STVラジオオープンスタジオ

鹿島建設 札幌支店
日本音響エンジニアリング 工事部

1 はじめに

最近のラジオ放送は、FM局の多局化、AM局のステレオ化などにより、

スタジオ廻りの機器レイアウト
スタジオの平面形、デザイン
をはじめ、スタジオに求められる品質が大きく様変わりしています。
今回、札幌STVにおいて、既設放送会館(25年前に建築)の3階事務所を、外の見える生放送用のラジオスタジオ(オープンスタジオ)に改修工事を実施させていただきましたので、ご紹介いたします。

工事概要は次のとおりです。

工事名 STV本館改修工事
発注者 札幌テレビ放送(株)
設計監理 鹿島建設札幌支店
施 工 同 上
工事場所 札幌市中央区北1条西8丁目
工 期 1993年6月 ~ 1994年12月
改修スタジオ面積 25m2
改修副調整室面積 64m2

なお、今回の改修工事については、施主サイドの要望により、鹿島建設札幌支店設計部と日本音響エンジニアリングとの共同設計という形で計画は進行されました。
また、今回の計画で施主サイドより具体的に提示された条件は、以下の事項でした。

  1. 放送中、外の景色が見えるスタジオ(オープンスタジオ)であること
  2. 遮音性能はNC=15を目標とすること
  3. 天井は可能な限り高くすること(CH=2700以上)
  4. 今までにない斬新なデザインであること
  5. 副調整室内に電話リクエスト対応のコーナーを設けること
  6. 打合及び廊下から副調整室を見学できる窓を設けること

サブコントロール

2 設計コンセプト

これらの条件を受け、設計コンセプトを「書斎」というキーワードに集約し、デザインの展開を図ると同時に、新たな提案も盛り込みながら設計作業を進めていきました。以下、具体的に今回の設計主旨を示します。

(1) 配置計画

放送を行う上でスタジオの機能として必要となる「アナウンスブース」「副調整室」「打合せコーナー」の諸室に加え、スタジオ入口横に休憩スペースとアールの壁を設ける提案をしました。
常に時計をにらみながら秒きざみで番組を進行させなければならないアナウンサーやスタッフにとってスタジオのすぐ脇に番組のちょっとした合間に息を付ける場所があるのは非常に有用ですし、デザインされたアールの壁は新しいスタジオをアピールすると同時に利用される方々がこの新しいスタジオを愛着をもって使ってもらえるよう意図したものです。

図-1 スタジオ平面図
図-1 スタジオ平面図

(2) デザインの基調

アールの壁は、新スタジオの名称である「STUDIOV」をモチーフに、放送メディアが持つ若々しさを強調する斬新なデザインとし、スタジオ内はそれとは一変し、落ち着きとくつろぎのある、あきのこないインテリア空間とすることを提案しました。
長時間に及ぶ生放送の中で原稿を読んだり、ゲストと対談したりするアナウンサーやそれを支える放送スタッフにとって、ある意味で生活空間となるスタジオは、単に機能性のみを優先した空間や目新しさだけを強調した空間となるデザインは避け、書斎のようなくつろぎと適度な緊張感を持てる空間となる事を意図したものです。
「書斎」というキーワードのもと、床はフローリングとし、腰壁と共に「いたや」を採用し、木の持つ暖かみを生かすと同時に現代的な木の表現をすることを意図して染織塗装としました。
腰壁から上の壁及び天井は吸音性能を確保する事と法的制限のため基本的には不燃ガラスクロス貼りですがスタジオ及び副調整室内に設けられる様々なデスク、吊棚については、「書斎」を意識したデザインでまとめ全体の雰囲気を損なわないよう配慮しました。

(3) プランニング

今回の計画は既存建屋内の計画であるため既存の制約条件をどう克服するかは設計サイドの大きな課題でした。その最も大きな課題の一つに「スタジオ空調のダクトルートと天井高の両立」がありました。

