インターFM

工事部 岩渕 淳
福満 英章
清水 利夫

1 はじめに

首都圏初の外国語FM放送局「インターFM」は1996年4月1日に開局しました。

本社・演奏所は東京・港区芝浦のジャパンタイムズ・ニフコビル7階にあり、放送は英語をはじめ、北京語、ハングル、タガログ語、タイ語、インドネシア語、スペイン語、ポルトガル語、そして、この4月からは新たにフランス語が加わって、計9カ国語で行われています。

番組のほとんどは、海外でのDJ経験をもつ外国人による生放送で行われ、トークだけでなく、ディレクターやミキサー的仕事も一人でこなすワンマン オペレーションの形がとられているのが特徴です。

今回の「インターFM」の開局にあたり、ワンマン・オペレーションをはじめとする、様々な試みが 行われていますので、スタジオデザイン面を中心に振り返ってみたいと思います。

2 スタジオ構成

図-1  スタジオ平面図
図-1 スタジオ平面図

「インターFM」のスタジオは、生放送用スタジオでサブコントロールの機能も備えたワンマン・オペレーション形式の「ON-AIR1」、「ON-AIR2」、制作用スタジオの「プロダクション・スタジオ」(生放送も可能)、トーク番組制作用の「トーク・ブース」、番組の放送状態やスタジオ設備機器を監視する「マスター・コントロール・ルーム」、その他に「エディット・ルーム」が2室、「ニュース・ルーム」、「CM入力室」、パーソナリティーが自分の担当番組の準備室として利用する「DJエリア」で構成されています。

3 スタジオデザイン

ワンマン・オペレーション形式を主体としたスタジオを計画するにあたって、国内に参考になるスタジオが皆無であったため、海外のスタジオ設計コンサルタントの意見を聞かせていただいたり、ワンマン・オペレーションが日常的に行われているアメリカの放送局、そしてアメリカ人の設計による香港の放送局を見学させていただいた上でレイアウトを決定していきました。

ニューヨークの「WPLJ」、サンディエゴの「Kson」そして香港の「メトロ・ブロードキャスト」という3つの放送局を参考に計画をしましたが、どの放送局にも 共通しているのはワンマン・オペレーションであり、そのため、スタジオの中のレイアウトも特徴的で、コの字型のデスクの中央部にミキシング・コンソールが配置され、デスクに囲まれるような形でパーソナリティーが立ち上がったままで(たまには座りますが)マイクに向かって話続けます。そして、ゲストのいる番組ではパーソナリティーとゲストがミキシング・コンソールを挟んで対面でトークを行います。その時もパーソナリティーは立ち上がったままのことが多いようです。

「インターFM」では以上のような放送形態を充分考慮し、日本においても外国人パーソナリティーやゲストが同じような環境で番組づくりができるように、スタジオ室内の放送機器レイアウトは可能な限り、海外の3つの放送局と同様なレイアウトをとっています。

  • JEFF RECHNER SHOW
  • SAMANTHA VEGA SHOW
  • ON-AIR 1
    JEFF RECHNER SHOW
    The little dog and pony morning show
  • ON-AIR 2
    SAMANTHA VEGA SHOW
    Mid - days

また、パーソナリティーが一人で長時間番組を行うことが多いため、個室にとじこめられていれているような印象を受けることが無いよう、建物の外部側の窓、そして室内側の通路に面した窓についても、開口部をできるかぎり大きくとっています。その結果、生放送中であっても、通路を歩く人に手を振ったり、あいさつを交わすことのできるコミュニケーションのとりやすいスタジオとなっています。

4 音響計画の概要

音響設計についても、「インターFM」独自のコンセプトに基づいて計画されています。国内のFM局の場合でも最近は生放送がかなり増えていますが、ほとんどの場合、パーソナリティーはアナウンスブースの中で喋るのみで、副調整室のエンジニアが曲をかけ放送しています。

しかし、海外、特にアメリカ等のFM局の場合、ほとんどの番組がDJ自身の選曲で、ヘッドホンをして音楽をかけながら喋るワンマンスタイルの生放送が行われています。「インターFM」もこのスタイルです。そのためスタッフが少数ですみ、スタジオ周辺の環境が非常に静かなことが特徴としてあげられます。したがって、遮音計画は運用を考慮してできるだけシンプルに行うことが基本的な考え方であり、国内の局で見られるようなレコーディングスタジオ並みの計画は求められませんでした。

そして、スタジオの中央には、コンソールや音楽素材をストックしておくコンピュータシステム等がパーソナリティーを取り巻くように配置されますから、アナウンステーブルしか設置されない国内のアナウンスブースとは違い、レコーディングスタジオのような音場計画も求められませんでした。

海外では、普通のオフィスのような部屋の必要なところに吸音体による音響処理を施したスタジオが多く見られます。これはお国柄もさることながら、FM放送の土壌が異なるためです。

