ライブハウスの音響設計

コンサルティング事業部 早川 篤、平川 哲久

はじめに

高校生の頃からライブハウスに出入りしていた私から見ると、年々ライブハウスの形態も変化し、多様化してきたように思います。
今回は、ライブハウスの壁から隣の住宅との敷地境界まで、1~2m程度という遮音条件の厳しい事例をもとに、音響設計のポイントをまとめたいと思います。

発生する音の大きさ

遮音計画を進めるにあたり、室内で発生する音圧レベル(音の大きさ)を設定します。この数値は、 設計時に類似した場所で実際に測定し、設定する場合もありますが、過去の実測値をもとに設定する場合もあります。 「演奏ジャンル」、「スピーカシステム」「スピーカ配置」「収容人数」によって音量差が生じるため、設計時点で、 施主様やハウスオペレータの方、スピーカシステム設計の方々と打ち合わせを行うことが大切です。 静かにお酒をのみながら音楽を聴くお店、ロックやパンクなどをガンガン演奏するお店、クラブイベントを一晩中おこなうお店など、 遮音構造のグレードをうまく使い分けると、経済設計につながります。参考としてライブハウス演奏音の実測値を示します。

バンド演奏音実測値(部屋中央)
バンド演奏音実測値(部屋中央)

■ 周辺環境と遮音計画

周辺環境は住宅街、郊外、繁華街、また、単独建屋、テナントビル内にある場合など設計条件はさまざまです。 <高遮音性能>といえば聞こえがいいですが、遮音構造というのは、建築計画上、費用負担もおおきく、 床面積(収容人数)も小さくなってしまうので、出来るだけ、照準を定めて設計することが大切だと考えます。

本当に必要なのか?不要なのか?運用制限で問題をクリアできるのか?<全てを満足する>ものを求めると<要塞>のような建築物になってしまい、 費用負担だけでなく、使いづらい「ハコ」になってしまいます。

  1. 外部(敷地境界)の状況と騒音規制

    基本的に敷地境界の騒音規制値を確認します。騒音規制法では、22時を境に基準値が厳しくなりますが、 住宅街などは、実際の環境騒音が規制値よりも小さい(静かな)場合もありますので、事前調査を行い、遮音計画に反映させるのがよいでしょう。 特にオールナイトのイベントを開催予定の方は、出店される地域やビルの選定、プランニング、特にテナントビルに計画される場合は、 隣接する店舗の営業時間なども確認した上で、深夜の環境騒音を実測し、把握しておくことをお薦めします。

  2. 隣接上下階の部屋用途と環境

    隣接上下階については、自社の建物なのか?テナントで契約している場合、どのような種類の店舗が存在しているのか? などを確認します。周辺のテナントは、多数の客やBGMでにぎわっている方が遮音的には有利で、逆に静かな環境のレストランや医療関係、 学習塾、住宅などがある場合は不利になります。テナント工事の場合、ライブハウス側の遮音対策しか行えない場合がほとんどですが、 たとえ重厚な遮音層を設けたとしても、周辺テナントには、音が聞こえる可能性が十分にありますので、近隣様との話会いも大切だと思います。

浮き構造の必要性

郊外に単独で存在するライブハウスは例外として、テナントや周辺に民家がある場合は、完全浮き構造が必要だと思っています。 「地下だから大丈夫だろう」という声もよく耳にしますが、再生音量がかなり大きいため、安易に考えるのは危険です。

ドラムやベース、PAスピーカの振動成分は建物全体に広がっていきますので、直上だけでなく、 かなり離れた上層階でも、「やかましい」といった問題が生じる場合もあります。

室内音場計画

部屋の響きに対する考え方は、プロジェクトの方向性やオーナーの考え方によって異なります。 基本的にステージ廻り、客席天井、客席後壁(PAブース廻り)は吸音仕様を提案していますが、スタンディングが主となる「ハコ」の場合は、 人の影響で音場がガラリと変わってしまいます。事前に音場計画のポイントを絞ることが難しいため、 最低限の部位を吸音仕様とし、時間を設けて音の調整していくのが良いと考えます。