諸室のレイアウト上、大梁がミキサー卓上部を横断し、小梁がアナウンスブース及び副調整室のほぼセンターを縦断するため、ダクトを梁下で通すと天井高を2700確保できなくなり、かといって既存の大梁にダクトを梁貫通させることも構造上不可能です。
そこで座ったままでの作業が多い電リクコーナー上部をダクトルートとし、そこの天井高は2100に押え、開放感を要求されるアナウンサー卓やミキサー卓の上部は2700を確保と共に空間にメリハリを付けることを狙いました。

3 音響設計検討

遮音性能等の音響特性については、スタジオ設置場所における騒音レベル、振動レベルの測定結果と各種構造の実績値に基づき、壁、窓、扉等の仕様・構造を検討しました。

(1) スタジオ内装仕様の概略

〔副調整室〕

スピーカからの音を歪ませる事なく室内で聴取するためには、建築内装においても、配慮しなければならないことがあります。例えば、低音域に対して振動する材料が多く用いられている場合、スピーカからの直接音に対して建築構造からの振動のよる放射音により、干渉現像や音の濁りが生じることがあります。
また、建築構造に振動が伝達した場合、振動の伝搬速度はスピーカからの空気音よりも早く耳に到達するため歪んだ音が先に耳に入る事となり音が濁って聴こえることがあります。
従って、振動に対してはコンクリートのような重量のある材料をつかって振動しにくい構造とすることが理想的ですが、コンクリートのみの構造では遮音性能や固体音の防止に対して十分でないため、重量コンクリートブロックを浮き構造として用いるのが最善の方法となります。
しかし、今回の計画の場合、床の耐荷重に余裕がないため乾式工法の遮音壁としたほか、以下の特徴を持たせました。

  1. プラスターボードによる乾式工法の遮音壁(ロックウール充填 80K50T)

    図-2 アナウンスブース・副調整室 仕上詳細図
    図-2 アナウンスブース・副調整室 仕上詳細図
  2. スピーカ廻りについては、できるだけ音に歪みを与えない構造にするためスピーカの後ろ側をレンガ積みによる固い構造としました。
  3. スピーカ周囲の仕上げは、スピーカの音に、初期反射音の影響を与えることなく音像の定位の良さとクリアーな音質を保つため吸音仕様としました。
  4. スピーカの下側は、副調整室の床の隅にたまりやすい低音を、室内側へ反射・拡散させるために固い構造にしました。
  5. 床面は室内での音のクリアーさや響き具合を考慮し反射面とするためフローリングとしました。(カーペットは音がつまって聴こえます。)
    副調整室

    副調整室

  6. 低音域の吸音については、壁面で吸音をおこなうと非常に大きな吸音スペースが必要となり、副調整室の有効寸法が小さくなるため、天井面で吸音しました。
  7. ;天井面での吸音には、サウンドトラップと呼ばれる吸音体を用いました。なお、サウンドトラップは吸音力が大きくなりすぎないよう、音に大きく関係する前方や音のたまりやすいコーナー・稜線部分を密にし、中央部分はあまり吸音しないようにしました。
  8. 壁面の吸音についてはグラスウール(16kg、厚さ25mm)を用いた平行トラップによる半吸音・半反射としました。
    図-3 アナウンスブース・副調整室間 詳細図
    図-3 アナウンスブース・副調整室間 詳細図
  9. 室形はできる限り対称形を保つものとしました。
  10. 腰壁部分は吸音層の保護と中高音域の拡散をはかり音につやと暖かさを付加させるため反射面としました。
  11. 壁面のガラス面については、その配置上、左右のアンバランスが生じるので、直接の反射音がミキサー位置等に返ってこないよう上向きとしました。

[アナウンスブース]

