音響パワーレベル測定に関するISO、JISの動向

営業部 高田 雅保

1. はじめに

無響室、残響室は、各種音響測定のための基本的な設備ですが、測定対象、測定方法等によってその仕様は大きく異なります。 測定方法の規格には、ISO(International Organization for Standardization)やJIS(Japanese Industrial Standard)がありますが、 その規格に基づいて必要とされる測定を行う場(特に無響室)の基本性能は、規格の内容により決定されます。 ここでは、特に最近注目を集めている音響パワーレベル測定方法に関するISO、JISの動向について、子安先生の報告等を中心にとりまとめてみました。

2. 音響パワーレベル測定方法の原理

表-1に各種の音響パワーレベル測定方法を測定原理に従って分類したものを示します。 音響パワーレベル測定方法は直接の測定量によって音圧法と音響インテンシティー法の二つに大別されます。 実用面で主として使われてきた音圧法はさらに 二つに別けられ、一つは自由音場(無響室)又は半自由音場(半無響室)において 、 音源からの直接音の音圧と音の強さとの関係を使って音源のパワーを求める方法 で、 もう一つは拡散音場(残響室)内の音圧音場の平均音響エネルギー密度との関係から、音源のパワーを求める方法です。

また、これらとは別に1980年代に入って実用化された音響インテンシティー計測方法を利用して、 音源からの放射音の強さを近傍音場内で直接測定する方法があります。

表-1 原理で分類した音響パワーレベル測定方法の種類
測定方法測定場所測定原理
音圧法 I 自由音場法 無響室 音源を囲む閉曲面上の音圧pから、その点で面に垂直な音の強さを求め、これを面全体に積分して音響パワーを算出する
半自由音場法 半無響室
準半自由音場法 大きい室、屋外など
II 拡散音場法 残響室 室内の平均二乗音圧pから音響エネルギー密度を求め、これから音響パワーを算出する
準拡散音場法 残響の長い一般室
音響インテンシティ法 無響室
半無響室
一般音場
音源を囲む閉曲面上の音の強さを直接測定し、これを面全体に積分して音響パワーを算出する

3. ISO3740シリーズ制定の経緯

欧米諸国において音響パワーレベルが実用面にまで普及してくると、 国際的に測定 方法の統一・標準化を図ることが強く要望されるようになり、1990年にWG6が設置されました。

このWGでは、各種の機械・装置などに共通したパワーレベル測定方法を規定する基本規格作成の作業が始められました。 その結果、「騒音源の音響パワーレベル測 定方法」という共通名称で以下の8種類の基本規格原案が作成され、 1975年から約10年間に順次ISO規格として制定・公布されました。表-2に示します。

表-2 ISO規格

ISO 3740 基本規格の仕様と騒音試験規定作成の指針
ISO 3741 残響室における広帯域騒音源についての精密測定方法
ISO 3742 残響室における離散周波数成分及び狭帯域成分を持つ騒音源についての精密測定方法
ISO 3743 特殊残響試験室における実用的測定方法
ISO 3744 反射面上の自由音場条件における実用的測定方法
ISO 3745 無響室又は半無響室における精密測定方法
ISO 3746 簡易測定方法
ISO 3747 基準音源を用いる簡易測定方法

これらのISO3740シリーズは、測定対象音源の種類(発生騒音の性状)、測定環境(実験室の種類、現場の条件など)、 算出量及び測定精度などによって区分されており、実際の音響パワーレベル測定にあたっては、 これからの条件からみて適応する方法を選定するようになっています。 また、ISOでは、個別の機械・装置の設置条件や運転条件に騒音の発生に関連する特徴があるときには、 この基本規格3740シリーズを補足する個別規格を作成することになっています。 これまでに、建設機械、回転電気機械、計算機及び事務機 械などを対象とした個別規格が作られています。

