無響室の扉

営業部 矢部 朝吉

1 はじめに

このコーナーでは、毎号、無響室に係わる事項をご紹介させていただいています。私は、前回(No.4「無響室の構造と施工」)で、無響室の基本的構造である、遮音層・吸音層を中心に述べさせていただきました。

遮音層は音を遮り外からの音の侵入や内部の音の漏れを防ぎます。吸音層は音の反射の極めて少ない空間を作り出します。無響室の性能を決定するのは、遮音層と吸音層であると言いきることができます。

しかし、いかに強固な遮音層や性能の良い吸音層を構築しても、その内部で実験や測定を行うためには、その構造に測定機器や対象物を出し入れする開口部を設置する必要があります。当然のことながら、その開口部は測定の際には塞がれていなければなりません。

図1無響室の平面図
図1 無響室の平面図

しかも、無響室全体としての遮音と吸音の性能を保持しながら、開口部(扉、窓など)を設置する必要があります。そこに難しさがあります。
今回は、無響室の扉について、ご紹介したいと思います。
一般的な無響室の平面図を図1に示します。扉が2重になっているのがお分かりになると思います。
無響室の目的と構造から、外側の扉に音を遮る性能を、内側の扉に音を吸音する性能を持たせる必要があります。(ただし、一枚の扉で両方の性能を兼ねている場合もあります。)
この音を遮る扉(遮音扉と呼びます。)も音を吸音する扉(吸音扉と呼びます。)も無響室全体の遮音・吸音性能とバランスがとれていなければなりません。
無響室そのものの遮音性能はそれほどでもないのに、扉だけの性能を良くすることは無駄ですし、無響室そのものの性能が大変良いのに扉の性能が悪ければ、そこから音漏れや音の反射が発生することになります。つまり、扉の性能だけが良くても、悪くても困ることになります。

2 遮音扉

ここでは、各種の遮音扉(防音扉)についてご紹介させていただきますが、必ずしも無響室だけに使用されるものでなく、その機構、性能により、スタジオ等にも使用されるものです。

(1) NHKタイプ(防音扉)遮音扉

主に放送局のスタジオに使用されています。遮音性能によってA.B.C.D.タイプと称して用いられています。

図2 NHK Aタイプ遮音扉の概略図
図2 NHK Aタイプ遮音扉の概略図

(2) マーカス スライディングドア

オランダのマーカス社の特許製品です。扉レールに溝があり、閉まる時に扉が自重で下がり、下枠のテーパーで扉を枠側に寄せて密着させる構造となっています。

ハンガー式引き戸で大きな開口寸法をとることが可能です。

  • 閉まる寸前
    閉まる寸前の写真
  • 閉まったところ
    閉まったところの写真

図3 マーカス スライディングドアの機構
図3 マーカス スライディングドアの機構

(3) ヘーベシーベ扉

ドイツのヘーベシーベ社の製品です。ハンドルを閉めることにより扉が枠側に寄せられて密着させる構造となっています。大きなガラスを入れ解放感を持たせてくれます。

なお、遮音性能はガラスの厚さで決まります。

写真1 マーカス スラインディングドア
写真1 マーカス スラインディングドア

図4 ヘーベシーベ扉の概略図
図4 ヘーベシーベ扉の概略図

(4) NOE・65タイプ防音扉

NHKタイプのAタイプ扉に準ずる性能を目指してゼネコン、サッシメーカ及び当社が共同で開発したものです。

図5 NOE・65タイプ防音扉の概略図
図5 NOE・65タイプ防音扉の概略図

これまで、種々の遮音・防音扉を施工させていただいた経験や、他の防音扉を見ていただいて、自分自身で納得していることがあります。詰まるところ、遮音・防音扉の本質は「質量」と「空気層」と「隙間の処理」にあるということです。当社で施工する一般的な扉は、厚い板を用いて、内部に吸音材を充填し、大型のピボットヒンジで扉を回転させ、召し合わせ部は枠に扉を被せるようにして隙間の影響を低減させるというものになっています。そのため、防音扉は厚くて重いものとなり、またそのようなものが性能を得られるというように認識していました。

しかし、大型の無響室、特に自動車メーカーさんの無響室などについては、実物の自動車を室内に入れるため、開口も大きくする必要がありますが、単純にこれまでの扉を大きくするだけでは、重くなりすぎて使いづらいものになってしまいます。そのため、これらの扉については、重量と構造、スムースな回転、扉の引き寄せのための締まり金物の操作性と非常時の対応など、実際に無響室を使用される方々、扉のメーカー担当者、当社の現場取り付け担当者、音響仕様設計者により、色々な検討を重ねた結果、満足できるものとなったと考えています。

