技術部 大山 宏

1.はじめに

マイクロホン移動装置「MTシリーズ」の開発については、本誌の前号でご紹介しましたが、 この装置を使っての測定は、マイクロホンを1点1点移動して同じ測定を繰り返し行うために、 最初の測定ポイントから最後のポイントまで音の定常状態が維持されていることが前提条件となります。 したがって、定常的な音場での音圧分布の測定などには大変威力を発揮するのですが、変動する騒音や過渡的な現象の分布をとらえることができません。 低騒音、低振動の製品を開発している様々な分野のメーカーの方々の中には、この過渡的な音振動分布の計測に着目しておられる方も多いかと思います。 そこで、当社で今回開発した「64チャンネルデータ収録システム」が、そのような測定に利用いただけると思います。

2 システムの特長

このシステムは、マルチチャンネル計測システムにありがちな『とんでもなく大がかりなシステム』 (大きなラックが2本も3本も...)にならないように、できるだけ小型・軽量化(自動車に積める)し、 過渡的な音振動の現象をリアルタイムに可視化でき、バッテリーでも動くこと、そして低価格であることを目標に開発を進めました。

64chアンプ(下)及びRAMレコーダー(上)64chアンプ(下)及びRAMレコーダー(上)

1. センサー

マイクロホンと振動加速度ピックアップが選択して使用できます。
マイクロホンは、計測用のものを64個もそろえると、それだけで莫大な金額になります。 そこで、一般的に使われている超小型のエレクトレットコンデンサマイクを使用しています。
振動加速度ピックアップには、ケーブルを延長するときにノイズの影響を受けにくい電圧出力型を使用していますが、電荷型も使用できます。

2. プリアンプ

エレクトレットコンデンサマイクと電圧出力型ピックアップには電源を供給し、電荷型ピックアップにはチャージ入力を用意しています。

3. フィルター

64チャンネルのハイパス・ローパスフィルターの組み合わせにより、任意周波数バンドパスフィルターを構成できます。 ハイパス、ローパスフィルターのみとしても機能します。

4. RMS/LOGコンバーター

フィルタリングされた信号を、64チャンネル分、デシベル出力(直流)に変換します。 その際には時定数を選択できます。
なお、64チャンネル分のアンプ、フィルター、RMS/LOGコンバーター及び電源部分を含めて、 その大きさは9U(幅450mm高さ400mm奥行500mm)と自動車の後部座席に設置可能なほどコンパクトなものとなっています。

5. リアルタイムモニター

カラーノートパソコンに64チャンネルA/Dコンバーターを搭載して、64チャンネルの測定点の瞬時値の分布図を、 このたび開発した高速アルゴリズムでカラーリアルタイム表示できます。この高速表示機能により、 過渡的な音振動現象をリアルタイムに観測することができるようになりました。 もちろん、表示画面データはセーブすることができますので、測定後のプレイバックや静止画面のカラーハードコピーをとることもできます。

リアルタイムモニター

3. システムの発展

ここまでのシステムでは、ある周波数に着目した計測となりますが、 これに今回開発した「RAMデータレコーダ」を使用しますと生データの収録が可能となり、 ワークステーションでの後処理によりあらゆる周波数での分析や補間機能の加えた多彩な表現の可視化が可能となります。

このRAMデータレコーダは68チャンネルのアンチエイリアシングフィルターとA/Dコンバーターそれに大容量RAMにより構成されます。 RAMに収録された生データは、パソコンにDMA転送されてハードディスクに記憶されます。 このデータをMO(光ディスク)などにバックアップして持ち帰り、ワークステーションにネットワークを通じて転送します。 ワークステーションでは、専用に開発したソフトウェアを用いてより細かな表現によるかと現象の可視化が可能となります。

ワークステーション上の処理では、ワークステーションの能力により作図スピードが制限されるため、 このCG映像をネットワーク・ビデオサーバーに転送してビデオ録画しておけば、簡単にアニメーションを作成することができます。 このビデオテープがあれば、アニメーションとして音振動の過渡現象を観測できるほか、 いちいちソフトウェアを起動することなくプレゼンテーションもできることになります。

上記を含め、このシステムを基本に、次の機能を拡張付加させることが可能です。

  1. 音の流れの実時間アニメーション表示(平面表示、3次元表示)
  2. 移動騒音源の音源探査、ホログラム処理

このように、「64チャンネルデータ収録システム」はコンパクトに凝縮された中にあらゆる可能性を秘めたシステムです。 交通騒音、機械騒音レベル等の3次元分布測定など、マルチチャンネル計測の導入をお考えの皆様どうかご検討くださるようお願いします。