4. ISO3740シリーズ今後の動向、改正作業

ISO3740シリーズは、1975年に最初の規格(3741及び3742)が制定されてから、すでに10年を経過しています。 この間における音響技術の進歩は著しく、また各国における 規格の使用実績を背景にして、 このシリーズ全般にわたっての見直し・改正を望む 声が強くなってきたため、1986年9月のISO/TC43/SC 1 のスタディグループHの会議が開催され、 3470シリーズ改正の基本方針についての審議が行われ、SC1総会に提出する勧告の作成が行われました。 ここでとりまとめられた2乗音圧法による音響パワーレベル測定方法の構成案は表-3の通りで、 現行3740シリーズの規格の統合・分離・補完を行って新体系を構成することになっています。 これを受けて1987年のISO/TC43/SC1 総会でISO3740シリーズ改正のためのワーキンググループWG28の設置が決議され、 すでに具体的な改正原案作成の作業が進められています。

表-3 ISO 3740シリーズ改正のための規格構成案
制度測定環境パワーレベル算出方法*現行ISO規格
精密 実験室 無響室 D 3745
残響室 D 3741,3742
実用 実験室 半無響室 D 3744,3745
残響室 D,C ---
実用 現場 準半自由音場 D 3744
準拡散音場 D,C ---
近似 現場 3746,3747
* D:直接法 C:比較法

5. JIS Z 8732・8733・8734の制定

我が国でも、特に産業界を中心にして測定方法の標準化が要望されるようになってきました。 1984年から日本音響学会内に設置されたJIS原案調査作成委員会で、音響パワーレベル測定方法の通則的規格の原案作成作業が始められました。 対応するISO 3740シリーズの規定を尊重し、できるだけそれとの整合をとることを基本方針としました。 ただ、ISO規格には、規定上の不備や表現の不適切な箇所があり、特に制定後かなりの期間が経過しているので、 その間における研究・技術面の発展を反映させると共に、産業界など実務面からの要請について十分な配慮がなされました。 その結果、3年間にわたって三つの規格原案が作成され、1988年3月までに表-4の規格が制定・公布されました。

表-4 JIS規格
JIS Z 8732 無響室又は半無響室における音響パワーレベル測定方法
JIS Z 8733 一般の音場における音響パワーレベル測定方法
JIS Z 8734 残響室における音響パワーレベル測定方法

JIS規格体系で特に追加又は修正を行った主要な事項を、以下に示します。

  1. 無響室・半無響室の音場(逆自乗則特性)の検査方法がより具体的に規定されている。
  2. 実用面で重要な一般の音場における測定方法で規定されている3種類の測定方法、及び測定手順の複雑な残響室における測定方法については、規格票の解説にフローチャートがつけられている。
  3. ある程度の残響のある通常の室内での測定方法として、簡易拡散音場法が追加された。
  4. ISOの簡易測定法ではA特性音響パワーレベルのみを算出するのに対して、ここでの2種類の簡易法(半自由音場法、拡散音場法)では、オクターブバンド音響パワーレベルの算出を基本とし、必要があるときに、これからA特性音響パワーレベルを算出することになっている。
  5. 前項に関連して、簡易法の精度向上が図られている。
  6. ISOでは、放射音の周波数特性に応じて二つの規格に区分されている残響室による測定方法を1規格に統合し、測定条件選定の便宜・確実性の向上が図られている。
  7. 残響室による測定方法に表面音圧法が追加されている。
  8. 残響室による測定方法で、室内の温度及び相対湿度の変化の残響時間に対する影響の補正方法が、明確に規定されている。またJISでは比較法に使われる基準音源の規格化が強く望まれています。

JIS Z 8732・8733・8734の制定

6. 音響インテンシティー法によるパワーレベル測定方法の規格化

(1)音響インテンシティー法の特徴

1. 近距離音場での測定

音圧法では、直接の測定量である音圧から音響パワーを算出するときの基本的な仮定が成立つようにするために、 音圧測定点を音源から十分に離れた位置に設定しなければなりません。 現場で他の機械などがあるときには、この条件を満足する音圧測定点を選ぶことができなかったり、 他の機械などからの騒音によって、対象音源からの音圧測定が難しくなったりすることが多くなります。 これに対して、音響インテンシティー法は直接に音の強さを測定するので、 原理的には測定点を音源にごく接近して設定することが可能であり、音圧法の様々な難点を除去することに役立ちます。