大半の吸音材は、柔らかく、破損しやすい素材が多いため、一般の人の手に触れない位置に貼ることをお勧めしています。

その他の課題1

ライブハウスは、スタジオやホールと違って、ドリンクカウンターやトイレが遮音層内に配置されている場合があります。 プラン上、トイレは遮音層と切り離すことも可能ですが、ドリンクカウンターや厨房は、客席部分となかなか切り離すことができません。 音響的には、厨房なども全て遮音層の中に含んでしまうことが理想なのですが、実施工上、給排水管、ガス管、防水層の絡みなどもあり、 課題が待ち構えています。もちろん時間と費用をかければ問題は解決するのですが、最初のプランの段階で、どうすれば、 遮音的に有利に展開できるか?検討するのがよいと思います。

その他の課題2

ステージと客席を区分けする「手摺り」です。使い勝手上、「軽く作り、取り外しできるようにしたい」反面、 人が殺到した時、将棋倒しになるといった万一の事を考え、剛性面で安全を見なくてはなりません。これは、 お客様にご説明し、利便性の前に安全性を配慮していただくようお願いしています。

事例

次にライブハウス遮音仕様の事例を紹介いたします。

事例A

<特色>
* 閑静な住宅街。隣接するアパートまで2m程度
* 1Fは喫茶店(同じオーナー)2,3Fに練習室兼ライブハウスを計画

部位仕様
外壁 躯体壁 コンクリート厚さ350mm
空気層380mm(断熱ウレタン吹付け、GW32K50t)
浮き壁 押し出し成型セメント板70mm
天井 躯体天井 コンクリート厚さ200mm
空気層800mm(断熱ウレタン吹付け、防振ハンガーGW32K50t)
浮き天井 石膏ボード15mm×3層
躯体床 コンクリート厚さ200mm
浮き床 防振ゴム浮き床(コンクリート厚さ150mm)
その他 直下階天井 石膏ボード15mm×2層
空気層500mm(GW32K50t)

事例A:ライブハウスと敷地境界
事例A:ライブハウスと敷地境界

  • 事例A:断面詳細図

    事例A:断面詳細図
  • 遮音性能測定結果(ライブハウス-外部)

    遮音性能測定結果(ライブハウス-外部)

事例B

<特色>

* ライブハウス片側は、幹線道路。反対側は木造家屋やアパートが隣接する。

* 夜間は交通量が少なくなり、環境騒音が静かになる。

* 1Fは、リハーサルスタジオ、3-4Fはライブハウス
部位仕様
外壁 躯体壁 家屋側:コンクリート厚さ350mm
道路側厚さ220mm
空気層250mm(RW40K50t)
浮き壁 石膏ボード15mm×2層+センチュリーボード12mm
天井 躯体天井 コンクリート厚さ200mm
空気層155mm(RW40K50t)
浮き天井 石膏ボード15mm×3層
躯体床 コンクリート厚さ200mm
浮き床 ステージ部:防振ゴム浮き床(コンクリート厚さ160mm)
客席部:グラスウール浮き床(コンクリート厚さ200mm)
躯体床 コンクリート厚さ200mm
その他 直下階天井 仕上げ天井のみ

事例B:ライブハウスと敷地境界
事例B:ライブハウスと敷地境界

  • 事例B:断面詳細図
    事例B:断面詳細図
  • 遮音性能測定結果(1Fスタジオ-外部)
    遮音性能測定結果(1Fスタジオ-外部)

最後に

今回は、遮音条件の厳しい事例を挙げていますが、逆に、音量制限を条件に、浮き構造を採用しなかったお店もあります。 これは、かなり喧騒な繁華街の中にありました。このように事前検討を入念に行えば、適切な条件を選定し、 安心して営業することができます。

ところで、先日、あるお店で、「ジャンプ、ダイブ、モッシュ禁止」という看板があり、「モッシュって何ですか?」 とオーナー様に質問してしまいました。ライブハウスは、観客と出演者の距離が近く、その場の空気感も独特なものがあります。 また、「いつかはステージに上がるぞ!」という夢の空間が目の前に広がるすばらしい空間だと思います。しかし、 オープン前の近隣説明会に出席した経験が数回あるのですが、「周辺道路にごみが増えるのでは?」「放置バイク、 自転車が増えるのでは?」「見慣れない服装の若者がたむろし、危険なのでは?」「ドラッグの売買が行われるのでは?」と、 音環境の問題以外にも不安が隠せない方が沢山おられるようです。結局、音漏れも含め「お互いがマナーを守る」ということが大切なようです。 これからも、機会があれば、音響設計という視点から、いろいろな人たちに応援されるようなライブハウスを考えていきたいと思います。