このような背景から、「インターFM」は、贅肉をそぎ落とした「シンプル・イズ・ベスト」をテーマに、以下のような音響コンセプトで計画が行われました。

【 遮音計画 】

  1. 国内のFM局のようなレコーディングスタジオ並みの静けさまでは必要としない。
  2. 遮音構造は必要にして最低限の計画を行い、スタジオ周辺で運営上の配慮を行うことによってコストパフォーマンスの高いシンプルな構造を目指す。
  3. さらに、マイクロホンの指向性やオンマイク録音における S/N上のメリットを生かした遮音計画を行う。
    収録が行われる「プロダクションルーム」、「トーク・ブース」のみ浮遮音構造とし、ワンマン・オペレーション専用の 「ON AIR-1」、「ON AIR-2」は固定構造で計画する。
  4. 上階の歩行音等の床衝撃音対策のため、「ON AIR-1,2」でも浮遮音天井を設ける。
  5. スタジオの扉はすべて1重扉とし、締りハンドルを使用しない操作性の良いタイプで計画する。

【 音場計画 】

  1. 国内のスタジオのような厚い吸音層や複雑な吸音構造はやめて、一般オフィスのようなシンプルな内装仕上げとしてより広い有効スペースを確保する。
  2. 音場的には、声量豊かなパーソナリティーのオンマイク録音によるメリットを生かして多少吸音性の内装処理を行う程度で考える。
  3. 吸音の傾向が偏らないように、できるだけ吸音特性の異なる材料を使用して、より自然な響きが得られるように配慮する。
  4. コンソール等、スタジオ内に大きな音響拡散体があることを前提とした音響内装計画を行う。
  5. 解放的なスタジオとするために設置している窓ガラスの影響をできるだけ少なくする。

完成後の遮音測定の結果によれば、廊下とスタジオ間では、スタジオが1重扉であるために45dB/500Hz程度の遮音性能しか確保されていませんから、全く音が聞こえないというわけではありませんが、歩行音の影響等、現実的に騒音上の問題は一度も生じていません。

図-2 スタジオ扉の遮音性能(押棒タイプ、4本のバラツキ)
図-2 スタジオ扉の遮音性能(押棒タイプ、4本のバラツキ)

遮音壁の構造は、床の耐荷重を考慮してプラスターボードによる乾式構造で行っていますから、コンクリートやブロック等の重量構造の壁と比較すると低音域遮音性能が小さいために、大きな音でモニターしている場合には確かに低音が聞こえてきます。しかし、計画のコンセプトが明確に行き届き、スタッフによる運用上の配慮が統一されれば、実用的で有効な遮音計画であったと考えています。特に、今回使用した防音扉は締りハンドルを使用していない押棒タイプの扉であり、操作性の面から非常に好評を得ています。また、遮音性能的にも、グラビティヒンジ(せり上がり蝶番)とマグネットキャッチを併用したことにより、通常の締りハンドルタイプに匹敵する 40dB/500Hzを越える性能が得られています。(図-2参照)

図-3  残響時間の測定結果
図-3 残響時間の測定結果

室内音場に関しては、ワンマン専用の「ON AIR-1」、「ON AIR-2」については、基本的に厚さ25mmのグラスウールボードを用いて壁面の吸音処理を行っています。また、収録が行われる「トーク・ブース」と「プロダクション・スタジオ」については多少低音域の吸音を考慮して一部にサウンドトラップを使用した音場計画を行っています。図-3に残響時間の測定結果を比較して示します。やはり、音響仕様通りの特性が得られていますが、「ON AIR-1」、「ON AIR-2」ではコンソール等が音響的な拡散体として効果的に働いて自然な響きとなっており、テスト放送時に外国人DJに確認したところ「Excellent!」と答えてくれました。国内のこれまでのスタジオと比較すると、窓を多く採用しており、窓が向かい合っているスタジオでは、やはりフラッター気味の音が多少残る傾向ではあるのですが、現状では何の問題もなく使用されています。

なお、スタジオの開放感は多少失われますが、片側の窓に厚手のカーテンを設けると、より自然な響きになることは事前の実験により確認しています。

5 電磁シールド特性

(1) 外来電波による音響機器への影響

図-4 電界強度測定結果 ON AIR-2(施工前)
図-4 電界強度測定結果 ON AIR-2(施工前)

図-5  電界強度測定結果  ON  AIR-2(施工後)
図-5 電界強度測定結果 ON AIR-2(施工後)

マイクロフォン、テープレコーダ等の音響機器に外来電波の影響によりノイズがのることがあり、「インターFM」でもスタジオが東京タワーから直線距離で2.5Kmと、たいへん近いために電界強度が大きく、その影響が心配されました。外来電波による電界の強さは、電界強度(単位 dBμV/m)で表わされますが、スタジオ内をどれくらいの電界強度に抑えればよいか、その目標値の設定が重要になります。電波を音響機器に当てレベルを上げていき、ノイズが生じた最低電界強度(イミュニティレベル)を測定した例を表-1に示します。表-1から電波の影響を受けやすいのはワイヤレスマイクで、イミュニティレベルは88dBμV/m(150MHz)となっています。コンデンサ型のマイクロフォンのイミュニティレベルは94dBμ V/m(27MHz)となっており、テープレコーダ等の他の機器はマイクロフォンよりは、外来電波の影響を受けにくいといえます。以上の測定例からノイズ対策としては、スタジオ室内の電界強度をおよそ88dBμV/m以下にすることが目安と言えます。