また、その後、無響室に限らず、スタジオなどに用いる比較的小さい(1.0m×2.0m程度)防音扉の需要が増えました。このサイズで扉の厚さが100mmも有るとデザイン的に問題になりますので、遮音性能を保ちながら薄い現在のスタイルの扉が開発されました。ここでも、開発の要点は扉パネルの振動の縁切りにあります。つまり音源側パネルと受音側パネルを接触させない構造を採用したことにより、扉の厚さを薄くでき、軽くて操作の容易な扉とすることができました。

さらに、扉の下枠は遮音上非常に重要となりますが、台車などで供試体を搬入する場合非常に邪魔になります。

図6 従来の遮音扉
図6 従来の遮音扉

この下枠がなくなれば無響室へのスムースなものの出し入れ、通行ができるようになるわけで、開発されたのがゼロタイプという扉です。アメリカのZERO社の金物を当社の扉に組み込むことにより下枠を無くすもので、扉を閉じたときにその金物が下がり床に当たり、隙間を無くす構造となっています。性能も損なわず、使いやすい扉になっています。

図7 ZERO金物の概略図
図7 ZERO金物の概略図

この他、デザイン上、窓をつけたりしなければならない場合もあるわけですが、これについても振動の縁切りや、ガラスの厚さ、ガラスの枚数など必要に応じて種々の検討を行いお客様の御要望にお応えしています。

写真2 吸音扉を開いた状態
写真2 吸音扉を開いた状態

3 吸音扉

最初に述べましたように無響室の中に必ずなければならないものが吸音扉で、壁と同等の吸音性能を持った吸音材が扉に施工されています。

無響室の扉は、図1のように通常2重扉になるため、内側に設置される吸音扉は、内開きになることが多くなります。また、壁と同等の吸音材が施工されるため、扉は厚くなります。そこで問題になるのが、開閉の構造です。

普通の扉のように、召し合わせ部にヒンジを付けると、扉を開いた際に、楔どうしが当たってしまいます。そこで、吸音楔の前に枠を設け、その枠にヒンジを設ければ、壁の楔に当たらずに開くようになります。

一般的な吸音扉の開閉の様子を写真2・3に示します。

写真3 吸音扉を閉じた状態
写真3 吸音扉を閉じた状態

しかし、扉の開閉時には、無響室の有効測定スペース部分を扉が回転します。そのため、共試体の設置位置と扉の位置の関係を十分に検討しておかないと、無響室として使えなくなってしまう部分が増えることになってしまいます。

また、吸音楔枠は金属ですので、音を反射します。この吸音処理が必要となります。

さらに、無響室ばかりでなく測定室などのレイアウトも含めて、使い勝手や方法をコミュニケーション良く計画しなければなりません。

この他の吸音扉を以下にご紹介します。

(1) バタフライ式吸音扉(写真-4)

吸音楔枠が無く室内の音場には最良ですが、固定遮音層と2次遮音層(浮き遮音層)の空気層部分及び扉の幅が、最低2次遮音層+吸音層の厚さが必要になります。開口の有効寸法が大きいと(扉が大きいと)設置は困難になります。

写真4 バタフライ式吸音扉
写真4 バタフライ式吸音扉

(2) スライド式吸音扉

押し込み式、引きだし式、横びき式等がありますが、扉のストロークと共試体設置場所とレールの関係、転倒防止を考慮し、レールと床歩行面との隙間による安全性を確保しなければなりません。

(3) 当社の実験室で使っている吸音扉(写真5・6)

遮音扉に吸音楔を付け、それを横壁の吸音楔の中に飲み込まれるようにしました。扉の開き角は90°ですが、非常にスマートに見えます。もともと音場としてデッドスペース的になっている部分に扉を配置したものです。

写真5  当社の無響室(吸音扉を閉じた状態)
写真5 当社の無響室(吸音扉を閉じた状態)

写真6 当社の無響室(吸音扉を開いた状態)
写真6 当社の無響室(吸音扉を開いた状態)

今回、無響室の扉について主なものをご紹介させていただきましたが、一様ではありません。無響室の大きさ、出入り口の形状、遮音・吸音の性能、使用方法、動線などを十分検討した上で選択し計画する必要があります。

なお、その検討の際には、我々もぜひ加えていただくようお願いいたします。