2. 部分音響パワーの測定

複雑な構成の音源・大型機械などで、部位・部品ごとの発生音の寄与を正確に把握することは、 有効な音源対策を行うときに重要です。 これに対して、音響インテンシティー法を適用して音源からの部分的な音響パワー、部位別音響パワーを算出することが役立ちます。

3. 暗騒音・反射音の影響の低減

測定閉曲面の外側にある他の音源から閉曲面のある部分を通過して入ってきた音は、 再び閉曲面を通って外に出ます。このとき、外部音源からの音(暗騒音)が通常であれば、 閉曲面に全体についての音響インテンシティーを積分するときに打ち消され、 算出された音響パワーは、原理的に閉曲面内部の対象音源からの音響パワーを与えることになります。 これは、実用的な意味で音響インテンシティー法の最大の特徴であり、機械などが設置されている現場でも、 高い精度で音響パワーレベル測定を行うことができる重要な根拠になっています。

音響インテンシティー法によるパワーレベル測定方法の規格化
(2)規格化の動向
音響インテンシティー法による音響パワーレベル測定方法は、前項に示したような特徴を持っているために、 音圧法と並んで実用化が急速に進んできました。これに対応して、測定方法の規格化が強く望まれるようになり、 現在ISOのほかに、ANSI(アメリカ規格)、NORD TEST(北欧規格)などで、それぞれ規格案の作成が進められています。 ISO/TC43/SC/1 は、1983年12月にワーキンググループWG25が設置され、国際規格案の作成が始められました。 この規格は、特に実用面での緊急性が高いということから、精力的な作業が行われてきました。 WGにおいて特に討議の中心となったのは、測定条件の判断・整備を行うためのfield indicatorの取扱いであり、 実用面では測定閉曲面上での音響インテンシティー測定方法(離散的な固定測定点法又は掃引法)の選択でした。 実用性を重視する立場から、掃引法に対する強い要望がありますが、第一階段の規格として固定測定法点法を先行させることとし、 次の規格案がまとめられています。
ISO/DP9614音響-離散測定点における音響インテンシティー測定を使った騒音源の音響パワーレベルの算出、 これはISO9641-1 Acoustics-Determination of sound power levels of noise sources using sound intensity-Measurement at discrete pointsとして制定される段階にあります。
一般的には測定精度に対する要求から測定点の数を相当に多くすることが必要であり、 測定時間などの面から実用的に難点があると指摘されています。これに対しては、測定閉曲面場でインテンシティ・プロープを掃引する、 掃引法による音響パワーレベル測定方法の規格原案作成作業がWGで次の階段として始められています。
その後第43回ISO/TC43/SC1/WG25でISO/DIS9614/1の投票が行われ賛成21、反対2、保留3で一応可決されましたが、 各国からの意見に基づいて、草案の一部修正・追加を行い、中央事務局へ送付することになりました。 また、第2部としてマ イクロホン連続移動による方法を規格化する方針が確認され、その草案を作成することとなっています。
第43回ISO/TC43/SC1/WG28(ISO3740シリーズ改正)ではISO3743, 3744について審議を行いました。 ISO/DP 3743-1に対する各国からのコメントを検討し、修正原案を総会に提出することとしました。この規格の第3部として、 音圧レベルと残響時間の測定による直接法を日本から粗案を提出しています。 ISO/DP 3744についても各国からのコメントを検討し、修正原案を総会に提出することとしました。
1991年ISOシドニー会議ではISO/TC43/SC1/WG25 でインテンシティー計測のscanning法の規格案について討議されました。 日本から実際の機械類のパワーレベルをscanning法で測定した場合の測定精度に関する報告を行いました。 TC43/SC1/WG28 でもISO374について各国からのコメントを審議し最終案を作成しました。 ISO 3746についても近くDISとして回付される運びとなりました。
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