基本的な考え方は副調整室と同様ですが、副調整室と異なる点だけを以下に示します。

  1. 室形はできるだけ不整形としました。

  2. ガラス面をできるだけ平行の対称面とならないようにし、やむを得ず対向する場合は上下方向に可能な限り傾けました。

図ー4アナウンスブース 天井・壁詳細図
図ー4アナウンスブース 天井・壁詳細図

(2) 室内寸法比

室内の共鳴周波数分布を計算し、縮退(室内で特定の周波数の音が残ったりすること)の起こりにくい室内寸法比であるかを確認しました。これは特にスタジオが直方体に近い場合に重要となります。どのような室においてもその大きさにより必ず共鳴する周波数が発生しますが、ある特定の周波数付近に集中することをなくするのがねらいです。
今回の場合、

副調整室 7.0m:7.6m:3.0mH=1:2.33:2.53
アナウンスブース 3.44m:4.8m:3.2mH=1:1.1:1.5

[アナウンスブース]
[アナウンスブース]

となり、推奨される寸法比となりませんが、モードの計算結果、共振周波数の分布の検討結果、大きな問題の無いことがわかりました。

(3) 残響時間の計算

これまで検討した仕様による概ねの残響時間を計算したところ、副調整室で0.2~0.3秒、アナウンスブースで0.15~0.2秒前後と予測されました。
なお、残響時間は、室内が完全拡散音場にならないことや建築材料の面積効果により、一般的には計算による予測値よりも実際に施工されたものの方が短くなる傾向にあります。

図-5 暗騒音レベル(アナウンスブース:通常風量時)
図-5 暗騒音レベル(アナウンスブース:通常風量時)

4 音響測定結果

完成したスタジオの音響特性測定結果は以下のとおりでした。

(1) 暗騒音レベル(空調騒音レベル)

測定結果を図ー5に示します。通常運転時ではアナウンスブース、副調整室ともNC-15以下となっており極めて静かで通常のスタジオ仕様を満足していました。
ブースの風量が最大の時でもNC-15に沿ったレベル曲線(周波数特定)となっており、極めて経済効率の良い設計がなされたと考えられます。なお、聴感ではほんのわずかサーッという音が感じられましたが実際の使用上影響がないものと思われます。
また、各室間の遮音についても、それぞれの構造に見合った性能が得られていました。

(2) 残響時間周波数特性

残響時間の測定は、音源スピーカより1/1オクターブバンドノイズ(63Hz~8KHz)を発生させ、定常状態になった時に止め、音圧レベルが60dB減衰するまでの時間を求める方法で行いましたが、アナウンスブース、副調整室とも0.2~0.3秒内であり極めてフラットに近い特性が得られました。
なお、家具等がすべて設置されれば多少中高音域が短くなってくるものと予測され、さらになめらかな特性になるものと考えられます。

図-6 残響時間周波数特性
図-6 残響時間周波数特性

(3) 上階床よりの床衝撃音レベル特性

上階は一般の事務室となっているため、そこからの床衝撃音の測定も行いました。測定はタッピングマシンとバングマシンの両方で行いました。なお、タッピングマシンはハイヒールや底の固い靴を、バングマシンはマンションなどでの子供の飛びはねを想定したものです。
測定の結果は、L-25~L-30であり、一応問題のない範囲にありました。実際に、底の固い靴で普通に歩いた時に3階アナウンスブースでは、聴感的には極低音が分かるか分からないかというオーダーでした。

図-7 床衝撃音レベル(タッピングマシン:アナウンスブース)
図-7 床衝撃音レベル(タッピングマシン:アナウンスブース)

5 まとめ

完成後の各種測定結果から、当初に計画したNC-15をはじめとする音響設計目標は充分達成できたと考えています。また、スタジオを使用される方々にも大変好評であるとのことで、これ以上の幸せはありません。
最近の音響機器等の進歩と共に当然のことながら、スタジオ自体も斬新なものが求められるようになってきています。
今後とも、最新の動向を注視しながら、先進性のあるスタジオ作りに努力したいと考えております。