また、予め測定地点名や基準値をデータベース化することにより、測定データの環境基準等との適合状況を自動的に判別するなど、 データ集計作業を大幅に省力化することができます。

測定データ-1測定データ-2

4. 「DL-80/PT」の利用

(1) 測定対象

基本的に、「DL-80/PT」にはあらゆる計測器やセンサーを接続することが可能ですから、騒音・振動に係る全ての測定のほか、気象、地震、大気質、水質、地下水等の測定にも利用できます。

(2) 設置場所

「DL-80/PT」は、あらゆる測定現場を想定して、AC100V、DC12V、内部バッテリー(バッテリーだけで約24時間使用可能) の3電源方式を採用しています。このため屋外での測定システムとして利用されるだけでなく、車載、定点測定等様々に利用できます。

A. 屋外測定

防滴、防塵ケースであることから、雨天時でも短期間であればそのまま測定することは可能ですが、 定常的に屋外で測定する場合には、収納箱(ステンレス、アルミ等)の利用をお進めします。

B. 騒音測定車

測定車に搭載して、より機動的に測定を行うことができます。

当社で改造製作し、大阪府堺市に納入させていただいた騒音測定車は、車内にDL-80/PTが2台収納でき、 他に複数の騒音計・振動計、周波数分析器やデータレコーダを収納できるラックを搭載しています。 配線・接続のわずらわしさを避けるため集中操作盤を取り付け、1週間の測定に対応できるようにバッテリーも積んでいます。 他にも断熱カーテンや換気ファン(太陽電池で駆動)等使用環境も考慮しています。

騒音測定車C. 騒音表示盤

測定結果を収録するだけでなく、測定値を表示させることができます。

千葉県成田市の例では、「DL-80/PT」の収納箱を柱に取り付け、その柱の最上部に表示盤を設置しています。

5. 今後の展開

今回バージョンアップした「DL-80/PT」には、豊富なインターフェースを持っていることから、 ユーザの御要望に沿って種々の機能を付加させることに挑戦していきたいと考えています。

また、この「DL-80/PT」は高機能、多機能指向の製品ですが、ユーザのニーズに合わせ、 より安価な単機能、特殊機能の製品の開発も取り組みます。

なお、「DL-80/PT」のデモンストレーションや種々の測定用途・目的に合わせたシステム構築のご相談をお受けしますので、 ご気軽にご連絡ください。

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