表-1 音響機器のイミュニティレベルの測定例
機器名称イミュニティレベル備考
電界強度
dBμV/m
周波数
MHz
偏波
マイクロフォン
(コンデサー型)
94 27 垂直
マイクロフォン
(ダイナミック型)
145 150 垂直
ワイヤレスマイク1 88 150 垂直 送受信状態
ワイヤレスマイク2 107 150 垂直 送受信状態
テープレコーダー 112 150 垂直 録音再生状態
ポータブルDAT 125 27,490 垂直 再生状態
PCMテープレコーダー 131 80 垂直 録音再生状態
MOレコーダー 124 80 垂直 録音再生状態
CDプレーヤー 127 150 水平
ミキシングアンプ 113 80 垂直

(2) 施工前の電界強度

商業電波(ラジオ放送やテレビ放送)を利用して、施工前に行った、「ON AIR-2」の予定場所における電界強度の測定結果を図-4に示します。電界強度の最大値は97dBμV/m(60~90MHz)となっており、外来電波によりノイズが生じることが考えられたので、電磁波シールドにより10dB程度、電界強度を減衰することが必要とされました。

(3) 電磁波シールド

電磁シールド処理は、経済性から最小限度の仕様とすることを目指しました。電磁シールド層は、切れ目無く囲まれていることが望ましいですが、本スタジオはビルの高層フロアに位置していますから、電波の入射は主に壁面からが大きいと考えて、スタジオの壁・天井の遮音層のプラスターボード面に銅箔(0.036mm)を貼り、目地はアルミテープを重ねて貼ってシールド層としました。完全浮構造の「トーク・ブース」では、壁と天井のシールド層を連結することができましたが、他の室では、浮遮音層と固定遮音層の連結部は振動絶縁のため、シールド層が不連続となってしまいました。扉は鋼製扉で、覗き窓や空調設備、電気設備は特にシールド処理がされていません。

(4) 施工後の電界強度

施工後の「ON AIR-2」、及び「トーク・ブース」の電界強度の測定結果を図-5~図-6に示します。参考に屋外(ベランダ)での電界強度の測定値を図-7に示します。屋外、「ON AIR-2」、「トーク・ブース」の電界強度の最大値は各々101、86、81dBμV/mと、目標とした88dBμV/m以下であり、屋外に対し15~20dBのシールド効果が得られています。浮床と壁・天井のシールド層が連結できた「トーク・ブース」の方がシールド効果が大きくなっていることがわかります。

図-6 電界強度測定結果 TALK BOOTH(施工後)
図-6 電界強度測定結果 TALK BOOTH(施工後)

図-7  電界強度測定結果  ベランダ
図-7 電界強度測定結果 ベランダ

6 放送機器面での新しい試み

放送機材のトータル・コーディネートは「株式会社バップ」が行っています。

今回、「インターFM」でワンマン・オペレーションを行うにあたって、大幅にコンピューターを導入していますが、その中でも特徴的なのが「エンコ」社製のデジタル・オーディオ・デリバリー・システム「DAD486X」の採用です。「 DAD486X」について簡単に説明しますと、ハード・ディスクに番組で使用する音楽、ジングル、ナレーションなどの素材が取り込まれており、パーソナリティーが目の前にあるディスプレイ上のタッチパネルに触れるだけで、オン・エアーが可能になるというシステムです。ハード・ディスクは37ギガバイトのものを圧縮比1/4で使用して、約400時間の音楽素材をストックできます。「インターFM」では同じ素材を2台にストックして、1台をバックアップとして使用しています。

こういった機器を導入すると、これまでの副調整室の作業をパーソナリティーが一人で行うので、負担が増えてしまいそうですが、操作が単純なので、とてもスムーズな番組の進行ができるようです。

7 おわりに

このように「インターFM」は、ほとんどの番組をワンマン・オペレーションで行っていることが特徴なのですが、音響的な計画の部分でも述べましたように、遮音に対する考え方をあらためて見直して、「必要最低限の環境とはどういったものなのか、合理的なスタジオ・デザインとはどういうものなのか」といったような、これから計画されるであろう新しい放送局、スタジオにとって、たいへん参考となるのではないでしょうか。

写真-3 マスターコントロールルーム
写真-3 マスターコントロールルーム

参考文献
1) 平井淳一,村重正省:イミュニティレベルの測定(例),
日本建築学会 大会学術講演梗概集,1833-1834,1994

Inter FM
Tokyo 76.1Mhz
Yokohama 76.5MHz

WEBサイトアドレス:
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